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239・再びの魔人族
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学園が休みの日。私は一人でいつもの街並みを散策していた。
「エールティア様こんにちはー!」
「ちは!」
「ええ、こんにちは」
ぱたぱたと走っていく二人の子供が、元気よく挨拶をしてくる。まっすぐな笑顔を向けられて、心が洗われるような気持ちになる。
やっぱり、館の中で過ごすのは身体に毒みたいだ。
ジュールの冷たい態度にやり過ぎたという気持ちが湧き上がってくるし、貴族達との手紙のやり取りもそろそろうんざりしてきた。
本当に一人……という訳ではなく、見えないところに護衛が付いてるんだけれど、そこは気にしたら負けというものだ。
「あら、エールティアさん」
荒んだ気持ちが少しずつ安らいでいっていたのに、呼び止めた存在が全てを台無しにしてくれた。
「……ロスミーナ」
「ごめんなさい。エールティア殿下……とお呼びした方がよろしかったかしら?」
白々しく聞き直してくる事に腹を立てても仕方がない。ため息が溢れそうになるのを我慢して、彼女に相対した。
「どちらでも。貴女は学友ですしね」
「そうですか。それは良かったです。私も、エールティアさんの事は友人だと思っておりましたから」
両手を合わせて優しく微笑んでいるけれど、それが何処まで本気なのかわかったものじゃない。
それにしても……私は彼女がどこかの貴族だろうと思っていた。その割には護衛が一人も見えない。遠くに隠れている……という訳でもないし、本当に一人のようだ。
「どうされましたか?」
「いいえ、ただ……護衛はいないのかな、と思ってね。貴女は貴族だと思っていたものだから」
「ふふ、ここは良いところですから。護衛が必要な程、治安は悪くないでしょう?」
にっこりと微笑むロスミーナの言葉は、昔なら頷けていたけれど……今はちょっと微妙だ。
「そうかしら。ここもすっかり変わってしまったから……」
「でしたら、ペストラでの決闘が終われば、ここはもっと良いところになりますね」
「私が勝てば……ですけどね」
なんだか、ロスミーナは私が勝つ事を前提に話していて、ちょっと意地の悪い事をしてしまった。もちろん、負けるつもりはないけどね。
「あら、あらあら、勝つ自信がない、と」
「……そんな訳ないでしょう。私は負けるつもりで決闘するつもりないわ」
人を小馬鹿にするように笑いかけて、苛立たせるコツでもあるんじゃないかと疑うほどだ。
「そうですよね。貴女が負けてしまったら、諸外国にも多かれ少なかれ影響が出ますしね」
「まるで、アルティーナが負けても影響は出ないとでも言いたげね」
「彼女は内側から固めていってますから。貴女は外側から埋めて行っている……。その違いですよ」
どうだか……と内心思うのだけれど、あまり追求しても躱されて反撃されるのがオチだ。
確かに、私は国内より国外の方に手を出しているけれど、混乱の度合いなんて、どれも変わらないような気がする。
それをわざわざ言うつもりもないし、だんだんここから離れたくなってきた。
リュネー達は最近仲良くなってきているというのに、私の方はこんな怪しい子と交流を深めている。
……考えるだけで物悲しくなってきた。本当なら私も――
「随分不満そうですね」
「……そう見える?」
「ええ。本当なら、友達ともっと親交を深めたかったのに……。そういう顔してますよ」
そこまで顔に出てるだろうか? 少しは隠せるほうだとは思ってるんだけど……。
「そんなに彼女達と仲良くしたいのなら、自分から飛び込んでいけばいいじゃないですか」
それが出来たら苦労はしない。私は自らその道を閉ざしてしまった。今更どんな顔をして彼女達と一緒にいればいいのだろう?
