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9.蒼(2)
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乗り換えた電車での数十分は最悪だった。
護王はさっきと同様、正面に陣取ったものの、洋子さえ見ない。村上については完璧に無視だ。村上は村上でそういう護王の態度を面白がっているのか、他愛ない話を思わせぶりに洋子に接近してもちかけてくる。その一言一言に護王は全身を耳にして聞き入っている。緊張した空気は視線を向けてこなくてもぴりぴりと周囲を圧倒する。
駅についたときには洋子は心底疲れていた。
(まいったなあ…)
これなら緊急患者を二人掛け持ちしたほうがましかもしれない。
溜め息をつきながら荷物を引きずり降ろし、さっさと立って離れていく護王の後を追った。
「見事に嫌われましたね」
村上はくすくすと笑って、またこれみよがしに洋子の荷物に手を伸ばす。
「持ちましょうか?」
「結構です……あの」
「はい?」
「わざとやってます?」
「ええ、多少は」
村上は眼鏡の向こうで人の悪い笑みを見せた。
「まあ、いささか嫉妬半分とでも」
「は?」
「いや、いいんですよ。洋子さんに気を遣わせて悪かったですね」
洋子さん、を丁寧に発音しておくあたり、前を行く護王の気配がまた一層険しくなるのを見定めた顔で、村上が笑みを深める。
「できたら…やめてほしいんですけど」
洋子は声をひそめた。
「あの、私と護王って…その…そういう関係、でもないですし」
一瞬胸を走った切なさを振り切る。
「護王にはきちんと、なんて言うのか、ここで待ってる人がいて」
洋子がそう言い終えた矢先、自動車のクラクションが鳴った。
「護王! 姫さん!」
「綾香!」
数人の乗客が降りたひなびた桜里の改札を抜けた向こう、駅前の小さな広場に白い車が止められている。運転席から顔を見せているのは綾香の姿だ。
「迎えにきちゃった」
へへっと舌を出した綾香は目がさめるようなサーモンピンクのニットを身につけていた。車を降りて駆け寄ってくると、寸分のためらいもなく護王に飛びつく。荷物を手にしたままの護王が両手を広げてそれを受け止め、一瞬ちらっと洋子を見た。
「?」
「助かったで、綾香」
きょとんとする洋子の視線を確かめるような目つき、それからふわっと微笑して綾香に向き直る。
「バス待つの、たるいなーて思てた」
「やっぱり、そう?」
綾香は嬉しそうに笑い返した。
「中途半な時間やったし、護王、困るやろう思たん。そないに喜んでもらえて嬉しなあ」
すりすりと護王に体を擦り寄せる。
(ああ……幸せそうだ)
早くも暮れ始めた夕方の光景の中、お互いに再会を喜ぶ二人を洋子はぼんやりと見た。
(綾香も護王も笑ってる)
あれほど電車の中ではぴりぴりと苛立っていたのに。
「あれ…は?」
村上があやふやにつぶやいて、洋子は我に返った。相手を見上げて、珍しく驚いた顔で綾香を見ている村上に笑いかける。
「ああ……彼女、大西綾香さんです。綾子の双児の姉妹で……」
引っ掛かりかけたことばを必死に押し出した。
「『かおうしづめ』の巫女さん役の……『姫さん』です」
「荷物、貸して、のせるし!」
嬉々として護王の手から荷物を受け取り後ろのトランクに入れる綾香、きれいな微笑を浮かべながらそれを見守る護王に、同じように微笑んで続ける。
「護王を待ってた人です」
ずき、とやっぱり胸が痛んだ。それでもことばが途切れずに済んだことにほっとする。
「ああ……そう……彼女がそうですか……いや…それにしても……似てる……綾子さんに似てますね」
村上はつぶやいて、ふと視線を洋子に戻した。
「どうかしましたか?」
「え」
「何か……」
「姫さーん、それに、えーと、村上さーん?」
綾香が明るい声で呼びかけてきて村上のことばを遮った。
「はよ行こうな、日が暮れてしまうし!」
護王と同じ言い回しのことばが一気に洋子と護王の距離を開けていったような気がして、洋子はぼんやりと笑った。
桜里は車で道なりに数十分、なお山の方へ入らなくてはならない場所にあった。
「まあ、どうぞどうぞ、ようこそおいでくださいましたなあ」
現在の里長、つまりは町長のような役目をしているのが大西康隆、綾香の父親だ。
集落の奥まった山寄りの場所に広々とした地所を囲い、里の本道がまっすぐそちらへ通じるような村の造りに大西家の隆盛が見て取れる。
「谷崎署の村上さん、それに、葛城、洋子さん、でしたかなあ。綾子がずいぶんとお世話になったそうで」
招き入れられたのは母屋の一室、こじんまりと設えてはあるものの、ほぼ一畳分はありそうな一枚板の机を据え、なおゆとりのある間は十五畳ほどもあるか。家具らしいものが置かれていないだけに余計に広く感じる。
床の間を背に主の康隆と妻の路子、綾香が座り、護王は自室を与えられていると早々に荷物を持って立ち去った。大西一家と向かいあっているのは村上と洋子の二人だけだ。
「『かおうしづめ』は一週間もすれば始まります。それまでどうか、ごゆっくりと滞在なさってください。お二人の部屋も用意させてもらってますしな」
「恐縮です」
村上がやんわりと微笑して受けた。
「私も所轄と連絡を取って差し出たことはしないよう言い付かってきてはいるのですが……状況が状況ですから」
「日高…ですな?」
康隆は太りぎみの体からふう、と重苦しく息を吐いた。
「わしらも困っとるのですよ。あの家は先々代から桜里を離れとりましてな、こちらはとうに縁が切れたものと思っておりました。まあ、去年に『かおうしづめ』で姿を見たという者もおりましたが…さて、何のために里へやってきていたのか……電話でもお話ししたとおり、皆目見当つかんのですよ」
(ああ、その電話だったのか)
いささか嫌味ったらしい康隆のことばに、村上は依然動じた様子もなかった。
「日高を逃がしたのは谷崎署の……まあ、私の失態です。全力をあげて捕縛するつもりですので、どうか御安心を」
村上が続けたことばにぎくりとした。
日高が逃げたのは知っているが、詳しい経過は知らされていない。ましてや、それが村上がらみだとは思っていなかった。考えてみれば、確かに今回の村上の介入は警察の動きとしては異質だろう。
「まあ、よろしゅうにお頼申します。…おい、おい!」
「はい」
ふ、と廊下側の障子に影が映った。
「お呼びですか」
軽い音をたてて障子が引かれる。控えていたのが護王と気づいて、洋子は呆気に取られた。
「お客さまをお部屋へご案内してんか」
「わかりました。どうぞ、こちらへ」
「え…え…?」
康隆に命じられ、さもそれが当然のように、護王が縁側に控えたままで軽く頭を下げる。
「洋子さん」
「あ、はい」
