37 / 45
連載
作戦開始です。
しおりを挟む
「一つ、条件と申しますかお願いがございます」
私がそう告げると、フィリォ枢機卿のみならず円卓の皆様が不快気に眉を寄せた。
不快感を顔に出さなかったのはお祖父様と教皇様のみ。
皆様聖女と認めてもいないたかが侯爵令嬢の小娘ごときが教会相手に『条件』などと言い出されたのが相当気に食わないらしい。
自分たちの言うことはありがたく受け入れるのが当然ってな感覚なんでしょうね。
知ったこっちゃないけどね。
なのでそ知らぬ顔で言葉を続ける。
これで幾人かの中では確実にカノンへ首すげ替え説が優勢になったのだろうけど。
もう腹括っちゃったから!
あんたらの思うようになんてさせるものか。
「先程犯人は捕まっている、と仰いましたが、それは砦で捕らえられた三人の冒険者で間違いありませんか?」
「確かに。実際その白虎様のご子息を襲ったのでしょう?」
ええ、と私は白王の柔らかい首筋を指で撫でながら頷いてみせた。
「ただし彼らは依頼されて、仕事をこなしただけです。もちろん、きちんと内容を事前に調査しなかったこともギルドを通さない非正規の依頼であることも彼らの落ち度であり、なんら罪がないわけではないのですが。さすがにすべてを彼らに押し付けるのはどうなのでしょう?」
「……いったい何が言いたいのです?」
「いえ、ただ……。私を狙って行われたことですので、少しだけ彼らに申し訳ないような気がしてしまいまして」
頭お花畑の「私って心優しい」なんて自分で酔うタイプのご令嬢を意識しながら首を傾げてみせる。
そんなの実際いたら「こいつバカじゃないの?」って思うけどね。
けどこの人たちがイメージするご令嬢なんて案外こんなもんな気もするし。
「本来なら首謀者も彼らも死罪。ですが結果として死者は愚か怪我人もほとんどないのです。ご子息もこの通り無事ですしね。どうせカノン様の罪もなかったことになるのでしょう?なら彼らのしたこともついでになかったことにしていただけませんでしょうか?」
白王の件をなかったことにしてただの魔物の暴走だったってことに。
できるよね?
だって真相を知っているのは砦の兵士とカノン、三人の冒険者、ここにいる人間だけなんだから。
カノンの罪をなかったことにするんだったらその他も全部なかったことにしてしまえばいい。
少なくとも私的にはその方がすっきりするわ。
「そうして頂けるなら私も喜んでお務めをお受け致しますわ。きっとすべての聖獣様にお認め頂き教会のお役に立ってみせます」
ええ、別に教会に思うところなんてございませんよ?
「ただ聖女候補の一人として、自分のせいで他の方が死刑に処せられるなんて……ギルドランクの降格の上国外追放といったあたりでいかがでしょう。彼らとは少しですがお話しもしましたし、できれば命だけはと思ったんですの」
いかがですか?と私は上目使いでフィリォ枢機卿を見上げる。
なんとなくこいつにはご令嬢ブリッコはバレバレな気がするから、目で「断ったらこっちも何がなんでも断るわよ」と訴えた。
「別に良いのではないか?」
お祖父様!
「うむ、確かにあのような者たちなど罪にしようとしまいと特に問題にはなりませんな」
おお、ありがとう知らないおじさ……枢機卿様。
「白虎様のお言葉がある以上、暗黒竜の復活をはなから否定するというわけにもいきませんし。エリカ・オルディス令嬢がそれで教会の意向を受け入れるというのならかまわないでしょう」
ため息混じりの台詞は宰相様。
実際に動いてあちこち指示したり隠蔽工作するのはこの方なんだろうな。
私は、
「ありがとうございます」
と、淑女の礼を返した。
「いったいあのような者たちを助けてどうするつもりです?」
私は旅の準備のためにいったん王都のオルディス家に戻ることになった。
家や周りには聖女候補のお役目として各国にある聖域を訪れ聖獣様に祈りを捧げるということに。
今回このような魔物の暴走があったために念のため暗黒竜の封印をより強固にする、らしい。
馬車まで着いてきたフィリォ枢機卿はそう言って馬車の扉を開く。
私はその扉の中に入り、ご令嬢ブリッコでわざとらしく、
「なんのことでしょう?お伝えした通りですわ。ただ私のために彼らが犠牲になるのは申し訳ないと。それだけですわ」
にこりと笑ってやる。
邪魔だと言わんばかりに白王が後ろからわざとフィリォ枢機卿を押し退けるようにして馬車に乗り込んできて、押されたフィリォ枢機卿は軽く後ろ向きにたたらを踏んだ。
その隙に御者に扉を閉めるように指示する。
窓の向こうに苦笑しながら手を振るフィリォ枢機卿の姿が。
「……出してちょうだい」
私は座席にふんぞり返って御者にさっさと出せと急かす。
馬車が動き出すと、私はすぐに口の中で魔法詠唱を唱えた。
発動させたのは消音の魔法。
窓を覆うカーテンの隙間から入ってくる光で薄い幕を張って御者に声が漏れないように。
「……いるんでしょ?闇綺さん」
私は何もない空間に向かってそう声をかけた。
「ちょっと頼みがあるの。出て来てくれる?」
毒入りお茶のカップに落ちた黒い羽。
まったく、どれだけこっそり後つけてるんでしょうね、あの方は。
今回は、グッジョブだけどね。
さて、一応布石は打っておいたし、作戦開始といきましょうか。
私がそう告げると、フィリォ枢機卿のみならず円卓の皆様が不快気に眉を寄せた。
不快感を顔に出さなかったのはお祖父様と教皇様のみ。
皆様聖女と認めてもいないたかが侯爵令嬢の小娘ごときが教会相手に『条件』などと言い出されたのが相当気に食わないらしい。
自分たちの言うことはありがたく受け入れるのが当然ってな感覚なんでしょうね。
知ったこっちゃないけどね。
なのでそ知らぬ顔で言葉を続ける。
これで幾人かの中では確実にカノンへ首すげ替え説が優勢になったのだろうけど。
もう腹括っちゃったから!
あんたらの思うようになんてさせるものか。
「先程犯人は捕まっている、と仰いましたが、それは砦で捕らえられた三人の冒険者で間違いありませんか?」
「確かに。実際その白虎様のご子息を襲ったのでしょう?」
ええ、と私は白王の柔らかい首筋を指で撫でながら頷いてみせた。
「ただし彼らは依頼されて、仕事をこなしただけです。もちろん、きちんと内容を事前に調査しなかったこともギルドを通さない非正規の依頼であることも彼らの落ち度であり、なんら罪がないわけではないのですが。さすがにすべてを彼らに押し付けるのはどうなのでしょう?」
「……いったい何が言いたいのです?」
「いえ、ただ……。私を狙って行われたことですので、少しだけ彼らに申し訳ないような気がしてしまいまして」
頭お花畑の「私って心優しい」なんて自分で酔うタイプのご令嬢を意識しながら首を傾げてみせる。
そんなの実際いたら「こいつバカじゃないの?」って思うけどね。
けどこの人たちがイメージするご令嬢なんて案外こんなもんな気もするし。
「本来なら首謀者も彼らも死罪。ですが結果として死者は愚か怪我人もほとんどないのです。ご子息もこの通り無事ですしね。どうせカノン様の罪もなかったことになるのでしょう?なら彼らのしたこともついでになかったことにしていただけませんでしょうか?」
白王の件をなかったことにしてただの魔物の暴走だったってことに。
できるよね?
だって真相を知っているのは砦の兵士とカノン、三人の冒険者、ここにいる人間だけなんだから。
カノンの罪をなかったことにするんだったらその他も全部なかったことにしてしまえばいい。
少なくとも私的にはその方がすっきりするわ。
「そうして頂けるなら私も喜んでお務めをお受け致しますわ。きっとすべての聖獣様にお認め頂き教会のお役に立ってみせます」
ええ、別に教会に思うところなんてございませんよ?
「ただ聖女候補の一人として、自分のせいで他の方が死刑に処せられるなんて……ギルドランクの降格の上国外追放といったあたりでいかがでしょう。彼らとは少しですがお話しもしましたし、できれば命だけはと思ったんですの」
いかがですか?と私は上目使いでフィリォ枢機卿を見上げる。
なんとなくこいつにはご令嬢ブリッコはバレバレな気がするから、目で「断ったらこっちも何がなんでも断るわよ」と訴えた。
「別に良いのではないか?」
お祖父様!
「うむ、確かにあのような者たちなど罪にしようとしまいと特に問題にはなりませんな」
おお、ありがとう知らないおじさ……枢機卿様。
「白虎様のお言葉がある以上、暗黒竜の復活をはなから否定するというわけにもいきませんし。エリカ・オルディス令嬢がそれで教会の意向を受け入れるというのならかまわないでしょう」
ため息混じりの台詞は宰相様。
実際に動いてあちこち指示したり隠蔽工作するのはこの方なんだろうな。
私は、
「ありがとうございます」
と、淑女の礼を返した。
「いったいあのような者たちを助けてどうするつもりです?」
私は旅の準備のためにいったん王都のオルディス家に戻ることになった。
家や周りには聖女候補のお役目として各国にある聖域を訪れ聖獣様に祈りを捧げるということに。
今回このような魔物の暴走があったために念のため暗黒竜の封印をより強固にする、らしい。
馬車まで着いてきたフィリォ枢機卿はそう言って馬車の扉を開く。
私はその扉の中に入り、ご令嬢ブリッコでわざとらしく、
「なんのことでしょう?お伝えした通りですわ。ただ私のために彼らが犠牲になるのは申し訳ないと。それだけですわ」
にこりと笑ってやる。
邪魔だと言わんばかりに白王が後ろからわざとフィリォ枢機卿を押し退けるようにして馬車に乗り込んできて、押されたフィリォ枢機卿は軽く後ろ向きにたたらを踏んだ。
その隙に御者に扉を閉めるように指示する。
窓の向こうに苦笑しながら手を振るフィリォ枢機卿の姿が。
「……出してちょうだい」
私は座席にふんぞり返って御者にさっさと出せと急かす。
馬車が動き出すと、私はすぐに口の中で魔法詠唱を唱えた。
発動させたのは消音の魔法。
窓を覆うカーテンの隙間から入ってくる光で薄い幕を張って御者に声が漏れないように。
「……いるんでしょ?闇綺さん」
私は何もない空間に向かってそう声をかけた。
「ちょっと頼みがあるの。出て来てくれる?」
毒入りお茶のカップに落ちた黒い羽。
まったく、どれだけこっそり後つけてるんでしょうね、あの方は。
今回は、グッジョブだけどね。
さて、一応布石は打っておいたし、作戦開始といきましょうか。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。