23 / 49
23.“いつか”恋はしたい。①
しおりを挟む
東海林がライブのチケットを譲ってくれると言ったあの日から三日。
祥司は、少しソワソワしていた。
昼休憩の外食から戻ってふと覗いたSNS上には、チケットを取れなかった人間の嘆きと転売サイトに出品されていることへの怒り、そして当選した人間の喜びなど様々な声が今日も溢れている。
「(本当に行けるんだよな……?)」
東海林が嘘を吐く人間だとは思えないが、この天国のような気分から「やっぱりナシでお願いします」と言われる事態を想像すると祥司の心中は穏やかではない。
――もし……もし駄目になっても、その時はその時だ。
だって自力では取れなかったプラチナチケットの夢を、一時見させてもらっただけでも良いじゃないか。
祥司はスマホを机の上に置いてから、そう心の中で自分の中の期待が爆発しないように精一杯の保険をかけておく。
じゃないと、仮に本当に駄目になった時寝込む気しかしないからだ。
「誰だ?」
ブブッとつい先ほど置いたばかりのスマホが震えたので、祥司は早速確認する。
それは三日前に双方プライベート用の連絡先を交換した、東海林からの初めてのメッセージだった。
『お疲れ様です
手元にチケットの実物があった方が安心でしょうから先にお渡ししたいと思うのですが、近い内にケーアンに行く予定はありますか?』
「今夜でも大丈夫です」
そのメッセージを見て、祥司は会社のデスクにいることも忘れて普通の声量で返事をしていた。
そして最後まで言い切った後に気付いてまずい! と口を押さえ周囲を確認したが、幸いなことに近くの席の同僚たちはまだ戻っていない。
「(危ないな。いくら嬉しいからって、職場では気を付けないと)」
ふう、と一度深呼吸をしてから返事を入力し始める。
即レスはビジネス関連でする時は何も思わないというか、むしろ当然の意識で出来るのに……プライベートな連絡になるとなんだかちょっと色々なことが気になってしまうのは何故だろう。
しかしこのアプリの性質上、既読を付けてしまったのは伝わっているから仕方がない! と誰にともなく言い訳して祥司は指を動かす。
『お疲れ様です
本当にありがとうございます、私は今週なら何曜日でも大丈夫です
東海林さんのご都合に合わせます』
送信前に誤字脱字の確認をしてから送信ボタンを押すと、祥司が送ったメッセージに即既読が付いた。
このタイミングからすると、東海林はトーク画面を開いたままにしていたのかもしれない。
そしてそれが当たっていたのか、彼からの返信は早かった。
『ではもし良ければいつもの金曜日でどうでしょう?』
“いつもの金曜日”、という言葉が少しむず痒い。
しかしお互い会社員という性質上、ゆっくりと酒と会話を楽しみたいときに週末を選ぶのは自然なことだ。
『はい、分かりました
俺は何も起きなければいつもと同じ頃店に行けると思います』
『私も何もなければ同じ頃行けます
多少の遅れは飲みながらお待ちしてますので、気にしないで来てください』
――それでは、金曜日に。
そう締めくくられたメッセージを見て祥司はふう、と息を吐いた。
いくら定時というものがあっても、その時の仕事の状況次第では約束の時間に間に合わないことが発生する時もある。
「(仕事の対応で遅れたのに、よく怒られていたよな……俺)」
何時に何処、を正確に決めたがっていた元カレは仕事終わりの平日夜の約束であっても遅刻をとにかく許さなかった。
悪いことなんて何もしていない、同じ社会人同士であれば理解し合って「仕方がないよな」と言い合いたい部分の価値観がズレていたことも、今思えばストレスだったのかもしれない。
「(ほんと、終わるべくして終わったんだよな)」
静かにそう考えながら祥司は、習慣にしているスマホのスケジュールアプリに金曜日の夜の予定を入れる。
そして一目で分かりやすいように仕事と分けているプライベート用の文字色を見て、何とも言えない気持ちを抱いた。
***
祥司は、少しソワソワしていた。
昼休憩の外食から戻ってふと覗いたSNS上には、チケットを取れなかった人間の嘆きと転売サイトに出品されていることへの怒り、そして当選した人間の喜びなど様々な声が今日も溢れている。
「(本当に行けるんだよな……?)」
東海林が嘘を吐く人間だとは思えないが、この天国のような気分から「やっぱりナシでお願いします」と言われる事態を想像すると祥司の心中は穏やかではない。
――もし……もし駄目になっても、その時はその時だ。
だって自力では取れなかったプラチナチケットの夢を、一時見させてもらっただけでも良いじゃないか。
祥司はスマホを机の上に置いてから、そう心の中で自分の中の期待が爆発しないように精一杯の保険をかけておく。
じゃないと、仮に本当に駄目になった時寝込む気しかしないからだ。
「誰だ?」
ブブッとつい先ほど置いたばかりのスマホが震えたので、祥司は早速確認する。
それは三日前に双方プライベート用の連絡先を交換した、東海林からの初めてのメッセージだった。
『お疲れ様です
手元にチケットの実物があった方が安心でしょうから先にお渡ししたいと思うのですが、近い内にケーアンに行く予定はありますか?』
「今夜でも大丈夫です」
そのメッセージを見て、祥司は会社のデスクにいることも忘れて普通の声量で返事をしていた。
そして最後まで言い切った後に気付いてまずい! と口を押さえ周囲を確認したが、幸いなことに近くの席の同僚たちはまだ戻っていない。
「(危ないな。いくら嬉しいからって、職場では気を付けないと)」
ふう、と一度深呼吸をしてから返事を入力し始める。
即レスはビジネス関連でする時は何も思わないというか、むしろ当然の意識で出来るのに……プライベートな連絡になるとなんだかちょっと色々なことが気になってしまうのは何故だろう。
しかしこのアプリの性質上、既読を付けてしまったのは伝わっているから仕方がない! と誰にともなく言い訳して祥司は指を動かす。
『お疲れ様です
本当にありがとうございます、私は今週なら何曜日でも大丈夫です
東海林さんのご都合に合わせます』
