日々の欠片

小海音かなた

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7/15『カクカク然々』

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 なんだか世界がカクカクしている。オレの目がおかしくなったのかと思ったがそうではないらしい。
 生命のない物質がみんな、昔のゲームのようにドット絵で構成されている――ように見える現象が全世界で起きている。
 テレビもネットもこの話題で持ち切り。世界中の街並みが写真や動画で公開され続けている。
 ビルなんかの角張ったものはあまり違和感ないけど、太陽や月、雲のような自然物、丸みを帯びた車や自転車なんかはやっぱりちょっとカクカクしてる。
 ご丁寧にアンチエイリアスやピクセルパーフェクトの技法が使われているけど、木や花なんかの生命がある自然物は元のままだから、残念ながらいまいち風景に馴染んでない。
 家の中の物も同様で、クッションは触るとフカフカなのに見た目は硬そうだし、液体はすくうと四角く転がり、細かい立方体に崩れて流れていく。スプーンやフォークも、触り心地は金属なのに見た目が知育ブロックのようで脳が混乱する。
 レトロゲームは好きだし、そういう仮想空間にいるみたいで最初は面白かったけど、だんだん目がチカチカしてきた。
 見た目があまり関係ない機械製造品は問題ないけど、手作業で物を作るには従来の技法では難しくなってしまった。触感と見た目が一致しないってだけで、こんなに支障をきたすなんて。
 ただ、一部のゲーム好きには好評のようで、塊肉の売れ行きが良くなっているようだし、普段料理をしない人の自炊率があがったそうだ。ドット絵の食材を調理すると、リアルなクッキングゲームをプレイしてる感覚になって楽しいんだって。
 どこかの研究所で解析された結果によると、物質自体のカタチは変わっておらず、人間の目に見える姿がドット絵風になっているだけだという。
 色が違って見えるのと同じ仕組みで、光の反射率とか吸収率とか、その違いが影響しているとか。
 だから、人の目と同じ原理で撮影するカメラなんかで写すとカクカクして見えるけど、急ピッチで作られた【物質の本来の形をとらえることができるカメラ】で撮影すると、それまで見えていた【本来の形】で記録される。
 なぜこんな現象が起きているのか――。
 ドット絵化現象が始まってから一ヶ月以上経過したが、いまだ解明されていない。

* * *

 とある次元の世界で、上司と部下の関係性に似た存在たちが会話をしている。
「あのぉ」
「なんだ?」
「レトロゲームのグラフィックがカワイイっていうのはわかるんですけど、やっぱり現実世界に反映されると、目がチカチカします」
「えー? そうかなぁ。お前が言うから物質だけをドット絵に見えるようにしたんだけどー」
「生物までドット絵調になったら、さすがにみんな気が持ちませんって」
「可愛いと思うんだけどなー」
「人間も困ってますもん。生活用品やなんかを人の手で製造するのが困難らしいですよ」
「ん-、じゃあ、あとちょっとだけ、このままで」
「ちょっとっていつまでですか」
「うーん、あと百年?」
「長いです」
「えぇ? 一瞬じゃん」
「私たちにとっては一瞬でも、人間にとっては一生です」
「うまいこと言うねぇ」
「総統~」
「あーもう、わかった。わかったって。手続きして明日の朝には戻るようにしておくから」
「はい、お願いしますね」
 【総統】はしぶしぶ書類を作成し、とある機関に提出した。

* * *

『先日まで世間を騒がせていた【物質ドット絵化現象】ですが、本日未明、突如として解消された模様です』
 普通の形に戻ったテレビの画面内でキャスターが報告してる。そのセットも衣服も全部、見た目が元に戻ってる。
 感触と視覚が一致して、昨日までの違和感は払しょくされたけど、ゲーム好きからするとちょっとだけ名残惜しい。でもまた同じ現象が起きてほしいかといえば、そうは思わない。やっぱりちょっと不便だったし。
 キャスターとコメンテーターが原因や理由をディスカッションしてるけど、案の定結論がでないまま話題が終わった。

 ネット上では【神様のいたずら】だとか【大きな存在の乱心】だとか言われてるけど、真相は誰にもわからない。
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