上 下
37 / 45
Stage3 敵か味方か

story37 想像を絶する世界

しおりを挟む
「警察が機能してないのは分かったけど、どうして私たちが行くことになったの?」
 
 色々な疑問が頭に浮かぶなか、ネリの顔色を伺いながら一番疑問に思っていることを尋ねる。
 
「リーダーと他にも数人、武装集団の中にサイキックがいるという情報が入ったそうだ。場合によっては仲間に引き込むから、捕らえてこい、と上からは言われている」
「そうなの? でも、犯罪者なんだよね? それなのに仲間に引き込むの?」
「リンレイの例がある」
 
 だからこそやめておいた方がいいんじゃないかと思うのは、私だけ?
 
「不安しかないんだけど。その人たちが仲間にならないって言ったらどうするの?」
 
 一応宇宙人との戦いに協力すれば大金がもらえることになっているけど、犯罪組織に近いことをしている人たちが素直に従うのかな。だって、無事に戻れるかも分からない戦いで人の命令に従うよりも、好き勝手犯罪できる今の状況の方がいいだろうし。好き勝手かどうかは分からないし、彼らの考えてることは分からないけど。
 
「その場合は分からないが。とにかく一度研究所に連れてこい、とのことだ」
「そう簡単に言うけど、相手はどんな能力を持っているのかも分かんないんでしょ? それに、サイキックじゃない人も武装してるんだよね。そんなに上手くいくのかな」
「相手は改造手術も訓練も受けていない。実力で言えば、俺たちの方が上であるはずだ。
油断は禁物だが、俺は十分に任務を遂行することは可能だと考えている」
 
 そうなのかなぁ。研究者の人たちは実際に戦うわけじゃないのに、簡単に捕らえてこいとか言われるとなんか嫌だな。戦うのは私たちなのに、ずいぶん気軽に言ってくれるけど、そんなに簡単なことじゃないのに。
 
 まあ研究者の人はひとまず置いておくとしても、ネリもいつもと違うような気がするな。
 
 いくら勝ち目があるからといっても、さっきのは慎重派のネリにしては珍しい発言だった。いつものネリだったら、もう少し色んな可能性を考えそうなのに。
 
 まるで自ら戦いに行きたがっているように感じる。気のせいかな?
 
 *
 
「もうそろそろだ」
 
 なんだか腑に落ちないまま黙りこんでいたけれど、ネリの声でハッとして顔を上げた。
 
 相変わらず千明はぐっすりと眠っている。いつまで寝る気なのかな。
 
 眠っている千明から視線をそらして車の窓から外を見ると、ずいぶんと田舎に来ていた。
 
 舗装されていないあぜ道に、建物どころか民家もほとんどない。それから、茶色く枯れた草がバサバサと揺れているのが見えた。だいぶ風が強そうだな。
 
 枯れた草以外には、なんにもない道。この近くに村があるということだけど、農作物も何も育ててないのかな?
 
 私は日本では東京の郊外でギリギリ都会と言えるとこに住んでたけど、農家をやっているおばあちゃんは、ほとんど人も建物もないかなりの田舎に住んでいる。そこはなんにもないけど、山も川もあるし、田んぼがずーっと続いている風景にはいつも癒されてた。
 
 でも、ここは……。緑も作物も何もない、ずいぶんと寂しい場所だ。窓の外は寂れていると言ったら失礼だけど、全体的に茶色の殺風景が続く。
 
 学校もスーパーも病院も、何もない。 
 ここまで田舎だったら、車がないと絶対不便なのに車が走ってる様子もない。
 
 ここに住んでいる人たちは一体どうやって暮らしているんだろう。
 
「何もないね。学校とか買い物とか行くの大変そうだよね」
 
 そっとネリの顔を伺えば、相変わらず固い表情をしていたけれど、なぜか今はどこか苦しそうに見える。
 
「この辺りに学校に通えるような金のある家はないし、そもそも村には学校を建てる金もない」
「えっ?」
「枯れた土地で育つ作物もなく、村には仕事もない。ほとんどの男たちは町に出稼ぎに出て、残った女子供は痩せ細った野生動物を狩って生活する。
残った男たちも武装して、貧しさゆえに奪い合う。ここは、生活レベルも治安も最悪だ」
 
 想像を絶する世界。それで警察も役に立たないなら、もう無法地帯なんじゃない?
 
 田舎は犯罪も少なくて、ほのぼのしたイメージがあったけど、そっか。そうだよね。
 ここは日本じゃなくて、アフリカでケニアなんだ。
 
 ナイロビも相当治安悪いけど、田舎は田舎でまた別の意味で壮絶。
 
 学校にも通えなくて、明日の食べるものもない生活。どこかでそんな暮らしをしている人たちがいることは知っていたけれど、宇宙人との戦いとはまた別の意味でそれは私の今までの生活とはかけ離れ過ぎていて、正直他人事のように感じてしまっていた。
しおりを挟む

処理中です...