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25.なんでこうも、馬鹿なんだろう。①
しおりを挟む「マジか――」
東海林からチケットを受け取り、帰宅した祥司はパソコンの前でそれだけを呟いて硬直していた。
秋も深まった夜。
肌寒さを感じて使用したエアコンの風のせいで、瞬きすら忘れた目が乾燥を強く訴えて来る。
最初に東海林とケーアンで出会ってから、恐らく四か月ほどだろうか?
正確な日付は曖昧だが、あの夜の出会いが自分の人生にこんな……ある意味宝くじに当たった以上の幸運を連れて来るとは想像してもいなかった。
「アリーナ席、Aブロック……五列目、中央付近……」
武道館のホームページではなく、アスナの公式サイトに掲載されていた座席表のPDFファイルと手元のチケットの座席番号を、もう軽く十回以上祥司は見比べているがその事実は一切揺るがない。
経費削減、転売防止、利便性の向上、セキュリティ強化など数々のメリットから、電子チケットの普及が目覚ましい今の時代に、敢えての『紙のチケット』を手渡された時点で「あれ?」とは確かに一瞬思った。
しかし、遅刻のお詫びとささやかなお礼に今日の会計は自分に払わせて欲しいと数回提案しても、アッサリとだが梃子でも動かぬ鉄壁の笑顔で断られたことが無くたって
「アスナのライブに行けるなら、ステージが見えない追加販売のサイド席でも大歓迎!」
と本気で思っていた祥司は、白い厚めの上質な紙で作られた封筒に入った自分の分のチケットをその場で凝視して座席の位置を見るだなんて無粋な真似は当然しない。
ただ中に入っているAstroNerdsの名前と、公演日や時間が印字されたホログラム付きのチケットを見ただけで飛び上がりそうな気持を抑えて東海林にお礼を繰り返すのがその時の祥司に出来る精一杯だった。
「コネって……マジであるもんな……すげぇな、東海林さん」
自分も微かではあるが、業界人と呼べる立ち位置にいるからこそ東海林が勤める大企業の強さが分かる。
そして、その恩恵は大企業に所属している全ての人間に対して無条件で平等に分配されているわけではないことも知っている。
――私、ちょっと頑張って取引先の先生のご厚意に甘えつつ、チケットを二枚ほど入手致しました。
そう言って悪戯っぽく笑った東海林の表情が脳裏にはっきりと浮かぶ。
こちらに負担をかけないように敢えて軽く言ってくれたんだと思うが、それまで積み上げた人脈を駆使してもこれだけのチケットを入手することは簡単ではなかったはずだ。
「(そう言えば元カレは、一緒に遠出する時のチケットの予約すら満足に出来なかったな……)」
そこまで考えて、祥司は自分以外誰もいない自宅の一室で大きく頭を左右に振る。
「(ヤバい……これは、確実にヤバい。気を付けろ、馬鹿か俺は。同じ過ちを繰り返すな!)」
ここまで回数を重ねてしまうと、流石の祥司も認めるしかない。
祥司が元カレを思い出す時。
それは、元カレを恋しく思って取り戻したい、あの頃に戻りたいと願う未練の感情からではない。
自分が元カレを思い出す時――それは決まって、東海林と比較して東海林の良さや凄さを客観的に理解する時だ。
そしてそれは、なんて恐ろしいことなんだろう。
「え、コレお礼のメッセージを入れるよな常識的に? マナー的に『こんなに良い席本当に良いんですか?』って即一報入れる案件だよな? どうするのが普通だ? なんだったら変じゃない?」
困惑しながら祥司がチケットの裏を何気なく見ると、そこには電子チケットの真逆を走る赤いスタンプがハッキリと押されていた。
色々なものが電子化されていく時代の中でも確かにまだ残っている、古風とも表現出来る業界の本質的な体質の一端が見える“特別”の証明。
【 関係者用招待席 】
一般販売なんて、そもそもされていない区画。
「――こっわ」
色んな意味で、震えた。
***
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