6 / 13
幼年期。
5
しおりを挟む
「大量大量」
前世ーースカーレット・オーギュスの記憶を思い出して二年が過ぎ、7歳になったスカーレットは鼻歌混じりに森を歩いていた。
スカートではなく男の子が着るズボンを履いて。
癖毛にうねる赤い髪は首の付け根で無造作に一つに紐で縛って、肩には後ろ脚を蔓で縛った逆さまの兎を三羽掛け、逆の手の先にはスカーレットと大して大きさの変わらない猪が縄で縛られた状態で引きずられている。
小柄な10歳にも満たない少女が自身と同じ大きさの猪を引きずっている光景は見慣れない人間が見ればさぞかし異様だろう。
スカーレットの周り、村の人間たちにとってはすでに見慣れたいつもの光景になってしまっているが……。
村の入口まで戻ると、知らない人間がポカンと口を開けてこちらを見ていた。
役人らしき小綺麗な出で立ちの大人の男二人。
傍らには痩せっぽちの驢馬が二頭。
スカーレットはそれを見て、近くの町の役人かな?と想定した。大きな街やこの辺りを収める領主に直接仕えるような者たちではないと思われる。
それならもう少しマシな驢馬や馬を使わせてもらえるだろうから。
後で考えてみれば、知らない人間に気づいた時点で道を戻るなり隠れていなくなったのを確認してから戻るべきだった。
けれども村の人間はもはや野生児に限りなく近い農家の少女が猪の一頭や二頭を引きずって歩いていてもおすそ分けで夕飯のおかずが豪華になることを喜ぶことしかしない。
もはや慣れ切っているから。
スカーレット自身も周りがそんなだから自身が端から見れば奇異な、というかありえない真似をしているという自覚が薄い。
100年前の時も今と同じ7歳で猪くらいは狩れた。
あの時のスカーレットは一応下級とはいえ貴族のご令嬢というヤツだったが、所詮は爵位と領地があるだけの貧乏な子爵家だった。
「領地があるなら税収があるだろう」
昔、そうのたまった馬鹿がいた。
返事は口ではなく拳で返した。
領地の税収で優雅に暮らしていけるのは豊かな広い領地を持ち、しっかりと土地の収穫があったり特産品があったりする領地の主である。
それはほとんどが上位貴族が占めている。
稀に下級の子爵家や男爵家であっても立地条件がよろしかったり領主に経済的な手腕があったりすればそこそこ上手く儲けている家はある。
あるにはあるが、稀である。
少なくともスカーレットの家は領地は山と森に囲まれた田舎で、畑に出来る土地も少なければ、特産品といったものもなかった。
ついでに言えば特産品を作り上げるだけの資金も知恵もコネも流通させるための交通の便もなかった。
税収は常に雀の涙。
そこから領地の運営と国への税金に金を出すのだけれどまあ毎年赤字で母親はくつろい物で小銭を稼いでいたし、早くに死んだ兄は兵士として出稼ぎで稼いでいた。兄の仕送りは家計としてずいぶん大きくて、おかげで兄が死んだ後、スカーレットが軍属になり金を稼ぐことになったのだが……。
話が逸れた。
とにかくスカーレットの家は貧乏で、貴族だからと優雅にお茶会だの夜会だの言っていられなかった。その日のごはんも父やスカーレットが狩りや山や森の恵みで調達していたのだ。
もっとも父はスカーレットと違って魔力の多い人ではなかったから、あまり狩りの役には立たなかったけれど。
そんな前世のこともあって、スカーレットの中では自分が「いや、普通ムリだよね?おかしいよね?なんでそんな軽々と猪引きずってんの?」と言われることをしているつもりはなかった。
だがスカーレットは7歳で女の子でしかも平民だった。
スカーレットにとって魔力はあって当たり前で、身体を魔力で強化することも当たり前で。
あまりにも当たり前だったから、何も考えずに使っていた。
平民は魔力を持たないか少ない。
あっても使い方も知らない。
増やし方も知らない。
何故なら貴族が自分たちの優位性を保つために秘匿しているから。
もしも流した者は例えそれが上位の貴族でも厳罰に処される。
それは頭の片隅に知識としてはあったはずだけれど忘れていた。
だから自分が魔力を、しかも前世と大差がないだけの質と量を持つことも当たり前に受け入れていたし、それを前世の知識で増やすことも使うことも当たり前に行っていた。
覚えていれば、警戒していれば、ああはならなかったかも知れない。後になってそうは思うけれど、後悔もするけれど。
この時は自分でも不思議なほど何も考えなかった。
男たちがもっと上の役人であればもしかしたら少しは考えていたのかも知れないが。
スカーレットは何も考えずに、トコトコと軽い足取りで村の入口まで来ると、元気に「こんにちは!」と男たちに挨拶した。
ついでに男たちの対応をしていた村のおっちゃんに「後で家におすそ分け持ってくからね!」と笑って宣言した。
7日後。
村に見知らぬ大人たちがやってきてこう言った。
