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443・母の心眼
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とりあえずみんなに準備をさせるようには伝えておいて、私もお母様の元へと向かう事にした。
相変わらず執務室で書類の海と格闘――しているのかと思ったけれど、優雅にお茶の時間を楽しんでいた。
「お母様、お仕事はどうされたのですか?」
「粗方片付けましたよ。毎日こなしているのですから、そうそう大量の書類が積まれることなんてありませんよ」
私の心を見透かすようににっこりと笑っているお母様の顔には嘘一つもない。どうやら本当に片付けてしまったようだ。それなら尚更都合が良い。
「ではお母様、今お時間よろしいですか?」
私があまりしない話し方をしたものだから、訝しむ様に見た後……真剣な表情で私を見ていた。
「改まって……どんな話しかしら?」
「実は――」
そこで私は拠点の事、地図の事を話した上で、ティリアースの一部の貴族の領地にのみ拠点が存在する事実をたっぷり時間を掛けて話していた。途中で喉の渇きを感じると、お母様が召使にお茶を用意させてくれたおかげで最後まで話しきる事が出来たけれど……自分でも中々の長話になったと思う。
最近、こうやって長い話をする事が増えてきたな……。ガンドルグ王と女王陛下の二人にもかなり時間を掛けて説明していたし、お父様にも長文で伝える事になるだろう。
物事が進展していく度に説明するべきことが多くなっていく。悩ましい事だ。
「――つまり、ティリアースの貴族達の中にダークエルフ族と通じている者がいる。そういう訳ね?」
「はい。あくまで私の考えですが、あながち間違えてはいないと思います」
ここまで偏っているとそう思ってしまうのも無理もない。エスリーア公爵家を初めとした私達と敵対している貴族の領地にしか存在しない拠点なんてどう考えてもおかしい。それはお母様も感じているはずだ。
「……そうね。この状況を見れば私もそう思うでしょう。それで、これはラディン――お父様にはまだ?」
「はい。まずはお母様に相談してから……と思いまして」
「そうね。ならエールティアからお父様に報告書を書いてもらえる? 届けるのはフィンナに任せるから」
「よろしいのですか?」
フィンナは基本的にお母様の側にいる。これは何かがあった時や緊急の時に素早く対応できるようにという配慮からだ。もちろん常に控えている訳じゃないけど……大体そんな役割だったはずだ。
「貴女につけていたフォロウは今はラディンのところにいるでしょうからね。フィンナを使えば確実に届くでしょう」
お母様のおかげで今彼がここにいない事がわかった。という事は、私を監視しているのは別の隠密部隊の一人というわけだ。敵対者なら何かしら仕掛けて来てもおかしくないしね。
それにしても、鈴を鳴らせと言った割に呆気なくいなくなってくれるものだ。まあ、鳴らせば代わりにフィンナが出てくることになってたんだろうけどね。そうじゃなかったら何も言わずにいなくなることもない……と思う。
「ありがとうございます。それで……拠点の方はどうしますか?」
お父様に知らせるのは確定事項として、これからの事だ。私達がいきなり攻めていくのは流石に体裁が悪すぎる。かといってこのまま放置するのも国の為とは言い難い。
お母様もそこを考えているようで真剣な表情をしている。
「……随分と面倒な事になりましたね。仕方ありません。ひとまず女王陛下の指示を仰ぐこととしましょう」
ため息を漏らしたお母様だけど、多分気付いていたのかもしれない。
本当の驚きというものが伝わってこないというか……むしろ感心するような声音だった。
「……意外でした?」
「え?」
「ふふっ、貴女は少し不満そうでしたから」
楽しそうに笑うお母様の瞳は私を見透かすようで、事実当たっていただけに驚きを隠さなかった。
「確かにここはティリアースでも辺境と呼べる町です。ですが、情報が集まらない訳じゃない。全てを知ることは出来なくても、予測と推測で補うことは出来る。よく覚えておきなさい」
愛おしげに笑っているお母様が少しだけ怖いものに感じた。
私も情報収集を頑張ったつもりだけど、お母様はその上をあっさり行ってしまった。
「さ、早くお父様にも知らせてあげなさい。情報というのは早い方がいいのですから」
「わ、わかりました」
とりあえず返事をしたけれど、もしかしたらお父様もある程度掴んでいるんじゃないだろうか? 私の言葉は不要なんじゃないだろうか? という考えが一瞬脳裏によぎる。
それが態度に出たのか、お母様は仕方がない子供を見るような笑顔を向けてくる。
「ラディンも憶測で物を言うわけにはいかない。確たる証拠が必要なの。貴女と同じ事をしているかもしれない。だけどしていなかったらこの事実には気づかない……でしょう? やらないより、やってみる。それが誰かの為になるのですよ」
「……わ、わかり、ました」
まさかここまで読んでくるとは思ってなかった。だけど、お母様の言う通り。何もしなければ進展しないかもしれない。それを後で知ったら、多分後悔しか湧いてこないだろう。
なら、ちゃんと自分の役割を果たさないと……。お父様にしっかりお伝えしなければならない。
改めてそう決意した私は、急いで執務室から出て、お母様のすごさ感じながら手紙の内容を考えるのだった。
相変わらず執務室で書類の海と格闘――しているのかと思ったけれど、優雅にお茶の時間を楽しんでいた。
「お母様、お仕事はどうされたのですか?」
「粗方片付けましたよ。毎日こなしているのですから、そうそう大量の書類が積まれることなんてありませんよ」
私の心を見透かすようににっこりと笑っているお母様の顔には嘘一つもない。どうやら本当に片付けてしまったようだ。それなら尚更都合が良い。
「ではお母様、今お時間よろしいですか?」
私があまりしない話し方をしたものだから、訝しむ様に見た後……真剣な表情で私を見ていた。
「改まって……どんな話しかしら?」
「実は――」
そこで私は拠点の事、地図の事を話した上で、ティリアースの一部の貴族の領地にのみ拠点が存在する事実をたっぷり時間を掛けて話していた。途中で喉の渇きを感じると、お母様が召使にお茶を用意させてくれたおかげで最後まで話しきる事が出来たけれど……自分でも中々の長話になったと思う。
最近、こうやって長い話をする事が増えてきたな……。ガンドルグ王と女王陛下の二人にもかなり時間を掛けて説明していたし、お父様にも長文で伝える事になるだろう。
物事が進展していく度に説明するべきことが多くなっていく。悩ましい事だ。
「――つまり、ティリアースの貴族達の中にダークエルフ族と通じている者がいる。そういう訳ね?」
「はい。あくまで私の考えですが、あながち間違えてはいないと思います」
ここまで偏っているとそう思ってしまうのも無理もない。エスリーア公爵家を初めとした私達と敵対している貴族の領地にしか存在しない拠点なんてどう考えてもおかしい。それはお母様も感じているはずだ。
「……そうね。この状況を見れば私もそう思うでしょう。それで、これはラディン――お父様にはまだ?」
「はい。まずはお母様に相談してから……と思いまして」
「そうね。ならエールティアからお父様に報告書を書いてもらえる? 届けるのはフィンナに任せるから」
「よろしいのですか?」
フィンナは基本的にお母様の側にいる。これは何かがあった時や緊急の時に素早く対応できるようにという配慮からだ。もちろん常に控えている訳じゃないけど……大体そんな役割だったはずだ。
「貴女につけていたフォロウは今はラディンのところにいるでしょうからね。フィンナを使えば確実に届くでしょう」
お母様のおかげで今彼がここにいない事がわかった。という事は、私を監視しているのは別の隠密部隊の一人というわけだ。敵対者なら何かしら仕掛けて来てもおかしくないしね。
それにしても、鈴を鳴らせと言った割に呆気なくいなくなってくれるものだ。まあ、鳴らせば代わりにフィンナが出てくることになってたんだろうけどね。そうじゃなかったら何も言わずにいなくなることもない……と思う。
「ありがとうございます。それで……拠点の方はどうしますか?」
お父様に知らせるのは確定事項として、これからの事だ。私達がいきなり攻めていくのは流石に体裁が悪すぎる。かといってこのまま放置するのも国の為とは言い難い。
お母様もそこを考えているようで真剣な表情をしている。
「……随分と面倒な事になりましたね。仕方ありません。ひとまず女王陛下の指示を仰ぐこととしましょう」
ため息を漏らしたお母様だけど、多分気付いていたのかもしれない。
本当の驚きというものが伝わってこないというか……むしろ感心するような声音だった。
「……意外でした?」
「え?」
「ふふっ、貴女は少し不満そうでしたから」
楽しそうに笑うお母様の瞳は私を見透かすようで、事実当たっていただけに驚きを隠さなかった。
「確かにここはティリアースでも辺境と呼べる町です。ですが、情報が集まらない訳じゃない。全てを知ることは出来なくても、予測と推測で補うことは出来る。よく覚えておきなさい」
愛おしげに笑っているお母様が少しだけ怖いものに感じた。
私も情報収集を頑張ったつもりだけど、お母様はその上をあっさり行ってしまった。
「さ、早くお父様にも知らせてあげなさい。情報というのは早い方がいいのですから」
「わ、わかりました」
とりあえず返事をしたけれど、もしかしたらお父様もある程度掴んでいるんじゃないだろうか? 私の言葉は不要なんじゃないだろうか? という考えが一瞬脳裏によぎる。
それが態度に出たのか、お母様は仕方がない子供を見るような笑顔を向けてくる。
「ラディンも憶測で物を言うわけにはいかない。確たる証拠が必要なの。貴女と同じ事をしているかもしれない。だけどしていなかったらこの事実には気づかない……でしょう? やらないより、やってみる。それが誰かの為になるのですよ」
「……わ、わかり、ました」
まさかここまで読んでくるとは思ってなかった。だけど、お母様の言う通り。何もしなければ進展しないかもしれない。それを後で知ったら、多分後悔しか湧いてこないだろう。
なら、ちゃんと自分の役割を果たさないと……。お父様にしっかりお伝えしなければならない。
改めてそう決意した私は、急いで執務室から出て、お母様のすごさ感じながら手紙の内容を考えるのだった。
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