悪役令嬢になりました。

黒田悠月

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私は女優。

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ふさ、と柔らかいものがスカートを握りしめる私の手に触れた。

(白王)

見ると傍らにずっと寄り添っていた白王の尻尾がくるんと私の手に巻き付いている。

(……弱気はダメだね)

お偉方だからって臆してるようじゃダメだ。
私は悪役令嬢エリカ・オルディス。
侯爵令嬢なんだから。

枢機卿だろうが宰相だろうが教皇だろうが、敬意は称しても必要以上にヘリ下ったり萎縮する必要はないしするべきでもない。

(私は、女優。女優だよ)

私は侯爵令嬢エリカ・オルディス。
大貴族の娘で、聖女候補。
いや、一応白虎に認められた聖女だ。

(……笑え!笑え私!)

ふに、と無理矢理唇を上品な笑みの形に。

ゆっくりと膝を折って、片足を下げて。
軽く両手で摘まんだスカートを持ち上げて、淑女の礼を。

まだ声に出して挨拶はしない。
位の上の方に先に声を掛けるのは失礼になるから。

「よくぞお出で下さった。オルディス侯爵令嬢」

穏やかな声は方向と距離からして教皇倪下か。

「お呼びということでしたので。お初にお目にかかります。教皇倪下」

遠目にお見かけしたことはあるけど、直接お会いするのは始めてだ。

教会は基本俗世に関わらない。
例えば日本とかだと神社や仏閣なんかが関わる行事や祭なんてものもあるけど、教会にはそういったものがなくて、唯一ある行事?らしきものといえば礼拝のみ。教皇様や枢機卿方なんて上の方々は普段私たちが行く礼拝にもまず出てくることはない。

まれに教会本部で行われる礼拝に出席されることがあるけど、それだって年に一度か二度。

ただし、お言葉があるとかはない。
ただ他の人と同じで神に祈りと感謝を捧げる。


教会はただ世界を造り暗黒竜を封印し人の世界を救う神に聖女の誕生を祈り、神とその使徒である四聖獣に感謝を捧げるためのもの。

俗世にも政治にも関わらない。

日本人な私の感覚だと、王族の結婚式だのだったら教皇様や枢機卿様方が出て来て祭司を執り行いそうなものって思うんだけど、ほら、神社だったら神主さんが執り行うし、教会だったら神父さんが執り行うじゃない?

だけど教会はそういったことを一切しないのだ。
なもので侯爵令嬢と言えどもお見かけする機会すらほとんどない。

代わりに国の祭司を執り行うのがグレンファリアにおいては国教であるフィルティアーサ神教。

国教だの神教だのいうけど、つまりは教会の下部組織的、というか、国の祭司を司る機関。
フィルティアーサは国の始祖。

教会においては創造神に祈るべきは暗黒竜の封印と聖女の誕生。

それ以外を直接神に祈り感謝をし誓うことは不遜であり不敬なのだそうで。

国の始祖で勇者であるフィルティアーサ様を代理として神格化し、祈り、感謝し、誓う。
フィルティアーサ様はそれらを拾い上げ、創造神に伝えるのだという。
ちなみに皇太子の名前ーーアーサーはフィルティアーサ様からきているらしい。

どうでもいいけどね。

ってかあのアホに自分の名を一部とはいえ名乗られているなんて、フィルティアーサ様もお気の毒だよ。

私だったら情けないし恥ずかしくて泣くね。

「うむ。いくつか聞かせてもらいたいことがあるのだが、まずは……」

言葉を切った教皇様が意見を仰ぐように周りを見回す。

「まずは証を確認するべきかと」
「いえ、その前に白虎様に聖女認められたとする際の子細を」
「暗黒竜の封印はどうなっているのでしょうか?白虎様はそのあたりについてお伝えはないのでしょうか。是非確認を」

枢機卿様方が次々と口を開く。

「では、順番に。まずは証の確認を」

場を取り纏めるのは宰相様だ。
なんか慣れ感が凄い。
貴族や側近間の会議もこうしてこの方が取り纏め進めているのだろうか。

(こんなデキルっぽい人なのに息子があのバカなんだよねー)

そういえばこの場にはいないけど大司祭様も仕事デキルっぽい方だ。

見た目だけでつぶさに仕事ぶりを見たことなんてないから、真実は定かではないけど。
その地位に着いている時点でそれなり以上であることは間違いないはず。

なんだろう。
この国のお偉方は子供の教育をことごとく間違っているのか。
それともカノンのバカさが周りに伝染するのか。

バカさ加減を発揮するのはほぼカノンがらみだし?

「オルディス侯爵令嬢、顔を上げなさい。そしてこちらに」

宰相様が差し示したのは皆様が座る円卓のそばに置かれた椅子。

「かしこまりました」

私は頷いて足を進める。
傍らの白王もぴったり引っ付いてついてくる。

一礼をしてから椅子に座り、スカートの裾を直して私は前を向いた。

頭の中では白虎母とともに練り上げ作り上げた聖女認定の詳細を思い出しながら。                                                                                                                  


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