村上がそれとなく促してくれて、ようやく我に返り慌てて立ち上がると、康隆が機嫌よく声をかけてきた。
「まだ潔斎には入っておりませんので、今夜はおもてなしさせて頂きます」
「あ、ありがとうございます」
頭を下げて部屋を出ると、護王は黒の長袖Tシャツ黒のジーンズといういつもの格好で、目を伏せて正座している。村上と洋子が部屋を出てしまうと無言で障子を閉め、立ち上がってくるりと向きを変えて歩き出した。
「ふうん」
村上が小さく吐息をついてつぶやいた。
「君はここでは大西家に仕えるもの、なんだね」
ぴく、と軽く護王の肩が強ばったようだが、それ以上反応する様子はない。静かな歩みも変わらない。
「客人が来ても同席させられないという立場?」
「…」
なおも煽るような村上の口調に、突然護王が立ち止まった。肩越しに振り返る黒い瞳は冷ややかに澄んで表情一つ動かない。端然と村上を凝視する。
「あ…あの…」
「…言うとくけどな」
気まずい雰囲気に間に入ろうとした洋子を無視して、護王は淡々と続けた。
「俺を挑発しても無駄や」
落ち着いた声音は普段の護王から考えられないほど感情がない。
「ここでの俺は、あんたが言うように、大西家に仕えるもの……桜の、護王、やからな」
(大西家に仕えるもの…)
意味に気づいて、洋子は思わずことばを呑んだ。
(桜の、護王)
それは『姫さん』の護り手だということに他ならない。『姫さん』以外の誰も選ばないという意味に他ならない。
(他には、誰も)
大きな裂け目がいきなり二人の間に口を開いた気がした。
洋子の思いを裏付けるように、護王が吐き捨てた。
「大鷹省吾は…ここにはいない」
「なるほど」
村上も負けてはいなかった。
「じゃあ、僕は安心して洋子さんと祭礼を楽しんでいいわけだね?」
ちか、と凶暴な光が護王の瞳の奥に灯ったが、すぐに幻のように消え去った。顔色一つ変えずに、近くの障子を開く。
「ここがあんたの部屋や……好きにしたらええ」
(好きにしたらええ)
それが部屋のことなのか、自分の扱いのことなのか量りかねて護王を見ると、相手は平板な瞳で洋子を見返してくる。
「こっちや」
洋子が口を開く前に護王は再び背中を向けた。
「あんたの部屋はこっちにあるし」
「あ…うん」
そっけなく歩き始める護王に慌てて付き従う。やがて村上の部屋から数部屋離れた一室の障子を護王は開いた。
「ここや」
そこは八畳ほどの間だった。小さいけれど床の間があり、違い棚には重みのある青い一輪挿しが飾られていて、桜が一枝生けてある。ふすまにも桜が各々に薄墨で描かれており、隅に文机が置かれていた。文机の上にも細い桜の枝が数本、淡い紫の紙の上に花弁を散らせて載せられている。
「きれい…」
思わず洋子は文机に近寄った。荷物を置き、屈み込んで桜の枝を取る。ふっと一瞬視界がピンク色の渦に巻き込まれた気がして無意識につぶやいた。
「これ……あの…桜…?」
「気に入ったか?」
たん、と背後で障子が鳴った。振り返ると、部屋に入り込んだ護王が後ろ手に障子を閉め、夕暮れの紅を背負って影になっている。部屋には灯が入っていなくて、障子を閉め切るとさっきの部屋より数段暗いのは、それだけ日が落ちたということだろう。
「この部屋は桜づくしの部屋やけど」
さっきまでの冷えた声が打って変わって掠れて響いた。影になっている護王の表情は見えないが、気遣うように首を傾げる。
「あんたは生きた桜が好きやろうから」
「ああ…」
洋子は思わず微笑んだ。着いて早々、姿を消した護王が何をしに行っていたのか気づいた。
「この桜、護王が用意してくれたんだ?」
「……気に入ったんか…?」
さっきより低くためらったような声が尋ねた。
「うん…ありがと…うれしい」
洋子はそっと桜を抱いた。いずれ綾香に返さなくてはいけない人だけど、里に入ったとたんに対応が冷ややかになりはしたものの、それでも護王はやっぱり優しい。
(それでいい…それで十分だよね?)
「姫さん……」
「ん?」
「あいつ…」
背後で障子をぴったり押さえたまま、護王がつぶやいて、洋子は顔を上げた。気持ちが甘くゆるんでいる。薄紅に灰色がかった空気の中、静まり返った部屋に、今にも途切れそうな声が問いかけてくる。
「……村上のこと……気に入ったん、か?」
「え?」
「……俺より……あいつの…ほうが…ええん…?」
「は?」
余りにも意外な問いかけに戸惑ってると、護王が低く押さえた声で嗤った。
「そやな……そやろな……あいつは……大人やもんな…」
「護王?」
「いきなり…襲たりせえへんし……? 違うか……襲われても、ええんやんな……好きな相手やったら…?」
「ちょっと、何を…」
混乱して口を挟みかけた洋子に、ふいに叩きつけるような激しさで、
「そやけど……姫さんは…っ!……俺の…俺のもんに……なってくれたと……」
終わりの方はみるみるうなだれてしまった様子で頼りなくつぶやく。
「心は……ちごた…んか…」
「護王、いったい何を…」
「洋子さん?」
「!」
反論しかけた洋子の声を絶妙のタイミングで障子の向こうから響いた声が遮った。
「ちょっとお話があるんですが。日高のことで」
びくっ、と護王が背中から熱湯をかけられたように振り返った。一瞬外からの光に照らされた護王の目許に何か煌めくものが零れたと見えたが、洋子に背中を向けたままで障子を開ける護王の姿にたじろいだ気配はない。開かれた障子の向こうから、村上が部屋を覗き込んでくる。
「おや…お邪魔でしたか」
「なんのことや。変なこと言うて絡まんといてくれ」
言い捨てて護王は村上と入れ代わりに部屋を出て行きながら、
「姫さんを、誰がどうできる、言うねん」
嘲笑った。
「ええ加減に扱こうてくれるな、桜の姫やぞ」
「心得ているよ」
村上が平然と応じて護王は眉をしかめた。後はもう、洋子を振り向くことなく障子の向こうに姿を消した。
どうせだから、外に出ましょう。
そう誘われて、洋子は村上と一緒に祭礼の主神だという桜を見に行くことにした。
護王が何かを勘違いして思い詰めているのも気にはなったが、桜を見に行きたいと康隆に申し出てみれば、護王は綾香と睦まじく庭で話している最中、綾香を食いつきそうなほど真剣なまなざしで見つめている護王というのは、わかってはいても胸に堪える。
結局護王には黙って出てきてしまった。
空は青紫に染まりつつある。日が落ちていけば、山間の里はあっという間に宵闇に包まれていく。ところどころに灯る民家の明かりが次第に光度を増してくる。
(ずっと前に……こういう光景を見た…ような…)
暮れる日の中をとぼとぼと山に向かって歩いていたような気がした。ただ、もっと辺りは暗く侘しかった。もっと孤独で一人だった。
(それともあれは夢だったのか)
「気になってたんですが」
「はい」
側を歩く村上にそっと問いかけると、相手は洋子が何を聞くのか知っていたように、まっすぐ前を向いたまま応じてきた。
「さっき、所轄と連絡を取って、とおっしゃってましたよね?」
「ええ、そうです」
「あの……私、警察組織には詳しくないんですが……もし、こういう殺人犯人が逃げたとして、それが他の県に逃げ込んだとしたら、本当はまずそこの県警とかが動くんじゃないですか? えーと…少なくとも、もし逃がした方が追い掛けるにしても、もっと公的に追い掛けてくるんじゃないかと……」
村上が曖昧に微笑んだ気配があった。
「と言いますと?」
「あの……何だか……村上さん、警察らしくないっていうか」
「手帳は見せましたよね?」
「ええ、はい、あの、でもそういうことじゃなくて」
ふ、と唐突に肩を抱かれて洋子はぎょっとした。
「あなたは賢い人ですね?」
「む、村上さん?」
「あたり、ですよ。僕は今警察官でも刑事でもないんです」
「は…?」
きゅ、と洋子の体をもう一度確認するように抱き締め、村上は洋子の髪に顔を埋めてささやいた。
「僕はね、日高を逃がした、から」
「!」
洋子は思わず立ち止まった。それをきっかけにしたように、村上が洋子の体を離す。その村上から一歩離れて、洋子はまじまじと相手を見つめた。
闇はどんどん濃くなっていく。村上の優しげな微笑が曖昧さを深めていく。
「あの…今、日高を逃がした、とおっしゃいましたか? 村上さんが、日高を、逃がした、と?」
問い直してその告白の重大さに身震いした。
「はい、そう言いました」
村上は微笑を崩さないまま、むしろ微笑を広げながらうなずいた。
「警察官失格ですよね?」
「いや…そういうことではなくて」
頭の芯がくらくらするような思いで、相手の無邪気にさえ見える微笑を見つめた。
全く悪気がないように見える。むしろ当然のことをしているという自信さえ見える。裁かれるべき罪を背負った殺人犯を逃がして、洋子の安全を脅かしておきながら、それに罪悪感一つも感じていないように見える。そしてなお恐ろしいことに、そういうことがわかっていても、村上は十分穏やかで優しい人間に見えた。
「なぜです?」
一瞬、外におびき出したのは自分を殺すためだったのか、と洋子は思った。
(でも、たぶんそうじゃない)
洋子を殺すつもりなら、殺せる機会がいくらでもあった。第一、村上が洋子を殺す理由がわからない。いや、何よりもまず、村上が日高を逃がし、また追い掛けている理由がわからない。
嵯峨の手紙を持ち出してきた時から既に警察官としては逸脱している。けれど、あのとき、怯え竦んでいた洋子を村上は放り出さなかった。今回も日高を逃がした一方で、洋子の警護に気を配ってくれているのは、動作の端々に感じ取れる。
「日高、貴司、という男はね」
村上は声にひんやりとしたものを滲ませた。
「五年前にも人を殺してるんですよ」
「五年前?」
「殺されたのは僕の妹、村上詩織、当時ニ十一歳でした」
(殺された、妹)
どきん、と胸が強く打った。あやこの姿が一瞬にして呼び戻されて重なり、視界が暗くなる。
「日高がニ十ニ歳。同じ医学部で人の命を助けるために学んでいる学生として、同じクラブで音楽を愛する仲間として付き合っていた……少なくとも、僕はそう思っていたんですが」
村上は淡々とした声音で続けた。
「日高にとっては、欲望処理の道具だったようです……歩きましょうか……真っ暗になっては桜が見えない」
くるりと洋子に背中を向けて促す。このまま一緒に居てもいいものかどうか、一瞬迷った。が、村上の異様に平たんな口調にはどこか危ういものがあって、一人にするのもためらわれた。看護師として幾度も見て来た、崩壊するぎりぎりの際に立っている人のような。
少し足を速めて、先を行く村上の横に並ぶ。
「妹は将来の付き合いを望んでいました。けれど、お互いに仕事をやっていくことも楽しみにしていた…もし、日高が妹を振ったのなら、それで詩織は引いたでしょう。でも、日高はその手間を惜しんだ」
風が吹き寄せてきて、村上の髪を乱した。ノンフレームの眼鏡にかぶさる髪をうるさがる様子もなく、村上は静かにことばを継いだ。
「たったそれだけのことを、それっぽっちのことを話す手間を、あいつは惜しんだ」
不安定ないら立ちが声に滲んだ。
「その日は詩織の誕生日でした。しばらくデートの間があいていて、久しぶりのドライブにでかけるんだとはしゃいでいた。朝に出かけて夜十時を回っても帰らない。僕はシスコンですから、日高の家に確かめました。すると、家に日高がいて、今日は一日家にいて、妹とは出かけていないと言うんです。僕は焦り、妹の知り合いに片端から連絡し、ようやく詩織が白のセダンに乗っていたということを突き止めました。しかも、一人ではなくて、数人の男と一緒だったと」
洋子は喉が締めつけられたように苦しくなった。
「詩織が見つかったのはドライブウェイのガードレールの外でした。僕は自分で現場を確認しましたから、そこがめったに人が来ない場所であること、あちこちに詩織の服が散らばっていて逃げ回った跡があることも確認しました。司法解剖が行なわれ、数人による暴行と数カ所の骨折、一部の内臓破裂も確認しましたが、それでも詩織は生きていたようです」
「!」
洋子は息を呑んだ。
村上は相変わらず動揺した気配もない。まるで、昨日の天気のことを話すように、さっき一瞬見せたいら立ちさえも消し去って話し続けながら歩いている。
「そうして、傷ついた詩織はガードレール下に突き落とされて絶命したようです。さすがに最後に抵抗したんでしょう、詩織の爪に相手の皮膚が残っていました。僕はDNA鑑定を進め、その男が詩織を犯してもいることを突き止めました。同時に密かに日高に接近して彼の在宅のアリバイが家人にしか証明できないこと、実はその当日現場近くのコンビニで日高が目撃されていることも確認しました。日高の仲間から、当日面白いゲームのために友人と出かけると言っていたことも知りました。DNA鑑定さえ詰めれば、いけると思っていた」
しばらく沈黙が続いた。
無言で足を進める村上がふいに立ち止まって、洋子も立ち止まった。
「ああ……」
薄暗がりに白い炎が立っている。
まだ満開ではなくて、けれどそれでも十分に鮮やかに、巨大な桜の樹が、闇の彼方に浮かび上がっていた。
「…これは見事だ…」
村上が溜息まじりにつぶやいて、再び歩き出した。慌てて側に付き添う洋子の存在をも忘れてしまったかのように、細く白く続いている道を辿って桜の根元に近寄っていく。
むくむくと膨れ上がり盛り上がる樹皮に覆われた幹は大人二人でも抱え切れまい。四方に伸ばすその枝々に淡い色の花弁を載せて、桜は夜に咲いている。
その光景は、洋子のあの夢を思い出させた。
(でも……どこか…違うような…?)
微かな違和感を感じながら、それでもその艶やかさには圧倒されて、洋子も村上と一緒に桜を見上げた。
「詩織も桜が好きだった」
村上が震えるような声でつぶやいた。振り向いたが、村上の眼鏡には桜が映り込み、その奥の瞳の表情は見えない。
「DNA鑑定も、以後の捜査も打ち切られました。日高は大きな権力に守られていたんです」
淡く曇った声が吐息のように零れた。
「そのときから、ずっと…?」
洋子は問いかけた。その答えをよく知っている。その答えを支える気持ちを深く強く感じ取る。
「そう、そのときからずっと」
村上は桜に向かって微笑んだ。
「僕は日高を許さない」
村上はゆっくりと洋子に視線を降ろしてきた。
「日高を葬るためなら、何だってやるし、誰だって利用すると決めたんです」
眼鏡の奥から醒めた瞳が見つめてきて、洋子はようやく村上のことがわかった気がした。
「私も、ですね?」
洋子は微笑みかけた。
初めて村上の表情が強ばった。
「私は、囮、なんですね?」
無言の相手に静かに確認する。
「携帯を持たせたのも、接触してきたのも、私があんまり早く殺されてしまってはまずかった、そういうことですね?」
村上は答えない。だが、その顔色が白くなっていくのが何より雄弁に答えを語っていく。
(やはり、ここでも、一人、なんだ)
洋子は笑った。
「いいですよ」
「!」
「私のことも調べてますよね? 私がどういうふうに育ったとか、あやこをどうやって失ったとか」
この『あやこ』が大西綾子ではないことが村上には通じていると確信があった。
「だから、村上さんの気持ちはわかります。囮、やってもいいです。だから」
洋子はまっすぐに村上を見つめて笑みを消した。
「日高を裁いて下さい」
その夜、洋子は夢を見た。
自分が葛城と名乗る男性になっている夢だ。場所は日本ではない。騒がしく乱れた声が飛び交う夜の街は活気に満ちており、様々な色や音や匂いで溢れ帰っている。
ここはイギリス領、香港だ。
葛城は屋台の並ぶ賑やかな通りを外れて、路地の方へ入り込んだ。
「風邪を引いたかな」
背中がぞくぞくして気持ちが悪い。ぼやくことばも既に日本語ではないあたり、中国社会に紛れ込んだ歳月をふと思い返してしまう。
(しおりは無事だろうか)
第二次世界大戦後の日本はひどい混乱と衰退の最中にある。広島と長崎に落とされた原爆は想像以上の破壊力で都市を壊滅させたと聞くし、何より、大戦後の方向として他国庇護のもとで国際社会に入っていこうとしているのがまずいと思う。
もともとが植民地化の進む欧米列強がひしめく世界で、どうやって植民地もなく広大な土地も豊かな資源も持たない小さな島国が臆せず肩を並べていくかということが課題だったのだ。それを日本は軍事力でアジアをまとめることによって得よう、とした。結果が日本国家の心身共の破壊にいたる戦争だ。
あの夏の日、葛城は確かに軍の方針に一理があると思っていた。だからこそ、裏切りと孤独の厳しい任務にも耐え抜こう、そうすることで祖国を、愛しい人を、大事な人を守れると信じた。
だが、日本を離れ、国籍を失ったただの一人の男になって、自分がどれほど狭量な視野しか持っていなかったのかをひしひしと感じた。
世界は広大で、様々な人種が、様々な考えがお互いにぶつかりあいながら存在している。
日本のように統一されたものの見方捉え方をする国などほとんどない。この中国はまさにそういった怒濤の直中にあり、そこでは日々繰り返し新しい発想と新しい技術と新しい感覚が磨き上げられ生み出されている。
その衝撃を日本に、軍部にわずかでも伝えられたらと願った葛城の気持ちは、閉ざされた祖国には迷惑なものでしかなかったようだ。
「海鳴りの……か」
誓子の句をふいに思い出した。
通りを抜け、路地の奥へと入り込んでいく。
背後から微かに追い掛けてくる気配を確かめながら、静かに相手を導いていく。
やがて、行き止まりになった壁に吐息をついて、葛城はゆっくりと振り返った。
右手にはどろどろとした暗い川が流れている。ときどき用無しになった人間が半端に投げ込まれて流されていく川だ。自分も遅かれ早かれ投げ込まれる運命にはあるだろう…軍部と手を切って姿をくらましたのは数日前のことだから。
背後に迫っていた男はじっと葛城を見つめていたが、早口の日本語で問いかけてきた。
「葛城、綾洋だな」
「そうだ」
「一緒に来てもらう」
「いやだ」
「聞きたいことがある」
「話したいことなどない」
「なぜ裏切った」
これまでの刺客とは違い、相手は突然真芯に触れてきた。
「祖国を裏切ったのに、なぜ寝返らなかった」
ふいに、胸を突き上げてくるものがあった。
「……忠誠を受けたことがあるか」
「何?」
相手は何を聞かれたのかわからないと言った口調で問い直した。
「忠誠?」
「そうだ。一人の人間から、未来永劫にわたって従うと誓いを受けることだ」
「……ない」
「ならばわからん」
く、と葛城は笑みを返した。十分に意識して体を翻らせ、側の川に身を躍らせる。はっとしたように相手が腰から引き抜いた銃が続けて数発、音を発した。
「っ!」
喧噪に紛れてどこにも届かない銃声、しかし確実に二発、葛城の体を貫く。かっとした激痛の後、一気に冷える感覚に助からないと自覚した。ざぶんと川に呑まれる、その葛城になおも銃弾が打ち込まれてくる。一発が背中から胸へと突き抜けた。
瞬間視界を覆ったのは夏の青空。
(護王)
葛城は笑った。
(また、会えるな)
どぶ泥が体を呑み込み、葛城は意識を失って深く水底に沈んでいった。
護王はさっきと同様、正面に陣取ったものの、洋子さえ見ない。村上については完璧に無視だ。村上は村上でそういう護王の態度を面白がっているのか、他愛ない話を思わせぶりに洋子に接近してもちかけてくる。その一言一言に護王は全身を耳にして聞き入っている。緊張した空気は視線を向けてこなくてもぴりぴりと周囲を圧倒する。
駅についたときには洋子は心底疲れていた。
(まいったなあ…)
これなら緊急患者を二人掛け持ちしたほうがましかもしれない。
溜め息をつきながら荷物を引きずり降ろし、さっさと立って離れていく護王の後を追った。
「見事に嫌われましたね」
村上はくすくすと笑って、またこれみよがしに洋子の荷物に手を伸ばす。
「持ちましょうか?」
「結構です……あの」
「はい?」
「わざとやってます?」
「ええ、多少は」
