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121・初めて見る決闘内容
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隣のジュールが驚いたような声を上げているのがわかって、そっちに視線を向けようとしたけれど……司会のハルヴィアスの声が響いてきて、会場の方に自然と目を向けてしまった。
『対する相手は……エッセリオン子爵の息子、ルディル・エッセリオンだぁぁぁ!』
カイゼルの相手は、人を小馬鹿にしているような表情を浮かべている狼人族の男の子だ。背丈が少し高いけれど、大人の狼人族と比べると、子供だと一目瞭然でわかる程度だ。
それにしても……どこかで会ったことがあるような気がする。
「どうしたんですか?」
「いいえ……以前にもあの狼人族の顔を見たことがあるような気がしてね」
「多分気のせいですよ。それか、そんなに大したことないか」
……ジュールの言う通りかもしれない。本当に大切な事だったら忘れたりしないし、多分どうでもいい事なのだろう。
『えー、今回の決闘方法は射撃にゃ。的になる専用の魔導具をどれだけ多く撃ち落とせるかを競うのにゃ。魔法でも武器でも自由に使っていいけど、相手を妨害する行為の全てを禁止とさせてもらうにゃ』
つまり、純粋な技術のみの勝負となる。力で押せる戦闘よりも難しいかもしれない。
「ティア様ティア様。あそこにいるのはやっぱり……」
「あの『カイゼル』でしょうね」
ジュールは改めて確かめるように聞いてきたけれど、それでも信じられない様子だった。
私だって、なんでこんなことになってるのか、理解できないんだけど。
『今回の勝負はカイゼルが勝てば、ルディルは頭を下げて謝罪することになってるな。対してルディルが勝てば、この場で土下座で謝罪し、国外追放されることになってるぞ』
会場は大いに盛り上がっていた。それ以上に、よくこの条件で許したな……という呟きすら聞こえてくる。
平民が貴族と決闘するのなら、何を対価にされてもおかしくはない。色々な例外は存在するけれど、決闘で命の奪い合いをすることはまずありえない。だから大抵、一日自由にする権利とか、多額の借金を背負わせて、返済させ続けるとか……そういう人生が狂う程度の条件を付けられるはず。
それが国外追放で済むなんて、普通じゃない。考えられるのは、カイゼルが普通の一般人じゃないって事くらいだろう。
『それじゃーまず、ルディル選手から始めるのにゃ』
シニアン決闘官がバッグの中身をごそごそと漁って取り出したのは、射撃訓練をするときに使うような的を人が持てる程度に小さくしたものだった。それをかざすと、魔導具の中央にはめ込まれている透明な魔石が輝きを放って、闘技場の上空と彼らの周囲に大小様々な的が出現して、ランダムに動き出した。
『制限時間は五分なのにゃ。ぼくの用意した砂時計がちょーどそれくらいなのにゃ』
『勝敗の決着は撃ち落とした的の数だ! 時間終了直前の攻撃で破壊された的はカウントするが、終了後に放った攻撃はカウントしないぞ!』
のんびりと話してくれているシニアン決闘官の説明を引き継ぐようにハルヴィアスが意気揚々と説明してくれた。
その間に、カイゼルの方は会場の奥の方に引っ込んでいて、残されたルディルだけが準備をしていた。
「的を破壊するのは良いですが……広範囲の魔導を使えば、短時間で稼げるのでは?」
「それを連発させ続けられる魔力があるなら、そもそも相手が決闘に同意しないでしょう」
大体、それを知らないで決闘に参加して負けたって許される訳がない。
貴族が圧力を掛けて無理やり従わせることは可能だけれど……発覚した時の決闘管理委員会は結構恐ろしい。上層部が片っ端から決闘を挑みまくって、その貴族が持っていた戦力を全て削った挙句、領主自身は二度と不正を働かない事を決闘で約束させられたという逸話がある。
そんな話がごろごろしてるものだからから、今ではよほどの馬鹿でもない限り、そんな圧力を掛ける痴れ者は存在しない。だからこそ、何も情報をえらずに決闘に負けるのは自業自得という訳だ。
私だって戦闘関連は負けないけれど、それ以外は出来る限り受けたいとは思わない。……それでも、避けて通れない事がありそうで怖いけれどね。
『ルディル選手の方も準備が整ったみたいだぁっ! それじゃ、シニアン決闘官、よろしく!』
『決闘、開始にゃ!』
シニアン決闘官の合図とともに、ルディルは魔導を繰り出した。周辺を巻き込む為の爆発系の魔導だけれど……当たったところとそれにかなり近い二~三個は壊れたけれど、ただ爆風に巻き込まれた的はびくともしなかった。
「あの的、結構硬いですね」
「多分、中心にいくほど脆くなっているんだと思う」
それに加えて丸ごと破壊する事に対して耐性があるんじゃないかな。爆風の直撃を受けても無傷なのがその証拠だ。
予想以上に硬い的にルディルはかなりてこずっているようだ。それでも的の性質を序盤で見抜いた彼は、炎の矢を複数繰り出して対処している。
『……そこまでにゃー!』
シニアン決闘官が大きく手を上げて、終了を宣言した。荒い息を吐いているルディルは、限界まで奮闘した感じがひしひしと伝わってくる。
私としては少なく感じるけれど……さて、彼はいくつ的を壊すことが出来たかな?
