脳筋令嬢は三度目の恋をする。

黒田悠月

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幼年期。

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 マジかー。

 5歳児。
 中身18歳なのに5歳児。
 自然とため息が出た。

 スカーレットは18歳だった。
 スカーレットの記憶からすると100年程前のスカーレットは。
ーーややこしい。
 前世のスカーレットも今のスカーレットも同じスカーレット。
 ちなみに近所のお姉さんにもおばさんにもスカーレットがいる。
 何故ならスカーレットという名はアフタリスタでは定番中の定番。大人気な女子の名前であった。
 それも前世の自分のせいである。
 いや、それも少し違うか。
 正確には前世のスカーレットを『白銀の戦姫』なぞという英雄に仕立て上げた後世の人間たち。
 主に歴史を彩り派手派手しく物語に仕立て上げた物書きたちのせいだろう。
 はっきりいって迷惑。
 そして困惑しきりである。 

「あーもー、どうすっかなぁ」
 
 片膝を立て右手でボリボリと頭をかく様は幼女としても18歳の少女ーーいやすでに成人していたので女性というべきか、にしても似付かわしくない乱暴な仕草である。
 わかってはいるが、他に人がいない以上改めるという意識はスカーレットにはない。
 だいたい五年も軍属でしかも男ばかりの前線に立っていれば女性らしい仕草なんてものはなんの役にも立たない。むしろ邪魔であった。

「私にまともな5歳児が務まるのか?」 

 軍属で戦地を巡ってばかりだったスカーレットに子供と接触する機会なぞはついぞなかった。
 5歳児ってどんなんだったっけ?
 ってな話である。

「参った……」

 ムリ。ムダ。
 絶対不自然極まりない5歳児が出来上がる。
 生まれ変わったのはいいが、記憶を思い出すならせめて10を越えてからにしてほしかった。
 そしたらまだマシだったかも知れないのに。
 

ーーーーーーーーーーーーー


 川縁でうつらうつらしていたスカーレットは、後に探しにきた村の大人たちに見つけられて家に連れ帰られた。
 5歳の子供が昼間とはいえ一人でいなくなってしかも見つかった時には半裸でびしょ濡れなうえに頭に巻かれた薄汚れた肌着からは赤い血が滲んでいた。  
 これで大騒ぎにならないはずがない。
 ついでにスカーレットが盛大に叱られないわけも。
 とはいえ見つけられた時のスカーレットは半裸で長くいたためか頭の怪我のためか高熱を出し、意識は朦朧としている状態であった。おかげで叱責からは免れている。
 あくまでも一時的なものだろうが……。

「水飲める?」

 スカーレットが寝かされた粗末なベッドの横にこれまた粗末なギシギシいう椅子に腰掛けて両手に水の入ったコップを握るのは2歳年上のスカーレットの姉だ。
 名はミリアナ。
 スカーレットの次に定番で人気の女子名である。
 定番好きだな、ウチの親。
 英雄だの聖女だのが好きなのだろうか。
 ミリアナは30年程前に実在した教会の聖女の名である。
 くるくるな癖毛は赤茶色で大きな瞳は橙。
 スカーレットはといえば髪はミリアナよりも鮮やかな赤毛で、瞳は薄い菫の色であった。
 前世のスカーレットは『白銀の』という呼び名の通りまっすぐな白銀の髪に赤い瞳の少女だった。
 ミリアナとスカーレットの姉妹はどちらも肌は日に焼けてこんがりしている。
 ミリアナはすでに父母の手伝いで毎日畑仕事をしているし、スカーレットはといえば毎日外を走り回っているからだ。

「ん、飲む。ありがと、ミリアナ」

 ちょうど喉が渇いていたスカーレットは素直にコップを受け取るとその中身を一息に飲み干した。
 まだ熱は高いらしく身体は熱く火照り、すぐに喉が渇く。頭はボーッとするし、頭の傷はズキズキと痛む。

 スカーレットは熱にうなされながらも、身体が少しマシになると自分の家族を観察していた。
 そうしてスカーレットの記憶の中の家族と整合させる。同時に自分の家族への接し方、話し言葉、立ち位置といったものを記憶から探っていく。

 今年で5歳になるスカーレットは父母と姉との4人で狭い長屋に暮らしている。
 肉親にはもう一人年の離れた兄がいるが、その兄は軍属でここから馬車で一月ほどの町で警備兵をやっているらしい。物心つく頃には年に数回しか会うことはない状態であったので、スカーレットの記憶にはほとんど情報がない。
 ただ情報がなくても問題はないと思っているのでそこは気にしない。 

 父は農夫で母も姉とともに畑仕事を手伝っている。

 父はウォルズ。母はレオナという名で多分二人とも40を少し過ぎたくらい。
 父はミリアナと同じ赤茶の髪に茶の瞳をしたなかなかの美丈夫だと思う。特に盛り上がった上腕二頭筋が良い。
 母はスカーレットと同じ鮮やかな赤毛に濃い紫の瞳でこちらも見た目は良いと思う。ただ少しばかりふっくらしているが。ミリアナは髪の色は父に似ているものの、それ以外は母親似だ。 
 スカーレットもそうで、瞳の色が薄いのは母方の祖母の遺伝であるようだった。

 暮らしぶりははっきりいって貧乏だ。
 台所と物置、それに家族が雑魚寝する部屋が一つ。家の中はそれだけ。 
 風呂なんてものはもちろんないし、厠も外に二軒隣までと共用の汲み取り式のものが一つ。
 髪を洗うのも身体を拭くのも5日に一回ほどだから大半の日は髪はゴワゴワべっとり、服や靴下は糸が解れて破れがあって当たり前。
 食べる物は小指の先ほどの乾燥肉と野菜がたまに浮いた薄い塩だけのスープに固い黒いパン。しかも父以外は一人半分。父でも一つだ。

 戦地なら数日風呂に入れないなんてのは当たり前。厠もなく叢でするのが普通。食べ物だって補給が建たれた場合にはその辺で獣を狩ったり道端の雑草を入れたスープだって食べていた。
 だからまあ平気といえば平気だ。
 ただたまには風呂に浸かりたいし、肉も塊が食べたいなぁとは思う。

 もう少し大きな男の子のいる家ではたまに狩りに出るから肉が出ることもあるみたいだ。
ーーよし、身体が元気になったら狩りに行こう!
 スカーレットの家は畑も大きくはないからスカーレットが7歳になってもおそらく別の家の畑に行って小金を貰うか、裁縫をご近所で習って手仕事をするか。だったら狩りに出て肉や毛皮を売った方が儲けもある。 
 それまでに身体を鍛えておく必要はあるが。
 それこそスカーレットの得意とするところである。最初は村の近くで兎でも罠で狩りながら少しずつ身体も鍛えていく。
 そうと決まれば身体がウズウズした。
 が、今は熱でベッドに押し込まれた状態である。 

 とりあえず身体を健康にしなければ話にならない。スカーレットは疼く身体を深呼吸で落ち着かせながら、眠りにつくために目を閉じた。



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