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もう離れない その8
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「……目、覚めた?」
こちらをひょいと黒い影が覗き込んできた。
オレンジ色の逆光が、少し硬質な感じの黒髪に反射して、その色を金に錯覚させる。
だけどこちらを覗き込む瞳は黒く深く吸い込まれるような色をしていて……。
それがなんだか悲しくて、あの金の瞳じゃない事が切なくて、もう二度と会えないはずの彼を思って、だばりと涙腺が決壊した。ゲームから目覚めてからこちら、繰り返し同じ事をしてきたけれど、今日も今日とて涙腺は壊れ気味で止まる気配はない。
だけどこの時ばかりはいつもと違って、するりと黒い影が天井からの光を遮り、こちらに覆い被さるよう近づいてきて。
「ひえっ!?」
頬を伝った涙をべろりと舐められて、思わず奇声を上げてしまう。
「な、ななな、何を……」
どこかの妖怪のようにピンク色の舌を口元からべろりと覗かせたまま、黒い瞳を三日月の形に歪ませてにんまりと笑う彼は。
「ん?……ふふっ。ユエの涙、美味しーね」
ぺろりと出しっぱなしの舌で上唇を舐めてから告げられた言葉に困惑する。
涙は涙、ちょっと塩分の含まれた体液で、けして美味しいものではない……はずだ。
「ひぇぇぇぇ?!」
そのはずなのに、更に事態は悪化して、目の前の男の舌が私の顔中を這いまわる。
カフェを出る前に軽く化粧直しをしてきたが、一日中働いてデロデロの筈の顔面を、美味しそうに舐め回される。それは容赦なくどんどんいろんな所に這っていき、顎先を甘噛みされて意図せず身体が跳ねてしまう。
時折すんすんと鳴る鼻は、私の匂いを嗅いでいるようだ。
べろりとひと際大きく首筋を舐められて、思わず悲鳴を上げるも、相手はそのまま私の耳の下あたりに鼻先を突っ込み、これ見よがしに大きく深呼吸を繰り返す。
「ちょっ!? やめて……ちょおっ?!」
首筋を這いまわっていただけの筈が、いつの間にか歯を立てられ、時折強く吸い付かれているような気配がして、食べられそうで気が気でない。
「んふふ。ユエの匂い……たまんねぇ……」
「ひえぇぇぇ?!」
耳元で囁かれた言葉の異常さに思わず全身に怖気が走る。
「あ、あのっ!? やめてくださいっ!!
そもそも貴方誰なんですかっ?!」
私のその言葉に、覆いかぶさっていた男が身を起こした。
改めてまじまじと男を見つめると、やはり彼はカフェで私の手にメモを握らせたイケメンリーマンと同一人物だった。
だけど、私の記憶では彼とは先日初めて会ったばかりだ。
連絡先を渡されて連絡を取ったとはいえ、いきなり気絶させられてどこぞに連れ込まれて匂いを嗅がれるいわれはない。筈だ……。
ていうかそもそもここどこ?
きょときょとと周囲に視線を走らせていると、くっと顎を掴まれた。
その力強さに慌てて視線を男の顔に戻すと、ユイちゃんが好きそうな整った顔立ちにバランスよく収められている黒い瞳がどこか泣きそうにこちらを見ていた。
「あ、あの……。ここはどこで……貴方は……だれ?」
私の言葉にぐしゃりと崩した表情で、男の正体に確信を持つ。まさかと言う思いと共に。
「……相変わらず君は酷いな……。ユエ……いや美月?」
美月と呼ばれ、私の鼓動が跳ねる。
「俺が誰か気づいていてそんな事を言うなんて……本当に君は酷い。手を伸ばしても届かない月のようだ。だけど……。
ねぇ。俺から逃げられると……思ってた?」
所謂ハイライトが消えた目で見つめられて、ドクドクと鼓動が早まる。
それは勿論……見知らぬ場所に連れてこられた恐怖ではなく、期待で。伸ばされた手を自分で振り切ってきたのに身勝手なのは百も承知で期待してしまう。
「……リ、リン?」
上擦った声で、それでも期待が漏れないように恐る恐る問いかけると、目の前の男はにんまりと嗤った。
「ふふっ。せーいかーい。
まぁ、正確を期すならリンじゃなくて、陽太だけどな。鈴木陽太。
ユエの本名は美月だよね。月のように柔らかく周囲を照らして寄り添ってくれる君にピッタリだ」
「……一人じゃ輝けない、明るいところでは目にも止められない人間よ。
こちらの世界でも太陽のように人を惹きつけ、焼かれてもいいから手に入れたいと焦がれる気持ちを抱かせる貴方とは大違いだわ」
ハイライトが消えていた筈の瞳の奥からどろりと重たそうな感情が溢れ出すのを見てしまい、それから逃れる為にふいっと視線を逸らしながら、言い訳がましい言葉を吐く。
「ひゃっ!」
背けたせいで剥き出しになった耳朶にぬるりと柔らかいナニカが這い、ソレが過ぎ去った跡が空気に触れてヒヤリとする。
耳の穴に舌を差し込まれ、じゅるりと滑る水音が耳に響く。
体液は流石に再現されていなかったあの世界では聞こえなかったもの。
それが私の身体をずるずるととかしていく。
ちゅうと音を立てて離れていく気配に、どうしようもなく寂しさを覚えて、思わず視線を向けてしまった。
縋るように彼に向って手を伸ばしてしまう。
