540 / 676
540・潜入、監獄町(ファリスside)
しおりを挟む
補給物資の中に紛れていたファリスは、がたごとと揺られながらダークエルフ族達の雑談を聞いていた。
「そういえば聞いたか? 猫人の姫さんがまた妙に頑張ってるってよ」
「あっはは、生き汚い連中の性だろ。いいじゃないか。どうせあの王の目の前で処刑してやる予定なんだからよ。ボロボロになって小汚い方が連中の悔しさもひとしおだろうよ」
「は、違いないな。早く奴らの跪く姿が見てみたいもんだ。その時までは惨めな雑種姫には生き抜いててもらわないとな」
馬鹿笑いしている彼らの話から、リュネーがまだ生きているという事。彼らが(今のところは)彼女を殺す気がないという事が伝わってくる。それでも実に忌々しい会話であることには違いなかった。
(はぁ……本当に不愉快な連中ね。救出作戦じゃなかったらあっという間に始末してあげるのに)
深いため息が零れそうになり、それを胸中に留めておく。ダークエルフ族に造られ彼らに囲まれて育ったからこそ、どれほど醜悪な性格をしているか理解していた。自分達が泥を啜って生きてきた事を棚に上げて他人を生き汚いと言っている神経は理解できないが。
彼らからすれば他愛無い話を繰り広げながら物資を運んでいく。ファリスにとってある意味書類整理並みの苦痛の時間であり、身動き一つ取る事が出来ない現状ではただ過ぎ去るのを待つばかりだった。
――
監獄と化している町から出てきた彼らは門番と言葉を一つ二つ交わして中に入った。ここの町から出てきた彼らは門前で検査される事はない。奪ってきた物資なのだから後で改めれば良い。そんな考えだった。これが大した抵抗もなかったら彼らも勘繰っていただろうが、本気で迎撃を行った為、さぞかし良質な品物が入っているのだろうと認識されていた。
「酒も大量に入ってるから後でお前達にも分けてやるよ」
「よくそんな大量に手に入れたな。シルケットにまだそんな戦力があったか?」
「相手は魔人族が中心だったから多分ティリアースからの援軍だろう。あそこは聖黒族の奴らが蓄えてるからな。これくらい当然って事だ」
「は、なるほど。あいつらはシルケットの友好国だったからな。それで戦力と物資を送ろうとしたって訳か。今更だけどな」
なんて軽口を叩く程度には浮かれていた。それを潜入しているファリス達が聞いて小馬鹿にしているのを彼らは未だに気付かない。戦いを終えた高揚感と予想以上に質の良い物資を手に入れた充足感に支配されていて、疑うなんて事は全く思いつきもしなかったからだ。
中に入った彼らはいつも略奪後に必ず通る道を進み、補給物資を保管している倉庫へと向かう。その間も様々なダークエルフ族が彼らに声を掛け、その度に物資を運ぶ荷車は止まって言葉を交わす。何度も同じやり取りが続き、言葉が耳に入る度にファリスを苛立たせる。おまけに運び方が雑なので元々悪かった乗り心地が更に悪化してしまう。いい加減我慢の限界を迎えそうになった時――ようやく荷車は止まった。
「はぁ、ようやく着いたな。これで一息入れられる」
「ばっか。それよりも隊長に報告しに行くぞ」
「ちょっとくらい良いだろう。ほら、せっかくだから少し飲もうぜ。頑張ったんだからこれくらいしても良いだろう?」
「あのなぁ……他の奴らの目もあるし、みんなでやらかして隊長の耳に入ったらどうなると思っているんだよ。ほら、いいから行くぞ」
「……わかったわかった。だからそう引っ張るなって」
仕方がないなぁ……と言わんばかりの悲し気な声を上げながら今まで聞こえていた声が徐々に遠ざかっていく。ダークエルフ族達は皆希望を抱くような話ばかりをしながら倉庫から出て行って……残されたのは何も言わない物資のみ。聞き耳を立てて誰もいない事を改めて確かめ、息を潜めてじっと待つ。そうして完全に誰もいなくなった事を確認したファリスは、ゆっくりと箱の中から姿を――
「お、おも……」
――出そうとしたのだが、予想以上に武器を積み重ねていたせいか妙に重く、両手で押そうとするとずしっとした感触が手に伝わってきた。
(こんなに武器載せなくてもいいのに……)
幾らファリスが強く、ある程度力を持っていたとしても限度がある。その身は基本的に少女なのだから当然大量の武器が邪魔をしていれば持ち上がる訳もない。
「『レングスト』」
物音を立てずに動かすことは不可能だった為、身体強化の魔導を小声で唱えて発動させる。そうしてようやく武器を押しのけながら外に出る事に成功した。
「これ、人がいたら絶対に出られないじゃない。帰る事が出来たら文句言ってやる」
派手な音を立てて箱の中から出てきたファリスは、あまりにも雑な仕事に思わず愚痴を一つ零してしまう。幸いにもダークエルフ族はおらず、とりあえず外に散らばった武器を中に納める事ができる程度の余裕が出来た。
改めて見まわすと、そこは何の変哲もない大きな倉庫ではあったが……どうやら武器の方に隠れたのは彼女だけだったらしく、食糧保管庫とは別なせいで彼女以外の潜入員が一切見当たらないという事態になってしまった。それでもここで中止なんて出来るはずもなく、仕方なくファリスは一人で探索を行う事にしたのだった。
