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よおく、わかりました。
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私は怒りに震えながらも、なんとか吐き出しそうになる罵倒の言葉を喉の奥に抑えた。
私ごときが何を言ったところで意味がないことは自明だろうから。
傍らに佇む白王の頭を宥めるようにゆっくりと手を伸ばして撫でる。
でないと私の怒りが伝染した白王が彼らに飛びかかってしまいそうだ。
自業自得ではあるんだけど。
だって、この人たちは私だけじゃなくて、私を聖女として認めた白虎母のこともバカにしてるも同然なんだから。
というか、バカにしてるよね?
聖獣様とか持ち上げながら教会の意向と都合を優先しようってんだからさ。
少しくらい痛い目に合った方がいいと思う。
とはいえ、ここは教会本部。
そしてこの人たちは性根は腐りきっていても、教会幹部だ。
いくら白王が白虎様の子息で普通の魔物よりずっと強いっていってもさすがに一人で敵うとは思えない。
お祖父様や家族のこともあるしね。
教会の枢機卿や大貴族であっても教会を敵に回して無事に済むはずがない。
この人たちは私が否やと答えれば平気で私だけじゃなく周りの人間も貶めるだろう。
「……納得できませんか?」
ゆっくりと近づいてきたフィリォ枢機卿が私の横に立って唇を寄せてくる。
ちょうど白王と反対側だ。
「貴女とフォール準男爵令嬢は色々あった様子。ムリはありませんか」
耳打ちされて、肌に触れる吐息にゾクリと鳥肌が。
(気持ち悪い……!)
さらりと節立った指が私の髪をかきあげて耳にかける。
「……大丈夫ですよ。私たちの中にも彼女が気に入らない人間がいますから。そう、例えば大事な跡取りをたぶらかされて廃嫡せざるを得なくなった方とかね?」
周りに聞こえない囁き声。
クスクスと小さく笑う、フィリォ枢機卿。
円卓に背を向けている状態なので、他の枢機卿や教皇様には見えていないはずだ。
宰相様にも。
「今回の騒動で皇太子とその取り巻きの学生たちはもちろんその親の評価は最悪です。首をすげ替えざるを得ないほ
どにね。他に子息のいる家庭からまだ良いのでしょうが、一人息子の家は周りの親族がわが子を養子にと早くも迫っている様子。腹立ちもするでしょうね?お気の毒なことです」
どうやら、
とフィリォ枢機卿はよりいっそう唇を寄せた。
「すでに修道院に向かう馬車に手の者を向かわせたようですよ。殺しはしないまでも、それなり以上に痛手を負わせなければ気が済まないのでしょう。教会としては生きてさえいれば問題ないので、かまわないのですが。汚されていようが五体満足でなかろうが、古代魔法の詠唱ができさえすれば……いざという時の予備には使えますから。寧ろ散々傷ついた後に救いの手を与えた方がより従順になって良いかも知れません。ああもちろん、貴方が従順であって下されば予備も必要ありませんから、消してしまっても良いのですよ?嬉しいでしょう?」
嬉しい?
私が?
確かにカノンへの処罰が甘過ぎるとは思ったよ。
バカたちも廃嫡されるようでいい気味と言えなくはないけど。
ここまであからさまに脅されて喜ばれるかっつーのっ!
つまりカノンは修道院でなく途中で拐かされてより悲惨な末路だと。
ただし、しっかり教会に管理はされ、生かされる。
私が従順でないと判断された場合は、私とカノンの首をすげ替えるために。
「……白虎様が納得されますでしょうか?」
「問題はありませんよ。聖獣様は聖域に縛られた存在。何もできはしません。ーーあれはあくまでも教会の選んだ聖女を確固たるものにするためのもの。あれの意向など教会と反するならどうでもいい。まして魔物とまぐわって子を作るようなものなど、まったく汚らわしい!」
最後の台詞は白王を見ながら吐き捨てるように言った。
「そう、ですか。で?私はただ黙っていればよろしいのですか?」
私は俯いて拳を握り締める。
ああ、思いっきりぶん殴ってやりたい!
頭の中はそんな思いでギュウギュウ詰めだ。
「いえ、暗黒竜が復活するという白虎様のお言葉も捨て置くわけには参りません。ですから……」
ーー貴女には旅に出て頂きます。
そうフィリォ枢機卿は言うと、大袈裟な仕草で袖を翻した。
「残りの3聖獣。その認定を受けて頂きます。ご存知の通りそれぞれ別の大陸、別の国におりますので、秘密裏に向かい聖女として認められて頂きたい。もちろん教会から護衛はお付けしますし、すべての聖獣に認められ、暗黒竜が事実復活したなら貴女を晴れて聖女として敬いましょう」
護衛ね?
私の態度しだいでは刺客になるんでしょうに。
ああ、なんだかね?