「ふふっ、貴女がどう思おうと構いませんけど、やってみたら案外簡単ですよ」
「簡単って……口でならどうとでも言えるでしょうよ」
他人から見たら簡単なのかもしれない。だけど、当人からしてみたらこれほど難しいものはない。
……いや、もうやめよう。あまり色々考えたって、どうしようもない事だ。
「言い当てられて拗ねないでくださいな」
「拗ねてない!」
思わず声を荒げてしまったけれど、それが余計に拗ねているように見えたのか、嬉しそうに笑みを浮かべている。
この子といると調子が狂う。本当に人を見透かすような事を言ってくる。
だけどそれが妙に合っている。物腰は柔らかいけれど、明らかな上から目線。対等じゃないからこその見え方の違い。一応私は公爵の令嬢のはずなのに、これほど堂々とした態度を……学園のみんなは取ってるからあまり変わらないか。
こういう時、学園のルールに縛られてる自分が少し憎い。
「本当に可愛らしいですね。貴女とお話するのは、私の楽しみです」
「そう……私は貴女と会話するのは疲れるわ」
心の底からの声に、くすくすと笑うロスミーナの顔に、げんなりしてくる。
何度か離れようとすると、引き止めるように話しかけてくるし、断ろうとすると話題を変えられる。戦いとは全く違った駆け引きにうんざりしながら……もうしばらく彼女の話に付き合うことにした。
「エールティア様こんにちはー!」
「ちは!」
「ええ、こんにちは」
ぱたぱたと走っていく二人の子供が、元気よく挨拶をしてくる。まっすぐな笑顔を向けられて、心が洗われるような気持ちになる。
やっぱり、館の中で過ごすのは身体に毒みたいだ。
ジュールの冷たい態度にやり過ぎたという気持ちが湧き上がってくるし、貴族達との手紙のやり取りもそろそろうんざりしてきた。
本当に一人……という訳ではなく、見えないところに護衛が付いてるんだけれど、そこは気にしたら負けというものだ。
「あら、エールティアさん」
荒んだ気持ちが少しずつ安らいでいっていたのに、呼び止めた存在が全てを台無しにしてくれた。
「……ロスミーナ」
「ごめんなさい。エールティア殿下……とお呼びした方がよろしかったかしら?」
白々しく聞き直してくる事に腹を立てても仕方がない。ため息が溢れそうになるのを我慢して、彼女に相対した。
「どちらでも。貴女は学友ですしね」
「そうですか。それは良かったです。私も、エールティアさんの事は友人だと思っておりましたから」
両手を合わせて優しく微笑んでいるけれど、それが何処まで本気なのかわかったものじゃない。
それにしても……私は彼女がどこかの貴族だろうと思っていた。その割には護衛が一人も見えない。遠くに隠れている……という訳でもないし、本当に一人のようだ。
「どうされましたか?」
「いいえ、ただ……護衛はいないのかな、と思ってね。貴女は貴族だと思っていたものだから」
「ふふ、ここは良いところですから。護衛が必要な程、治安は悪くないでしょう?」
にっこりと微笑むロスミーナの言葉は、昔なら頷けていたけれど……今はちょっと微妙だ。
「そうかしら。ここもすっかり変わってしまったから……」
「でしたら、ペストラでの決闘が終われば、ここはもっと良いところになりますね」
「私が勝てば……ですけどね」
なんだか、ロスミーナは私が勝つ事を前提に話していて、ちょっと意地の悪い事をしてしまった。もちろん、負けるつもりはないけどね。
「あら、あらあら、勝つ自信がない、と」
「……そんな訳ないでしょう。私は負けるつもりで決闘するつもりないわ」
人を小馬鹿にするように笑いかけて、苛立たせるコツでもあるんじゃないかと疑うほどだ。
「そうですよね。貴女が負けてしまったら、諸外国にも多かれ少なかれ影響が出ますしね」
「まるで、アルティーナが負けても影響は出ないとでも言いたげね」
「彼女は内側から固めていってますから。貴女は外側から埋めて行っている……。その違いですよ」
どうだか……と内心思うのだけれど、あまり追求しても躱されて反撃されるのがオチだ。
確かに、私は国内より国外の方に手を出しているけれど、混乱の度合いなんて、どれも変わらないような気がする。
それをわざわざ言うつもりもないし、だんだんここから離れたくなってきた。
リュネー達は最近仲良くなってきているというのに、私の方はこんな怪しい子と交流を深めている。
……考えるだけで物悲しくなってきた。本当なら私も――
「随分不満そうですね」
「……そう見える?」
「ええ。本当なら、友達ともっと親交を深めたかったのに……。そういう顔してますよ」
そこまで顔に出てるだろうか? 少しは隠せるほうだとは思ってるんだけど……。
「そんなに彼女達と仲良くしたいのなら、自分から飛び込んでいけばいいじゃないですか」
それが出来たら苦労はしない。私は自らその道を閉ざしてしまった。今更どんな顔をして彼女達と一緒にいればいいのだろう?
「ふふっ、貴女がどう思おうと構いませんけど、やってみたら案外簡単ですよ」
「簡単って……口でならどうとでも言えるでしょうよ」
他人から見たら簡単なのかもしれない。だけど、当人からしてみたらこれほど難しいものはない。
……いや、もうやめよう。あまり色々考えたって、どうしようもない事だ。
「言い当てられて拗ねないでくださいな」
「拗ねてない!」
思わず声を荒げてしまったけれど、それが余計に拗ねているように見えたのか、嬉しそうに笑みを浮かべている。
この子といると調子が狂う。本当に人を見透かすような事を言ってくる。
だけどそれが妙に合っている。物腰は柔らかいけれど、明らかな上から目線。対等じゃないからこその見え方の違い。一応私は公爵の令嬢のはずなのに、これほど堂々とした態度を……学園のみんなは取ってるからあまり変わらないか。
こういう時、学園のルールに縛られてる自分が少し憎い。
「本当に可愛らしいですね。貴女とお話するのは、私の楽しみです」
「そう……私は貴女と会話するのは疲れるわ」
心の底からの声に、くすくすと笑うロスミーナの顔に、げんなりしてくる。
何度か離れようとすると、引き止めるように話しかけてくるし、断ろうとすると話題を変えられる。戦いとは全く違った駆け引きにうんざりしながら……もうしばらく彼女の話に付き合うことにした。
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