566 / 676
566・反抗作戦(ファリスside)
しおりを挟む
リュネーを救出し、数日英気を養ったファリス達は再びベルンの館へと訪れていた。
「今度はどんな事を頼まれるのでしょうね」
先日からファリスに魔導のイメージについて色々と聞いてご満悦状態のククオルは不思議そうな表情を浮かべていた。いずれ何か新しい仕事が回されてくるのは理解していたが、それがどんな話になるかまではわからなかった。
「多分――」
ファリスは自分の予想を立てたが結局口にすることはなかった。
オルドも大体同じ事を考えていたらしく、あまり良い顔はしていない。元気なのは残った三人くらいなものだ。
「多分?」
「いいえ、会ってみたらわかることでしょう。もうすぐ着くんだしね」
結局お茶を濁した形で遠目に見えてくる館を見て話を区切る事にした。
――
「集まってくれてまずは感謝するにゃ」
ベルンの館の大広間から通じる応接室に勢揃いしたファリス達にベルンはまず一言。彼の後ろには護衛の兵士が二人。後ろに控えているところから口を出そうとは思っていない様子だった。
真剣な表情でファリス達を見ているベルンの本気度が伝わってくるようだ。
「最初にリュネーの事だけど、おかげさまで無事に目を覚ましたにゃ。まだ精神的に疲労しているけれど、こちらへの応答も普通に出来ているにゃ」
どんな深刻な話が飛び出してくるかと思いきや、一番最初に口にしたのは最愛の妹が目を覚まして普通に話しているという日々の報告だった。
「それは良かったです。私達も護衛中に中々あまり目を覚まされないので心配していました」
どう返答しようかと悩んでいた時に上手に受け止めたのはククオルだった。その様子に流石だとファリスは感心していた。自分なら間違いなく興味なく返答していただろうと心の中で断言していたからだ。
「君達も妹の事を思ってくれているのは嬉しいにゃ。それに――」
「……ベルン様、そろそろ本題を」
「あ、そ、そうだにゃ」
リュネーの事を更に語ろうとしていたのを後ろで待機していた兵士がそっと耳打ちして止めてくれた。もしそれがなかったら更にしばらく続いていただろうと思うと、ファリスは自然と胸をなでおろした。
「皆にここに集まってもらった理由は一つだにゃー。ルドールに集まった兵士達の編成も無事に終わり、純血派のいぶりだしも完了したにゃー。後は奴らを排除して父様――我らが王がいらっしゃる王城に侵略しようとしている輩を討つだけ。まずは純血派の掃討に貴殿らの力を貸して欲しいのにゃー」
ベルンの本題はファリスにとって概ね予想通りの話だった。リュネーの救出に成功した次の段階は王城で奮闘しているシルケット王を助けに向かう。ダークエルフ族が次々と戦力を投入しているところから予想すると彼らもこの国に残していた兵力の大部分を割いているはずだ。この戦いに決着をつけるとすれば、この機を置いて他にはない。
「純血派は放置しておいて真っ先に駆けつけるべきではないのですか?」
今すぐに内紛を解決するよりもいつ陥落するかわからない城を守る方が先決ではないのか? ワーゼルの疑問にユヒトは同意を示していたが、他の者達は黙りこくっていた。ファリスの観点からもその方が手っ取り早いのだが、素直に賛成することは出来なかった。
「もしそれらを無視して城に大多数の戦力を送ってしまえば、いつ寝首を掻かれる事になるかわかったものじゃない。裏切りにびくびくして士気に影響するくらいなら、いっそ今制圧して憂いを断った方がいいと思う」
「ファリスの言う通りにゃー。ぼく達は決して油断できる状況じゃなくて、今でさえ一つに纏まっていないにゃ。なら、散々邪魔してきた彼らには犠牲になってもらうしかないのにゃ。この国が団結するきっかけとして……にゃ」
にやりと悪者っぽい笑みを浮かべるが、ファリスやオルドからすれば無理しているようにしか見えなかった。ごくりと唾を飲み込むワーゼルには効果抜群だったようだが。
「なるほど。ならわたし達のやるべきことは裏方に徹すること。そういうことね」
「流石、話が早いにゃー」
ファリスはベルンが何を考えているか今のやりとりでわかったようだが、中にはもちろんわからないものもいた。
「えっと……つまりどういう事ですか?」
「ティリアースから来たわたし達にそんなきっかけは必要ない。なら必要なのは誰?」
「それは……シルケットの人達……かな」
うんうん悩みながらなんとか答えを出したワーゼルに頷くファリス。
「そう。士気を上げて一致団結する必要があるのは猫人族だけ。なら、彼らを中心にした方が好都合という事」
「なるほど。なんとなくわかりました」
本当にわかっているのか? という視線を向けたファリスに対し、ワーゼルは自信満々でこくこくと頷いていた。一応それで納得――というよりも早く先に進みたかったベルンは同様に頷く。
「理解を得られたようだからまずは敵戦力について。それからぼく達の今後の行動について説明していきたいと思うにゃー」
後ろで待機してきた兵士の一人が一歩前に出て資料を取り出す。リュネーの話やワーゼルの疑問に時間が掛かったが、いよいよ本題に移るようだった。
「今度はどんな事を頼まれるのでしょうね」