もう、怒りを通りこして腹を括ったわよ。
旅ね。
いいでしょう。
出てやろうじゃないか。
ただし、
私の納得できるやり方で。
私ごときが何を言ったところで意味がないことは自明だろうから。
傍らに佇む白王の頭を宥めるようにゆっくりと手を伸ばして撫でる。
でないと私の怒りが伝染した白王が彼らに飛びかかってしまいそうだ。
自業自得ではあるんだけど。
だって、この人たちは私だけじゃなくて、私を聖女として認めた白虎母のこともバカにしてるも同然なんだから。
というか、バカにしてるよね?
聖獣様とか持ち上げながら教会の意向と都合を優先しようってんだからさ。
少しくらい痛い目に合った方がいいと思う。
とはいえ、ここは教会本部。
そしてこの人たちは性根は腐りきっていても、教会幹部だ。
いくら白王が白虎様の子息で普通の魔物よりずっと強いっていってもさすがに一人で敵うとは思えない。
お祖父様や家族のこともあるしね。
教会の枢機卿や大貴族であっても教会を敵に回して無事に済むはずがない。
この人たちは私が否やと答えれば平気で私だけじゃなく周りの人間も貶めるだろう。
「……納得できませんか?」
ゆっくりと近づいてきたフィリォ枢機卿が私の横に立って唇を寄せてくる。
ちょうど白王と反対側だ。
「貴女とフォール準男爵令嬢は色々あった様子。ムリはありませんか」
耳打ちされて、肌に触れる吐息にゾクリと鳥肌が。
(気持ち悪い……!)
さらりと節立った指が私の髪をかきあげて耳にかける。
「……大丈夫ですよ。私たちの中にも彼女が気に入らない人間がいますから。そう、例えば大事な跡取りをたぶらかされて廃嫡せざるを得なくなった方とかね?」
周りに聞こえない囁き声。
クスクスと小さく笑う、フィリォ枢機卿。
円卓に背を向けている状態なので、他の枢機卿や教皇様には見えていないはずだ。
宰相様にも。
「今回の騒動で皇太子とその取り巻きの学生たちはもちろんその親の評価は最悪です。首をすげ替えざるを得ないほ
どにね。他に子息のいる家庭からまだ良いのでしょうが、一人息子の家は周りの親族がわが子を養子にと早くも迫っている様子。腹立ちもするでしょうね?お気の毒なことです」
どうやら、
とフィリォ枢機卿はよりいっそう唇を寄せた。
「すでに修道院に向かう馬車に手の者を向かわせたようですよ。殺しはしないまでも、それなり以上に痛手を負わせなければ気が済まないのでしょう。教会としては生きてさえいれば問題ないので、かまわないのですが。汚されていようが五体満足でなかろうが、古代魔法の詠唱ができさえすれば……いざという時の予備には使えますから。寧ろ散々傷ついた後に救いの手を与えた方がより従順になって良いかも知れません。ああもちろん、貴方が従順であって下されば予備も必要ありませんから、消してしまっても良いのですよ?嬉しいでしょう?」
嬉しい?
私が?
確かにカノンへの処罰が甘過ぎるとは思ったよ。
バカたちも廃嫡されるようでいい気味と言えなくはないけど。
ここまであからさまに脅されて喜ばれるかっつーのっ!
つまりカノンは修道院でなく途中で拐かされてより悲惨な末路だと。
ただし、しっかり教会に管理はされ、生かされる。
私が従順でないと判断された場合は、私とカノンの首をすげ替えるために。
「……白虎様が納得されますでしょうか?」
「問題はありませんよ。聖獣様は聖域に縛られた存在。何もできはしません。ーーあれはあくまでも教会の選んだ聖女を確固たるものにするためのもの。あれの意向など教会と反するならどうでもいい。まして魔物とまぐわって子を作るようなものなど、まったく汚らわしい!」
最後の台詞は白王を見ながら吐き捨てるように言った。
「そう、ですか。で?私はただ黙っていればよろしいのですか?」
私は俯いて拳を握り締める。
ああ、思いっきりぶん殴ってやりたい!
頭の中はそんな思いでギュウギュウ詰めだ。
「いえ、暗黒竜が復活するという白虎様のお言葉も捨て置くわけには参りません。ですから……」
ーー貴女には旅に出て頂きます。
そうフィリォ枢機卿は言うと、大袈裟な仕草で袖を翻した。
「残りの3聖獣。その認定を受けて頂きます。ご存知の通りそれぞれ別の大陸、別の国におりますので、秘密裏に向かい聖女として認められて頂きたい。もちろん教会から護衛はお付けしますし、すべての聖獣に認められ、暗黒竜が事実復活したなら貴女を晴れて聖女として敬いましょう」
護衛ね?
私の態度しだいでは刺客になるんでしょうに。
ああ、なんだかね?
もう、怒りを通りこして腹を括ったわよ。
旅ね。
いいでしょう。
出てやろうじゃないか。
ただし、
私の納得できるやり方で。
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