村上は眼鏡の向こうで人の悪い笑みを見せた。
「まあ、いささか嫉妬半分とでも」
「は?」
「いや、いいんですよ。洋子さんに気を遣わせて悪かったですね」
洋子さん、を丁寧に発音しておくあたり、前を行く護王の気配がまた一層険しくなるのを見定めた顔で、村上が笑みを深める。
「できたら…やめてほしいんですけど」
洋子は声をひそめた。
「あの、私と護王って…その…そういう関係、でもないですし」
一瞬胸を走った切なさを振り切る。
「護王にはきちんと、なんて言うのか、ここで待ってる人がいて」
洋子がそう言い終えた矢先、自動車のクラクションが鳴った。
「護王! 姫さん!」
「綾香!」
数人の乗客が降りたひなびた桜里の改札を抜けた向こう、駅前の小さな広場に白い車が止められている。運転席から顔を見せているのは綾香の姿だ。
「迎えにきちゃった」
へへっと舌を出した綾香は目がさめるようなサーモンピンクのニットを身につけていた。車を降りて駆け寄ってくると、寸分のためらいもなく護王に飛びつく。荷物を手にしたままの護王が両手を広げてそれを受け止め、一瞬ちらっと洋子を見た。
「?」
「助かったで、綾香」
きょとんとする洋子の視線を確かめるような目つき、それからふわっと微笑して綾香に向き直る。
「バス待つの、たるいなーて思てた」
「やっぱり、そう?」
綾香は嬉しそうに笑い返した。
「中途半な時間やったし、護王、困るやろう思たん。そないに喜んでもらえて嬉しなあ」
すりすりと護王に体を擦り寄せる。
(ああ……幸せそうだ)
早くも暮れ始めた夕方の光景の中、お互いに再会を喜ぶ二人を洋子はぼんやりと見た。
(綾香も護王も笑ってる)
あれほど電車の中ではぴりぴりと苛立っていたのに。
「あれ…は?」
村上があやふやにつぶやいて、洋子は我に返った。相手を見上げて、珍しく驚いた顔で綾香を見ている村上に笑いかける。
「ああ……彼女、大西綾香さんです。綾子の双児の姉妹で……」
引っ掛かりかけたことばを必死に押し出した。
「『かおうしづめ』の巫女さん役の……『姫さん』です」
「荷物、貸して、のせるし!」
嬉々として護王の手から荷物を受け取り後ろのトランクに入れる綾香、きれいな微笑を浮かべながらそれを見守る護王に、同じように微笑んで続ける。
「護王を待ってた人です」
ずき、とやっぱり胸が痛んだ。それでもことばが途切れずに済んだことにほっとする。
「ああ……そう……彼女がそうですか……いや…それにしても……似てる……綾子さんに似てますね」
村上はつぶやいて、ふと視線を洋子に戻した。
「どうかしましたか?」
「え」
「何か……」
「姫さーん、それに、えーと、村上さーん?」
綾香が明るい声で呼びかけてきて村上のことばを遮った。
「はよ行こうな、日が暮れてしまうし!」
護王と同じ言い回しのことばが一気に洋子と護王の距離を開けていったような気がして、洋子はぼんやりと笑った。
桜里は車で道なりに数十分、なお山の方へ入らなくてはならない場所にあった。
「まあ、どうぞどうぞ、ようこそおいでくださいましたなあ」
現在の里長、つまりは町長のような役目をしているのが大西康隆、綾香の父親だ。
集落の奥まった山寄りの場所に広々とした地所を囲い、里の本道がまっすぐそちらへ通じるような村の造りに大西家の隆盛が見て取れる。
「谷崎署の村上さん、それに、葛城、洋子さん、でしたかなあ。綾子がずいぶんとお世話になったそうで」
招き入れられたのは母屋の一室、こじんまりと設えてはあるものの、ほぼ一畳分はありそうな一枚板の机を据え、なおゆとりのある間は十五畳ほどもあるか。家具らしいものが置かれていないだけに余計に広く感じる。
床の間を背に主の康隆と妻の路子、綾香が座り、護王は自室を与えられていると早々に荷物を持って立ち去った。大西一家と向かいあっているのは村上と洋子の二人だけだ。
「『かおうしづめ』は一週間もすれば始まります。それまでどうか、ごゆっくりと滞在なさってください。お二人の部屋も用意させてもらってますしな」
「恐縮です」
村上がやんわりと微笑して受けた。
「私も所轄と連絡を取って差し出たことはしないよう言い付かってきてはいるのですが……状況が状況ですから」
「日高…ですな?」
康隆は太りぎみの体からふう、と重苦しく息を吐いた。
「わしらも困っとるのですよ。あの家は先々代から桜里を離れとりましてな、こちらはとうに縁が切れたものと思っておりました。まあ、去年に『かおうしづめ』で姿を見たという者もおりましたが…さて、何のために里へやってきていたのか……電話でもお話ししたとおり、皆目見当つかんのですよ」
(ああ、その電話だったのか)
いささか嫌味ったらしい康隆のことばに、村上は依然動じた様子もなかった。
「日高を逃がしたのは谷崎署の……まあ、私の失態です。全力をあげて捕縛するつもりですので、どうか御安心を」
村上が続けたことばにぎくりとした。
日高が逃げたのは知っているが、詳しい経過は知らされていない。ましてや、それが村上がらみだとは思っていなかった。考えてみれば、確かに今回の村上の介入は警察の動きとしては異質だろう。
「まあ、よろしゅうにお頼申します。…おい、おい!」
「はい」
ふ、と廊下側の障子に影が映った。
「お呼びですか」
軽い音をたてて障子が引かれる。控えていたのが護王と気づいて、洋子は呆気に取られた。
「お客さまをお部屋へご案内してんか」
「わかりました。どうぞ、こちらへ」
「え…え…?」
康隆に命じられ、さもそれが当然のように、護王が縁側に控えたままで軽く頭を下げる。
「洋子さん」
「あ、はい」
村上がそれとなく促してくれて、ようやく我に返り慌てて立ち上がると、康隆が機嫌よく声をかけてきた。
「まだ潔斎には入っておりませんので、今夜はおもてなしさせて頂きます」
「あ、ありがとうございます」
頭を下げて部屋を出ると、護王は黒の長袖Tシャツ黒のジーンズといういつもの格好で、目を伏せて正座している。村上と洋子が部屋を出てしまうと無言で障子を閉め、立ち上がってくるりと向きを変えて歩き出した。
「ふうん」
村上が小さく吐息をついてつぶやいた。
「君はここでは大西家に仕えるもの、なんだね」
ぴく、と軽く護王の肩が強ばったようだが、それ以上反応する様子はない。静かな歩みも変わらない。
「客人が来ても同席させられないという立場?」
「…」
