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第3章 ~革命の塔編①~
36.氷vs鉄 **
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パルケードの展開した魔法陣から、次々と鉄の弾丸が放たれる。クアナはすかさず防御魔法陣を展開し、その弾丸を真っ向から受け止めた。彼女は左手で防御魔法陣を展開したまま右手の指先に別の魔法陣を展開すると、それで薙ぎ払うような動作をする。
「氷魔法・斬撃……!」
クアナの右手の先の地面から、鋭い刃をもつ氷が飛び出す。それはパルケード目がけてまっすぐに進んだ。
パルケードは老人と思えぬ軽い身のこなしで大きく飛び上がると、地面を這うように急接近する氷の刃をかわした。続けて新しく展開した魔法陣を踏み台にしてクアナへと距離を詰める。男は空中でさらに新たな魔法陣を展開した。
「鉄魔法・造形……サーベル」
右手に造り出したサーベルを握ると、パルケードは目にも留まらぬ速さで刺突攻撃を繰り出す。
クアナは左手の防御魔法陣で受けようと試みた。鳴り響く激しい金属音。男の猛攻に少しずつ魔法陣に亀裂が生じ始める。
「受けきれますかな……」
パルケード=コミュレイト。ギルド魔導師を引退した彼が次の生業としたのは、魔導書の執筆であった。若き日から魔道を歩み続けた男の洗練された魔法の技術は、年を重ねた今となってもこのような激しい戦闘を可能にする。
クアナは防御魔法陣を展開したまま、猛攻に押され少しずつ後方に退いていく。気づけばすぐ背後にはレンガ造りの建物。彼女は追い詰められた。
(これ以上は……退けない……!)
衝撃に耐えかねてクアナの魔法陣は鏡のように割れて散らばった。パルケードはここに勝機を見据える。男のサーベルはとどめの突きを繰り出した。鋭利な剣先が生身のクアナを襲う。
フェイバルは時計台を目指してがむしゃらに走り続けた。その麓まではまだいくぶんか距離がある。クアナの示した場所へと一刻も早く目指したい。しかしそこでフェイバルの邪魔をしたものは、思いもよらぬ異様な光景だった。
そこには虚ろな目をした人々が、雨の中傘も差さずにただただ俯いている。
「こいつら……何してるんだ……? いや、今はそんなことより……」
フェイバルはその異様な光景を気にも留めずに通り抜けようとした。しかしその瞬間、虚ろな目をした人々は一斉にフェイバルへと視線を向け、あらゆる方法で攻撃を仕掛けてくる。
数人は腰に帯びた魔法剣を抜くとそれをフェイバルへと振りかざす。
(……!)
フェイバルは瞬時に全方位を防御魔法陣で固めた。剣と魔法陣が衝突し激しい音が響き渡る。そのときフェイバルがふと目についたのは、剣を握ったある男の指先。男の指にはめられていたものは、ギルド紋章が刻まれた指輪だった。
(こいつら……ギルド・グリモンの魔導師か……!?)
続けざまにフェイバルへと襲いかかる追撃。遠方からは魔法銃の弾丸に岩の塊、火の玉、様々な魔法がフェイバル目がけて飛び交った。
「おいおい……おまえら今それをしちまったら――」
追撃は確かなにフェイバルを捉えていた。しかしそれは男を負傷させることなく、フェイバルに近接攻撃を仕掛けた剣士たちに命中した。同じギルドであるはずの彼らは、今まさに仲間割れをしたのだ。本来協力して依頼をこなすのが魔導師という生き物。しかし今、彼らはそれぞれがフェイバルを殺す為に連携など度外視して攻撃を繰り出してきたのだ。
「ったく、正気じゃねえな」
フェイバルは自身を囲むように展開していた防御魔法陣を押しだし、周囲の残った剣士を弾き飛ばした。彼らの体は大きく吹き飛ばされると、遠くから攻撃を仕掛けてきた数人の魔導師と衝突する。視界が開けた。しかしフェイバルの目が捉えたのは、いまだ多く残る魔導師たち。
「クソっ、どんだけ居やがる……! この急いでるときに!!」
苛立ちを隠せずにいるフェイバルの背後から聞き慣れた声が鳴った。
「フェイバル! これは一体何事だ!?」
エンティスの声だった。彼はようやく合流した。
「分からねぇ。だがこいつらを止めなきゃならねぇってのは確かだ」
「なるほど。ならさっさと終わらすぞ」
フェイバルとエンティスは互いに背中を任せると、臨戦体勢へと入った。
パルケードのサーベルは、クアナの心臓を貫いた。
「……」
しかしパルケードの顔から敵の死を確信した余裕は現れない。クアナの体はサーベルで貫かれた胸の穴から少しずつひびが走ってゆく。
「そっちは氷像よっ……!」
クアナはパルケードのすぐ背後から姿を現した。
彼女が行使したのは氷魔法・偶像。彼女は自身の肉体と氷像を瞬時に入れ替えることで、敵の猛攻を逃れたのだ。そして彼女が続けざまに自身の右足へ纏うように展開したのは魔道の極地、多重魔法陣。クアナは低い体勢からパルケードの両脚を薙ぎ払った。
パルケードは不意に体勢を崩す。しかしそこで、男はすかさず氷像から抜き取ったサーベルの先端をクアナへと向けた。
(鉄魔法・再造形……!)
老人の細い体が地面へと倒れるその瞬間、サーベルの先端が突然伸長する。思わぬ方法で間合いを広げた剣先は、クアナの肩を貫いた。
クアナは不意を突かれ、後方へ退き再び距離をとる。
「くっ……」
サーベルが体から抜けるとき、激しい痛みが走った。血が吹き出す肩を圧迫すると、クアナの持つもう一つの魔法、治癒魔法で肩の傷を癒やす。
「いてて……参りましたなぁ」
パルケードはゆっくりと立ち上がると、語り始める。転がるサーベルの血濡れた先端は、異様な形状をしていた。
「サーベルの先端には、止血を困難にするための返しをつけました。治癒には時間を要しますぞ……」
クアナは顔を歪めながらもこう返してやる。
「あら、あなたの脚はもう治癒なんて間に合わないわよ……?」
パルケードはクアナの言葉を聞くと、すぐに自分の脚を確認する。パルケードの脚はクアナの蹴りを受けた箇所から徐々に範囲を広げながら、じわじわと凍りついているのだった。
「厄介な……」
パルケードは苦い表情を浮かべると、胸ポケットからハンカチを取り出すと太腿をキツく縛り上げる。
「まさかこんな小娘が秘技魔法の使い手だとは。思いもしませんでしたよ」
クアナが先程の蹴りで行使したのは、氷魔法秘技・凍蝕。触れたものを徐々に凍りつかせ、最後には完全な氷へと変化させる強烈な魔法である。
パルケードは鉄魔法・造形によってダガーを造ると、すぐに自分の脚を脛辺りから切断した。
凍り付いた脚は地面に倒れ込む。続けて簡易的に鉄の義足を造形した。
「関節は残しました。まだ十分動けますぞ」
【玲奈のメモ帳】
No.36 氷魔法
氷を発現させる魔法。魔法陣の色は水色。
「氷魔法・斬撃……!」
クアナの右手の先の地面から、鋭い刃をもつ氷が飛び出す。それはパルケード目がけてまっすぐに進んだ。
パルケードは老人と思えぬ軽い身のこなしで大きく飛び上がると、地面を這うように急接近する氷の刃をかわした。続けて新しく展開した魔法陣を踏み台にしてクアナへと距離を詰める。男は空中でさらに新たな魔法陣を展開した。
「鉄魔法・造形……サーベル」
右手に造り出したサーベルを握ると、パルケードは目にも留まらぬ速さで刺突攻撃を繰り出す。
クアナは左手の防御魔法陣で受けようと試みた。鳴り響く激しい金属音。男の猛攻に少しずつ魔法陣に亀裂が生じ始める。
「受けきれますかな……」
パルケード=コミュレイト。ギルド魔導師を引退した彼が次の生業としたのは、魔導書の執筆であった。若き日から魔道を歩み続けた男の洗練された魔法の技術は、年を重ねた今となってもこのような激しい戦闘を可能にする。
クアナは防御魔法陣を展開したまま、猛攻に押され少しずつ後方に退いていく。気づけばすぐ背後にはレンガ造りの建物。彼女は追い詰められた。
(これ以上は……退けない……!)
衝撃に耐えかねてクアナの魔法陣は鏡のように割れて散らばった。パルケードはここに勝機を見据える。男のサーベルはとどめの突きを繰り出した。鋭利な剣先が生身のクアナを襲う。
フェイバルは時計台を目指してがむしゃらに走り続けた。その麓まではまだいくぶんか距離がある。クアナの示した場所へと一刻も早く目指したい。しかしそこでフェイバルの邪魔をしたものは、思いもよらぬ異様な光景だった。
そこには虚ろな目をした人々が、雨の中傘も差さずにただただ俯いている。
「こいつら……何してるんだ……? いや、今はそんなことより……」
フェイバルはその異様な光景を気にも留めずに通り抜けようとした。しかしその瞬間、虚ろな目をした人々は一斉にフェイバルへと視線を向け、あらゆる方法で攻撃を仕掛けてくる。
数人は腰に帯びた魔法剣を抜くとそれをフェイバルへと振りかざす。
(……!)