送信前に誤字脱字の確認をしてから送信ボタンを押すと、祥司が送ったメッセージに即既読が付いた。
このタイミングからすると、東海林はトーク画面を開いたままにしていたのかもしれない。
そしてそれが当たっていたのか、彼からの返信は早かった。
『ではもし良ければいつもの金曜日でどうでしょう?』
“いつもの金曜日”、という言葉が少しむず痒い。
しかしお互い会社員という性質上、ゆっくりと酒と会話を楽しみたいときに週末を選ぶのは自然なことだ。
『はい、分かりました
俺は何も起きなければいつもと同じ頃店に行けると思います』
『私も何もなければ同じ頃行けます
多少の遅れは飲みながらお待ちしてますので、気にしないで来てください』
――それでは、金曜日に。
そう締めくくられたメッセージを見て祥司はふう、と息を吐いた。
いくら定時というものがあっても、その時の仕事の状況次第では約束の時間に間に合わないことが発生する時もある。
「(仕事の対応で遅れたのに、よく怒られていたよな……俺)」
何時に何処、を正確に決めたがっていた元カレは仕事終わりの平日夜の約束であっても遅刻をとにかく許さなかった。
悪いことなんて何もしていない、同じ社会人同士であれば理解し合って「仕方がないよな」と言い合いたい部分の価値観がズレていたことも、今思えばストレスだったのかもしれない。
「(ほんと、終わるべくして終わったんだよな)」
静かにそう考えながら祥司は、習慣にしているスマホのスケジュールアプリに金曜日の夜の予定を入れる。
そして一目で分かりやすいように仕事と分けているプライベート用の文字色を見て、何とも言えない気持ちを抱いた。
***
35
あなたにおすすめの小説
相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~
柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】
人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。
その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。
完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。
ところがある日。
篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。
「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」
一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。
いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。
合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
幸せな復讐
志生帆 海
BL
お前の結婚式前夜……僕たちは最後の儀式のように身体を重ねた。
明日から別々の人生を歩むことを受け入れたのは、僕の方だった。
だから最後に一生忘れない程、激しく深く抱き合ったことを後悔していない。
でも僕はこれからどうやって生きて行けばいい。
君に捨てられた僕の恋の行方は……
それぞれの新生活を意識して書きました。
よろしくお願いします。
fujossyさんの新生活コンテスト応募作品の転載です。
宵にまぎれて兎は回る
宇土為名
BL
高校3年の春、同級生の名取に告白した冬だったが名取にはあっさりと冗談だったことにされてしまう。それを否定することもなく卒業し手以来、冬は親友だった名取とは距離を置こうと一度も連絡を取らなかった。そして8年後、勤めている会社の取引先で転勤してきた名取と8年ぶりに再会を果たす。再会してすぐ名取は自身の結婚式に出席してくれと冬に頼んできた。はじめは断るつもりだった冬だが、名取の願いには弱く結局引き受けてしまう。そして式当日、幸せに溢れた雰囲気に疲れてしまった冬は式場の中庭で避難するように休憩した。いまだに思いを断ち切れていない自分の情けなさを反省していると、そこで別の式に出席している男と出会い…
共の蓮にて酔い咲う
あのにめっと
BL
神原 蓮華はΩSub向けDom派遣サービス会社の社員である。彼はある日同じ職場の後輩のαSubである新家 縁也がドロップしかける現場に居合わせる。他にDomがいなかったため神原が対応するが、彼はとある事件がきっかけでαSubに対して苦手意識を持っており…。
トラウマ持ちのΩDomとその同僚のαSub
※リバです。
※オメガバースとDom/Subユニバースの設定を独自に融合させております。今作はそれぞれの世界観の予備知識がないと理解しづらいと思われます。ちなみに拙作「そよ風に香る」と同じ世界観ですが、共通の登場人物はいません。
※詳細な性的描写が入る場面はタイトルに「※」を付けています。
※他サイトでも完結済
死ぬほど嫌いな上司と付き合いました【完結】
三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。
皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。
涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥
上司×部下BL
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
【R18+BL】空に月が輝く時
hosimure
BL
仕事が終わり、アパートへ戻ると、部屋の扉の前に誰かがいた。
そこにいたのは8年前、俺を最悪な形でフッた兄貴の親友だった。
告白した俺に、「大キライだ」と言っておいて、今更何の用なんだか…。
★BL小説&R18です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる