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第12話 恋したら、ものごと全てにてんてこ舞い
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キャラメル・フェアリーが入っているビルは都心にある。周辺は大型書店のほか、アニメやゲーム、フィギュアを扱う店舗が密集している。
ユキはそのビルの専用駐車場へ車を停めるとスマホで電話をかける。
「ユキです。今、部屋は空いていますか」
通話先はキャラメル・フェアリーのオーナーらしい。
「二人です――はい。ではこれから行きますのでよろしくお願いします」
電話を切り、スマホを内ポケットへしまう。
「部屋は空いてるって。じゃ、行こうか」
「はい」
佐野は道中での緊張と混迷が収まらぬまま、努めて平静を装ってうなずいた。
現場事務所でユキが言っていた通り、二人は一般客用の玄関ではなく、搬入用の裏口へと進む。そこはきらびやかなクリスマスの装飾で彩られた歩道側の入口とは違い、薄汚れた灰色の壁となっていた。広い搬入口には大型のトラックが三台並び、作業服姿の男が数人、忙しそうに荷物を運び出している。
「なんだかビルの補修作業に来たみたいな気分です。作業服、着てるし」
佐野がユキの背を追いながら言う。
「だよな。俺もそう思う」
ユキが笑う。佐野はそれだけで胸の鼓動が速くなる。
「すみません。鈴木と申します。キャラメル・フェアリーへ行きたいんですが。店長とは連絡済みです」
ユキが偽名で搬入口横の事務室へ声をかける。
「はーい。少々お待ちください」
奥から事務員らしき明るく活発な女の返事。約三十秒後、どうぞお入りくださいと声がした。セキュリティとの兼ね合いで、オーナーと電話で確認を取っていたようだ。
「ここから入る時は鈴木という名にしてるんだ。もちろんオーナーと口裏を合わせてな」
社員用の通路を歩きながらユキが言う。
「ほかの常連のみなさんも、そうしているんですか」
「ああ。匿名のダブルネームだよ」
エレベーターは通路の突き当たりにあった。ユキが上階へのボタンを押す。七階で停まっていたランプが順繰りに下りてくる。
しばしの沈黙。ユキの背後で佐野がチラリと振り返る。誰もいない。ということはエレベーターで二人きり。
うわあ、どうしよう。心の準備ができてない。つい先ほど自覚したばかりの恋心に、佐野の思考はてんてこ舞い。
ユキはそのビルの専用駐車場へ車を停めるとスマホで電話をかける。
「ユキです。今、部屋は空いていますか」
通話先はキャラメル・フェアリーのオーナーらしい。
「二人です――はい。ではこれから行きますのでよろしくお願いします」
電話を切り、スマホを内ポケットへしまう。
「部屋は空いてるって。じゃ、行こうか」
「はい」
佐野は道中での緊張と混迷が収まらぬまま、努めて平静を装ってうなずいた。
現場事務所でユキが言っていた通り、二人は一般客用の玄関ではなく、搬入用の裏口へと進む。そこはきらびやかなクリスマスの装飾で彩られた歩道側の入口とは違い、薄汚れた灰色の壁となっていた。広い搬入口には大型のトラックが三台並び、作業服姿の男が数人、忙しそうに荷物を運び出している。
「なんだかビルの補修作業に来たみたいな気分です。作業服、着てるし」
佐野がユキの背を追いながら言う。
「だよな。俺もそう思う」
ユキが笑う。佐野はそれだけで胸の鼓動が速くなる。
「すみません。鈴木と申します。キャラメル・フェアリーへ行きたいんですが。店長とは連絡済みです」
ユキが偽名で搬入口横の事務室へ声をかける。
「はーい。少々お待ちください」
奥から事務員らしき明るく活発な女の返事。約三十秒後、どうぞお入りくださいと声がした。セキュリティとの兼ね合いで、オーナーと電話で確認を取っていたようだ。
「ここから入る時は鈴木という名にしてるんだ。もちろんオーナーと口裏を合わせてな」
社員用の通路を歩きながらユキが言う。
「ほかの常連のみなさんも、そうしているんですか」
「ああ。匿名のダブルネームだよ」
エレベーターは通路の突き当たりにあった。ユキが上階へのボタンを押す。七階で停まっていたランプが順繰りに下りてくる。
しばしの沈黙。ユキの背後で佐野がチラリと振り返る。誰もいない。ということはエレベーターで二人きり。
うわあ、どうしよう。心の準備ができてない。つい先ほど自覚したばかりの恋心に、佐野の思考はてんてこ舞い。
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