先日からファリスに魔導のイメージについて色々と聞いてご満悦状態のククオルは不思議そうな表情を浮かべていた。いずれ何か新しい仕事が回されてくるのは理解していたが、それがどんな話になるかまではわからなかった。
「多分――」
ファリスは自分の予想を立てたが結局口にすることはなかった。
オルドも大体同じ事を考えていたらしく、あまり良い顔はしていない。元気なのは残った三人くらいなものだ。
「多分?」
「いいえ、会ってみたらわかることでしょう。もうすぐ着くんだしね」
結局お茶を濁した形で遠目に見えてくる館を見て話を区切る事にした。
――
「集まってくれてまずは感謝するにゃ」
ベルンの館の大広間から通じる応接室に勢揃いしたファリス達にベルンはまず一言。彼の後ろには護衛の兵士が二人。後ろに控えているところから口を出そうとは思っていない様子だった。
真剣な表情でファリス達を見ているベルンの本気度が伝わってくるようだ。
「最初にリュネーの事だけど、おかげさまで無事に目を覚ましたにゃ。まだ精神的に疲労しているけれど、こちらへの応答も普通に出来ているにゃ」
どんな深刻な話が飛び出してくるかと思いきや、一番最初に口にしたのは最愛の妹が目を覚まして普通に話しているという日々の報告だった。
「それは良かったです。私達も護衛中に中々あまり目を覚まされないので心配していました」
どう返答しようかと悩んでいた時に上手に受け止めたのはククオルだった。その様子に流石だとファリスは感心していた。自分なら間違いなく興味なく返答していただろうと心の中で断言していたからだ。
「君達も妹の事を思ってくれているのは嬉しいにゃ。それに――」
「……ベルン様、そろそろ本題を」
「あ、そ、そうだにゃ」
リュネーの事を更に語ろうとしていたのを後ろで待機していた兵士がそっと耳打ちして止めてくれた。もしそれがなかったら更にしばらく続いていただろうと思うと、ファリスは自然と胸をなでおろした。
「皆にここに集まってもらった理由は一つだにゃー。ルドールに集まった兵士達の編成も無事に終わり、純血派のいぶりだしも完了したにゃー。後は奴らを排除して父様――我らが王がいらっしゃる王城に侵略しようとしている輩を討つだけ。まずは純血派の掃討に貴殿らの力を貸して欲しいのにゃー」
ベルンの本題はファリスにとって概ね予想通りの話だった。リュネーの救出に成功した次の段階は王城で奮闘しているシルケット王を助けに向かう。ダークエルフ族が次々と戦力を投入しているところから予想すると彼らもこの国に残していた兵力の大部分を割いているはずだ。この戦いに決着をつけるとすれば、この機を置いて他にはない。
「純血派は放置しておいて真っ先に駆けつけるべきではないのですか?」
今すぐに内紛を解決するよりもいつ陥落するかわからない城を守る方が先決ではないのか? ワーゼルの疑問にユヒトは同意を示していたが、他の者達は黙りこくっていた。ファリスの観点からもその方が手っ取り早いのだが、素直に賛成することは出来なかった。
「もしそれらを無視して城に大多数の戦力を送ってしまえば、いつ寝首を掻かれる事になるかわかったものじゃない。裏切りにびくびくして士気に影響するくらいなら、いっそ今制圧して憂いを断った方がいいと思う」
「ファリスの言う通りにゃー。ぼく達は決して油断できる状況じゃなくて、今でさえ一つに纏まっていないにゃ。なら、散々邪魔してきた彼らには犠牲になってもらうしかないのにゃ。この国が団結するきっかけとして……にゃ」
にやりと悪者っぽい笑みを浮かべるが、ファリスやオルドからすれば無理しているようにしか見えなかった。ごくりと唾を飲み込むワーゼルには効果抜群だったようだが。
「なるほど。ならわたし達のやるべきことは裏方に徹すること。そういうことね」
「流石、話が早いにゃー」
ファリスはベルンが何を考えているか今のやりとりでわかったようだが、中にはもちろんわからないものもいた。
「えっと……つまりどういう事ですか?」
「ティリアースから来たわたし達にそんなきっかけは必要ない。なら必要なのは誰?」
「それは……シルケットの人達……かな」
うんうん悩みながらなんとか答えを出したワーゼルに頷くファリス。
「そう。士気を上げて一致団結する必要があるのは猫人族だけ。なら、彼らを中心にした方が好都合という事」
「なるほど。なんとなくわかりました」
本当にわかっているのか? という視線を向けたファリスに対し、ワーゼルは自信満々でこくこくと頷いていた。一応それで納得――というよりも早く先に進みたかったベルンは同様に頷く。
「理解を得られたようだからまずは敵戦力について。それからぼく達の今後の行動について説明していきたいと思うにゃー」
後ろで待機してきた兵士の一人が一歩前に出て資料を取り出す。リュネーの話やワーゼルの疑問に時間が掛かったが、いよいよ本題に移るようだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
150
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる