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改築作業 前編
しおりを挟むモンスターハウスでの観察記録実験をおえたアルバートは、″ハンマーを手に″月明かりの差しこむ夜の書庫へやってきていた。
「ここが、こうしてこうして……こうだから……ん、だいたい、ここら辺か」
屋敷の建設時の設計図を確認しながら、彼はなにか納得したようにうなづく。
かたわらでは鋼鉄のハンマーを担ぐ主人のことを心配そうにするメイド、ティナの姿があった。
彼女は茶菓子を配膳しながら「アルバート様、なにをしてるんですか?」とたずねる。
アルバートは答えなかった。
というより、答えるまえにすでに行動していた。なにを血迷ったのか書庫の大理石の床をおもいきりハンマーで叩いていたのだ。
石の砕ける音があたりに響き渡った。
「たぁああ! たぁあああ、はぁあああ!」
アルバートの声も響いていた。
身体能力強化魔術で底上げされたパワーが、容赦なく高価な床を砕いていく。
いきなり始まった狂行にティナは目の端に涙をうかべて、プルプルとふるえている。
と、そこへ、偶然アーサーが通りかかる。
「っ! アーサー様、大変です、アルバート様がイカれ……ご乱心です!」
「乱心? ああ、ハンマーですか。安心していいですよ、ティナ。力仕事は強化魔術をつかえる坊っちゃんが一番適任です。我々の出る幕ではありません」
「いや、そういう事じゃなくて!」
ティナの恐怖心をまったく理解せず、アーサーは穏やかに笑って屋敷の掃除にもどっていった。
その間も、書庫の床を砕く音は夜のアダン邸に響いていた。
しばらくして、書庫の床の一角が完全に崩落した。
どうやら下の空間と繋がったらしい。
「完璧じゃないか。地下室の真上だ」
アルバートは嬉しそうにつぶやくと、再び嬉々とした表情で床を破壊しはじめた。
──30分後
汗のにじんだシャツをまくしあげ、薄汚れた頬を袖でぬぐうアルバートの姿があった。
彼はただいま書庫の床にぶちあけられた縦穴と、そのしたにあるアダン家の魔術工房をつなげる作業に取り組んでいる。
メジャーを使い穴のサイズをはかり、ちいさなトンカチで穴のカタチを整えていく。
怪我しそうな出っ張りを修正し終わると「もってこい」と使用人たちに指示を出す。
書庫と地下魔術工房をつなぐ階段を、使用人たちは本をかついでおりていく。
この木製の階段は、本来は本棚の高い位置にある本をとるためのモノだ。
現状において必要な資料を魔術工房に運びこみおえて、使用人たちはさがらせた。
ただ、ティナだけは残るようにつたえる。
「わ、私だけですか? なんか変なことしてしまったでしょうか……」
「いいや、特には。それよりお前、名前はなんて言ったか」
「は、はい、ティナと申します、アルバート様!」
アルバートはすこし目を細め「そうか。よろしくな、ティナ」といい、ノートと懐中時計を一冊手渡した。
「お前を俺の助手に任命する。これより俺たちはアダン家を再興させるための偉大なる計画に乗り出すのだ。心してかかれ」
アルバートの厳かな声音にティナは気を引き締める。
大理石の残骸だらけで、散らかりほうだいな魔術工房を、アルバートは横切ってあるき壁際にある合計10個ある檻をゆびさした。
「今から図鑑に登録したコケコッコを可能なかぎりここに召喚する。ティナは魔術発動から実際に現象があらわれるまでの時間を測れ。そして、ノートに記録しろ」
「え……ひ、一人でですか?」
「出来ないのか?」
アルバートは天才である。
ゆえに一般人にとっての難題は、彼にとって息をするようにできて当然の仕事だ。
つまるところ、この神童は10歳にして、天然のパワハラ上司でもあるのだ。
ティナは目を泳がせながらも「や、やってみます!」と言った。なるようになれ。
もしアルバートがチビデブで、油ギッシュで、口の臭くて、性格最悪な主人だったなら嫌悪感から拒絶できたかもしれない。
だが、残念なことに彼の容姿はとても整っており、舞踏会で令嬢たちにダンスの相手を取り合われるくらいにカッコいい。
イケメンでパワハラ。
しかも、自覚のないの性格良し。
年頃の少女にとって最悪なパターンだ。
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