悪役令嬢になりました。

黒田悠月

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作戦開始です。

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「一つ、条件と申しますかお願いがございます」

私がそう告げると、フィリォ枢機卿のみならず円卓の皆様が不快気に眉を寄せた。
不快感を顔に出さなかったのはお祖父様と教皇様のみ。

皆様聖女と認めてもいないたかが侯爵令嬢の小娘ごときが教会相手に『条件』などと言い出されたのが相当気に食わないらしい。

自分たちの言うことはありがたく受け入れるのが当然ってな感覚なんでしょうね。

知ったこっちゃないけどね。
なのでそ知らぬ顔で言葉を続ける。
これで幾人かの中では確実にカノンへ首すげ替え説が優勢になったのだろうけど。

もう腹括っちゃったから!

あんたらの思うようになんてさせるものか。

「先程犯人は捕まっている、と仰いましたが、それは砦で捕らえられた三人の冒険者で間違いありませんか?」
「確かに。実際その白虎様のご子息を襲ったのでしょう?」

ええ、と私は白王の柔らかい首筋を指で撫でながら頷いてみせた。

「ただし彼らは依頼されて、仕事をこなしただけです。もちろん、きちんと内容を事前に調査しなかったこともギルドを通さない非正規の依頼であることも彼らの落ち度であり、なんら罪がないわけではないのですが。さすがにすべてを彼らに押し付けるのはどうなのでしょう?」
「……いったい何が言いたいのです?」
「いえ、ただ……。私を狙って行われたことですので、少しだけ彼らに申し訳ないような気がしてしまいまして」

頭お花畑の「私って心優しい」なんて自分で酔うタイプのご令嬢を意識しながら首を傾げてみせる。

そんなの実際いたら「こいつバカじゃないの?」って思うけどね。

けどこの人たちがイメージするご令嬢なんて案外こんなもんな気もするし。

「本来なら首謀者も彼らも死罪。ですが結果として死者は愚か怪我人もほとんどないのです。ご子息もこの通り無事ですしね。どうせカノン様の罪もなかったことになるのでしょう?なら彼らのしたこともついでになかったことにしていただけませんでしょうか?」

白王の件をなかったことにしてただの魔物の暴走だったってことに。

できるよね?

だって真相を知っているのは砦の兵士とカノン、三人の冒険者、ここにいる人間だけなんだから。

カノンの罪をなかったことにするんだったらその他も全部なかったことにしてしまえばいい。

少なくとも私的にはその方がすっきりするわ。

「そうして頂けるなら私も喜んでお務めをお受け致しますわ。きっとすべての聖獣様にお認め頂き教会のお役に立ってみせます」

ええ、別に教会に思うところなんてございませんよ?

「ただ聖女候補の一人として、自分のせいで他の方が死刑に処せられるなんて……ギルドランクの降格の上国外追放といったあたりでいかがでしょう。彼らとは少しですがお話しもしましたし、できれば命だけはと思ったんですの」

いかがですか?と私は上目使いでフィリォ枢機卿を見上げる。

なんとなくこいつにはご令嬢ブリッコはバレバレな気がするから、目で「断ったらこっちも何がなんでも断るわよ」と訴えた。


「別に良いのではないか?」

お祖父様!

「うむ、確かにあのような者たちなど罪にしようとしまいと特に問題にはなりませんな」

おお、ありがとう知らないおじさ……枢機卿様。

「白虎様のお言葉がある以上、暗黒竜の復活をはなから否定するというわけにもいきませんし。エリカ・オルディス令嬢がそれで教会の意向を受け入れるというのならかまわないでしょう」

ため息混じりの台詞は宰相様。

実際に動いてあちこち指示したり隠蔽工作するのはこの方なんだろうな。

私は、

「ありがとうございます」

と、淑女の礼を返した。




「いったいあのような者たちを助けてどうするつもりです?」

私は旅の準備のためにいったん王都のオルディス家に戻ることになった。
家や周りには聖女候補のお役目として各国にある聖域を訪れ聖獣様に祈りを捧げるということに。

今回このような魔物の暴走があったために念のため暗黒竜の封印をより強固にする、らしい。

馬車まで着いてきたフィリォ枢機卿はそう言って馬車の扉を開く。
私はその扉の中に入り、ご令嬢ブリッコでわざとらしく、

「なんのことでしょう?お伝えした通りですわ。ただ私のために彼らが犠牲になるのは申し訳ないと。それだけですわ」

にこりと笑ってやる。
邪魔だと言わんばかりに白王が後ろからわざとフィリォ枢機卿を押し退けるようにして馬車に乗り込んできて、押されたフィリォ枢機卿は軽く後ろ向きにたたらを踏んだ。

その隙に御者に扉を閉めるように指示する。

窓の向こうに苦笑しながら手を振るフィリォ枢機卿の姿が。

「……出してちょうだい」

私は座席にふんぞり返って御者にさっさと出せと急かす。

馬車が動き出すと、私はすぐに口の中で魔法詠唱を唱えた。

発動させたのは消音の魔法。
窓を覆うカーテンの隙間から入ってくる光で薄い幕を張って御者に声が漏れないように。

「……いるんでしょ?闇綺さん」

私は何もない空間に向かってそう声をかけた。

「ちょっと頼みがあるの。出て来てくれる?」

毒入りお茶のカップに落ちた黒い羽。

まったく、どれだけこっそり後つけてるんでしょうね、あの方は。

今回は、グッジョブだけどね。

さて、一応布石は打っておいたし、作戦開始といきましょうか。







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