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362・戦いの後
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結果的に言って、彼らの『隷属の腕輪』は外すことが出来た。私が扱える治癒系の魔導を順番に使っていって――【ガイストハイルング】で外すことが出来た。
どうやら、あれは状態異常と同じ扱いらしい。
確かに『隷属』というのは精神を異常にさせる事と同じだし、レイアと戦ったような状態と近いのなら、解除されても不思議じゃない。
ただ――なんでそれで私以外の三人が当然かのように自慢げに勝ち誇っているのだろう。
こういう『出来て当たり前』みたいな空気を作られると重圧を感じるのを覚えて欲しいものだ。
「全く……もう少し私のことを考えてちょうだい」
「でも、出来たでしょう? ちゃんとティアちゃんが出来る事を期待しているから大丈夫だよ」
そういう問題じゃないんだけど……言っても聞きそうにないな。
なんだかどっと疲れが内側から溢れ出した時。兵士の一人がこちらに駆け寄ってきた。
「エ、エールティア様……こちらに、おられましたか……」
散々探し回ったのだろう。荒い息を必死に整えていた。
「あ、あの……お伝え、した――」
「わかったから。少し息を整えてから喋りなさい。急ぎというわけでもないのでしょう?」
彼の顔からは焦りよりも安堵の方が強く見えた。火急の用があるというなら、もっと切羽詰まった表情をしているだろうからね。
兵士の男性は、私に頷いて荒い呼吸を整える。
「はぁ……はぁ……し、失礼しました」
「いいえ。それで、どうしたの?」
「は、はい。攻勢を続けていた敵兵は撤退を開始しました。追撃は行わず、被害状況の確認を徹底するようにとの事です」
私はほとんど戦ってないように思えるけれど、他の人達が頑張ってくれていたようだ。
追撃の方も妥当なところだろう。下手に追いかけても痛い目に遭うだけだ。
それよりは今の状況をしっかりと受け止めて、地盤を固めてから敵に意識を向ければ良い。
「被害はどうなってる?」
「は……はい……」
恐らくある程度は掴んでいるのだろう。
だけど他所の国の人には話す事は出来ない……そういうところだろう。
「私は治癒系の魔導を使うことが出来るから、何か役に立てるかもしれないわ。無理に……とは言わないけど」
「あ、は……はい。王都の西区に治療院があります。そこに負傷した一般人や兵士達がいますので……」
「わかったわ。ありがとう」
すっかり萎縮してしまっていた兵士ににっこりと笑顔を向けると、ほんの少し緊張が和らいだ顔をしていた。
敬礼した兵士は、次に知らせなければならないところがあるのだろう。駆け足で去っていった。
「ティアちゃん、良かったの? 無理に手伝う事ないと思うんだけど……」
ファリスは明らかに面倒そうな顔をしているけれど、ほとんど人に興味のない彼女にとっては、負傷した誰かなんてどうでも良いのだろう。
「まあそう言わないの。私達は民の上に立っている。こういう時に率先して前に立つ事が出来て、初めて貴族としての務めを果たしたと言えるのよ」
「むー……」
ファリスは不満そうに唸るけれど、こればっかりは仕方ない。
お父様もお母様も私に教えてくれた。『貴族とは、有事の際に力の弱い人達を守る剣であり盾なのだ』と。
最初は何のことかわからなかった。転生して考えが凝り固まっていた時期だったから、尚更だ。
もちろん、今も完璧に理解しているとは言えない。私の根幹はいつまでも変わらない。
たった一人で戦い続けたからこそ……産まれた時から全てが敵だったからこそ、容易に変えられるものじゃない。
だけど……それでも、少しずつ歩み寄る事は出来るから。
「私は行くけれど……貴方達はどうするの?」
「そうだな……一緒に行くとしようかな。スゥもそれで良いだろ?」
「んー……アイビグに……任せる」
腕を組んで悩む素振りを見せていたけれど、恐らくフリだろう。最初からあまり迷っているような顔をしてなかったしね。
スゥは……本当にどうでもいいみたいだ。アイビグの肩でぐでっとしてる。
最後にファリスに視線を向けると、不満そうに唇を尖らせていた。それでも解決しないのは彼女がよくわかっていて――
「わかった。わたしも行く」
――結局肩を落として一緒についていく事にしたようだ。
「それじゃあ、行きましょうか」
「あ、俺は治癒系の魔導は使えないからな。期待しないでくれ」
「大丈夫。最初から期待してないから」
傷を癒す魔導は、意外と難しい。炎や水と違って光というのは抽象的なイメージになりがちなのだ。
効果が薄くて魔力の消費量ばかりが増えていくなんてザラにある事だし、そのせいで精神的に疲れてしまう事になる。
だから最初から頼りにするべきではない……と思ったんだけど、どうやら少し言葉を選び間違えたみたいで……アイビグはあからさまに肩を落としていた。
それでも付いてきてくれるのは一体何故だろう?
まあいい。魔導が使えなくてもやれる事はいくらでもある。
他にもやる事があるかもだし、人手は幾らあっても足りるという事はない。戦争というのは始まるより終わる方が、よほど大変なんだしね。
どうやら、あれは状態異常と同じ扱いらしい。
確かに『隷属』というのは精神を異常にさせる事と同じだし、レイアと戦ったような状態と近いのなら、解除されても不思議じゃない。
ただ――なんでそれで私以外の三人が当然かのように自慢げに勝ち誇っているのだろう。
こういう『出来て当たり前』みたいな空気を作られると重圧を感じるのを覚えて欲しいものだ。
「全く……もう少し私のことを考えてちょうだい」
「でも、出来たでしょう? ちゃんとティアちゃんが出来る事を期待しているから大丈夫だよ」
そういう問題じゃないんだけど……言っても聞きそうにないな。
なんだかどっと疲れが内側から溢れ出した時。兵士の一人がこちらに駆け寄ってきた。
「エ、エールティア様……こちらに、おられましたか……」
散々探し回ったのだろう。荒い息を必死に整えていた。
「あ、あの……お伝え、した――」
「わかったから。少し息を整えてから喋りなさい。急ぎというわけでもないのでしょう?」
彼の顔からは焦りよりも安堵の方が強く見えた。火急の用があるというなら、もっと切羽詰まった表情をしているだろうからね。
兵士の男性は、私に頷いて荒い呼吸を整える。
「はぁ……はぁ……し、失礼しました」
「いいえ。それで、どうしたの?」
「は、はい。攻勢を続けていた敵兵は撤退を開始しました。追撃は行わず、被害状況の確認を徹底するようにとの事です」
私はほとんど戦ってないように思えるけれど、他の人達が頑張ってくれていたようだ。
追撃の方も妥当なところだろう。下手に追いかけても痛い目に遭うだけだ。
それよりは今の状況をしっかりと受け止めて、地盤を固めてから敵に意識を向ければ良い。
「被害はどうなってる?」
「は……はい……」
恐らくある程度は掴んでいるのだろう。
だけど他所の国の人には話す事は出来ない……そういうところだろう。
「私は治癒系の魔導を使うことが出来るから、何か役に立てるかもしれないわ。無理に……とは言わないけど」
「あ、は……はい。王都の西区に治療院があります。そこに負傷した一般人や兵士達がいますので……」
「わかったわ。ありがとう」
すっかり萎縮してしまっていた兵士ににっこりと笑顔を向けると、ほんの少し緊張が和らいだ顔をしていた。
敬礼した兵士は、次に知らせなければならないところがあるのだろう。駆け足で去っていった。
「ティアちゃん、良かったの? 無理に手伝う事ないと思うんだけど……」
ファリスは明らかに面倒そうな顔をしているけれど、ほとんど人に興味のない彼女にとっては、負傷した誰かなんてどうでも良いのだろう。
「まあそう言わないの。私達は民の上に立っている。こういう時に率先して前に立つ事が出来て、初めて貴族としての務めを果たしたと言えるのよ」
「むー……」
ファリスは不満そうに唸るけれど、こればっかりは仕方ない。
お父様もお母様も私に教えてくれた。『貴族とは、有事の際に力の弱い人達を守る剣であり盾なのだ』と。
最初は何のことかわからなかった。転生して考えが凝り固まっていた時期だったから、尚更だ。
もちろん、今も完璧に理解しているとは言えない。私の根幹はいつまでも変わらない。
たった一人で戦い続けたからこそ……産まれた時から全てが敵だったからこそ、容易に変えられるものじゃない。
だけど……それでも、少しずつ歩み寄る事は出来るから。
「私は行くけれど……貴方達はどうするの?」
「そうだな……一緒に行くとしようかな。スゥもそれで良いだろ?」
「んー……アイビグに……任せる」
腕を組んで悩む素振りを見せていたけれど、恐らくフリだろう。最初からあまり迷っているような顔をしてなかったしね。
スゥは……本当にどうでもいいみたいだ。アイビグの肩でぐでっとしてる。
最後にファリスに視線を向けると、不満そうに唇を尖らせていた。それでも解決しないのは彼女がよくわかっていて――
「わかった。わたしも行く」
――結局肩を落として一緒についていく事にしたようだ。
「それじゃあ、行きましょうか」
「あ、俺は治癒系の魔導は使えないからな。期待しないでくれ」
「大丈夫。最初から期待してないから」
傷を癒す魔導は、意外と難しい。炎や水と違って光というのは抽象的なイメージになりがちなのだ。
効果が薄くて魔力の消費量ばかりが増えていくなんてザラにある事だし、そのせいで精神的に疲れてしまう事になる。
だから最初から頼りにするべきではない……と思ったんだけど、どうやら少し言葉を選び間違えたみたいで……アイビグはあからさまに肩を落としていた。
それでも付いてきてくれるのは一体何故だろう?
まあいい。魔導が使えなくてもやれる事はいくらでもある。
他にもやる事があるかもだし、人手は幾らあっても足りるという事はない。戦争というのは始まるより終わる方が、よほど大変なんだしね。
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