『対する相手は……エッセリオン子爵の息子、ルディル・エッセリオンだぁぁぁ!』
カイゼルの相手は、人を小馬鹿にしているような表情を浮かべている狼人族の男の子だ。背丈が少し高いけれど、大人の狼人族と比べると、子供だと一目瞭然でわかる程度だ。
それにしても……どこかで会ったことがあるような気がする。
「どうしたんですか?」
「いいえ……以前にもあの狼人族の顔を見たことがあるような気がしてね」
「多分気のせいですよ。それか、そんなに大したことないか」
……ジュールの言う通りかもしれない。本当に大切な事だったら忘れたりしないし、多分どうでもいい事なのだろう。
『えー、今回の決闘方法は射撃にゃ。的になる専用の魔導具をどれだけ多く撃ち落とせるかを競うのにゃ。魔法でも武器でも自由に使っていいけど、相手を妨害する行為の全てを禁止とさせてもらうにゃ』
つまり、純粋な技術のみの勝負となる。力で押せる戦闘よりも難しいかもしれない。
「ティア様ティア様。あそこにいるのはやっぱり……」
「あの『カイゼル』でしょうね」
ジュールは改めて確かめるように聞いてきたけれど、それでも信じられない様子だった。
私だって、なんでこんなことになってるのか、理解できないんだけど。
『今回の勝負はカイゼルが勝てば、ルディルは頭を下げて謝罪することになってるな。対してルディルが勝てば、この場で土下座で謝罪し、国外追放されることになってるぞ』
会場は大いに盛り上がっていた。それ以上に、よくこの条件で許したな……という呟きすら聞こえてくる。
平民が貴族と決闘するのなら、何を対価にされてもおかしくはない。色々な例外は存在するけれど、決闘で命の奪い合いをすることはまずありえない。だから大抵、一日自由にする権利とか、多額の借金を背負わせて、返済させ続けるとか……そういう人生が狂う程度の条件を付けられるはず。
それが国外追放で済むなんて、普通じゃない。考えられるのは、カイゼルが普通の一般人じゃないって事くらいだろう。
『それじゃーまず、ルディル選手から始めるのにゃ』
シニアン決闘官がバッグの中身をごそごそと漁って取り出したのは、射撃訓練をするときに使うような的を人が持てる程度に小さくしたものだった。それをかざすと、魔導具の中央にはめ込まれている透明な魔石が輝きを放って、闘技場の上空と彼らの周囲に大小様々な的が出現して、ランダムに動き出した。
『制限時間は五分なのにゃ。ぼくの用意した砂時計がちょーどそれくらいなのにゃ』
『勝敗の決着は撃ち落とした的の数だ! 時間終了直前の攻撃で破壊された的はカウントするが、終了後に放った攻撃はカウントしないぞ!』
のんびりと話してくれているシニアン決闘官の説明を引き継ぐようにハルヴィアスが意気揚々と説明してくれた。
その間に、カイゼルの方は会場の奥の方に引っ込んでいて、残されたルディルだけが準備をしていた。
「的を破壊するのは良いですが……広範囲の魔導を使えば、短時間で稼げるのでは?」
「それを連発させ続けられる魔力があるなら、そもそも相手が決闘に同意しないでしょう」
大体、それを知らないで決闘に参加して負けたって許される訳がない。
貴族が圧力を掛けて無理やり従わせることは可能だけれど……発覚した時の決闘管理委員会は結構恐ろしい。上層部が片っ端から決闘を挑みまくって、その貴族が持っていた戦力を全て削った挙句、領主自身は二度と不正を働かない事を決闘で約束させられたという逸話がある。
そんな話がごろごろしてるものだからから、今ではよほどの馬鹿でもない限り、そんな圧力を掛ける痴れ者は存在しない。だからこそ、何も情報をえらずに決闘に負けるのは自業自得という訳だ。
私だって戦闘関連は負けないけれど、それ以外は出来る限り受けたいとは思わない。……それでも、避けて通れない事がありそうで怖いけれどね。
『ルディル選手の方も準備が整ったみたいだぁっ! それじゃ、シニアン決闘官、よろしく!』
『決闘、開始にゃ!』
シニアン決闘官の合図とともに、ルディルは魔導を繰り出した。周辺を巻き込む為の爆発系の魔導だけれど……当たったところとそれにかなり近い二~三個は壊れたけれど、ただ爆風に巻き込まれた的はびくともしなかった。
「あの的、結構硬いですね」
「多分、中心にいくほど脆くなっているんだと思う」
それに加えて丸ごと破壊する事に対して耐性があるんじゃないかな。爆風の直撃を受けても無傷なのがその証拠だ。
予想以上に硬い的にルディルはかなりてこずっているようだ。それでも的の性質を序盤で見抜いた彼は、炎の矢を複数繰り出して対処している。
『……そこまでにゃー!』
シニアン決闘官が大きく手を上げて、終了を宣言した。荒い息を吐いているルディルは、限界まで奮闘した感じがひしひしと伝わってくる。
私としては少なく感じるけれど……さて、彼はいくつ的を壊すことが出来たかな?
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