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第293話 すっかり演技が上手くなっている 

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「それで、金髪の男は二台の車に向かって何か怒鳴ってさ。すると両方の車から中年の男女がぞろぞろと降りてきたんだ。で、そのあとすぐに、金髪の男と車から降りてきた連中との間で、内容は全然聞き取れないんだけど、ものすごい怒鳴り合いの口喧嘩が始まったんだ」
「うわあ……そうなんですか。ちなみにその車から、どんな感じの人が、何人くらい降りて来たんですか」
 ユキが大げさに驚きながら、さりげなく詳細を聞く。
「一台につき四人。全部で八人。全員、いかにもって感じの雰囲気でさ。服は派手だし、髪は金髪だし」
 間違いなくレイナ一族だ。しかもこれは内輪もめだ。佐野は確信する。さらに男性は説明を続ける。
「それで、会社の前でしばらくの間、ギャアギャアと怒鳴り合っていたんだけど、ついにはその八人のなかの一人が金髪の男を突き飛ばして、その隙に八人全員が会社へ入っていったんだ。で、突き飛ばされた男もすぐに中へ入った」  
 では、男女八人もの『怖い人達』が何らかの理由で古山建設へ文句を言いに押しかけて来たってことか。恐ろしい。佐野の背筋が寒くなる。
「で、このあとすぐにパトカーが来て、間を置かずに救急車も来たんだ。そして今に至るんだよ。お兄さん方、あの会社に用事があるのかい? でも今は行かないほうがいいよ。あの車の連中、かなりヤバいよ。危ないよ」
 男性は心配そうにユキ達を見る。周りの人達も同様の表情で行くなと目で伝えている。
「それが……急ぎの用事なんです。どうしても担当者と打ち合わせをしなくてはいけなくて」
 わざとらしくユキは眉根を寄せる。
  佐野は、そんなユキを見て内心思う。去年、散々電話で大根役者プレイをしてきたお陰で、すっかり演技が上手くなっている――と。


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