かなり遅れたクリスマス～最悪な出逢いから始まる、人生の大逆転と恋の予感の物語

第３２２話 最終形態は、焼きうどんかもしれない

「なあ、ケイ。もしかして、何か激しく誤解をしていないか」
　ユキが困惑の表情を浮かべながら言う。
「え」
　佐野は作り笑いを止め、ユキを見る。
「ぶっちゃけ、俺の話をどう受け取った？」
「と、言いますと……？」
　いきなり何を言い出すのか。怪訝な顔で佐野は身を乗り出す。
「今の話、仕事とプライベート、どっちの方で解釈した？」
　ユキも佐野の方へ、顔を突き出す。
「それはもちろん――仕事の方です」
　今さらどうしてそんな質問をするのだろう。佐野は頭の中で首をかしげ、言葉を続ける。
「僕が社内の会食や接待の際に、元勤務先の記憶に取り込まれて、卑屈な態度をとってしまわぬよう、気持ちを整理させるために今夜の席を設定してくださったのかと」
「あー……」
　煮詰まりまくった鍋物の向こうで、ユキは困惑の色を消さぬまま、佐野をじっと見ている。
　一方の佐野は、そんなユキの様子に、自分の解釈はやはり間違っていなかったと、強く確信する。
「ですから――」
　佐野は改めて居住まいを正し、言葉をつなぐ。
「もし僕が現状のままであれば、社内でひんしゅくを買ったり、接待が失敗して工事の受注が取れなくなるおそれがあるので、そのような問題が起きる前に、田上課長が気を回してくださったのかと」
　恋愛感情がないのなら、それ以外に何があるのだ。佐野は、あくまで部下として理路整然と答える。
　そして、このままだと鍋にうどんを入れても汁は全部うどんに吸われてしまい、最終形態は、焼きうどんになってしまうだろうと、心の隅で思うのだった。