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139・エンドラル学園の朝+α

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 ――138.5・深夜会談(ベルーザside)――

 エールティアとレイアの二人と別れを告げたベルーザは、一人、エンドラル学園の中を歩いていた。慣れた様子で歩みを進める彼は、ふと月を見上げてため息を吐く。
 満ちては欠けていくその姿が、彼は好ましいと感じていた。まるで自分の生き方を見ていると思うくらいに。

「どうだった?」

 ベルーザはたった一人しかいない空間で誰かに言葉を投げかける。本来なら、誰の返事も帰ってこない……意味のない問いかけ。なのだが――

「逃げられたよ。意外とやるね」

 何処からか聞こえる声。されど、その声の主はどこにいるのか全くわからない。さながら闇と会話しているようだった。

「ふぅ……わかってるのか? お前の役割を。僕はしっかりと果たしているというのに」
「あっはは! 似合わないよね。君が教師だなんて」

 くすくすと少年のように笑う闇の存在に、ベルーザは苛立つように不機嫌になっていく。
 はっきりと怒気を感じたのか、闇の方も笑うのをやめて真面目な雰囲気を作り出した。

「……わかってるよ。僕の役目くらいさ。でもまさかあんなのに引っかかるなんて思わなかったんだよ」
「言い訳はいい。僕達に求められるのはいつだって結果だけだ」
「……うん」

 冷たく突き放すような物言いをするベルーザだったが、その目には決して責め立てるような雰囲気は感じられない。あくまで言い聞かせている程度だ。

「過ぎた事は仕方あるまい。お前は引き続き任務に戻れ。決して油断するなよ」
「うん、わかった。……君も気を付けてね。あのお姫様、結構鋭いところあるから」

 それだけ告げた闇は、さっきまで放っていた存在感の全てを掻き消して、今度こそベルーザは一人になる。

「……ふん、お前に言われなくても。僕は僕の役目を果たす。それだけだ」

 誰かに話しかけるように独り言を投げかける。深淵のように広がる闇空の消えていったそれを見送るように、ベルーザは再び月を見上げ――静かに歩き去る。残されたのは何もなく、暗い夜空に照らす月。それだけだった。

 ――

 ――139・エンドラル学園の朝――

 寮に入った私とレイアは、みんな(私は特にリュネーと雪風)に心配をかけてしまった事について、出来る限りの謝罪の言葉を口にすることになった。
 それでもあまり怒っていなかったのは、なんだかんだ言って私の事を信頼してくれていた……という事だろう。

 ただ、雪風はなんで連れて行ってくれなかったのかとかなりいじけていたけれど、何度も宥めたおかげでなんとか機嫌を戻してくれた。

「それで……今後の予定なんだけど……」

 一晩ぐっすりと休んで、食堂に集合した私達は、他の生徒好奇な視線を向けられていた。
 今の時間はちょうど朝だから、エンドラル学園の生徒ももちろんの事、他国の学生の姿もちらほらと見える。

 どうやら、魔王祭見学のためにここの寮を借りている人は、私達だけじゃないみたいだ。
 周囲の視線が私とレイアの二人に刺さる。

「な、なんで見られてるの?」
「あー、二人とも挨拶の時にいなかったから……。ただ、珍しくて見てるだけだよ」
「なんだか……居心地悪いなぁ……」

 レイアは嫌がってるけれど、それも仕方ない。あまりにも不躾な視線を向けられたらね……。

「エールティア様。彼らと言葉を交わす前に、学園長に挨拶なされるとよろしいですよ」

 すっかり私の従者のように振舞っているけれど、雪風の言葉も一理ある。本来なら、昨日のうちに挨拶しないといけなかったんだしね。

「でも、学園長の部屋なんて知らないし……」
「あ、それだったら僕が――」
「それでしたら、この僕がご案内いたします」

 ウォルカが何か言おうとしたのを遮るように雪風がしゅばっと手を上げていた。というか、ワイバーンに乗る前はあんなに恥ずかしがったり、言葉少ないクールな感じだったのに……今は子犬のように私について回ろうとするのだから、本当にわからない。

 それでも以前の雰囲気をほとんど崩していないのだから、流石としか言いようがない。

「それじゃ、案内してくれる?」
「喜んで。レイア殿もご一緒に」
「……うん」

 逆にレイアは微妙そうに引きつったような笑みを浮かべているけれど……レイアは雪風の事が苦手なのかもしれない。何はともあれ、案内してくれるのなら願ってもない。

 可能なら食事の後――にしたかったけれど、流石にそれは不味いだろう。元々昨日しておかなければならないことだったし、あまり遅くなれば失礼に当たるだろう。

 私も王族の――リシュファス家の娘。お父様の顔に泥を塗るような事は進んでしたいとは思えない。
 レイアには悪いけれど、これもはぐれた罰だと思って一緒に来てもらうことにしようか。

 ――

「さ、こちらでございます」

 私達の先頭を歩いてくれていた雪風が立ち止まって、私に道を譲るようにどいてくれたそこには……立派な扉があった。
 流石にエンドラル学園長の部屋。扉だけでも他の場所のとは格が違った。

 一度レイアと視線を交わして頷き合った後、私の方が進んで、その扉の獅子の形をしたドアノッカーに手を掛けたのだった。
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