なおも煽るような村上の口調に、突然護王が立ち止まった。肩越しに振り返る黒い瞳は冷ややかに澄んで表情一つ動かない。端然と村上を凝視する。
「あ…あの…」
「…言うとくけどな」
気まずい雰囲気に間に入ろうとした洋子を無視して、護王は淡々と続けた。
「俺を挑発しても無駄や」
落ち着いた声音は普段の護王から考えられないほど感情がない。
「ここでの俺は、あんたが言うように、大西家に仕えるもの……桜の、護王、やからな」
(大西家に仕えるもの…)
意味に気づいて、洋子は思わずことばを呑んだ。
(桜の、護王)
それは『姫さん』の護り手だということに他ならない。『姫さん』以外の誰も選ばないという意味に他ならない。
(他には、誰も)
大きな裂け目がいきなり二人の間に口を開いた気がした。
洋子の思いを裏付けるように、護王が吐き捨てた。
「大鷹省吾は…ここにはいない」
「なるほど」
村上も負けてはいなかった。
「じゃあ、僕は安心して洋子さんと祭礼を楽しんでいいわけだね?」
ちか、と凶暴な光が護王の瞳の奥に灯ったが、すぐに幻のように消え去った。顔色一つ変えずに、近くの障子を開く。
「ここがあんたの部屋や……好きにしたらええ」
(好きにしたらええ)
それが部屋のことなのか、自分の扱いのことなのか量りかねて護王を見ると、相手は平板な瞳で洋子を見返してくる。
「こっちや」
洋子が口を開く前に護王は再び背中を向けた。
「あんたの部屋はこっちにあるし」
「あ…うん」
そっけなく歩き始める護王に慌てて付き従う。やがて村上の部屋から数部屋離れた一室の障子を護王は開いた。
「ここや」
そこは八畳ほどの間だった。小さいけれど床の間があり、違い棚には重みのある青い一輪挿しが飾られていて、桜が一枝生けてある。ふすまにも桜が各々に薄墨で描かれており、隅に文机が置かれていた。文机の上にも細い桜の枝が数本、淡い紫の紙の上に花弁を散らせて載せられている。
「きれい…」
思わず洋子は文机に近寄った。荷物を置き、屈み込んで桜の枝を取る。ふっと一瞬視界がピンク色の渦に巻き込まれた気がして無意識につぶやいた。
「これ……あの…桜…?」
「気に入ったか?」
たん、と背後で障子が鳴った。振り返ると、部屋に入り込んだ護王が後ろ手に障子を閉め、夕暮れの紅を背負って影になっている。部屋には灯が入っていなくて、障子を閉め切るとさっきの部屋より数段暗いのは、それだけ日が落ちたということだろう。
「この部屋は桜づくしの部屋やけど」
さっきまでの冷えた声が打って変わって掠れて響いた。影になっている護王の表情は見えないが、気遣うように首を傾げる。
「あんたは生きた桜が好きやろうから」
「ああ…」
洋子は思わず微笑んだ。着いて早々、姿を消した護王が何をしに行っていたのか気づいた。
「この桜、護王が用意してくれたんだ?」
「……気に入ったんか…?」
さっきより低くためらったような声が尋ねた。
「うん…ありがと…うれしい」
洋子はそっと桜を抱いた。いずれ綾香に返さなくてはいけない人だけど、里に入ったとたんに対応が冷ややかになりはしたものの、それでも護王はやっぱり優しい。
(それでいい…それで十分だよね?)
「姫さん……」
「ん?」
「あいつ…」
背後で障子をぴったり押さえたまま、護王がつぶやいて、洋子は顔を上げた。気持ちが甘くゆるんでいる。薄紅に灰色がかった空気の中、静まり返った部屋に、今にも途切れそうな声が問いかけてくる。
「……村上のこと……気に入ったん、か?」
「え?」
「……俺より……あいつの…ほうが…ええん…?」
「は?」
余りにも意外な問いかけに戸惑ってると、護王が低く押さえた声で嗤った。
「そやな……そやろな……あいつは……大人やもんな…」
「護王?」
「いきなり…襲たりせえへんし……? 違うか……襲われても、ええんやんな……好きな相手やったら…?」
「ちょっと、何を…」
混乱して口を挟みかけた洋子に、ふいに叩きつけるような激しさで、
「そやけど……姫さんは…っ!……俺の…俺のもんに……なってくれたと……」
終わりの方はみるみるうなだれてしまった様子で頼りなくつぶやく。
「心は……ちごた…んか…」
「護王、いったい何を…」
「洋子さん?」
「!」
反論しかけた洋子の声を絶妙のタイミングで障子の向こうから響いた声が遮った。
「ちょっとお話があるんですが。日高のことで」
びくっ、と護王が背中から熱湯をかけられたように振り返った。一瞬外からの光に照らされた護王の目許に何か煌めくものが零れたと見えたが、洋子に背中を向けたままで障子を開ける護王の姿にたじろいだ気配はない。開かれた障子の向こうから、村上が部屋を覗き込んでくる。
「おや…お邪魔でしたか」
「なんのことや。変なこと言うて絡まんといてくれ」
言い捨てて護王は村上と入れ代わりに部屋を出て行きながら、
「姫さんを、誰がどうできる、言うねん」
嘲笑った。
「ええ加減に扱こうてくれるな、桜の姫やぞ」
「心得ているよ」
村上が平然と応じて護王は眉をしかめた。後はもう、洋子を振り向くことなく障子の向こうに姿を消した。
どうせだから、外に出ましょう。
そう誘われて、洋子は村上と一緒に祭礼の主神だという桜を見に行くことにした。
護王が何かを勘違いして思い詰めているのも気にはなったが、桜を見に行きたいと康隆に申し出てみれば、護王は綾香と睦まじく庭で話している最中、綾香を食いつきそうなほど真剣なまなざしで見つめている護王というのは、わかってはいても胸に堪える。
結局護王には黙って出てきてしまった。
空は青紫に染まりつつある。日が落ちていけば、山間の里はあっという間に宵闇に包まれていく。ところどころに灯る民家の明かりが次第に光度を増してくる。
(ずっと前に……こういう光景を見た…ような…)
暮れる日の中をとぼとぼと山に向かって歩いていたような気がした。ただ、もっと辺りは暗く侘しかった。もっと孤独で一人だった。
(それともあれは夢だったのか)
「気になってたんですが」
「はい」
側を歩く村上にそっと問いかけると、相手は洋子が何を聞くのか知っていたように、まっすぐ前を向いたまま応じてきた。
「さっき、所轄と連絡を取って、とおっしゃってましたよね?」
「ええ、そうです」
「あの……私、警察組織には詳しくないんですが……もし、こういう殺人犯人が逃げたとして、それが他の県に逃げ込んだとしたら、本当はまずそこの県警とかが動くんじゃないですか? えーと…少なくとも、もし逃がした方が追い掛けるにしても、もっと公的に追い掛けてくるんじゃないかと……」