するとギラギラとした欲を露わにした男の顔と目が合った。
こちらをひょいと黒い影が覗き込んできた。
オレンジ色の逆光が、少し硬質な感じの黒髪に反射して、その色を金に錯覚させる。
だけどこちらを覗き込む瞳は黒く深く吸い込まれるような色をしていて……。
それがなんだか悲しくて、あの金の瞳じゃない事が切なくて、もう二度と会えないはずの彼を思って、だばりと涙腺が決壊した。ゲームから目覚めてからこちら、繰り返し同じ事をしてきたけれど、今日も今日とて涙腺は壊れ気味で止まる気配はない。
だけどこの時ばかりはいつもと違って、するりと黒い影が天井からの光を遮り、こちらに覆い被さるよう近づいてきて。
「ひえっ!?」
頬を伝った涙をべろりと舐められて、思わず奇声を上げてしまう。
「な、ななな、何を……」
どこかの妖怪のようにピンク色の舌を口元からべろりと覗かせたまま、黒い瞳を三日月の形に歪ませてにんまりと笑う彼は。
「ん?……ふふっ。ユエの涙、美味しーね」
ぺろりと出しっぱなしの舌で上唇を舐めてから告げられた言葉に困惑する。
涙は涙、ちょっと塩分の含まれた体液で、けして美味しいものではない……はずだ。
「ひぇぇぇぇ?!」
そのはずなのに、更に事態は悪化して、目の前の男の舌が私の顔中を這いまわる。
カフェを出る前に軽く化粧直しをしてきたが、一日中働いてデロデロの筈の顔面を、美味しそうに舐め回される。それは容赦なくどんどんいろんな所に這っていき、顎先を甘噛みされて意図せず身体が跳ねてしまう。
時折すんすんと鳴る鼻は、私の匂いを嗅いでいるようだ。
べろりとひと際大きく首筋を舐められて、思わず悲鳴を上げるも、相手はそのまま私の耳の下あたりに鼻先を突っ込み、これ見よがしに大きく深呼吸を繰り返す。
「ちょっ!? やめて……ちょおっ?!」
首筋を這いまわっていただけの筈が、いつの間にか歯を立てられ、時折強く吸い付かれているような気配がして、食べられそうで気が気でない。
「んふふ。ユエの匂い……たまんねぇ……」
「ひえぇぇぇ?!」
耳元で囁かれた言葉の異常さに思わず全身に怖気が走る。
「あ、あのっ!? やめてくださいっ!!
そもそも貴方誰なんですかっ?!」
私のその言葉に、覆いかぶさっていた男が身を起こした。
改めてまじまじと男を見つめると、やはり彼はカフェで私の手にメモを握らせたイケメンリーマンと同一人物だった。
だけど、私の記憶では彼とは先日初めて会ったばかりだ。
連絡先を渡されて連絡を取ったとはいえ、いきなり気絶させられてどこぞに連れ込まれて匂いを嗅がれるいわれはない。筈だ……。
ていうかそもそもここどこ?
きょときょとと周囲に視線を走らせていると、くっと顎を掴まれた。
その力強さに慌てて視線を男の顔に戻すと、ユイちゃんが好きそうな整った顔立ちにバランスよく収められている黒い瞳がどこか泣きそうにこちらを見ていた。
「あ、あの……。ここはどこで……貴方は……だれ?」
私の言葉にぐしゃりと崩した表情で、男の正体に確信を持つ。まさかと言う思いと共に。
「……相変わらず君は酷いな……。ユエ……いや美月?」
美月と呼ばれ、私の鼓動が跳ねる。
「俺が誰か気づいていてそんな事を言うなんて……本当に君は酷い。手を伸ばしても届かない月のようだ。だけど……。
ねぇ。俺から逃げられると……思ってた?」
所謂ハイライトが消えた目で見つめられて、ドクドクと鼓動が早まる。
それは勿論……見知らぬ場所に連れてこられた恐怖ではなく、期待で。伸ばされた手を自分で振り切ってきたのに身勝手なのは百も承知で期待してしまう。
「……リ、リン?」
上擦った声で、それでも期待が漏れないように恐る恐る問いかけると、目の前の男はにんまりと嗤った。
「ふふっ。せーいかーい。
まぁ、正確を期すならリンじゃなくて、陽太だけどな。鈴木陽太。
ユエの本名は美月だよね。月のように柔らかく周囲を照らして寄り添ってくれる君にピッタリだ」
「……一人じゃ輝けない、明るいところでは目にも止められない人間よ。
こちらの世界でも太陽のように人を惹きつけ、焼かれてもいいから手に入れたいと焦がれる気持ちを抱かせる貴方とは大違いだわ」
ハイライトが消えていた筈の瞳の奥からどろりと重たそうな感情が溢れ出すのを見てしまい、それから逃れる為にふいっと視線を逸らしながら、言い訳がましい言葉を吐く。
「ひゃっ!」
背けたせいで剥き出しになった耳朶にぬるりと柔らかいナニカが這い、ソレが過ぎ去った跡が空気に触れてヒヤリとする。
耳の穴に舌を差し込まれ、じゅるりと滑る水音が耳に響く。
体液は流石に再現されていなかったあの世界では聞こえなかったもの。
それが私の身体をずるずるととかしていく。
ちゅうと音を立てて離れていく気配に、どうしようもなく寂しさを覚えて、思わず視線を向けてしまった。
縋るように彼に向って手を伸ばしてしまう。
するとギラギラとした欲を露わにした男の顔と目が合った。
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