公女は祖国を隣国に売ることに決めました。

彩柚月

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前編

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「婚約解消だ」

「…は?」

何を言われたのかわからなかった。今日も王子妃教育をこなして、第一王子リチャードとの午後のお茶の時間に参内した私に、挨拶を制され、もちろん席につくことも許される前に、そう言った。

「聞こえなかったか?ロザリア・カートレット。お前との婚約を解消する。」

なぜかわからないけれど、毛が逆立つような感覚がする。とんでもなく強い不安を感じているのだと自覚しながら、必死に表情を取り繕う。ああ手が震えているわ。

「…理由をお聞かせください。」

「お前と夫婦になりたくない。それ以上の理由が必要か?」

「当然でございましょう?私達の婚約はお遊びではないのです。王陛下やわたくしの父はご存知なのですか?」

「まだだ。だが事後報告で良いだろう。本人達が嫌だと言っているのに無理にくっつけたりはしないはずだ。そもそも婚姻とは2人で支え合い、家族を作っていこうという約束のはずだ。お前とは支え合えると思えない。家族になれない。なりたくない。」

「なりたくないなどと!私達の婚姻は好き嫌いで決めて良いものではありません。いずれ王と王妃として立つために教育を受けてきたのです。ご自分でもおわかりになられているではありませんか。約束です。私達と私達の家とその家族と…そして、この国に誓った約束です。」

「そんな約束、私自身はした覚えはない。」

「わたくしにもありませんわ!ありませんが、そう決められたのです!それを遂行せねば、私達は国を裏切ったことになります!それに、王族にとって家族とは国民全ても含むはずです。私と家族になりたくないなんて。国を出ろと仰せなのですね?」

「そこまでは言っていないが。お前も好む相手と婚姻すれば良い」

もう何も言ってもダメだとわかりながらも、悔しくて悲しくて、どうしようもない激情が湧き起こってくる。

「わたくしの10年を否定なさるのですね。」

「私の10年も無駄にしたんだ。お互いさまだろう。」

「…は?」


お互いさま?わたくしがこのポンコツ王子の尻拭いにどれほどの労力を費やしてきたか!それをお互いさま?

わたくしだけではない。生家のカートレット家もどれほどの支援を王家にしていると思っているの?

…いいわ。もうこんな王家を戴くことはできない。

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