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第40話 呪いがもたらした奇跡
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「師匠、奴ら強くなりましたが、大丈夫ですか?」
力強さを増したデーモン・ロード達を前に私が尋ねる。
「タクトから見て彼らはどうですか?」
エレノーラ様から逆に質問されてしまう。悪魔達は確かに強くはなった。だが、どうしようもないというわけではないと思う。
「そうですね、まだ何とかなるとは思います」
私の答えにエレノーラ様が微笑む。
「ふふ、そうですか。仕方ないですね。少し不安ですが、あの者達で修練しましょうか」
「は、はい」
どうやらベストな解答には程遠かったようだ。
デーモン・ロード達は完全にエレノーラ様の圧に恐怖し硬直している。
「貴方がたの相手はここにいるタクトがします。ご安心なさい」
エレノーラ様の発言にデーモン・ロード達が安堵し、その中の一人が前に出てくる。
「お前でないなら私でもやれる!」
そう息巻くのは【戦歌の飢女】リヴィア=エルン、女性のデーモン・ロードだが相当な魔力の持ち主だ。体から並々ならぬオーラが漏れ出ている。
長く紅い髪をなびかせ、漆黒の鎧を身に着けたデーモン・ロードは突然魅力的な高音で歌を歌い始める。
「な、何だ?」
私は戸惑ってしまったが、実は状態異常無効化の魔法に守られてわからないだけだった。リヴィアの死と魅了をもたらす旋律を……。綺麗な歌声で少し惑わされかけるも、気持ちよくなっただけだ。
リヴィアは私が何の変化もしない事に気づく。
「わ、私の魅了が通じない相手だというのか!?」
彼女は歌を諦め、私に両手を伸ばして突撃してくる!
「私の魅力をその身をもって知るがいい!」
何か抱き着きに来ようとしている? それはそれで受けてもいいかなと思ってみたりする。だが彼女の腕が私に伸びようとした時、異変が起こる。
「あああぁっ!」
彼女の褐色の両手が、両腕の肌が白く変色していく。黒い鎧は白い衣装に変貌し、長く紅い髪は茶色のショートボブに変化する。
禍々しい膨大なオーラは消え、爽やかな気配になって私に迫る。私は彼女の両肩を掴んで勢いを止める。
「タクト、油断してはいけませんよ!」
エレノーラ様から指示が飛ぶ。私も理解はしているが、すでにリヴィアからの殺意は消え去っていた。
「わ……私は一体……」
弱々しい声でリヴィアがつぶやく。もはやデーモン・ロードの威厳も姿もそこには無く、人間の女性にしか見えなかった。
「師匠、これは多分『聖女の呪い』かもしれません」
目の前の現象は違えど、この前ダンジョンで起きたものとすごく似ていると感じた。
エレノーラ様も驚いているが、もっと驚いている者達がいる。私達の戦闘を見守っていた三人のデーモン・ロード達だ。
「【戦歌の飢女】が何もできず敗北だと! 奴は危険じゃ!」
巨大な骨のデーモン・ロード、イクリズ=オラフが低音で叫ぶ。その後すぐ呪文を唱え始める。
彼の警告にレゼシュ=ファラルとゾル=ガザンも呼応し、私に対して攻撃を仕掛けようと動き出す。
「いけませんね。タクト、あとは私がやりますので防御しなさい」
エレノーラ様がすでに動いている。
「わかりました」
私はリヴィアを受け止めつつ即効魔法で四方に結界を張る。
「やらせるか! 食らええ!!! 『千年語り』!」
「これはかわせまい! 『契約断罪』!」
「どんな反撃も許さぬ! 『償いの鉄輪』!」
彼らは一斉に全力攻撃をエレノーラ様めがけて撃ち放つ。
だが、残念ながら聖属性のオーラに阻まれて、エレノーラ様には微塵も届いていない。悪魔に同情する気はないが、可哀想になってくるほどだ。
「全然消化不良ですわね。タクト、見ていなさい」
「あ、はい!」
エレノーラ様はそう言うと、錫杖を出現させ呪文を唱える。
「すべての神々に成り代わり、この地を浄化いたします。『偉大な神聖なる領域』!」
魔法が発動し、一気に汚れた空気が、大地が、荒れた空が浄化されていく。私が先に浄化したが、次元が違いすぎる。三体の巨大なデーモン・ロードは為す術なく消滅していく。
広大なこの階層のはるか遠くまで聖なる光に包まれていく。緑の木々が生えて活性化し、タナーリをはじめとする悪魔達の断末魔が辺り一帯に響き渡る。
「師匠、すっかり浄化されましたね……」
「そうですわね。まあ今日の所はこのくらいでよいでしょう。やりすぎると楽しみがなくなってしまいますからね」
