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毒入りお茶はいりません。
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「オルディス侯爵令嬢」
アルローズ・フィリォ枢機卿。
それがこの人の名前らしい。
史上最年少で枢機卿入り。
ただいま46才だとか。
いつの間に調べたのかって?
呼び出されて聖女認定について説明をしたあと、私はいったん部屋に戻された。
そこでお茶を淹れてくれた神官さんに探りを入れたのです。
その神官さんはどこかへ連れて行かれたけどね。
何故ならその神官。
入れてくれたのはお茶だけではなかったから。
「どうぞ」
テーブルに乗せられたティーカップを手に取ろうとした時。
ひらり、と何かが視界を一瞬遮った。
空中から下へ。
舞い落ちた黒い羽。
私が手に取ろうとしたカップの中に落ちた。
ピクリ、と白王の耳が立つ。
「エリカ、飲むな」
「白王?」
あれ?
この羽って……。
「おまえ」
「……ひっ……!」
白王に睨まれて後ずさりする神官。
「これを飲んでみろ」
「い、いえ……これは」
ガタガタと震える神官。
ここに来てから初めて見る顔だ。
そういえばこれまではずっと同じ女性だったのにね?
「どうした?」
「……っ!」
神官はカップを唇に当てて、中を飲むことなく床に落とした。
白い絨毯に茶色いシミが広がる。
「……も、申し訳ございません。すぐ新しいものを」
「必要ないわ。毒入りなんて」
私は確信を持って言い放つと、テーブルから金色の鈴を手にする。
チリリン。
澄んだ音が響く。
と、見覚えのある女性神官の姿が部屋に。
女性は部屋の中を見ると、すぐに悟ったらしく廊下に顔を出して衛兵を呼ぶ。
「粗相があったようですね。大変失礼致しました」
まるでただお茶を溢しただけのような態度で、カップを片付ける。
「ここでは客に毒を盛るのが普通なのかしら?」
私はできるだけ動揺を表に出さずに訊いた。
「なんのことでございましょう?ここは教会です。そのようなことがあるはずがございません」
「その者はどう?」
「大切なお客様に粗相をしたのですから、それ相応の罰を。二度と前には出しませんのでどうぞご安心を」
白々しく頭を下げて、さっさと後から来た人間にカップを乗せた盆を渡す。
なるほど。
認める気はさらさらないわけだ。
ここで言い募っても時間のムダだと、私は頭を無理矢理切り替える。
さて。
黒幕は誰だろうか。
お祖父様以外の8人の中の誰か。
疑わしいのは、ハヌル枢機卿か、それともフィリォ枢機卿か。
あるいは別の誰かか。
さすがにわからないね。
わかるのはあの中に教会の害になりうる者は早めに始末する。そういう思考回路の持ち主がいるっていうこと。
それがたとえ聖女でも。
(私を殺して新たに教会が認めた聖女に試練を受けさせるってこと?)
白虎がそれを認めるだろうか。
(たぶん認めざるを得ないか……)
それが白虎ーー彼女の役割だから。
資格があれが恐らく認めざるを得ない。
(もしくは私がいなくなることで暗黒竜の復活が遅れるとでも考えたか)
フィリォ枢機卿の言を思えば、そう考える者が出て来てもおかしくないのかも知れない。
「会議が終わったようですので、今一度お越し願えますか?」
私が思い悩んでいる間に、衛兵の一人に耳打ちされた女性がそう言って促してくる。
「わかりました」
私は立ち上がって、先程通った道筋を白王とともに歩き出した。
「残念ですが、今の段階では教会として貴女を正式に聖女と認めるわけにはいきません」
代表してフィリォ枢機卿が告げたのは、会議での決定事項。
「暗黒竜の復活がまだ定かでない今の段階で聖女が現れたと、民に伝えることはできないのです」
私は黙って聞いている。
許可がない以上、口を開くことは許されないから。
「白虎様が兆しを感じとったとはいえ、いまだ世界にはその兆しがない。この今の段階で貴女を正式に聖女認定して一年以内に暗黒竜が復活するなど、民に伝えたら、どうなるか。要らぬ混乱と恐怖を与えることになりかねません」
ですから、
と、フィリォ枢機卿は一度言葉を切ったあと、
「貴女にも黙っていて頂きたい」
そう言った。
私は、
「……1つ、よろしいでしょうか?」
許されないことは承知で、声を上げた。
「彼女は、カノン様はどうなるのでしょうか」
「……カノン・フルーデ嬢なら、すでに修道院に向かいましたよ。彼女には少々聖女候補としての資格に乏しい部分がある様子。なのでこれからは聖属性を持つ者として、一生神に祈りと感謝を捧げる役目を負うこととなるでしょう」
「それが彼女の犯した罪の対価だと?本来なら罪を明らかにして死罪でもおかしくないのでは?」
ああ、ヤバイ。
イライラしてきた。
ちょっと勝手すぎやしませんかね!
