洗脳されていたことに気づいたので逃げ出してスローライフすることにします。ー元魔王四天王の村娘ライフー

黒田悠月

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スローライフ始めます?

その2

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土煙を上げて木材調達へと駆け出して行った『ドラゴ』を見送った私はティータイムにすることにした。
待ってる間特にすることもないし。
しばらくは追っ手もないはずだから、警戒もいらないしね。

ただ念のため私のいる周囲五キル圏内に侵入者察知の結界を張っておく。
結界の核になる小指大の魔鉱石を地面に埋めて、パンと手を鳴らせば完了だ。

空間収納魔法から模様替え前の自身で使っていたアンティークのテーブルセットとティーセット、台所からくすねてきたスコーン取り出して、

「いただきま~す」

とスコーンにかぶりついた。

お茶は以前に『てれび』を見ながらお茶する用にいつでも飲めるようメイドに用意してもらっていたアップルティー。 
私の空間収納魔法は時間経過のない特別使用に改良してあるのだ。お茶でもシチューでも作り立てをそのまま入れておけばいつでも取り出してアツアツ新鮮なのである。


緩やかな風の吹くのどかな草原で緑の絨毯を床に優雅にティータイム。
 
いい!!
なんかいい!

スローライフだわ!
よくわかんないけどスローライフっぽい気がするしいい!

思えば生まれてこのかた働きすぎだった私。
まだハイハイの頃から魔力増強の魔法具を首につけられていた。強制的に魔力が魔法具に吸い取られていくっていう代物。
魔力を枯渇ギリギリの状態にすることで常に回復を促し結果少しずつ魔力量が増えていく。ただしめちゃくちゃお腹がすく。

他の子供は数日に一度の交換なのに私だけは毎日交換が必要だったって聞いたなぁ。おかげでいくら食べてもお腹がすいていた。搾り取られてるから太りもしなかったけど。
こうして集められた魔力は魔族の生活魔法具に使用される。ライトとか、コンロとか、トイレの水洗とか。
もうこれ、立派に働いているよね!

寝る時は子守唄に魔王様賛歌を聞かされ、食事の際は必ず魔王様への忠誠と感謝の祈りを捧げ、五才から小学で勉強が始まると朝の朝礼と最後の終礼一時間ずつ魔王様の素晴らしさを聞かされる。
文集のお題はいつも魔王様への尊敬の念。

洗脳もしっかりばっちりされてた。
うん、気付いてみれば超洗脳されてた!

そもそもだ。
私はテーブルにほおづえをついて考える。

洗脳だと気づいたうえで冷静に考えてみると……。

魔王様ってホントにそんなにスゴいのかな?
と、いうことにも気づいてしまう。

確かに、魔王様のためというモチベーションがあってこそのことではあるけど。

戦術で戦果を上げるのも、それ以前に戦うのも、魔王様じゃない。私は魔王様が戦闘をする姿はおろかまともに動いているのさえ見たことがない。

いつも玉座にふんぞり返っているだけ。

魔法の研究だって、魔法具の開発だって全部魔王様のために別の誰かが頑張るのだ。
魔王様がこんなものがあれば、と一言言えば私たちは必死でそれを叶えようとしたし、魔王様に美味しいものを食べてもらうために品種改良に精を出すし料理人は日々新かな美味を追い求める。

魔王様が人の土地が欲しいというから魔族は戦争をしている。

魔王様は座っているだけ。
ただ一言口にするだけ。

ようするに魔王様本人は何もしていないのである。

「なんてこったい」

私は頭を抱えた。
しかも魔王様はメタボ腹のちょいハゲだ!
よく考えれば見た目もカリスマ性もない!?

「……私のこれまでの時間と努力を返せ~!!」

うみゅみゅみゅみゅ、と私は草原で一人テーブルに頭を突っ伏して悶える。

優雅なティータイムをくれていたはずのティーセットがカチャカチャと音を立てて震えた。




チャカチャチャチャチャチャッ♪
チャカチャチャチャチャチャッ♪

悶えていた私の頭に直接、どこかで聞いたことのあるメロディーが流れる。

あ、これ。
『てれび』で見た4分クッキングのメロディーだ。

と、いうことは。

私は頭を上げて指で空中に大きめの四角型を描く。

「『探知』」 

魔法のワードを唱えると四角型の中に草原の地図が表示された。
その中に、いくつか青と黄の光点。

青は一つで林の中にある。
これは『ドラゴ』。
ちゃんと木材調達しているみたい。 

黄は4つ。
その光点の後ろに灰色の箱が見えるのは馬車だろう。
一つが馬車のすぐそばに。
他の3つはその光点の前を塞ぐような形で配置している。

4分クッキングのメロディーは私が設置した結界に誰かが侵入したという合図。
光点は青が見方で黄は無関係である。
ちなみに敵対している相手だと赤い光点が表示される。

場所はここからだいたい1キルくらい。
黄色なら無視でいいかな? 
そう思いつつ見ていると、光点の一つが色を薄くした。

これはその存在が薄まったということ。
怪我をしたとか、死にかけていたりするとこういう色になる。

他の3つの光点の動きからしてもおそらくこの3つ--つまり三人が一人の人間を襲っている最中というところだろう。
一人の後ろに馬車があることを鑑みると、馬車の荷を狙う盗賊というところだろうか。

こんなの、私には関係ないことと知らんぷりするのがたぶん一番正解だ。

わかってる。
そんなのわかってるんだけど。

『盗賊』

というワードについ私の胸は高まってしまった。

だって、盗賊だよ?
盗賊ってあの盗賊でしょ?

「死にたくなきゃ金目のもん全部おいてきやがれ~!わっひゃ~♪」

って奴でしょ?
私、見たことないんだよね。
本の中とか噂に聞いただけ。

「……うむむ、見たい」

見たい。見たい見たい。
生盗賊、見てみたい!

頭に布巻いてるのかな?
ピッチピチのシャツに小汚いベスト着てるのかな?

「へっへっ」とか笑いながらナイフ舌で舐めてみたりするのかな?

あ、これは全部私の愛読書に出てくる盗賊である。


スローライフに盗賊退治とか不必要かもだけど。
でもこの先のことを思えばここで人助けをして恩を売っておくのもいいかも知れない。

私って人間の国のことはたいして知らないし。
助けるかわりに色々情報を聞いてみるとか?
まあ、ホントはただの好奇心ですけど!

私はとん、と足下を蹴って転移する。
次の瞬間にはすぐ目の前に盗賊さんたちがいた。
突然表れた私の姿に目を丸くする。

私はそれらにニッコリとしてスカートの裾を指の先で持ち上げた。
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