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第52話 十二本木の監視者アンドロス②
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「そんな……」
私は思わず少しショックを覚える。そんな様子を見ていたのかエレノーラ様が答える。
「わかりました。後は私が処理しますわ。タクトは援護をお願いします」
「……了解しました。師匠、お願いします」
情けないことだがここはもうお願いするしかない。その間にもアンドロスがどんどん再生を始めだしている。
「聖杖ルミエール・クラリオン、ここに」
純白と聖銀色のいつも愛用している錫杖がエレノーラ様の前に出現する。その聖杖はエレノーラ様の両手にしっかりと握られる。その後彼女が呪文を唱え始める。杖頭の聖核石がゆっくり脈動し始める。
「我、光の御座に座す者なり。深淵に漂う嘆きを包み、罪を箱舟に乗せて彼方へ送り給え……」
エレノーラ様の背後に光輪が現れると、回転して天へ向かって無数の光の羽が舞い上がる。杖の円環が光を集め、微かな鐘の音が鳴り渡る。
頭上に天門が出現し、銀白色の輝く舟の輪郭が空中に浮かぶ。天門は物理空間を超越しており、空に裂け目ができたように見える。
呪文を唱えている間にアンドロスが完全再生する。私が魔法で援護する。
「ライトニング!」
五本の雷を出してアンドロスに浴びせる。ダメージを与え動きを抑えることに成功する。だがアンドロスは自分の周囲に黒い防壁【悪夢の障壁】を展開する。
「穢れを裂き、理を繋ぎ、いずれの神々も赦さず、全てを抱いて光に帰す。天門、開け――」
エレノーラ様の詠唱に応えて杖の鐘が鳴り響く。門が開き、銀白色の輝く舟の輪郭が空中に浮かぶ。光輪の中心から現れるのは、聖なる光で形作られた巨大な箱舟だ。
その間にもアンドロスは更に自らの血を燃やして攻撃力を大幅に強化していく。根の束が樹木鎧のようにまとまり、巨人形態になる。そして暴走を始めようとする。
「師匠!」
私はアンドロスの変化に思わず叫ぶ。
出現した箱舟には無数の光の鎖があり、空間に存在するすべての“罪核”や“穢れ”を絡め取り引き寄せる。舟の船首には熾天使の幻影が立ち、静かに祈るように翼を広げる。
エレノーラ様は涼しげな顔で答える。
「お待たせしました。行きます」
エレノーラ様は軽やかにそして速い動きで魔法を唱える。
『ディバイン・アーク』
聖属性高位の魔法が発動する。無数の光の鎖はあっさりとアンドロスを捕らえ、絡め取り引き寄せる。時を、空間を、次元を、すべてを支配する。
「何もさせませんわ」
アンドロスの聖属性耐性は機能していた。カキンと音があり、青い光が放たれる。だがその後プチプチとはじける音がしばらく続く。耐性ゆえの聖属性への抵抗だろう。やがて音は消え、聖なる輝きによってアンドロスの身体が蝕まれていく。彼の存在核だけが残り、鎖に縛られたまま舟の中へ引き込まれていく。
箱舟はすべてを収容し終えると、図らずも桟橋でタナーリ達が建造中の船に側面から激突し、木っ端微塵に破壊してしまう。その後船体が音もなく光に溶けていき、舟の残光だけが天門をくぐって彼方へ消える。やがて門がひとりでに閉じられて消滅する。
「全ての罪は、光の海へ還れ……」
エレノーラ様は静かに杖を胸元で抱きながら小さく告げる。
アンドロスは完全にアビスから消滅し、黒く立ち込めていた瘴気が消え去る。十二本木の森が浄化される。
「さすがは師匠です! ありがとうございました!」
「ふふ。タクトはわざと私に活躍の場を作ってくれたのですね。なかなか粋なことをしますわ」
「い、いえ。そんなつもりは……」
そう言ってエレノーラ様の顔を見ると笑みがこぼれている。目も心なしか輝いて笑っているように見える。デーモンを倒せたことがよほど嬉しかったのだろうな。
晴れ渡った森を見回していると、舞台の中央、アンドロスが消滅した場所にアイテムが落ちている。
「師匠、何か光るものがあります。あれは何でしょう?」
私の問いにエレノーラ様が舞台の中央に確かめに行く。しげしげとアイテムを見つめてから答える。
「あら、これは天使の涙石と血環の紋章石のようですね。聖遺物が見つかるなんて、運が良いですわ。ですが一つは要注意ですね」
どうやら貴重なアイテムのようだ。エレノーラ様はアイテムに魔法をかける。
『解呪』
血環の紋章石に魔法がかかり、呪いが外される。
「これで大丈夫ですわ。タクト、どうしますか?」
「そうですね、では少しお借りしてもいいですか?」
私はアイテムをエレノーラ様から受け取ると、インベントリを出して収納する。インベントリがアイテムを認識したので、再び取り出してエレノーラ様に返却する。
「もうよろしいのですか?」
「はい。アイテムの複製ができたので、オリジナルは師匠が持っていてください」
「まあ、便利な機能ですのね」
エレノーラ様が感心している。確かにインベントリは日々進化しているように感じる。
「師匠、天使の救出に行きましょう」
「そうですわね。厄介な悪魔が消えましたし、あとは開放するだけですわ」
私達はこうしてアンドロス率いるデーモン達を退け、囚われた天使たちの救出に向かうのだった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【まめちしき】
【 ディバイン・アーク】……聖女エレノーラの必殺聖属性高位魔法の一つ。選ばれし聖女のみが扱える「神の箱舟」。聖なる光で敵を封印し、そのまま光の洪水で跡形もなく消滅させる。封印と消滅を同時に行うため、再生能力を持つ相手も蘇生不可。 物理的破壊ではなく、世界そのものを“罪の記録ごと”上書き消去する浄化魔法。彼女の祈りによって天の光の箱舟を顕現させ、世界の罪と穢れを乗せて光の彼方に葬り去る、いわば審判と救済の同時発動である。
【天使の涙石】……かつて《十二本木》に生贄として縛られた天使たちの 浄化された魂の雫 が結晶化したもの。人のこぶしほどの透明な水晶状でほのかに銀白色の輝きがある。この宝石には、清浄な聖属性の魔力と、記憶の断片が封じ込められている。聖属性魔法の増幅、精神防壁の自動展開、一度だけの奇跡などの効果を持つ。
【血環の紋章石】……十二本木に縛られた堕落した生贄の血と、儀式の紋章魔術が混ざりあって生まれた忌まわしき魔印石。血の記憶と呪いを秘める反面、扱う者に強大な血と魔の力を与える。真紅の宝玉に黒い血管のような紋章が脈打つ。こぶしほどの大きさだが触れる者の血に反応して拡縮する。血の契約強化、自己再生、血環解放、血脈の記憶などの効果がある。
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純白と聖銀色のいつも愛用している錫杖がエレノーラ様の前に出現する。その聖杖はエレノーラ様の両手にしっかりと握られる。その後彼女が呪文を唱え始める。杖頭の聖核石がゆっくり脈動し始める。
「我、光の御座に座す者なり。深淵に漂う嘆きを包み、罪を箱舟に乗せて彼方へ送り給え……」
エレノーラ様の背後に光輪が現れると、回転して天へ向かって無数の光の羽が舞い上がる。杖の円環が光を集め、微かな鐘の音が鳴り渡る。
頭上に天門が出現し、銀白色の輝く舟の輪郭が空中に浮かぶ。天門は物理空間を超越しており、空に裂け目ができたように見える。
呪文を唱えている間にアンドロスが完全再生する。私が魔法で援護する。
「ライトニング!」
五本の雷を出してアンドロスに浴びせる。ダメージを与え動きを抑えることに成功する。だがアンドロスは自分の周囲に黒い防壁【悪夢の障壁】を展開する。
「穢れを裂き、理を繋ぎ、いずれの神々も赦さず、全てを抱いて光に帰す。天門、開け――」
エレノーラ様の詠唱に応えて杖の鐘が鳴り響く。門が開き、銀白色の輝く舟の輪郭が空中に浮かぶ。光輪の中心から現れるのは、聖なる光で形作られた巨大な箱舟だ。
その間にもアンドロスは更に自らの血を燃やして攻撃力を大幅に強化していく。根の束が樹木鎧のようにまとまり、巨人形態になる。そして暴走を始めようとする。
「師匠!」
私はアンドロスの変化に思わず叫ぶ。
出現した箱舟には無数の光の鎖があり、空間に存在するすべての“罪核”や“穢れ”を絡め取り引き寄せる。舟の船首には熾天使の幻影が立ち、静かに祈るように翼を広げる。
エレノーラ様は涼しげな顔で答える。
「お待たせしました。行きます」
エレノーラ様は軽やかにそして速い動きで魔法を唱える。
『ディバイン・アーク』
聖属性高位の魔法が発動する。無数の光の鎖はあっさりとアンドロスを捕らえ、絡め取り引き寄せる。時を、空間を、次元を、すべてを支配する。
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アンドロスの聖属性耐性は機能していた。カキンと音があり、青い光が放たれる。だがその後プチプチとはじける音がしばらく続く。耐性ゆえの聖属性への抵抗だろう。やがて音は消え、聖なる輝きによってアンドロスの身体が蝕まれていく。彼の存在核だけが残り、鎖に縛られたまま舟の中へ引き込まれていく。
箱舟はすべてを収容し終えると、図らずも桟橋でタナーリ達が建造中の船に側面から激突し、木っ端微塵に破壊してしまう。その後船体が音もなく光に溶けていき、舟の残光だけが天門をくぐって彼方へ消える。やがて門がひとりでに閉じられて消滅する。
「全ての罪は、光の海へ還れ……」
エレノーラ様は静かに杖を胸元で抱きながら小さく告げる。
アンドロスは完全にアビスから消滅し、黒く立ち込めていた瘴気が消え去る。十二本木の森が浄化される。
「さすがは師匠です! ありがとうございました!」
「ふふ。タクトはわざと私に活躍の場を作ってくれたのですね。なかなか粋なことをしますわ」
「い、いえ。そんなつもりは……」
そう言ってエレノーラ様の顔を見ると笑みがこぼれている。目も心なしか輝いて笑っているように見える。デーモンを倒せたことがよほど嬉しかったのだろうな。
晴れ渡った森を見回していると、舞台の中央、アンドロスが消滅した場所にアイテムが落ちている。
「師匠、何か光るものがあります。あれは何でしょう?」
私の問いにエレノーラ様が舞台の中央に確かめに行く。しげしげとアイテムを見つめてから答える。
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『解呪』
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「もうよろしいのですか?」
「はい。アイテムの複製ができたので、オリジナルは師匠が持っていてください」
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私達はこうしてアンドロス率いるデーモン達を退け、囚われた天使たちの救出に向かうのだった。
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【まめちしき】
【 ディバイン・アーク】……聖女エレノーラの必殺聖属性高位魔法の一つ。選ばれし聖女のみが扱える「神の箱舟」。聖なる光で敵を封印し、そのまま光の洪水で跡形もなく消滅させる。封印と消滅を同時に行うため、再生能力を持つ相手も蘇生不可。 物理的破壊ではなく、世界そのものを“罪の記録ごと”上書き消去する浄化魔法。彼女の祈りによって天の光の箱舟を顕現させ、世界の罪と穢れを乗せて光の彼方に葬り去る、いわば審判と救済の同時発動である。
【天使の涙石】……かつて《十二本木》に生贄として縛られた天使たちの 浄化された魂の雫 が結晶化したもの。人のこぶしほどの透明な水晶状でほのかに銀白色の輝きがある。この宝石には、清浄な聖属性の魔力と、記憶の断片が封じ込められている。聖属性魔法の増幅、精神防壁の自動展開、一度だけの奇跡などの効果を持つ。
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