聖女とは認めないだの、黙ってろだの。
その上、カノンは修道院?
もう一人の聖女候補であるカノンをこの期において生かしておいておく意味。
それに気づかないほど私がバカだとでも思っているのか。
それとも気づいたところで関係がないというのか。
恐らくは後者だろうと思うと、余計苛立ちが増す。
私は無意識に睨みつけてでもいたのだろう。
私の顔を見て、フィリォ枢機卿はほんの少しだけ不快げに眉をひそめると、
「なんのことでしょう?」
そう小首を傾げた。
「彼女は何も罪などは犯していませんよ?教会の認めた聖女候補が罪を犯すなど、有り得ないでしょう?」
事も無げにそう言って、フィリォ枢機卿は円卓からゆっくりと立ち上がった。
「今回の魔物の暴走は冒険者の引き起こしたこと。犯人も捕まっています」
ああ、そういうこと。
教会の不利益になることは、すべてなかったことになるわけですか。
こんの、クソッタレ!
アルローズ・フィリォ枢機卿。
それがこの人の名前らしい。
史上最年少で枢機卿入り。
ただいま46才だとか。
いつの間に調べたのかって?
呼び出されて聖女認定について説明をしたあと、私はいったん部屋に戻された。
そこでお茶を淹れてくれた神官さんに探りを入れたのです。
その神官さんはどこかへ連れて行かれたけどね。
何故ならその神官。
入れてくれたのはお茶だけではなかったから。
「どうぞ」
テーブルに乗せられたティーカップを手に取ろうとした時。
ひらり、と何かが視界を一瞬遮った。
空中から下へ。
舞い落ちた黒い羽。
私が手に取ろうとしたカップの中に落ちた。
ピクリ、と白王の耳が立つ。
「エリカ、飲むな」
「白王?」
あれ?
この羽って……。
「おまえ」
「……ひっ……!」
白王に睨まれて後ずさりする神官。
「これを飲んでみろ」
「い、いえ……これは」
ガタガタと震える神官。
ここに来てから初めて見る顔だ。
そういえばこれまではずっと同じ女性だったのにね?
