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24.“いつか”恋はしたい。②
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「(最悪だ。いや、仕方がないことだが、今日だけは本気で勘弁して欲しかった!)」
祥司は心の中で叫びながら出来る限り急ぐ。
流石にこの混み合う夜の道を走り抜けることは出来ないが、それでも最大限大股かつ早歩きだ。
東海林と厳密な時間の約束まではしていない。
それでも二人が普段ケーアンで顔を合わせる時間からは、軽く二時間近く遅れていた。
本当だったら隙を見て連絡を先に入れたかった。
しかし対応に追われてそれも叶わず東海林にメッセージを入れることが出来たのは、結局会社を出たつい三十分前のこと。
しかも返信は即レスで『気にしないで気を付けて来てくださいね』だ。
いっそ怒ってくれた方が気持ち的には楽かもしれない。
祥司は見慣れたドアノブに手をかけて、普段より気持ち強くドアを開ける。
聞き慣れたドアベルの音を聞き流し、祥司は迷うことなく東海林がいつも座っているカウンター席だけを真っすぐに見た。
――良かった、まだ居た。
素直にそれだけを思った。
そして祥司のいつもの指定席であるカウンターの端の席には、まるで他の誰かが座るのを防ぐように普段は足元に置かれている東海林のビジネスバッグがある。
「東海林さん、本当に! 本当にすみませんでした!」
カウンターの中のケイとアキが、混み合った店内のオーダーを処理つつ祥司に声を掛けるより先に、祥司は頭を下げる。
しかし東海林は優しい動作で祥司の両肩に手を置いて、少し強めの力で頭を上げさせた。
「そんなことをするはやめてくださいよ、祥司さん。急な仕事の対応が入る可能性があるのはお互い様でしょう?」
「でも、お待たせしたのは事実です。連絡をするのも遅れて……本当に、申し訳ありませんでした」
東海林は謝罪の言葉を聞きながらも首を軽く振り、さっと自分のビジネスバッグを寄せて祥司に座るように促す。
静かで優しいけれど、有無を言わせない何かに背中を押されるように祥司はいつものバーチェアに腰掛け、祥司がしっかりと着席したタイミングで東海林の言葉は続く。
「急な対応が必要な仕事が入った時に、悠長に連絡を入れられないなんて誰にでも起こる事態ですよ」
「でも……」
東海林のフォローの優しさが、祥司の申し訳なさを煽る。
心底心苦しそうな顔で曇る祥司の顔をじっと見た後、東海林はくすりと笑った。
「分かりました、じゃあ貸しを一つということでどうですか?」
「貸し……ですか?」
ケイとアキは、祥司たちの会話がひと段落するのを空気を読んで待っている。
東海林がそれに気付いているのかいないのかは分からないが、彼は穏やかな口調で言い切った。
「これから先祥司さんと私が待ち合わせをした時に、私に仕事が入って連絡が出来ずに遅れてしまっても許してください。それでどうですか?」
「それは、仕事だったら仕方がないじゃないですか」
自分が遅れた時は詫びるのに、東海林が遅れた時は「仕事なら仕方がない」とアッサリ言い切ってしまう祥司を見て、東海林がぷっと軽く噴き出す。
「私とあなたの間にそのダブルスタンダードは必要ないですよ。さ、今週もお仕事お疲れ様でした。そろそろ注文をしないとケイさんとアキさんが心配そうに見ています」
「え? あ……すみません。ハイボールください」
オーダーを受けてくれたアキは東海林との会話がまだ残っていると判断して「はーい!」と明るく一言返して来ただけだし、ケイは祥司のオーダーを長年の付き合いで見越していたのか、既に「すみません」の段階でいつものウイスキーのボトルに手が伸びている。
「何か予定がある時に限って入りますよね、仕事の連絡って」
「あるあるですね、本当に」
さっと目の前に提供されたハイボールに礼を言って、でもすぐに口をつけにくい祥司の胸中を読んだように東海林が促す。
「かなり急いで来てくれたので喉が渇いているでしょう? どうぞ飲んでください。何かフード系も頼みましょうか。あなたのことだから、仕事を終えてすぐに来てくれたんでしょう?」
穏やかにそう言ってアキに今日のおススメを尋ねる東海林を見て……祥司の脳裏に、また元カレの言葉が過ぎる。
――仕事仕事って軽く言うけどさ、なんでメッセージの一つも出来ないわけ?
そのくらいの時間なら普通取れるだろ!
仕事を遅刻したことを正当化する言い訳にするのは卑怯だ!
