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25 自分のお通夜を覗き見る
しおりを挟む僕は顔を洗って、帽子をかぶって、宿を出ようとした。広めの玄関を出ようとした時、不意に後ろから、宿のおじさんが声をかけてきた。
「なあ、蓮……蓮だよな?お前、あっちの……いや、何でもない。これからのこと、よく考えろよ。」
「——?はい。しばらくお世話になると思います。」
人に顔を見られないように、気をつけて自分の家に向かった。
裏の塀をよじ登って、敷地の中に入る。陰からリビングの中を伺う。どうやら、陽葵と瑠奏が挨拶をしているのが見えた。どうやら、奥の和室で通夜をしているようだ。
カーテンが閉められていて、声しか聞こえない。挨拶されるたびに、挨拶を返しているのは両親だろう。陽葵と瑠奏が挨拶をした時には、母親が声を出して泣くのが聞こえた。父親も声を殺して泣いている。
それを聞いて、心が痛んだ。残してきた、本当の両親も、こんな風に悲しむのだろうか。陽葵もこんな気持ちを味わったに違いない。
「そりゃ、戻るって選択になるよな。」
呟いてから、中から瑠奏の大泣きする声が聞こえた。
「瑠奏ちゃん、瑠奏ちゃん!」
両親が慌てている。瑠奏が気を失ったのだろう。バタバタと音がして、父親が送って行ったようだ。陽葵も帰されたな。僕もそろそろ宿に戻ろうとした時に、母親の声が聞こえた。
「どうして……蓮が居ないなら、お母さん、もう生きていたくないよ。」
泣きながらそう言う母親に、どうしようもなく心が締め付けられ、思わず部屋に入ろうとした、その時、
バキッバキバキバキバキミシッ!
ものすごい大きな音がした。
カーテンの掛かっているガラス戸にかけようとしていた手を引っ込めて、思わず空を仰ぐと、何かキラキラするものが降ってくる。
キラキラしたものは、形も手触りもなく、中で振って宙で消えていく。
「何だこれ?」
そう思うのも一種、ギョッとした。
何故か、見える世界がひび割れている。
——タイムパラドックスによる衝撃?
そんな考えが頭をよぎった。
いるはずのない僕が、この世界の僕に近寄ろうとしたことで時空間に歪みが起きたのかもしれない。
いや、原因はそれとは限らない。そもそもマルチバースの考え方では、それぞれの宇宙は独立しているのだから、互いに干渉することはなく、だから衝突することもないはず。
——なのに、僕がここに居るから、壊れ始めた?
でも、陽葵が向こうにいた時、世界には何も異変はなかったはずだ。それとも、陽葵にだけは異変が見えていたのか?
いつか、何処かで見た外国のドラマを思い出した。そのドラマでは、マルチバース同士がぶつかり干渉が行われると、その質量の差により、少ない方が壊れるというものだった。
陽葵は、あっちの世界にいたから、干渉が行われ、かつ、陽葵の分だけ、ここの世界の質量が少なくなっていたということ。
多分、陽葵が移動した時に、こっちの世界の質量が減って、一部が割れた。それでも何とか修復作用が働いていたのに、そのひび割れを通ってくることで、ひびをこじ開けて広げてしまった。今度は僕がこっちへ来たことで、こっちの質量が大きくなったものの、ぶつかり合っているなら、質量に関係なく、一度割れた方が弱い。
つまり、この世界が壊れる?
さっきの音は、世界が千切れる音だ。
直感的にそう思った。
急いで、みんなをあっちに移動させなくては、と思った。
陽葵を連れて、瑠奏も呼んで、父や母も、声をかけられる人をなるべく多く、あっちの世界に移せば、移った人はきっと助かる。
——でも、それ以外の人はどうなる?
僕に、残りの人を見殺しにする権利はない。黙っていれば誰も知ることはないにしても、それを見届ける勇気があるのか?
「ないな。」
自嘲気味に笑って、僕は宿へ戻った。
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