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398・気まずい関係(雪風side)
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チーム『エールティア』とチーム『アルフ』がそれぞれ拠点に向かってワイバーンを使って町に移動しているその時……残ったチーム『雪雨』は――
「まあまあ、まずは一杯やろうや。それからでも遅くはねぇだろ?」
「遅いに決まってるじゃないですか! 向こうについてもやる事は多いんですよ? 早く支度してください!!」
……未だに足止めを喰らっていた。
問題になっているのはレアディで、酒を飲みたい彼は少しの間くらい良いだろうと駄々をこねているのだ。
「別にええやろ。一杯二杯くらい。あんさんもケチやなぁ」
「ケチとかそういうのじゃありませんよ。ワイバーンの酒気帯び飛行は禁止されているではないですか」
レアディの意見に賛成しているのが狐人族の訛りが強いアロズというのがまた厄介だった。
二人とも複製体であり、今から行くであろう拠点の位置を知っている二人なのだ。変に機嫌を損ねられても困るし、かといってなんでもかんでも言う事を聞くわけにはいかない。
「お前らな……酒くらい、向こうで飲めばいいだろ。早く着けばその分長く飲める……だろう?」
「それはつまり……目的の町についたら、好きにやって良いわけだな」
「着いたその日『だけ』な。次の日には拠点に案内してもらう。――それでいいな?」
「ああ、構わねぇ」
「ゆ、雪雨様!?」
「別に飲むくらいは良いだろ。やる気のない奴動かしたって碌な事になんねえ。もっと息を抜け」
真面目な雪風は頑固に飲む事を否定していたが、雪雨は着いた先なら、とあっさり認めてしまった。
その事にご満悦なレアディとアロズは、折角だから色宿に行こうと話を盛り上げて雪風は更に幻滅する。
エールティアの役に立てる。それは雪風にとって大切な物事の一つだ。それを阻んだり、遅れを生じさせる輩なんて許せるはずもなかった。
「……彼らは僕達を下に見ております。このまま言う事を聞いてしまえば、思う壺です」
「安心しろ。下に見られてんのはお前だけだ」
「……は?」
一瞬、雪風は聞き間違いをしたと思った。それは彼ら二人よりも彼女が格下だとはっきり言われたからだ。確かにレアディもアロズも強い。だが、自分も魔王祭に向けて切磋琢磨してきた。雪雨の足元ぐらいの実力だとしても、彼らを相手に遅れをとるとは露にも思わなかったのだ。
「……納得できないって顔してるな。ま、確かに一対一ならわかんねえかもな。だけど……二対二ならどうだろうな」
「一対一でわからないなら、同じくらい強い人がいればいいのではないですか?」
「いいや。物事ってのはそう単純じゃねえ。奴らはお前の実力だけは認めてるだろうさ。今はそれだけで納得しとけ」
ひらひらと軽くいなすように手を振って、レアディ達の会話に混ざっていく雪雨の背を複雑な感情で見送った雪風は、どうにも納得できなかった。
(実力は認めているのに格下扱い? 納得いきません……僕はエールティア様の懐刀としてあの御方のお役に立ちたい。それなのに……)
思うように事が運ばず、苛立つ感情を抑える。ここで爆発させてしまっては、それこそエールティアの役に立つ事など叶うはずもない。
ぐっと拳を強く握りしめて、胸に手を当てて静かに深呼吸を繰り返す。
(……そう。それでも雪雨様が仰るのなら、自分を抑えないといけない。鬼人族として、尊敬している御方だからこそ、僕が推し量れないこともご存知なのだろう)
少しずつ感情を落ち着かせる。段々と頭が冷えて冷静になった雪風は、ワイバーン発着場に向かう三人を追いかける。
色々と思うところはあるけれど、自らの感情はひとまず置いておく。
様々な不安を抱えながら、他のチームとは毛色の違う彼らは動き出した。
レアディとアロズが造られ育った場所――中央北に存在する狼人族の国。ウルウェーズへ。
――
朝から出発した四人は、昼を少し過ぎた辺りでウルウェーズの王都から離れた場所にあるヴァルフルと呼ばれる少し寂れた町へとたどり着いた。
中小国の一つであるウルウェーズは、狼人族の国家だけあって、獣人族や狐人族も普通に歩いている。ここも例外ではなく、多種多様な獣を身に宿した者が歩く中、人型に近い容姿の四人は、些か浮いているように見えた。
「さあて、それじゃ酒場に行くかぁ」
「レアディはん、お供しまっせ!」
「雪雨、雪風、お前らはどうする?」
ワイバーン発着場に降り立ったレアディとアロズは、早速酒場に行こうと動き出す。
「俺と雪風は宿を押さえておく。帰る場所があった方が都合が良い……だろ?」
「そ、そうです、ね」
「そうか。それじゃ、また後でな」
唐突に投げかけられた言葉に戸惑いながら同意する雪風。
まさか本当に昼間から酒場に行くとも思っていなかった為、何とも言えない表情でレアディ達を見送った。
「……俺達も行くぞ」
残された雪雨は、雪風に付いてくるように促した。納得のいかない雪風だったが、何も言わないと決めていた彼女は、静かに雪雨の後ろをついて行った。
(……本当に大丈夫なのでしょうか?)
