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第108話 優しい手を持つ毒舌家
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佐野は驚くと同時に、胸の奥が熱くなった。けれどユキの顔を見ることはできない。そこまでの勇気がないからだ。
「社長」
穏やかにユキが切り出す。
『何だね』
勝利は目前という声だ。
「もしよろしければ、五倍の見積を出したゼネコンさんの社名、教えていただけませんか」
ユキが佐野の背中を優しくさすりながら言う。
『いやあ、それは企業秘密ですよ。イッヒッヒ』
「そうですか。では私の方で調べさせていただきます」
『え』
「ライバル会社とはいえ、色々と絡みもありまして四方八方に繋がりはあります。なのでライン一つで瞬時にわかりますから」
『ぐ……』
「でも仮にそれがハッタリだったら、どうしましょうかねえ」
ふふっとユキが鼻で笑う。
『いや、それは』
社長の声に、ありありと焦りの色が浮かぶ。
「では私、一旦この電話を切りまして、新年挨拶がてらゼネコン仲間へラインします。そして聞いてみますよ。どこが5倍の見積を出したかを。それから折り返しこちらからお電話いたしますので、価格交渉はそれからにいたしましょう」
『ヒイイーッ!』
スマホから社長の無様な悲鳴が響き渡る。
静かに佐野の背中をさする手とはうらはらに、ユキの言葉は辛辣だ。さながら悪魔の舌である。
「社長」
穏やかにユキが切り出す。
『何だね』
勝利は目前という声だ。
「もしよろしければ、五倍の見積を出したゼネコンさんの社名、教えていただけませんか」
ユキが佐野の背中を優しくさすりながら言う。
『いやあ、それは企業秘密ですよ。イッヒッヒ』
「そうですか。では私の方で調べさせていただきます」
『え』
「ライバル会社とはいえ、色々と絡みもありまして四方八方に繋がりはあります。なのでライン一つで瞬時にわかりますから」
『ぐ……』
「でも仮にそれがハッタリだったら、どうしましょうかねえ」
ふふっとユキが鼻で笑う。
『いや、それは』
社長の声に、ありありと焦りの色が浮かぶ。
「では私、一旦この電話を切りまして、新年挨拶がてらゼネコン仲間へラインします。そして聞いてみますよ。どこが5倍の見積を出したかを。それから折り返しこちらからお電話いたしますので、価格交渉はそれからにいたしましょう」
『ヒイイーッ!』
スマホから社長の無様な悲鳴が響き渡る。
静かに佐野の背中をさする手とはうらはらに、ユキの言葉は辛辣だ。さながら悪魔の舌である。
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