え? 全力じゃなかったのですか? エレノーラ様恐るべし……
「次からはタクトにやってもらいます。いいですね」
「わ、わかりました」
こんな広範囲には無理だが、魔法自体は発動できると思う。
浄化してから、エレノーラ様は空から私を主だった場所へ連れて行ってくださった。
「この辺りは以前私が来て地ならしてますから、また今度ゆっくりと案内しますわ」
「は、はい。わかりました」
今までに悪魔達の住処ともいえるこの広大な巣窟でどんなことをなさって来たのだろう……。考えるとゾッとするが、それでも興味は尽きない。
「ここでも座標を登録しておいてください。次はタクトに任せますからね」
「わかりました」
テレポートに必要な座標登録を行う。地上でも正確に登録する必要があるが、特にこのアビスでは雑にやると転移後に悪魔達と鉢合わせる可能性もある。
「あ、あの……」
「へ?」
私の隣で女性が声をかけてくる。そうだ! 大事なことをすっかり忘れていた。デーモン・ロードのリヴィアだったこの女性の処遇についてだ。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【まめちしき】
【【欺瞞の羽衣】レゼシュ=ファラル】……パズニアの西縁に位置する幻影峡谷【シフラ・コーラ】を支配する中位クラスのデーモン・ロード。細身の美青年にも見える姿を取るが、背中には七色に変化する蝶の羽が生えており、近づくとその羽から幻覚毒霧が漂う。頭部には目が三対(左右それぞれ二対と額に一対)あり、視線を合わせた者に「自分が最も信じる存在」の幻影を見せて操る力を持つ。「欺きこそ真理」という思想を持ち、裏切りと策略によってのみ混沌が完成すると信じる。
【【焙獄の鉄輪】ゾル=ガザン】……パズニアの東縁に位置する焙獄渓谷【アル=ミュラグ】を支配する中位クラスのデーモン・ロード。燃えさかる鉄輪のような甲殻を背負う六本腕の巨人型デーモン。鎖で繋がれた腕は独自の意志を持つかのように動き、灼熱の鉄製武器を操る。顔面は金属の仮面で隠され、喋る際は腹部の口が動く。“裏切り者や契約違反者”に罰を与える執行官的性質を持ち、パズズの敵を勝手に捕らえて焼くことで存在感を誇示している。
【【戦歌の飢女】リヴィア=エルン】……パズニアの南縁に位置する血の丘陵【ドレッドソング】を支配する中位クラスのデーモン・ロード。長い赤毛と黒曜石の鎧を纏った妖艶な戦士女性の姿。戦場で歌う歌声は、聴いた者に錯乱・狂戦・自殺衝動を植えつける。口づけ一つで意識や魔法効果を反転させる能力を持つ。
【【骨塔の語り部】イクリズ=オラフ】……パズニアの北縁に位置する白骨の回廊【サーン・グラヴェル】を支配する中位クラスのデーモン・ロード。巨大な白骨の山に埋もれた骸骨の姿。全長十メートルを超えるが、常に地に伏している。眼窩から黒い霧が立ち上り、接近する者の“記憶”を吸い込む。
「面白いかも!」「続きが読みたい!」「陰ながら応援してるよ!」
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「タクトから見て彼らはどうですか?」
エレノーラ様から逆に質問されてしまう。悪魔達は確かに強くはなった。だが、どうしようもないというわけではないと思う。
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「は、はい」
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デーモン・ロード達は完全にエレノーラ様の圧に恐怖し硬直している。
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エレノーラ様の発言にデーモン・ロード達が安堵し、その中の一人が前に出てくる。
「お前でないなら私でもやれる!」
そう息巻くのは【戦歌の飢女】リヴィア=エルン、女性のデーモン・ロードだが相当な魔力の持ち主だ。体から並々ならぬオーラが漏れ出ている。
長く紅い髪をなびかせ、漆黒の鎧を身に着けたデーモン・ロードは突然魅力的な高音で歌を歌い始める。
「な、何だ?」
私は戸惑ってしまったが、実は状態異常無効化の魔法に守られてわからないだけだった。リヴィアの死と魅了をもたらす旋律を……。綺麗な歌声で少し惑わされかけるも、気持ちよくなっただけだ。
リヴィアは私が何の変化もしない事に気づく。
「わ、私の魅了が通じない相手だというのか!?」
彼女は歌を諦め、私に両手を伸ばして突撃してくる!