村上が曖昧に微笑んだ気配があった。
「と言いますと?」
「あの……何だか……村上さん、警察らしくないっていうか」
「手帳は見せましたよね?」
「ええ、はい、あの、でもそういうことじゃなくて」
ふ、と唐突に肩を抱かれて洋子はぎょっとした。
「あなたは賢い人ですね?」
「む、村上さん?」
「あたり、ですよ。僕は今警察官でも刑事でもないんです」
「は…?」
きゅ、と洋子の体をもう一度確認するように抱き締め、村上は洋子の髪に顔を埋めてささやいた。
「僕はね、日高を逃がした、から」
「!」
洋子は思わず立ち止まった。それをきっかけにしたように、村上が洋子の体を離す。その村上から一歩離れて、洋子はまじまじと相手を見つめた。
闇はどんどん濃くなっていく。村上の優しげな微笑が曖昧さを深めていく。
「あの…今、日高を逃がした、とおっしゃいましたか? 村上さんが、日高を、逃がした、と?」
問い直してその告白の重大さに身震いした。
「はい、そう言いました」
村上は微笑を崩さないまま、むしろ微笑を広げながらうなずいた。
「警察官失格ですよね?」
「いや…そういうことではなくて」
頭の芯がくらくらするような思いで、相手の無邪気にさえ見える微笑を見つめた。
全く悪気がないように見える。むしろ当然のことをしているという自信さえ見える。裁かれるべき罪を背負った殺人犯を逃がして、洋子の安全を脅かしておきながら、それに罪悪感一つも感じていないように見える。そしてなお恐ろしいことに、そういうことがわかっていても、村上は十分穏やかで優しい人間に見えた。
「なぜです?」
一瞬、外におびき出したのは自分を殺すためだったのか、と洋子は思った。
(でも、たぶんそうじゃない)
洋子を殺すつもりなら、殺せる機会がいくらでもあった。第一、村上が洋子を殺す理由がわからない。いや、何よりもまず、村上が日高を逃がし、また追い掛けている理由がわからない。
嵯峨の手紙を持ち出してきた時から既に警察官としては逸脱している。けれど、あのとき、怯え竦んでいた洋子を村上は放り出さなかった。今回も日高を逃がした一方で、洋子の警護に気を配ってくれているのは、動作の端々に感じ取れる。
「日高、貴司、という男はね」
村上は声にひんやりとしたものを滲ませた。
「五年前にも人を殺してるんですよ」
「五年前?」
「殺されたのは僕の妹、村上詩織、当時ニ十一歳でした」
(殺された、妹)
どきん、と胸が強く打った。あやこの姿が一瞬にして呼び戻されて重なり、視界が暗くなる。
「日高がニ十ニ歳。同じ医学部で人の命を助けるために学んでいる学生として、同じクラブで音楽を愛する仲間として付き合っていた……少なくとも、僕はそう思っていたんですが」
村上は淡々とした声音で続けた。
「日高にとっては、欲望処理の道具だったようです……歩きましょうか……真っ暗になっては桜が見えない」
くるりと洋子に背中を向けて促す。このまま一緒に居てもいいものかどうか、一瞬迷った。が、村上の異様に平たんな口調にはどこか危ういものがあって、一人にするのもためらわれた。看護師として幾度も見て来た、崩壊するぎりぎりの際に立っている人のような。
少し足を速めて、先を行く村上の横に並ぶ。
「妹は将来の付き合いを望んでいました。けれど、お互いに仕事をやっていくことも楽しみにしていた…もし、日高が妹を振ったのなら、それで詩織は引いたでしょう。でも、日高はその手間を惜しんだ」
風が吹き寄せてきて、村上の髪を乱した。ノンフレームの眼鏡にかぶさる髪をうるさがる様子もなく、村上は静かにことばを継いだ。
「たったそれだけのことを、それっぽっちのことを話す手間を、あいつは惜しんだ」
不安定ないら立ちが声に滲んだ。
「その日は詩織の誕生日でした。しばらくデートの間があいていて、久しぶりのドライブにでかけるんだとはしゃいでいた。朝に出かけて夜十時を回っても帰らない。僕はシスコンですから、日高の家に確かめました。すると、家に日高がいて、今日は一日家にいて、妹とは出かけていないと言うんです。僕は焦り、妹の知り合いに片端から連絡し、ようやく詩織が白のセダンに乗っていたということを突き止めました。しかも、一人ではなくて、数人の男と一緒だったと」
洋子は喉が締めつけられたように苦しくなった。
「詩織が見つかったのはドライブウェイのガードレールの外でした。僕は自分で現場を確認しましたから、そこがめったに人が来ない場所であること、あちこちに詩織の服が散らばっていて逃げ回った跡があることも確認しました。司法解剖が行なわれ、数人による暴行と数カ所の骨折、一部の内臓破裂も確認しましたが、それでも詩織は生きていたようです」
「!」
洋子は息を呑んだ。
村上は相変わらず動揺した気配もない。まるで、昨日の天気のことを話すように、さっき一瞬見せたいら立ちさえも消し去って話し続けながら歩いている。
「そうして、傷ついた詩織はガードレール下に突き落とされて絶命したようです。さすがに最後に抵抗したんでしょう、詩織の爪に相手の皮膚が残っていました。僕はDNA鑑定を進め、その男が詩織を犯してもいることを突き止めました。同時に密かに日高に接近して彼の在宅のアリバイが家人にしか証明できないこと、実はその当日現場近くのコンビニで日高が目撃されていることも確認しました。日高の仲間から、当日面白いゲームのために友人と出かけると言っていたことも知りました。DNA鑑定さえ詰めれば、いけると思っていた」
しばらく沈黙が続いた。
無言で足を進める村上がふいに立ち止まって、洋子も立ち止まった。
「ああ……」
薄暗がりに白い炎が立っている。
まだ満開ではなくて、けれどそれでも十分に鮮やかに、巨大な桜の樹が、闇の彼方に浮かび上がっていた。
「…これは見事だ…」
村上が溜息まじりにつぶやいて、再び歩き出した。慌てて側に付き添う洋子の存在をも忘れてしまったかのように、細く白く続いている道を辿って桜の根元に近寄っていく。
むくむくと膨れ上がり盛り上がる樹皮に覆われた幹は大人二人でも抱え切れまい。四方に伸ばすその枝々に淡い色の花弁を載せて、桜は夜に咲いている。
その光景は、洋子のあの夢を思い出させた。
(でも……どこか…違うような…?)
