笑わないこけし

バルス

文字の大きさ
5 / 8

第四章:こけしの森の奥

しおりを挟む
健太が「こけしプレイ」を初めて要求したのは、  
7月17日、金曜日の夜だった。  

彼は、玲子のアパートに招かれていた。  
部屋は、静かで、白い壁に、小さな絵画が1枚。  
テーブルには、2つのグラスと、小さなボトルの赤ワイン。  

「今日、ちょっと、特別なことを、してみたいと思って……」  
健太は、そう言って、バッグから、小さな箱を取り出した。  
それは、千夏が見せたのと同じ、赤い布で包まれた箱だった。  

「……これ、何ですか?」  
「こけし。  
——ただのこけしじゃない。  
俺が、『笑いの要素』を入れた、オリジナルのこけし。」  

玲子は、一瞬、目を細めたが、  
すぐに、静かに頷いた。  

「そうなんですね。  
……いいですよ。」  

健太は、心の中で、勝利の鐘を鳴らした。  
「この女は、俺の支配を受け入れた。  
——俺の、最後の観客が、俺の、最後の演技を、  
完璧に受け止めてくれた。」  

彼は、箱を開けた。  
中には、さるぐつわ、レザーバンド、そして——  
白いマスクの他に、小さな、笑顔の描かれたこけしの顔が、  
小さなピンで留められた、黒い布のマスクが入っていた。  
そして、もう一つある物…

「これ、笑顔のこけし。  
でも、笑わないでね。  
——笑うのは、俺だけ。  
あなたは、ただ、そこに、座っていればいい。  
——俺の、観客として。」  

玲子は、黙って、マスクを受け取った。  
そして、ゆっくりと、顔に装着した。  
その瞬間、彼女の表情は、完全に消えた。  
目だけが、黒い布の穴から、静かに、健太を見つめていた。  

健太は、その目を、じっと見つめた。  
その目には、恐れも、怒りも、悲しみも、なかった。  
ただ、  
ある種の、冷徹な観察が、静かに満ちていた。  

彼は、それを、「従順」と解釈した。  

「いいね……  
——これこそが、俺の、最終形だ。」  

彼は、玲子の手首と足首を、レザーバンドで縛った。  
その手つきは、丁寧で、どこか、儀式的だった。  
「俺は、あなたを、傷つけたくない。  
だから、これは、『愛の表現』なんだ。  
——俺の、愛の、笑いの、支配の、全てが、ここにある。」  

彼は、そう言いながら、玲子の口に、さるぐつわを装着した。  
その瞬間、玲子の目が、わずかに、瞬いた。  
だが、それは、健太には、「満足の瞬き」として映った。  

「いいね……  
——もう、俺は、滑らない。  
俺は、今、完全に、支配している。」  

彼は、そう思い、玲子の髪を、優しくなでた。  
そして、彼女の耳元で、囁いた。  

「あなたは、しゃべらなくていい。  
——ただ、俺の観客として、そこに、座っていればいいんだ。」  

玲子は、黙って、頷いた。  
その頷きは、どこか、静かに、そして、  
彼の支配を、まるで、実験の対象のように、受け入れているように見えた。  

そして、彼は唾を飲み、カバンからもう一つ、紙袋に入れたものを取り出した。

それは本物のこけしだった。

「これをあなたの乳首の先端にゴリゴリ押して良いですか?」

玲子ははっとした。
「え…?そんなもの押し当てたら乳首がへこみます!」
いつもより少し低い声だった。

彼は笑った。あはは

「乳首が凹むには笑った。あなたがそう言うならもう大丈夫です。OK。
笑った笑った。」

しかし、健太は、本物のこけしは諦めたが、
その夜、玲子のアパートで、
3時間、彼女の「こけし」状態を観察し続けた。  
彼は、その姿を、何度も、スマホで撮影した。  
そして、その写真を、自分のスマホの壁紙に設定した。  

「俺は、今、本当の芸人だ。  
——舞台の上じゃなくても、  
俺は、今、誰かを、笑わせている。  
いや、笑わせているんじゃなくて……  
——笑わせないことで、支配している。  
それが、俺の、新しい笑いだ。」  

彼は、そう思い、満足した。  

そして、その満足が、彼の崩落の始まりだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父が喜んでくれた絵

バルス
大衆娯楽
この小説のヒーローは父親ですがみなさんにこんなヒーローになれますか? ちなみにこの小説は介護の話のほっこり小説です。 これもAIで勝手に佐伯真紀子さんって名前がついたのですが私個人でその名前に問題があったので(真巳子まみこ)さんにしました。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

乳首当てゲーム

はこスミレ
恋愛
会社の同僚に、思わず口に出た「乳首当てゲームしたい」という独り言を聞かれた話。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

処理中です...