宣言通りとはいえ、真昼間から酒を飲みに行く彼らに不安を隠さずにいる雪雨だった。
「まあまあ、まずは一杯やろうや。それからでも遅くはねぇだろ?」
「遅いに決まってるじゃないですか! 向こうについてもやる事は多いんですよ? 早く支度してください!!」
……未だに足止めを喰らっていた。
問題になっているのはレアディで、酒を飲みたい彼は少しの間くらい良いだろうと駄々をこねているのだ。
「別にええやろ。一杯二杯くらい。あんさんもケチやなぁ」
「ケチとかそういうのじゃありませんよ。ワイバーンの酒気帯び飛行は禁止されているではないですか」
レアディの意見に賛成しているのが狐人族の訛りが強いアロズというのがまた厄介だった。
二人とも複製体であり、今から行くであろう拠点の位置を知っている二人なのだ。変に機嫌を損ねられても困るし、かといってなんでもかんでも言う事を聞くわけにはいかない。
「お前らな……酒くらい、向こうで飲めばいいだろ。早く着けばその分長く飲める……だろう?」
「それはつまり……目的の町についたら、好きにやって良いわけだな」
「着いたその日『だけ』な。次の日には拠点に案内してもらう。――それでいいな?」
「ああ、構わねぇ」
「ゆ、雪雨様!?」
「別に飲むくらいは良いだろ。やる気のない奴動かしたって碌な事になんねえ。もっと息を抜け」
真面目な雪風は頑固に飲む事を否定していたが、雪雨は着いた先なら、とあっさり認めてしまった。
その事にご満悦なレアディとアロズは、折角だから色宿に行こうと話を盛り上げて雪風は更に幻滅する。
エールティアの役に立てる。それは雪風にとって大切な物事の一つだ。それを阻んだり、遅れを生じさせる輩なんて許せるはずもなかった。
「……彼らは僕達を下に見ております。このまま言う事を聞いてしまえば、思う壺です」
「安心しろ。下に見られてんのはお前だけだ」
「……は?」
一瞬、雪風は聞き間違いをしたと思った。それは彼ら二人よりも彼女が格下だとはっきり言われたからだ。確かにレアディもアロズも強い。だが、自分も魔王祭に向けて切磋琢磨してきた。雪雨の足元ぐらいの実力だとしても、彼らを相手に遅れをとるとは露にも思わなかったのだ。
「……納得できないって顔してるな。ま、確かに一対一ならわかんねえかもな。だけど……二対二ならどうだろうな」
「一対一でわからないなら、同じくらい強い人がいればいいのではないですか?」
「いいや。物事ってのはそう単純じゃねえ。奴らはお前の実力だけは認めてるだろうさ。今はそれだけで納得しとけ」
ひらひらと軽くいなすように手を振って、レアディ達の会話に混ざっていく雪雨の背を複雑な感情で見送った雪風は、どうにも納得できなかった。
(実力は認めているのに格下扱い? 納得いきません……僕はエールティア様の懐刀としてあの御方のお役に立ちたい。それなのに……)
思うように事が運ばず、苛立つ感情を抑える。ここで爆発させてしまっては、それこそエールティアの役に立つ事など叶うはずもない。
ぐっと拳を強く握りしめて、胸に手を当てて静かに深呼吸を繰り返す。
(……そう。それでも雪雨様が仰るのなら、自分を抑えないといけない。鬼人族として、尊敬している御方だからこそ、僕が推し量れないこともご存知なのだろう)
少しずつ感情を落ち着かせる。段々と頭が冷えて冷静になった雪風は、ワイバーン発着場に向かう三人を追いかける。
色々と思うところはあるけれど、自らの感情はひとまず置いておく。
様々な不安を抱えながら、他のチームとは毛色の違う彼らは動き出した。
レアディとアロズが造られ育った場所――中央北に存在する狼人族の国。ウルウェーズへ。
――
朝から出発した四人は、昼を少し過ぎた辺りでウルウェーズの王都から離れた場所にあるヴァルフルと呼ばれる少し寂れた町へとたどり着いた。
中小国の一つであるウルウェーズは、狼人族の国家だけあって、獣人族や狐人族も普通に歩いている。ここも例外ではなく、多種多様な獣を身に宿した者が歩く中、人型に近い容姿の四人は、些か浮いているように見えた。
「さあて、それじゃ酒場に行くかぁ」
「レアディはん、お供しまっせ!」
「雪雨、雪風、お前らはどうする?」
ワイバーン発着場に降り立ったレアディとアロズは、早速酒場に行こうと動き出す。
「俺と雪風は宿を押さえておく。帰る場所があった方が都合が良い……だろ?」
「そ、そうです、ね」
「そうか。それじゃ、また後でな」
唐突に投げかけられた言葉に戸惑いながら同意する雪風。
まさか本当に昼間から酒場に行くとも思っていなかった為、何とも言えない表情でレアディ達を見送った。
「……俺達も行くぞ」
残された雪雨は、雪風に付いてくるように促した。納得のいかない雪風だったが、何も言わないと決めていた彼女は、静かに雪雨の後ろをついて行った。
(……本当に大丈夫なのでしょうか?)
宣言通りとはいえ、真昼間から酒を飲みに行く彼らに不安を隠さずにいる雪雨だった。
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