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279・妖精達との別れ

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 フェリシューアでの魔王祭予選を勝ち抜いた私は、本選に進む為、鳥車でワイバーン発着場に向かっていた。今年の魔王祭はパトオラの月に入ったと同時に本選を開催する。だからこそ、早めに予選が開かれていた。

 今はファオラの24の日だから、ワイバーンを使って、中継都市を挟んで二~三日と考えると今から行けばギリギリ間に合うだろう。

 正直、ニュンターとはもっと話をしてみたかったけれど……中央程遠い訳じゃない。ワイバーンに乗れば一日だし、ラントルオでも半月掛かるという訳じゃない。

「エールティア様。そろそろ着きますよ」

 御者に確認を取っていた雪風の言葉に頷いて景色を眺める。
 結局クァータは姿を見せなかったけれど……ディエダムとはまた関わるかもしれない。なんとなく、勘だけれどね。

 ――

 ワイバーン発着場で鳥車から降りると、ニュンターが複数の兵士を引き連れて見送りに来てくれていた。その隣にいるのは多分ニュンターのお母様だろう。二人が並んでいると、よく似ている。

「エールティア姫。この度は大変お世話になりました。これからも同じサウエス地方に住まう同胞同士、助け合い、力になれたらと思います」
「……ありがとうございます。ニュンター女王陛下のお言葉。私には身に余る光栄です」

 初めてニュンターの女王としての態度を見たけれど、結構様になっていて、驚いてしまった。
 表情をぐっと飲み込んで、出来る限り下手に出る。立場的に私はまだ女王と言うわけではない。公の場所で対等に接するのは間違いだと判断した。

「お初にお目にかかります。私はエールティア・リシュファスと申します。貴女様はニュンター女王陛下の母君とお見受けしましたが……」
「ええ、その通りです。私はリタ・フェリシューア。貴女にお会いできてとても嬉しいわ」

 わかっていたけれど、改めて見ると本当に綺麗だ。ニュンターが成長したら、こんな風になるんだろう。周りの貴族達が放っておかなさそうだ。

「陛下が成長した姿そのままの、お美しい御方で驚きました」
「ふふ、ありがとう。ですが、貴女や貴女のお母様には遠く及びませんよ」
「母を知っておられるのですか?」

 今度は本当に驚きの表情を浮かべてしまって――とっさに取り繕う。リタ王太后様には誤魔化しきれなくて、妙に暖かい視線を向けられてしまう。

「ええ。今でも手紙のやり取りをする程度には、親しくしております。手紙で貴女の事を知って、本当ならもっと早く貴女に会いたかったのだけれど……」

 歯切れ悪く微笑むリタ王太后様だけど……視線がニュンターの方を向いてるから、間違いなくあの子が何度も私の館を訪れていたのが原因だろう。
 それをニュンターもわかっているのか、笑顔がどことなくぎこちなくなっていた。

「ですが、貴女に会えて本当に良かった。よろしかったら、またフェリシューアに遊びにいらっしゃい。今度は私とゆっくりお話ししましょう」
「はい。その時は必ず」

 これでまたフェリシューアに行く理由が出来た。お母様が普段どんなお話をしているのか気になるしね。

 用意されていたワイバーンに乗り込み、飛び立つまで……ニュンター達はずっと見送ってくれた。

「最初はどうなるかと思いましたが、杞憂のようでしたね」

 雪風の言う通り、クァータとの出会いが一番最初だったからか、微妙に期待してなかったのだけれど……最終的には行って良かったと思う。
 心残りなのは……やっぱりニュンターの事だろう。一度知ってしまったら、仲良くなってしまったら何とかしてあげたい気持ちが湧いてくるんだけれど……こればっかりはどうする事も出来ない。

 中継都市に着いたら、とりあえずお母様に手紙を出してみよう。色んな事を知って、どんな風な想いを抱いたのかとか。話したい事。伝えたい事がいっぱいある。

「また、フェリシューアに遊びに来ましょう。次はみんなも一緒に、ね」
「そうですね。今度は……友達と一緒にまた来ましょう」

 ――

 ティリアースから鳥車でフェリシューアへ。そこからワイバーンで中継都市を幾つかを通って……今回の魔王祭本選が行われる北のノースト地方。そこに存在する魔人族とドワーフ族が共存する国――マデロームへと飛んでいく。
 3年前の夏に完成したらしい魔王祭を行えるほどの十分な広さを確保した上、ドワーフ族の最新技術を惜しみなく注ぎ込んだ、この時代最高峰を謳っているらしい。

 一応試運転は済んでるようだから、安全面も十分だから今回の魔王祭で盛大にお披露目をするつもりらしい。
 最新技術――そう聞くと惹かれる物があるけれど、しばらくしたらティリアースやドラグニカといった大国にも流出して、発展される事だろう。その原点を楽しめるのは、魔王祭本選に出られる利点の一つかもしれない。

「エールティア様。見えてきましたよ。ノースト地方最大の都市――ガンラスッドが」

 雪風の言葉に少し興奮が混じっているのがわかる。鍛冶や魔導具――そして魔機と呼ばれる魔導具の派生など、様々な技術が生まれる国の王都が今、目の前に広がっているのだから。
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