フェイバルは瞬時に全方位を防御魔法陣で固めた。剣と魔法陣が衝突し激しい音が響き渡る。そのときフェイバルがふと目についたのは、剣を握ったある男の指先。男の指にはめられていたものは、ギルド紋章が刻まれた指輪だった。
(こいつら……ギルド・グリモンの魔導師か……!?)
続けざまにフェイバルへと襲いかかる追撃。遠方からは魔法銃の弾丸に岩の塊、火の玉、様々な魔法がフェイバル目がけて飛び交った。
「おいおい……おまえら今それをしちまったら――」
追撃は確かなにフェイバルを捉えていた。しかしそれは男を負傷させることなく、フェイバルに近接攻撃を仕掛けた剣士たちに命中した。同じギルドであるはずの彼らは、今まさに仲間割れをしたのだ。本来協力して依頼をこなすのが魔導師という生き物。しかし今、彼らはそれぞれがフェイバルを殺す為に連携など度外視して攻撃を繰り出してきたのだ。
「ったく、正気じゃねえな」
フェイバルは自身を囲むように展開していた防御魔法陣を押しだし、周囲の残った剣士を弾き飛ばした。彼らの体は大きく吹き飛ばされると、遠くから攻撃を仕掛けてきた数人の魔導師と衝突する。視界が開けた。しかしフェイバルの目が捉えたのは、いまだ多く残る魔導師たち。
「クソっ、どんだけ居やがる……! この急いでるときに!!」
苛立ちを隠せずにいるフェイバルの背後から聞き慣れた声が鳴った。
「フェイバル! これは一体何事だ!?」
エンティスの声だった。彼はようやく合流した。
「分からねぇ。だがこいつらを止めなきゃならねぇってのは確かだ」
「なるほど。ならさっさと終わらすぞ」
フェイバルとエンティスは互いに背中を任せると、臨戦体勢へと入った。
パルケードのサーベルは、クアナの心臓を貫いた。
「……」
しかしパルケードの顔から敵の死を確信した余裕は現れない。クアナの体はサーベルで貫かれた胸の穴から少しずつひびが走ってゆく。
「そっちは氷像よっ……!」
クアナはパルケードのすぐ背後から姿を現した。
彼女が行使したのは氷魔法・偶像。彼女は自身の肉体と氷像を瞬時に入れ替えることで、敵の猛攻を逃れたのだ。そして彼女が続けざまに自身の右足へ纏うように展開したのは魔道の極地、多重魔法陣。クアナは低い体勢からパルケードの両脚を薙ぎ払った。
パルケードは不意に体勢を崩す。しかしそこで、男はすかさず氷像から抜き取ったサーベルの先端をクアナへと向けた。
(鉄魔法・再造形……!)
老人の細い体が地面へと倒れるその瞬間、サーベルの先端が突然伸長する。思わぬ方法で間合いを広げた剣先は、クアナの肩を貫いた。
クアナは不意を突かれ、後方へ退き再び距離をとる。
「くっ……」
サーベルが体から抜けるとき、激しい痛みが走った。血が吹き出す肩を圧迫すると、クアナの持つもう一つの魔法、治癒魔法で肩の傷を癒やす。
「いてて……参りましたなぁ」
パルケードはゆっくりと立ち上がると、語り始める。転がるサーベルの血濡れた先端は、異様な形状をしていた。
「サーベルの先端には、止血を困難にするための返しをつけました。治癒には時間を要しますぞ……」
クアナは顔を歪めながらもこう返してやる。
「あら、あなたの脚はもう治癒なんて間に合わないわよ……?」
パルケードはクアナの言葉を聞くと、すぐに自分の脚を確認する。パルケードの脚はクアナの蹴りを受けた箇所から徐々に範囲を広げながら、じわじわと凍りついているのだった。
「厄介な……」
パルケードは苦い表情を浮かべると、胸ポケットからハンカチを取り出すと太腿をキツく縛り上げる。
「まさかこんな小娘が秘技魔法の使い手だとは。思いもしませんでしたよ」
クアナが先程の蹴りで行使したのは、氷魔法秘技・凍蝕。触れたものを徐々に凍りつかせ、最後には完全な氷へと変化させる強烈な魔法である。
パルケードは鉄魔法・造形によってダガーを造ると、すぐに自分の脚を脛辺りから切断した。
凍り付いた脚は地面に倒れ込む。続けて簡易的に鉄の義足を造形した。
「関節は残しました。まだ十分動けますぞ」
【玲奈のメモ帳】
No.36 氷魔法
氷を発現させる魔法。魔法陣の色は水色。
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