「バイセクシャル同盟」ーアンソロジー

読み切り

「裏社会の男と警察官の邂逅」

　疲れた灰色の都市が、人々の心を押しつぶす。巷には不穏な息吹が漂い、それぞれの運命が悲劇と陰謀の糸で結ばれていた。

　夜、古びた居酒屋の一角で、灯りが微かに揺れていた。警察官・加藤雅也は、日々の重圧と街の闇に押しつぶされそうになりながら、その居酒屋の扉を開けた。彼の目的は、かつての友・竜崎との再会だった。

　竜崎は裏社会で名を馳せる男だ。暗い過去と疑惑が彼を包み込んでいたが、加藤にとってはかつての親友であり、逮捕するべき相手だった。

「竜崎」と呼びかける加藤の声が、居酒屋の奥深くに響き渡った。すると、暗がりからひとつの影が立ち上がり、竜崎の姿がそこにあった。彼の目は昔と変わらず、悲しみに満ちていた。

「加藤、お前か。久しぶりだな」と竜崎は言った。その声には、昔の親しさと同時に、何か不穏な影が漂っていた。

　居酒屋の隅で、警察官と裏社会の男が、運命の歯車が巡り合わせた再会を果たした。二人の間には、まだ解き明かされぬ謎が漂っていたが、それでも彼らは過去の絆を忘れることはなかった。

「竜崎、覚えてるか？あの学生時代のことを」

　加藤の声は静かな喜びを含んでいた。二人は古びた居酒屋の片隅に座り、古き良き時代を回顧していた。

「ああ、あの頃はな。学生寮の一室に詰め込まれて、予算不足でイモばかり食べてたな」と竜崎が笑った。

　加藤も笑いながら頷いた。「そうだな。でも、それが楽しかったんだろ？あのときはお互い未来に夢を見てたよな」

　竜崎の目にも、懐かしい思い出が宿っていた。「そうだな、加藤。お前が『警察官になる』って言ってたこと、今でも覚えてるぞ」

「お前も『大きなことを成し遂げる』って、何度も言ってたじゃないか」

　二人はかつての夢や抱負を振り返り、若かりし頃の希望と友情を共有していた。居酒屋の中で、時が止まったような静寂が広がった。

「まさか警察官と裏社会の男がこんなところで再会することになるとはな」と加藤が言った。

「お互いの人生は思いもよらぬ道を歩んだな。でも、それでも昔の絆は変わらない」と竜崎が微笑んだ。

　昔話の中で、彼らの間にある溝や違いは見え隠れするものの、彼らの絆は時を超えてなお強固なものであることを示していた。しかし、その雰囲気を変える噂を加藤は話し始めた。

「竜崎、俺が知っている限りで、警察がお前の組織を潰す動きをしているんだ」

　加藤の言葉が重苦しい雰囲気を作り出した。竜崎は驚きを隠せず、眉を寄せた。

「なんだと？そんなことが…」

「上がきめたことだ。もう手遅れなんだ。でも、俺はお前と一緒に逃げようって考えてるんだ」

　竜崎の表情には、驚きと同時に混乱と悲しみが浮かんでいた。

「南米で新しい人生を築こう。あの地には俺たちの知らない世界が広がってるはずだ」

　加藤は深い決意を込めて語りかけた。竜崎はしばらくの間、口ごもりながらも考え込んでいた。

「南米か…」

　竜崎の声は静かだったが、心の奥に希望の光が灯ったようにも感じられた。

「俺もそうしたい。もうこの街じゃお互いに幸せにはなれないんだろう」

　加藤の提案に、竜崎は同意する。彼らは新たな旅路を共に歩むことを決断したのだった。

　南米の夕暮れ、色鮮やかな夕焼けが空を染めていた。加藤と竜崎は、新天地での生活を謳歌していた。



　緑豊かなジャングルの中にある小さな村に住み、地元の人々と親しく交流しながら、二人は新しい生活に慣れていった。彼らは街の喧騒とは違う、静かで豊かな自然の中で自分たちの内なる平和を見つけた。

　加藤は地元の子供たちに警察官としての経験を教え、竜崎は村人たちとの交流を深めていた。彼らは過去の過ちを超え、新たな人生を切り開いていった。

　夜、星が輝く南米の空の下で、二人は屋外で食事を楽しんでいた。音楽が流れ、地元の料理がテーブルに並び、彼らの笑顔が幸せと満足を物語っていた。

「竜崎、これが本当の自由だな」と加藤が言った。

　竜崎は満足そうに頷いた。

「そうだな。こんな風に生きるのも悪くない」

　二人は新しい友情と、南米の風景と文化に囲まれて、新たな人生の第一歩を踏み出していた。