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627・騒乱の終幕

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 ティリアースの反乱軍は半月程で完全に沈黙してしまった。
 お父様の活躍もあって可能な限り被害を抑えることには成功したけど、イレアル男爵とは違ってエスカッツ伯とルーセイド伯はこの度の反乱で命を落としたそうだ。
 最期にお父様――リシュファス公に突撃を仕掛け、兵士達を魔導で薙ぎ倒したらしい。それを迎撃したリシュファス公の手で剣を振り下ろされ、命を奪われた。

 残ったヒュッヘル子爵は降伏を宣言したおかげで命だけは奪われずに済んだけど、爵位剥奪に加えてポレック伯領で建築される予定である監獄に向かい作業員として従事するように罰が降った。それでも命を奪われるよりはマシだろう。彼には妻も幼い息子もいて、一家全員処刑なんて事にもなりかねなかったからね。
 伯爵家の方も国外追放となって、領土は全て女王陛下が改めて任命した者に任せることになった。私の要請も受理されてイレアル男爵ももれなく爵位剥奪。ヒュッヘル子爵と同じ運命を辿る事が決まった。
 反乱は大体片がついて私はアルファスへと戻ったのだけれど……そこで問題が発生した。

 なんと今まで行方不明だったクロイズが出迎えてくれたのだ。
 慌てて鳥車から降りた私は本物かどうか睨みつけるように確かめる。

「どうした? 我に何かついているのかな?」
「……」

 きょとんとした顔からはとてもじゃないけれど何か隠していたり嘘を言っているような感じはしない。

「あ、あなたは!」

 私の様子がおかしかったからか同じように降りたらしいジュールはクロイズを見つけて咎めるような声をあげた。

「汝は……誰だったか?」
「そんなことはどうでもいいです! なんで突然いなくなった貴方がここにいるのですか!」

 責め立てる言葉に全く動じていないところは流石だろう。飄々とした態度が余計にジュールの神経を逆撫でるだけだった。むしろそれすら楽しんでいるように見える。

「言ったであろう。我は長く生きる事が叶わぬか弱き肉体なのだと。あそこにいれば我も戦いに参加せざるをえなくなる状況になりかねん。それは御免こうむりたいからな」
「で、ですが――」
「やめておけ。どうせ言っても意味がない」

 ヒューの言う通りだ。何を言っても笑いながら適当に返してくるのはわかりきっている。期待するだけ無駄というものだ。
 それに……彼は最初から嫌がっていた。私も参戦させるつもりはなかったとはいえ、雰囲気や色々な事を考えたら戦わない選択肢すら奪われていたかもしれない。そう考えたらいなくなってくれてむしろ都合が良かった。

「それで、ダークエルフ族の本拠地に案内してくれるという話はどうなったのかしら?」
「ふっふっふっ、だからここにやってきたのだよ。我がいなければ辿り着くことは叶わぬ。そして一度した約束を破る事は我が信条に反する」
「そう」

 だったら問題ない。案内してくれる約束をたがうつもりがないのならこれ以上言う必要もない。最初からその一点だけに期待していた訳だしね。

「よろしいのですか……?」
「ええ。彼が自分の役割を忘れていないのならそれでいい。元々そういうドライな関係だったしね」
「……かしこまりました」
「ふふ、ありがとう」

 これも私の事を想って言ってくれているのがわかるから素直に感謝の言葉を口にすると、ジュールは嬉しそうにどこかとろけたようか顔をしていた。

「それで、いつあないすればいい?」

 そんな流れをぶった切って発言をするクロイズに私も現実に引き戻される。

「いつでもいいけど……。早い方がいいのよね?」
「うむ」

 神妙な面持ちで頷いた彼に私も不真面目な回答は避ける。今すぐは流石に無理だろうから――

「五日後……というのはどう?」
「良いだろう。ではまた五日後に迎えにくる。それで構わないな?」

 こくりと頷くとクロイズはさっさと踵を返して町の中へと駆けていってしまった。あっという間に人混みに紛れていなくなった彼を見送り、再び鳥車に乗りかけて……やめた。

「どうされました?」

 私の足が中途半端なところで止まった事に疑問を覚えた雪風が声を掛けてきた。

「いいえ、せっかくここまで来たのだから久しぶりに歩いて帰ろうと思ってね」
「でしたら僕達もお供いたします」

 雪風も降りてきて、ジュールと二人で私の左右についてきた。これはいくら言っても聞きそうにない。顔にそう書いてある。ちなみにジュールも同じようだ

「……ヒュー、その鳥車は館に」
「わかっているさ。姫様は久しぶりの故郷を楽しんでおくといい。アルシェラ様への話は俺がしておいてやる」

 相変わらず口は悪いけど彼の優しさが多少なりとも伝わってくる。公の場でこんな発言しないところも一応善処しているのだろうし、なんだかんだ言って頼っても良い人物の一人だ。

「ありがとう。それが終わったら今回の仕事は以上だからね」
「ああ。わかりました」

 動き出した鳥車を見送り、私達は久しぶりに歩く故郷の街並みを楽しむことにした。これから先はもっと冷たく厳しい戦いになるはずだ。なら少しでも楽しい思い出を作って心に余裕を持たせることをしないと……ね。
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