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大好きなのに
しおりを挟む最悪の目覚めだ、自然と零れていた涙を袖で拭う。
暗闇の中、涼介に腕を捕まれ怒鳴りつけられる夢。
何を言っているのかわからず、耳が麻痺したように何も聞こえなかったが、決して良い言葉では無いだろう。
まだ震えが止まらない。姿を見れば胸が高鳴ったはずの彼を見るのが、今はとても怖かった。
俺の中の風紀委員長、涼介の第一印象はガラの悪そうな男だった。しかしかなりの美貌の持ち主で、それが尚更近づき難い雰囲気を漂わせている。
初めは関わらないでいようと避けていたが、生徒会長という役柄故に完全に関係を断てる訳もない。程々の距離を保ちつつただ仕事をこなすだけの仲。
しかし、会話を交わしていく内に自分でも驚く程に打ち解けていった。
媚売り目的で近づいてくる奴等ばかり見ていたせいか、同等の立場である涼介と話す時間は新鮮で愉快なもので、気を使わずに言い合える友人となった。
だがそれは二人きりの時の話であり、人がいる前ではお互いを無意識に避けていた。まだ人前で話すのには多少の抵抗があり、今の現状で十分満足していたから必要以上に接することは無かった。
ふとした時に見せる優しさや、裏表無く笑いかけてくれたその顔が好きだった。
くだらない愚痴を言い合うあの時間が堪らなく好きだった。
恋なんてしたことが無い俺だけど、アイツのことはきっと友情の好きも恋愛感情の好きも両方あったんだと思う。
この先もずっと続くのだと疑いもしなかった。
それでも、それでもだ。
いくら夢中になれる相手が出来たからって、そこからずっと仕事も俺のことも放ったらかしにすることは無いだろう…!
一見不良のような印象だが意外と真面目で勉強家で、風紀委員長としての役割をしっかり果たす。そんなアイツを尊敬していたのに、好きだったのに。
初めから、俺はただの暇つぶしの話し相手でしか無かったのか?
だからこそ、あんな根も葉もない噂を信じてしまったのだろうか。
俺が誰とも関係を持っていないことなんて、アイツは分かってる筈だ。
それでも涼介はあの噂を信じ込んでいた。噂を流した者達とグルだとは考えにくい。
誰彼構わず行為に及ぶ会計に対して、軽蔑を隠すことなく露骨に嫌っていたことを覚えている。
涼介の中で今や俺はふしだらな男なのだろう。
……あぁ、嫌だ、こんなの完全に嫌われている。誤解を解こうにもリコールされた今それを肯定してしまったようなものなのに、今更出来る筈無い。
合わせる顔が無い、今すぐ消えてしまいたい。
ベッドの上で頭を抱え途方に暮れる。
しかしうだうだとしている暇は無い、昼頃には天野が部屋に移動してきてしまう。
それまでに気持ちを切り替えよう、涼介のことも、もう区切りをつけてしまおうかな…。
そう考えた瞬間、ドンッッと扉の方から衝撃音があがった。
そこから何度も何度も力強く玄関の扉を叩かれる音がする。
「オイ、春!!!開けろ!!もう起きてんだろ!!」
苛立ったように俺の名前を呼び扉を乱暴に叩かれる。
何事かとベッドから飛び降り、俺は駆け足で声の主の元へと向かった。
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