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「ずいぶん汚い言葉遣いね」

 夫人の口調は、憎々しげながらも先ほどまでと比べると落ち着いている。
 一周回って少しは冷静になったということだろうか。

「私、10才までは領地で育ちましたから。両親が子供は子供らしく、がモットーっていうんですかね?で。領地の子供たちと毎日野山を駆け回ってたもんで。ご存知なかったですよね。だってこれっぽっちも付き合いなかったですもんね~」

――なんたって皆様は侯爵家からはほとんど縁切りされてたでしょ?

 アリシアはちら、と夫人から視線を逸らして言った。

「どこかの誰かさんのせいで」

 途端、夫人の頬に赤みが増す。
 ギリ……という歯ぎしりの音が聞こえてきそうだ。

「――私たちは親切で親のいないあなたの後見人になってあげたのよ。なのにいきなり弁護士を寄越して出ていけだなんてどういうつもり」
「ああ」

 やっとですか、とアリシアは息を吐いた。

「ようやく本題に入れますのね。いや~っここまで長かったわ」

 コキ、コキ、とアリシアは首を鳴らす。
 まあ長引いたのはあちらだけのせいでもないかも知れないが。
 
「そのままの意味ですよ?もちろん。私も成人しましたし、結婚もしました。なので家も爵位も継ぎましたので、もう後見人は必要ないんです」
「はっ!駆け落ちされたくせにっ!!結婚なんて無効でしょっ!爵位なんて継げるわけないじゃない!!」

 ぷぷ、鼻で笑っちゃうわよ。
 確かに、駆け落ちされましたけど、ね。
 ビビアンのセリフに「そうだそうだ」とゲイルが追随するのに、本気で鼻で笑ってしまった。

「だから、駆け落ちはされたけど、離婚はしてないでしょう?」

 そう。結婚は成立済みで、駆け落ちはされても離婚はしていない。
 
「なに屁理屈捏ねてるのよ!結婚式の当日に夫に駆け落ちされてんだから、離婚も同然じゃないっ」

 だ~か~ら~同然でも書類で提出されて受理されなければ離婚は成立しないんだってば。

「弁護士がそちらを訪れた時点で私の爵位の継承が認可されたのは間違いありません。そもそも受理され、しっかり認可されたからこそいらしたんです。婚姻誓約書にはすでに式の前に夫婦共にサイン済み。提出も昨日のうちに済ませています。今朝、こちらに来る前に弁護士が確認もしています。何も問題はなく、婚姻も爵位の継承も認められたそうです」
「そんなのおかしいわ!」
「はぁ、何がおかしいの?というか、ビビアン?あなた自分の立場わかってる?爵位を継いだ以上、私は女侯爵。あんたはただの子爵家の令嬢。しかも借金持ちで没落確定の。つまりめっちゃ格下なんだけど」
「んなっ!何よそれっ?!ふざけないでよ!!」
「ふざけてなんてない。ただの事実よ。いい?女性が爵位を認められるには成人していることと結婚しているという事実が必要。そして爵位の認可が下りる前に離婚した場合、継承は無効になる。ここまではいいかしら?」

 アリシアは人差し指をピッと上げた。

「私は昨日結婚をした。そして夫に別の女性と駆け落ちされたわけだけど。彼は離婚届を提出していない。当然よね、だって離婚届には私のサインがいるんだから」



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