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473・闇の中の更に奥

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 爆発系の魔導で周辺の瓦礫を吹き飛ばすと、そこには如何にも重そうな扉が付いていた。

「なんだか、如何にもって感じのが出てきたね」

 今まで退屈していたせいかわくわくしているのがよくわかる。ファリスは元々戦闘が好きな部分があるしね。
 頑丈そうな扉を魔導の力でこじ開けると、やっぱり階段が設置されていた。
 ダークエルフ族というのは、どうしてこう地下への道を作りたがるのだろう? 降りたら何かあるのはわかりきってるし、あんまりそれが続くとそれありきになってしまうのに。

 この拠点の中に入るようになってから何度も降りたように思える階段は、例のごとく大きな空間へと繋がっていた。もうここからは大体の予想が付く。見渡せば同じように幾つかの道があるし、これだけでここは他の道の中継地点だってわかるし、先に進めばまた広い部屋があることなんてもう何度もこういう系統の拠点に訪れているから察する事が出来るほどだ。

「ここって軍事系の拠点よね?」
「そうだね。上はそんな感じだったよ。下は違うのは何か理由があるとか?」

 その理由をダークエルフ族の側にいた彼女に教えてもらいたいと思うのは駄目な事だろうか? ……仕方ない。既に降りてしまった以上、先に進む以外の道なんて有り得ない。ぐずぐずと文句を言っている暇があったら進もうと決断した私は、その扉に向かうべく先へ進む。

 すると、意外な事にこちらが辿り着く前に扉が開いて、中からは前に戦った事のある鎧達が姿を現した。

「……これってあれだよね。魔王祭が終わった後に戦ったやつ」
「そうね」

 なんだか少し拍子抜けしてしまった。【サーチホスティリティ】で表示された地図には薄い赤だった点がこっちにやってきて真っ赤に染まっている。まだ幾つかあるみたいだけれど、その大体が恐らくこの鎧だろう。
 私にとって言えば敵でも何でもない。強いて言うなら玩具のようなそれは、私達の姿を見つけると同時に襲い掛かってきた。

 巨大な槌を両手に持った鎧が迫ってきて、大きく振りかぶって降ろす姿なんて、隙以外の何ものでもない。呆気なく鎧の左側に回った私の蹴りがそのまま当たり、大きくバランスを崩す。

「【プロ】――【レクレリヒト】」

 一瞬【プロトンサンダー】を強くイメージしたけれど、場は地下。おまけに上は朽ち始めた建物があって、この魔導は高威力……そうなると下手をすれば生き埋めになってしまう。すぐさまイメージを反射した光が徐々に輝きを増していくものに切り替える。こういうのは中々難しい。一度固まったものを再度ばらして全く別のものに構築するのだから。

 しかしその甲斐あって、反射していく光線はいとも容易く鎧達を貫いてばらばらにしていく。

「おおー、流石ティアちゃん」

 随分と他人事だけど、ファリスも少しは手伝ってほしいものだ。
 ……まあ、それでランタンが壊れるよりはいいか。あんな脆いものでも大切な光源だ。それにたかだか鎧が数体。私の敵ではない。

「行くわよ」

 相手が何にも入ってない鎧だとわかれば、特に警戒する理由もない。さっさとここを攻略して終わらせようと決めた。

「うん!」

 鎧達が出てきた部屋に突入すると、そこには異様な光景が広がっていた。どこかの城でもまずないような無数の鎧が整列している。そのどれもが全く同じで、違うところといったら持っている武器くらいか。

「ここってもしかして、この鎧の生産所?」
「……そうみたいね」

 むしろそれしか考えられない。わざわざこんなところに山ほどの鎧を並べておく理由なんてないしね。……でもまさかこんなところで作っているとは思わなかった。
 改めて見るとこの無機質な輝きの中には本当に何もない。魔力で動かしているのはわかるけれど、一体どうやっているのかは全く見当がつかない。一つでも持って帰れば何かわかるのだろうか?

「……そこにいるのは誰だ?」

 圧倒的な数の鎧に目を奪われていた私の耳に飛び込んできたのはしわがれた男の人の声。奥の部屋から現れたファリスと同じようなランタンをもった男性は、ぱっと見た感じだとエルフ族の老人のように見える。ここまで来てそれはないだろうし、まず間違いなくダークエルフ族だろう。

「こちらに名を尋ねるならば、そちらが先に名乗るのが道理でしょう?」
「はん、勝手に入ってきた侵入者がよくもぬけぬけとほざくわ」

 鼻を鳴らして挑発するような態度を取る彼は、白い髪の先を指先で弄っている。それで何かを思い出したのか、愉快そうに笑いだした。

「ふふはは、なるほど。あんたがエールティアとかいう聖黒族の子供か」
「……だとしたら?」
「はん、決まっておるわ。どうせここも潰しにきたのだろう。聖黒族というのは、我らが種族の怨敵だからな」

 憎しみを込められた視線を向けられた私は瞬時に身構えて戦闘体勢を取る。恐らく魔導主体の戦闘になる。そんな予想をした私を裏切るように老人はぶつぶつと幾つかの言葉を小声で呟いて――それと同時に鎧達が一斉に動き始めた。

「どれだけ弱くても、これだけ集まればちょっとしたものだろう。物足りないかもしれんがな」

 それこそ眼前に広がるだけで十は軽く越える鎧が動き出した光景は圧巻と言える。ただいかんせん、所詮ただの鎧。これで勝てると思うのならば随分見くびられたものだ。彼らには今一度私の実力を叩きこんであげた方が良いだろう。
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