「そういえば聞いたか? 猫人の姫さんがまた妙に頑張ってるってよ」
「あっはは、生き汚い連中の性だろ。いいじゃないか。どうせあの王の目の前で処刑してやる予定なんだからよ。ボロボロになって小汚い方が連中の悔しさもひとしおだろうよ」
「は、違いないな。早く奴らの跪く姿が見てみたいもんだ。その時までは惨めな雑種姫には生き抜いててもらわないとな」
馬鹿笑いしている彼らの話から、リュネーがまだ生きているという事。彼らが(今のところは)彼女を殺す気がないという事が伝わってくる。それでも実に忌々しい会話であることには違いなかった。
(はぁ……本当に不愉快な連中ね。救出作戦じゃなかったらあっという間に始末してあげるのに)
深いため息が零れそうになり、それを胸中に留めておく。ダークエルフ族に造られ彼らに囲まれて育ったからこそ、どれほど醜悪な性格をしているか理解していた。自分達が泥を啜って生きてきた事を棚に上げて他人を生き汚いと言っている神経は理解できないが。
彼らからすれば他愛無い話を繰り広げながら物資を運んでいく。ファリスにとってある意味書類整理並みの苦痛の時間であり、身動き一つ取る事が出来ない現状ではただ過ぎ去るのを待つばかりだった。
――
監獄と化している町から出てきた彼らは門番と言葉を一つ二つ交わして中に入った。ここの町から出てきた彼らは門前で検査される事はない。奪ってきた物資なのだから後で改めれば良い。そんな考えだった。これが大した抵抗もなかったら彼らも勘繰っていただろうが、本気で迎撃を行った為、さぞかし良質な品物が入っているのだろうと認識されていた。
「酒も大量に入ってるから後でお前達にも分けてやるよ」
「よくそんな大量に手に入れたな。シルケットにまだそんな戦力があったか?」
「相手は魔人族が中心だったから多分ティリアースからの援軍だろう。あそこは聖黒族の奴らが蓄えてるからな。これくらい当然って事だ」
「は、なるほど。あいつらはシルケットの友好国だったからな。それで戦力と物資を送ろうとしたって訳か。今更だけどな」
なんて軽口を叩く程度には浮かれていた。それを潜入しているファリス達が聞いて小馬鹿にしているのを彼らは未だに気付かない。戦いを終えた高揚感と予想以上に質の良い物資を手に入れた充足感に支配されていて、疑うなんて事は全く思いつきもしなかったからだ。
中に入った彼らはいつも略奪後に必ず通る道を進み、補給物資を保管している倉庫へと向かう。その間も様々なダークエルフ族が彼らに声を掛け、その度に物資を運ぶ荷車は止まって言葉を交わす。何度も同じやり取りが続き、言葉が耳に入る度にファリスを苛立たせる。おまけに運び方が雑なので元々悪かった乗り心地が更に悪化してしまう。いい加減我慢の限界を迎えそうになった時――ようやく荷車は止まった。
「はぁ、ようやく着いたな。これで一息入れられる」
「ばっか。それよりも隊長に報告しに行くぞ」
「ちょっとくらい良いだろう。ほら、せっかくだから少し飲もうぜ。頑張ったんだからこれくらいしても良いだろう?」
「あのなぁ……他の奴らの目もあるし、みんなでやらかして隊長の耳に入ったらどうなると思っているんだよ。ほら、いいから行くぞ」
「……わかったわかった。だからそう引っ張るなって」
仕方がないなぁ……と言わんばかりの悲し気な声を上げながら今まで聞こえていた声が徐々に遠ざかっていく。ダークエルフ族達は皆希望を抱くような話ばかりをしながら倉庫から出て行って……残されたのは何も言わない物資のみ。聞き耳を立てて誰もいない事を改めて確かめ、息を潜めてじっと待つ。そうして完全に誰もいなくなった事を確認したファリスは、ゆっくりと箱の中から姿を――
「お、おも……」
――出そうとしたのだが、予想以上に武器を積み重ねていたせいか妙に重く、両手で押そうとするとずしっとした感触が手に伝わってきた。
(こんなに武器載せなくてもいいのに……)
幾らファリスが強く、ある程度力を持っていたとしても限度がある。その身は基本的に少女なのだから当然大量の武器が邪魔をしていれば持ち上がる訳もない。
「『レングスト』」
物音を立てずに動かすことは不可能だった為、身体強化の魔導を小声で唱えて発動させる。そうしてようやく武器を押しのけながら外に出る事に成功した。
「これ、人がいたら絶対に出られないじゃない。帰る事が出来たら文句言ってやる」
派手な音を立てて箱の中から出てきたファリスは、あまりにも雑な仕事に思わず愚痴を一つ零してしまう。幸いにもダークエルフ族はおらず、とりあえず外に散らばった武器を中に納める事ができる程度の余裕が出来た。
改めて見まわすと、そこは何の変哲もない大きな倉庫ではあったが……どうやら武器の方に隠れたのは彼女だけだったらしく、食糧保管庫とは別なせいで彼女以外の潜入員が一切見当たらないという事態になってしまった。それでもここで中止なんて出来るはずもなく、仕方なくファリスは一人で探索を行う事にしたのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
150
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる