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 でも、だって………とブツブツ口の中で呟くビビアンを一瞥して、アリシアはぬるくなった茶を煽った。

「離婚届が提出されていなければたとえ相手が行方知れずであっても、婚姻は継続されているとみなされる。結婚しているという事実がある以上、爵位継承も認可されるのよ」

 そもそも夫――アラン・タンゼントは男爵家の次男。爵位が下の立場で、しかも入婿ともなればよほどの事情でない限りあちらから離婚は無理だ。
 ましてアランの実家はメイルズ子爵家から多額の支援を受け取っている。だからこそ人形女侯爵のお飾り夫を引き受けさせられ…………最終的に駆け落ちという手段で、逃げたのだ。

 
「でも、でも!だからってなんで私たちが追い出されるのよっ!!」
「そうだっ!あれはうちの家だぞ!?」
「……そんなわけないじゃない」

 ゲイル?あなた、一応次期当主なのよね?

「土地も侯爵家のものですし、邸を建てた際の資金もすべて侯爵家から出てるのに、子爵家のものなわけないでしょう」
 
 どこでどうしてそれが「うちの家」になるんだか。
 呆れ果てて思わずジト目を向けてしまう。


 けれど、だ。
 ゲイルが馬鹿なのも致し方ないといえばいえるのだ。
 ――親が馬鹿なんだから。


 杜撰で底の浅すぎるお家の乗っ取り計画。
 そんなものを意気揚々と実行しちゃうんだものね。
 

「なんか飽きてきたわ。うん、飽きた」
「「「は?」」」

 アリシアはあらキレイに揃っちゃって仲良し親子ね~、と感心しながら「んん」と伸びをした。

「とにかくそういうことなんで、本日中に退去ください。侯爵家の家財道具に宝飾品、侯爵家の資産で購入した物品は置いていってもらいます。すべて購入履歴も調べてリスト化してありますので、持ち出した場合は賠償金に上乗せしますのであしからず」

 ポカンとする馬鹿三人を護衛に手振りで引きずり出させる。罵倒やら悲鳴やら泣き言やらを喚き散らして引きずられていく親子をアリシアは良い笑顔で見送った。

「ん、あとは弁護士先生と護衛のみんなにおかませだわさ~」 

 お話し合いは弁護士先生、肉体労働は護衛の仕事なのだ。


 アリシアはふんふん鼻歌まじりに茶請けの羊羹をフォークで刻む。

「ご愁傷さまね~。侯爵家の名で借りた借金にうちから散々横領したお金に賠償金。さておいくらくらいになるかしら~♪」 
「ふふっ、奥様悪いお顔」
 
 コツ、とミリーが茶のおかわりを置いた。






 


 


 

 

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