日々の欠片

小海音かなた

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7/5『綾なす七宝紋』

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 うわー、キレイ!
 ずっと憧れていて、奮発して買ったグラスにスマホのフラッシュライトを当てた。
 白いテーブルに色付きの影が伸びる。
 ステンドグラスでできた建物のようなその影の中に住んでみたいと思う。
 あーでも、窓の中から影を見るのも素敵だけど、外から眺めて綺麗って思える近さの場所に住むのもいいなぁ。
 空想めいたことを考えながらカラフルな影を眺めていると、時間があっという間に過ぎてしまう。
 あぁ、優雅な午後……。
 ただのお水を入れただけでもおいしく感じそうなそのグラスを、買ったときつけてもらった木の箱に入れる。もったいなくて当分使えなさそうだし、なんかの拍子に割れたら悲しい。
 形あるものはいつか壊れる、っていうのはわかってるけど、うっかり割ってしまったら職人さんに申し訳ない。
 グラスが入った木箱をそっと食器棚に入れた。
 素敵なグラスがあるというだけで心が弾むし、仕事が大変でも、家に帰ったらあのグラスで美味しいお酒を飲もう、って頑張れる気がする。
 まだ使ってないのにこんなに気分が盛り上がるなんて、めちゃめちゃいい買い物したなぁ。
 初めて使うときはなにを入れよう。あの素敵なグラスでなにを飲もう。
 あぁ、ワクワクする。
 そのときの体験があまりに楽しくて美しく輝いていたから、仕事帰りに100円均一ショップに寄って、画用紙と透明おりがみ、いくつかの文具を買い込んだ。
 ネットで探した伝統的な江戸切子の柄を模して、切り絵を作成する。
 本物のグラスを取り出し、並べて光をかざしてみた。うん、けっこういい出来。
 平面でも柄を切り抜くの大変だったのに、グラスみたいな曲線の物体に回転するグラインダーを当ててあんな正確な模様をつけるとか、職人さんってホントにすごい。下絵もないって聞いて、さらに驚いた。
 私も割と手先が器用なほうだし、できたら体験くらいしてみたいなーって思ってたけど……いやいや、かなりハードル高そうだわ。
 しばらくはこの“疑似切子”で楽しもう。

 窓辺に飾った“疑似江戸切子”が、太陽の光を浴びてフローリングを彩る。
 たまにそのカラフルな影の下に寝転んで、自分を装飾してみたりする。
 ふふふ、良い休日……。
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