日々の欠片

小海音かなた

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7/16『十本十色』

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 勉強机の鍵付きの引き出しには、秘密の魔法が入ってる。
 パパとママがお仕事に行っている間にそっと開けて、キレイに並んだ10色のネイルポリッシュを見つめた。
 うーん、今日はこれかな。
 ひとつの小瓶を指でつまんで取り出した。
 白いポリッシュの筒を捻って外す。小さい筆にたっぷりと液を含ませて、爪に塗っていく。
 本当のポリッシュだと乾くのに少し時間がかかるらしいけど、これは特別。魔法がかかった特別製だから、すぐに乾くし1回塗っただけでキレイに発色する。
 魔法はそれだけじゃなくて、10本の爪全部に色を塗り終わると……ネイルカラーのイメージにあわせた【オトナ】になれる。
 気持ちが、とか雰囲気が、とかじゃなくて、見た目が本当のオトナになる。
 爪先から円状に広がった光の輪っかがゆっくりのぼって頭のてっぺんまで移動する。その輪を全身が通り抜けると、身長が伸びてスタイルも大人っぽくなって、さっきまでの私とは別の人。洋服までオトナ仕様に変わっちゃう。
 パパが懐かしがって見てたアニメの【魔法少女】みたい。

 パパとママがいないうちに家を出て、近所を散歩する。
 アニメの主人公は大人の姿でお仕事したり、気になる年上の幼馴染と仲良くしたりしてたけど、現実世界では難しい。
 仕事をするにも面接だったりオーディションだったりがあるし、仮にスカウトされたとしても住所や名前を教えられないから怪しまれると思う。
 だからせっかく変身できても、知り合いにばれないように散歩するくらいしかできない。遊びに行くお金もないしね。
「やあ」
 上の方から声がした。
「あ、どうも」
 木の上から移動した、見た目は可愛い動物のぬいぐるみ、中身はどこかの星から来た宇宙渡航者のヒトが私の顔の高さで浮遊しながら問いかけてくる。
「ネイル、まだ残ってる?」
「はい、まだたくさん」
「そっか。今日は白なんだね。白は潔癖・平和・祝福・勝利のイメージだけど、キミが塗ると潔癖のイメージが一番強く出るみたいだね」
「そんなのわかるんですね」
「うん。カラー診断一級持ってるから」
 資格とったんだ……。

 そのヒトは私の部屋の窓の外に突然やってきて、私に言った。
「ねぇキミ、魔法少女にならない?」
 ニュースでよく注意喚起されていたから、即座に断って窓とカーテンを閉めようと思った。だけど、見た目はぬいぐるみでフワフワなのに、声はいまにも死んでしまいそうな弱々しさで、無視できなかった。
 机の中に入れてたお菓子を一袋渡したらものすごい感謝されて、ものすごい嬉しそうに、ものすごい大事そうにお菓子を食べた。
 可愛いのは見た目だけで中身は侵略者かもしれないけど、悪いヒトには思えなくて。部屋の中で待っててもらって、夕ご飯の残りと飲み物をそのヒトに渡した。
 尋ねる家は門前払いでご飯を食べたのは一週間ぶり。不慮の事故でエネルギー不足になった宇宙船では母星に帰ることもできず、渡航者が仕事するためには特別なビザが必要だけど、そのヒトはそれを持っていないから働くこともできなくて困っていたらしい。
 泣きながらご飯を食べるそのヒトと相談して、しばらく私の部屋で過ごして貰うことにした。
 ご飯を食べて元気になったそのヒトは、パワーチャージできたからほかの姿に変身できるようになったと言う。
 子猫の姿になってもらって拾ってきたことにするか提案したら、猫のご飯は食べられないかもって。確かに、私と同じ味覚のヒトに猫ちゃん用のご飯を食べさせるのは気が引ける。
 家族に見つからないように、私が家にいない間は隠してある宇宙船内で過ごすことなった。
 体力も回復して人間の姿になれるようにもなったから、ビザを取得してバイトを始めて、貯めたお金でエネルギーを購入。復活した宇宙船で母星へ帰る前に、お礼とお別れをしに来てくれた。
 そのあとしばらくして、そのヒトはまたぬいぐるみの姿でやってきた。
 お礼にと持ってきてくれたのが、母星で流行っているというネイルポリッシュだった。

「これ、あなたの星ではおもちゃなんですよね」
「そう。子供が遊ぶ、変身グッズ」
「女の子用?」
「どっちでも。ほかに、腰に巻き付けてヒーローに変身できるベルトもあるよ」
「ポリッシュと同じ感じ?」
「うん。エフェクトが違う」
「おもしろい」
「こっちにない技術だから、コッソリじゃないと遊べなかったね、ごめんね」
「全然! すごく楽しい」
「そう? ならいいけど……」
「うん、ありがとう」
「それはこっちのセリフ。本当に助けて貰ったし、全然足りないくらいだよ」
 感謝感謝。そのヒトは顔の前で手をあわせる。
 ぬいぐるみの姿だからなんともカワイイけど、きっと本来はおじさんなんだろうなー。まぁでも、ニュースで聞くような悪いヒトじゃなくてよかった。
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