「私の魅力をその身をもって知るがいい!」
何か抱き着きに来ようとしている? それはそれで受けてもいいかなと思ってみたりする。だが彼女の腕が私に伸びようとした時、異変が起こる。
「あああぁっ!」
彼女の褐色の両手が、両腕の肌が白く変色していく。黒い鎧は白い衣装に変貌し、長く紅い髪は茶色のショートボブに変化する。
禍々しい膨大なオーラは消え、爽やかな気配になって私に迫る。私は彼女の両肩を掴んで勢いを止める。
「タクト、油断してはいけませんよ!」
エレノーラ様から指示が飛ぶ。私も理解はしているが、すでにリヴィアからの殺意は消え去っていた。
「わ……私は一体……」
弱々しい声でリヴィアがつぶやく。もはやデーモン・ロードの威厳も姿もそこには無く、人間の女性にしか見えなかった。
「師匠、これは多分『聖女の呪い』かもしれません」
目の前の現象は違えど、この前ダンジョンで起きたものとすごく似ていると感じた。
エレノーラ様も驚いているが、もっと驚いている者達がいる。私達の戦闘を見守っていた三人のデーモン・ロード達だ。
「【戦歌の飢女】が何もできず敗北だと! 奴は危険じゃ!」
巨大な骨のデーモン・ロード、イクリズ=オラフが低音で叫ぶ。その後すぐ呪文を唱え始める。
彼の警告にレゼシュ=ファラルとゾル=ガザンも呼応し、私に対して攻撃を仕掛けようと動き出す。
「いけませんね。タクト、あとは私がやりますので防御しなさい」
エレノーラ様がすでに動いている。
「わかりました」
私はリヴィアを受け止めつつ即効魔法で四方に結界を張る。
「やらせるか! 食らええ!!! 『千年語り』!」
「これはかわせまい! 『契約断罪』!」
「どんな反撃も許さぬ! 『償いの鉄輪』!」
彼らは一斉に全力攻撃をエレノーラ様めがけて撃ち放つ。
だが、残念ながら聖属性のオーラに阻まれて、エレノーラ様には微塵も届いていない。悪魔に同情する気はないが、可哀想になってくるほどだ。
「全然消化不良ですわね。タクト、見ていなさい」
「あ、はい!」
エレノーラ様はそう言うと、錫杖を出現させ呪文を唱える。
「すべての神々に成り代わり、この地を浄化いたします。『偉大な神聖なる領域』!」
魔法が発動し、一気に汚れた空気が、大地が、荒れた空が浄化されていく。私が先に浄化したが、次元が違いすぎる。三体の巨大なデーモン・ロードは為す術なく消滅していく。
広大なこの階層のはるか遠くまで聖なる光に包まれていく。緑の木々が生えて活性化し、タナーリをはじめとする悪魔達の断末魔が辺り一帯に響き渡る。
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浄化してから、エレノーラ様は空から私を主だった場所へ連れて行ってくださった。
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「あ、あの……」
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【まめちしき】
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【【焙獄の鉄輪】ゾル=ガザン】……パズニアの東縁に位置する焙獄渓谷【アル=ミュラグ】を支配する中位クラスのデーモン・ロード。燃えさかる鉄輪のような甲殻を背負う六本腕の巨人型デーモン。鎖で繋がれた腕は独自の意志を持つかのように動き、灼熱の鉄製武器を操る。顔面は金属の仮面で隠され、喋る際は腹部の口が動く。“裏切り者や契約違反者”に罰を与える執行官的性質を持ち、パズズの敵を勝手に捕らえて焼くことで存在感を誇示している。
【【戦歌の飢女】リヴィア=エルン】……パズニアの南縁に位置する血の丘陵【ドレッドソング】を支配する中位クラスのデーモン・ロード。長い赤毛と黒曜石の鎧を纏った妖艶な戦士女性の姿。戦場で歌う歌声は、聴いた者に錯乱・狂戦・自殺衝動を植えつける。口づけ一つで意識や魔法効果を反転させる能力を持つ。
【【骨塔の語り部】イクリズ=オラフ】……パズニアの北縁に位置する白骨の回廊【サーン・グラヴェル】を支配する中位クラスのデーモン・ロード。巨大な白骨の山に埋もれた骸骨の姿。全長十メートルを超えるが、常に地に伏している。眼窩から黒い霧が立ち上り、接近する者の“記憶”を吸い込む。
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