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第323話 今のお前は、昔の俺

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「あー、やっぱり勘違いしてる……!」
 口をへの字にしたユキが、手で首の後ろをさすりながら大きなため息をつく。
「は?」
 佐野は、そんなユキの言動に戸惑い、右眉を上げた。
「俺の説明の仕方が悪かった。いや、もちろん、社内での会食や接待の席で古山建設時代の振る舞いをしたらケイも不幸だし、周りもびっくりするのは事実だ。でもな――」
 そこでユキは言葉を切り、卓上コンロのスイッチへ手を伸ばすと、クルリと回して火を止めた。
「このままじゃ、鍋物が佃煮になっちまう。で、俺が今夜、こんな小細工までしてケイに伝えたかったのは――いいか、鍋の火は消したから、安心してよく聞け」
 ユキは周囲を気遣い、声は極力抑えているものの、その語気はかなり強い。
「は、はい」
 佐野はこれに気圧され、神妙な面もちで耳をかたむける。
「あのな、まず先に言っておくが、俺の意図はだな――前の職場での不愉快な記憶を引きずったままの態度は、社内でひんしゅくを買って業務に支障をきたすおそれがあるからやめろとか、接待相手の心証を害して受注を取り損ねるのは会社にとって大迷惑だから今夜限りで頭の中から完全に消し去れとかっていうような、数字と業績しか追わない石頭のクソ上司の説教みたいな意味合いじゃないってことだ」
「はあ」
 佐野は、静かになった鍋を前に、肩を縮こまらせながらユキの説明に聞き入る。
「で、ここから本題だ。今のケイは、まさに昔の俺なんだよ。俺が昔つき合ってたあの男――Aに振り回されていた、あの頃の下僕思考の俺にそっくりなんだよ。そうなればもう先は見えている。誰とも対等な関係が結べず、いつまでも空腹を抱えながら、他人の鍋物のあく取りをさせられる人生になってしまうんだよ」
「……!」







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