微かな違和感を感じながら、それでもその艶やかさには圧倒されて、洋子も村上と一緒に桜を見上げた。
「詩織も桜が好きだった」
村上が震えるような声でつぶやいた。振り向いたが、村上の眼鏡には桜が映り込み、その奥の瞳の表情は見えない。
「DNA鑑定も、以後の捜査も打ち切られました。日高は大きな権力に守られていたんです」
淡く曇った声が吐息のように零れた。
「そのときから、ずっと…?」
洋子は問いかけた。その答えをよく知っている。その答えを支える気持ちを深く強く感じ取る。
「そう、そのときからずっと」
村上は桜に向かって微笑んだ。
「僕は日高を許さない」
村上はゆっくりと洋子に視線を降ろしてきた。
「日高を葬るためなら、何だってやるし、誰だって利用すると決めたんです」
眼鏡の奥から醒めた瞳が見つめてきて、洋子はようやく村上のことがわかった気がした。
「私も、ですね?」
洋子は微笑みかけた。
初めて村上の表情が強ばった。
「私は、囮、なんですね?」
無言の相手に静かに確認する。
「携帯を持たせたのも、接触してきたのも、私があんまり早く殺されてしまってはまずかった、そういうことですね?」
村上は答えない。だが、その顔色が白くなっていくのが何より雄弁に答えを語っていく。
(やはり、ここでも、一人、なんだ)
洋子は笑った。
「いいですよ」
「!」
「私のことも調べてますよね? 私がどういうふうに育ったとか、あやこをどうやって失ったとか」
この『あやこ』が大西綾子ではないことが村上には通じていると確信があった。
「だから、村上さんの気持ちはわかります。囮、やってもいいです。だから」
洋子はまっすぐに村上を見つめて笑みを消した。
「日高を裁いて下さい」
その夜、洋子は夢を見た。
自分が葛城と名乗る男性になっている夢だ。場所は日本ではない。騒がしく乱れた声が飛び交う夜の街は活気に満ちており、様々な色や音や匂いで溢れ帰っている。
ここはイギリス領、香港だ。
葛城は屋台の並ぶ賑やかな通りを外れて、路地の方へ入り込んだ。
「風邪を引いたかな」
背中がぞくぞくして気持ちが悪い。ぼやくことばも既に日本語ではないあたり、中国社会に紛れ込んだ歳月をふと思い返してしまう。
(しおりは無事だろうか)
第二次世界大戦後の日本はひどい混乱と衰退の最中にある。広島と長崎に落とされた原爆は想像以上の破壊力で都市を壊滅させたと聞くし、何より、大戦後の方向として他国庇護のもとで国際社会に入っていこうとしているのがまずいと思う。
もともとが植民地化の進む欧米列強がひしめく世界で、どうやって植民地もなく広大な土地も豊かな資源も持たない小さな島国が臆せず肩を並べていくかということが課題だったのだ。それを日本は軍事力でアジアをまとめることによって得よう、とした。結果が日本国家の心身共の破壊にいたる戦争だ。
あの夏の日、葛城は確かに軍の方針に一理があると思っていた。だからこそ、裏切りと孤独の厳しい任務にも耐え抜こう、そうすることで祖国を、愛しい人を、大事な人を守れると信じた。
だが、日本を離れ、国籍を失ったただの一人の男になって、自分がどれほど狭量な視野しか持っていなかったのかをひしひしと感じた。
世界は広大で、様々な人種が、様々な考えがお互いにぶつかりあいながら存在している。
日本のように統一されたものの見方捉え方をする国などほとんどない。この中国はまさにそういった怒濤の直中にあり、そこでは日々繰り返し新しい発想と新しい技術と新しい感覚が磨き上げられ生み出されている。
その衝撃を日本に、軍部にわずかでも伝えられたらと願った葛城の気持ちは、閉ざされた祖国には迷惑なものでしかなかったようだ。
「海鳴りの……か」
誓子の句をふいに思い出した。
通りを抜け、路地の奥へと入り込んでいく。
背後から微かに追い掛けてくる気配を確かめながら、静かに相手を導いていく。
やがて、行き止まりになった壁に吐息をついて、葛城はゆっくりと振り返った。
右手にはどろどろとした暗い川が流れている。ときどき用無しになった人間が半端に投げ込まれて流されていく川だ。自分も遅かれ早かれ投げ込まれる運命にはあるだろう…軍部と手を切って姿をくらましたのは数日前のことだから。
背後に迫っていた男はじっと葛城を見つめていたが、早口の日本語で問いかけてきた。
「葛城、綾洋だな」
「そうだ」
「一緒に来てもらう」
「いやだ」
「聞きたいことがある」
「話したいことなどない」
「なぜ裏切った」
これまでの刺客とは違い、相手は突然真芯に触れてきた。
「祖国を裏切ったのに、なぜ寝返らなかった」
ふいに、胸を突き上げてくるものがあった。
「……忠誠を受けたことがあるか」
「何?」
相手は何を聞かれたのかわからないと言った口調で問い直した。
「忠誠?」
「そうだ。一人の人間から、未来永劫にわたって従うと誓いを受けることだ」
「……ない」
「ならばわからん」
く、と葛城は笑みを返した。十分に意識して体を翻らせ、側の川に身を躍らせる。はっとしたように相手が腰から引き抜いた銃が続けて数発、音を発した。
「っ!」
喧噪に紛れてどこにも届かない銃声、しかし確実に二発、葛城の体を貫く。かっとした激痛の後、一気に冷える感覚に助からないと自覚した。ざぶんと川に呑まれる、その葛城になおも銃弾が打ち込まれてくる。一発が背中から胸へと突き抜けた。
瞬間視界を覆ったのは夏の青空。
(護王)
葛城は笑った。
(また、会えるな)
どぶ泥が体を呑み込み、葛城は意識を失って深く水底に沈んでいった。
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