「どうした?」
「……っ!」
神官はカップを唇に当てて、中を飲むことなく床に落とした。
白い絨毯に茶色いシミが広がる。
「……も、申し訳ございません。すぐ新しいものを」
「必要ないわ。毒入りなんて」
私は確信を持って言い放つと、テーブルから金色の鈴を手にする。
チリリン。
澄んだ音が響く。
と、見覚えのある女性神官の姿が部屋に。
女性は部屋の中を見ると、すぐに悟ったらしく廊下に顔を出して衛兵を呼ぶ。
「粗相があったようですね。大変失礼致しました」
まるでただお茶を溢しただけのような態度で、カップを片付ける。
「ここでは客に毒を盛るのが普通なのかしら?」
私はできるだけ動揺を表に出さずに訊いた。
「なんのことでございましょう?ここは教会です。そのようなことがあるはずがございません」
「その者はどう?」
「大切なお客様に粗相をしたのですから、それ相応の罰を。二度と前には出しませんのでどうぞご安心を」
白々しく頭を下げて、さっさと後から来た人間にカップを乗せた盆を渡す。
なるほど。
認める気はさらさらないわけだ。
ここで言い募っても時間のムダだと、私は頭を無理矢理切り替える。
さて。
黒幕は誰だろうか。
お祖父様以外の8人の中の誰か。
疑わしいのは、ハヌル枢機卿か、それともフィリォ枢機卿か。
あるいは別の誰かか。
さすがにわからないね。
わかるのはあの中に教会の害になりうる者は早めに始末する。そういう思考回路の持ち主がいるっていうこと。
それがたとえ聖女でも。
(私を殺して新たに教会が認めた聖女に試練を受けさせるってこと?)
白虎がそれを認めるだろうか。
(たぶん認めざるを得ないか……)
それが白虎ーー彼女の役割だから。
資格があれが恐らく認めざるを得ない。
(もしくは私がいなくなることで暗黒竜の復活が遅れるとでも考えたか)
フィリォ枢機卿の言を思えば、そう考える者が出て来てもおかしくないのかも知れない。
「会議が終わったようですので、今一度お越し願えますか?」
私が思い悩んでいる間に、衛兵の一人に耳打ちされた女性がそう言って促してくる。
「わかりました」
私は立ち上がって、先程通った道筋を白王とともに歩き出した。
「残念ですが、今の段階では教会として貴女を正式に聖女と認めるわけにはいきません」
代表してフィリォ枢機卿が告げたのは、会議での決定事項。
「暗黒竜の復活がまだ定かでない今の段階で聖女が現れたと、民に伝えることはできないのです」
私は黙って聞いている。
許可がない以上、口を開くことは許されないから。
「白虎様が兆しを感じとったとはいえ、いまだ世界にはその兆しがない。この今の段階で貴女を正式に聖女認定して一年以内に暗黒竜が復活するなど、民に伝えたら、どうなるか。要らぬ混乱と恐怖を与えることになりかねません」
ですから、
と、フィリォ枢機卿は一度言葉を切ったあと、
「貴女にも黙っていて頂きたい」
そう言った。
私は、
「……1つ、よろしいでしょうか?」
許されないことは承知で、声を上げた。
「彼女は、カノン様はどうなるのでしょうか」
「……カノン・フルーデ嬢なら、すでに修道院に向かいましたよ。彼女には少々聖女候補としての資格に乏しい部分がある様子。なのでこれからは聖属性を持つ者として、一生神に祈りと感謝を捧げる役目を負うこととなるでしょう」
「それが彼女の犯した罪の対価だと?本来なら罪を明らかにして死罪でもおかしくないのでは?」
ああ、ヤバイ。
イライラしてきた。
ちょっと勝手すぎやしませんかね!
聖女とは認めないだの、黙ってろだの。
その上、カノンは修道院?
もう一人の聖女候補であるカノンをこの期において生かしておいておく意味。
それに気づかないほど私がバカだとでも思っているのか。
それとも気づいたところで関係がないというのか。
恐らくは後者だろうと思うと、余計苛立ちが増す。
私は無意識に睨みつけてでもいたのだろう。
私の顔を見て、フィリォ枢機卿はほんの少しだけ不快げに眉をひそめると、
「なんのことでしょう?」
そう小首を傾げた。
「彼女は何も罪などは犯していませんよ?教会の認めた聖女候補が罪を犯すなど、有り得ないでしょう?」
事も無げにそう言って、フィリォ枢機卿は円卓からゆっくりと立ち上がった。
「今回の魔物の暴走は冒険者の引き起こしたこと。犯人も捕まっています」
ああ、そういうこと。
教会の不利益になることは、すべてなかったことになるわけですか。
こんの、クソッタレ!
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