「(あ……どうしよう、なんか急にヤバいかも)」
祥司は、自分は誰かを好きになるまで時間がかかる方だと思っていた。
思っていたし、事実としてそれは間違っていないと思う。
確かに別れてから数カ月は経ったけれど、まだ次なんて考えていなかった。
いなかったけれど、ずっと一人で生きて行くつもりでもなかった。
“いつか”恋はしたい。
今度こそ、自分から好きになるような恋に落ちたい。
……でも、ノンケに焦がれるなんて不毛な感情は――欲しくない。
祥司は心の中で叫びながら出来る限り急ぐ。
流石にこの混み合う夜の道を走り抜けることは出来ないが、それでも最大限大股かつ早歩きだ。
東海林と厳密な時間の約束まではしていない。
それでも二人が普段ケーアンで顔を合わせる時間からは、軽く二時間近く遅れていた。
本当だったら隙を見て連絡を先に入れたかった。
しかし対応に追われてそれも叶わず東海林にメッセージを入れることが出来たのは、結局会社を出たつい三十分前のこと。
しかも返信は即レスで『気にしないで気を付けて来てくださいね』だ。
いっそ怒ってくれた方が気持ち的には楽かもしれない。
祥司は見慣れたドアノブに手をかけて、普段より気持ち強くドアを開ける。
聞き慣れたドアベルの音を聞き流し、祥司は迷うことなく東海林がいつも座っているカウンター席だけを真っすぐに見た。
――良かった、まだ居た。
素直にそれだけを思った。
そして祥司のいつもの指定席であるカウンターの端の席には、まるで他の誰かが座るのを防ぐように普段は足元に置かれている東海林のビジネスバッグがある。
「東海林さん、本当に! 本当にすみませんでした!」
カウンターの中のケイとアキが、混み合った店内のオーダーを処理つつ祥司に声を掛けるより先に、祥司は頭を下げる。
しかし東海林は優しい動作で祥司の両肩に手を置いて、少し強めの力で頭を上げさせた。
「そんなことをするはやめてくださいよ、祥司さん。急な仕事の対応が入る可能性があるのはお互い様でしょう?」
「でも、お待たせしたのは事実です。連絡をするのも遅れて……本当に、申し訳ありませんでした」
東海林は謝罪の言葉を聞きながらも首を軽く振り、さっと自分のビジネスバッグを寄せて祥司に座るように促す。
静かで優しいけれど、有無を言わせない何かに背中を押されるように祥司はいつものバーチェアに腰掛け、祥司がしっかりと着席したタイミングで東海林の言葉は続く。
「急な対応が必要な仕事が入った時に、悠長に連絡を入れられないなんて誰にでも起こる事態ですよ」
「でも……」
東海林のフォローの優しさが、祥司の申し訳なさを煽る。
心底心苦しそうな顔で曇る祥司の顔をじっと見た後、東海林はくすりと笑った。
「分かりました、じゃあ貸しを一つということでどうですか?」
「貸し……ですか?」
ケイとアキは、祥司たちの会話がひと段落するのを空気を読んで待っている。
東海林がそれに気付いているのかいないのかは分からないが、彼は穏やかな口調で言い切った。
「これから先祥司さんと私が待ち合わせをした時に、私に仕事が入って連絡が出来ずに遅れてしまっても許してください。それでどうですか?」
「それは、仕事だったら仕方がないじゃないですか」
自分が遅れた時は詫びるのに、東海林が遅れた時は「仕事なら仕方がない」とアッサリ言い切ってしまう祥司を見て、東海林がぷっと軽く噴き出す。
「私とあなたの間にそのダブルスタンダードは必要ないですよ。さ、今週もお仕事お疲れ様でした。そろそろ注文をしないとケイさんとアキさんが心配そうに見ています」
「え? あ……すみません。ハイボールください」
オーダーを受けてくれたアキは東海林との会話がまだ残っていると判断して「はーい!」と明るく一言返して来ただけだし、ケイは祥司のオーダーを長年の付き合いで見越していたのか、既に「すみません」の段階でいつものウイスキーのボトルに手が伸びている。
「何か予定がある時に限って入りますよね、仕事の連絡って」
「あるあるですね、本当に」
さっと目の前に提供されたハイボールに礼を言って、でもすぐに口をつけにくい祥司の胸中を読んだように東海林が促す。
「かなり急いで来てくれたので喉が渇いているでしょう? どうぞ飲んでください。何かフード系も頼みましょうか。あなたのことだから、仕事を終えてすぐに来てくれたんでしょう?」
穏やかにそう言ってアキに今日のおススメを尋ねる東海林を見て……祥司の脳裏に、また元カレの言葉が過ぎる。
――仕事仕事って軽く言うけどさ、なんでメッセージの一つも出来ないわけ?
そのくらいの時間なら普通取れるだろ!
仕事を遅刻したことを正当化する言い訳にするのは卑怯だ!
「(あ……どうしよう、なんか急にヤバいかも)」
祥司は、自分は誰かを好きになるまで時間がかかる方だと思っていた。
思っていたし、事実としてそれは間違っていないと思う。
確かに別れてから数カ月は経ったけれど、まだ次なんて考えていなかった。
いなかったけれど、ずっと一人で生きて行くつもりでもなかった。
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