「この村に魔力を持つ子供がいるはずだ!その子供を出せ!」
前世ーースカーレット・オーギュスの記憶を思い出して二年が過ぎ、7歳になったスカーレットは鼻歌混じりに森を歩いていた。
スカートではなく男の子が着るズボンを履いて。
癖毛にうねる赤い髪は首の付け根で無造作に一つに紐で縛って、肩には後ろ脚を蔓で縛った逆さまの兎を三羽掛け、逆の手の先にはスカーレットと大して大きさの変わらない猪が縄で縛られた状態で引きずられている。
小柄な10歳にも満たない少女が自身と同じ大きさの猪を引きずっている光景は見慣れない人間が見ればさぞかし異様だろう。
スカーレットの周り、村の人間たちにとってはすでに見慣れたいつもの光景になってしまっているが……。
村の入口まで戻ると、知らない人間がポカンと口を開けてこちらを見ていた。
役人らしき小綺麗な出で立ちの大人の男二人。
傍らには痩せっぽちの驢馬が二頭。
スカーレットはそれを見て、近くの町の役人かな?と想定した。大きな街やこの辺りを収める領主に直接仕えるような者たちではないと思われる。
それならもう少しマシな驢馬や馬を使わせてもらえるだろうから。
後で考えてみれば、知らない人間に気づいた時点で道を戻るなり隠れていなくなったのを確認してから戻るべきだった。
けれども村の人間はもはや野生児に限りなく近い農家の少女が猪の一頭や二頭を引きずって歩いていてもおすそ分けで夕飯のおかずが豪華になることを喜ぶことしかしない。
もはや慣れ切っているから。
スカーレット自身も周りがそんなだから自身が端から見れば奇異な、というかありえない真似をしているという自覚が薄い。
100年前の時も今と同じ7歳で猪くらいは狩れた。
あの時のスカーレットは一応下級とはいえ貴族のご令嬢というヤツだったが、所詮は爵位と領地があるだけの貧乏な子爵家だった。
「領地があるなら税収があるだろう」
昔、そうのたまった馬鹿がいた。
返事は口ではなく拳で返した。
領地の税収で優雅に暮らしていけるのは豊かな広い領地を持ち、しっかりと土地の収穫があったり特産品があったりする領地の主である。
それはほとんどが上位貴族が占めている。
稀に下級の子爵家や男爵家であっても立地条件がよろしかったり領主に経済的な手腕があったりすればそこそこ上手く儲けている家はある。
あるにはあるが、稀である。
少なくともスカーレットの家は領地は山と森に囲まれた田舎で、畑に出来る土地も少なければ、特産品といったものもなかった。
ついでに言えば特産品を作り上げるだけの資金も知恵もコネも流通させるための交通の便もなかった。
税収は常に雀の涙。
そこから領地の運営と国への税金に金を出すのだけれどまあ毎年赤字で母親はくつろい物で小銭を稼いでいたし、早くに死んだ兄は兵士として出稼ぎで稼いでいた。兄の仕送りは家計としてずいぶん大きくて、おかげで兄が死んだ後、スカーレットが軍属になり金を稼ぐことになったのだが……。
話が逸れた。
とにかくスカーレットの家は貧乏で、貴族だからと優雅にお茶会だの夜会だの言っていられなかった。その日のごはんも父やスカーレットが狩りや山や森の恵みで調達していたのだ。
もっとも父はスカーレットと違って魔力の多い人ではなかったから、あまり狩りの役には立たなかったけれど。
そんな前世のこともあって、スカーレットの中では自分が「いや、普通ムリだよね?おかしいよね?なんでそんな軽々と猪引きずってんの?」と言われることをしているつもりはなかった。
だがスカーレットは7歳で女の子でしかも平民だった。
スカーレットにとって魔力はあって当たり前で、身体を魔力で強化することも当たり前で。
あまりにも当たり前だったから、何も考えずに使っていた。
平民は魔力を持たないか少ない。
あっても使い方も知らない。
増やし方も知らない。
何故なら貴族が自分たちの優位性を保つために秘匿しているから。
もしも流した者は例えそれが上位の貴族でも厳罰に処される。
それは頭の片隅に知識としてはあったはずだけれど忘れていた。
だから自分が魔力を、しかも前世と大差がないだけの質と量を持つことも当たり前に受け入れていたし、それを前世の知識で増やすことも使うことも当たり前に行っていた。
覚えていれば、警戒していれば、ああはならなかったかも知れない。後になってそうは思うけれど、後悔もするけれど。
この時は自分でも不思議なほど何も考えなかった。
男たちがもっと上の役人であればもしかしたら少しは考えていたのかも知れないが。
スカーレットは何も考えずに、トコトコと軽い足取りで村の入口まで来ると、元気に「こんにちは!」と男たちに挨拶した。
ついでに男たちの対応をしていた村のおっちゃんに「後で家におすそ分け持ってくからね!」と笑って宣言した。
7日後。
村に見知らぬ大人たちがやってきてこう言った。
「この村に魔力を持つ子供がいるはずだ!その子供を出せ!」
0
あなたにおすすめの小説
いくら時が戻っても
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
大切な書類を忘れ家に取りに帰ったセディク。
庭では妻フェリシアが友人二人とお茶会をしていた。
思ってもいなかった妻の言葉を聞いた時、セディクは―――
短編予定。
救いなし予定。
ひたすらムカつくかもしれません。
嫌いな方は避けてください。
※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。
元婚約者からの嫌がらせでわたくしと結婚させられた彼が、ざまぁしたら優しくなりました。ですが新婚時代に受けた扱いを忘れてはおりませんよ?
3333(トリささみ)
恋愛
貴族令嬢だが自他ともに認める醜女のマルフィナは、あるとき王命により結婚することになった。
相手は王女エンジェに婚約破棄をされたことで有名な、若き公爵テオバルト。
あまりにも不釣り合いなその結婚は、エンジェによるテオバルトへの嫌がらせだった。
それを知ったマルフィナはテオバルトに同情し、少しでも彼が報われるよう努力する。
だがテオバルトはそんなマルフィナを、徹底的に冷たくあしらった。
その後あるキッカケで美しくなったマルフィナによりエンジェは自滅。
その日からテオバルトは手のひらを返したように優しくなる。
だがマルフィナが新婚時代に受けた仕打ちを、忘れることはなかった。
腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。
灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。
彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。
タイトル通りのおっさんコメディーです。
[完結]7回も人生やってたら無双になるって
紅月
恋愛
「またですか」
アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。
驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。
だけど今回は違う。
強力な仲間が居る。
アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後
空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。
魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。
そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。
すると、キースの態度が豹変して……?
今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。
柚ノ木 碧/柚木 彗
恋愛
駄目だこれ。
詰んでる。
そう悟った主人公10歳。
主人公は悟った。実家では無駄な事はしない。搾取父親の元を三男の兄と共に逃れて王都へ行き、乙女ゲームの舞台の学園の厨房に就職!これで予てより念願の世界をこっそりモブ以下らしく観賞しちゃえ!と思って居たのだけど…
何だか知ってる乙女ゲームの内容とは微妙に違う様で。あれ?何だか萎えるんだけど…
なろうにも掲載しております。
前世では美人が原因で傾国の悪役令嬢と断罪された私、今世では喪女を目指します!
鳥柄ささみ
恋愛
美人になんて、生まれたくなかった……!
前世で絶世の美女として生まれ、その見た目で国王に好かれてしまったのが運の尽き。
正妃に嫌われ、私は国を傾けた悪女とレッテルを貼られて処刑されてしまった。
そして、気づけば違う世界に転生!
けれど、なんとこの世界でも私は絶世の美女として生まれてしまったのだ!
私は前世の経験を生かし、今世こそは目立たず、人目にもつかない喪女になろうと引きこもり生活をして平穏な人生を手に入れようと試みていたのだが、なぜか世界有数の魔法学校で陽キャがいっぱいいるはずのNMA(ノーマ)から招待状が来て……?
前世の教訓から喪女生活を目指していたはずの主人公クラリスが、トラウマを抱えながらも奮闘し、四苦八苦しながら魔法学園で成長する異世界恋愛ファンタジー!
※第15回恋愛大賞にエントリーしてます!
開催中はポチッと投票してもらえると嬉しいです!
よろしくお願いします!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる