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「は?」
「だーかーらっ」
耳に入ったことばがうまく理解できなくて瞬きした正志に、桃花はゆっくり繰り返した。
「三上さんに、あたしの気持ちを伝えてほしいなって」
「えーと……それはどういう……気持ち?」
「やだっ!」
ぱちん、と覗き込まれたままの姿勢で肩を叩かれる。
「いたい……」
「正志くん、鈍いっ」
「……っていうと、やっぱり好きだとか」
「愛してるとか、恋しいとか♪」
ことばの語尾を弾ませて笑う桃花に何となく茫然としてしまう。
ああ、やっぱり僕の勘って当たるんだなあ。
正志はごくん、とコーヒーを呑み込んだ。
当たって欲しくない時ばっかだけど。
「いつから……好きなの?」
「んー、初めて会った時から。一目惚れ? うん、そうだと思う」
「入院した時?」
「うん。何か線が細くて綺麗な子がいるなあって思ってた。あたしは食べ過ぎでお腹壊してたんだけど」
「食べ過ぎで入院?」
「えーと、ちょっと半端じゃない量を食べたから」
へへへ、と桃花は引きつった顔で笑う。
「………中身は聞かない方がいい?」
「いい」
「わかった、で、そこで入院してて」
「うん、すぐに元気になったけど、後2~3日様子見ましょうって。退屈だったのよ、あそこ。病院って今もそうだと思うから、時々ああやってボランティアでコンサートして回んのね。子どもって反応がストレートだし、こっちが気持ち込めてないとすぐどっか行っちゃうしね、武者修行」
「なるほど」
「でも、他のことも一杯勉強したよ?」
桃花は指を組んで顎を載せ、何かを探すように天井を見上げた。
「歌を好きじゃない子もいる。静かに寝ていたい子もいる。明るい歌ばかりが好きなんじゃなくて、こんなの好きなのって思うような暗い歌が好きな子もいる。歌って、その歌のカラーもあるけれど、なんていうのか、聴いてくれる人の数だけバリエーションがあるんだって気づいたら、もうボランティアなんかじゃなくて、どうかどうか歌わせて下さい、って感じ?」
ちゅるんと吸い込めそうな艶やかな唇を尖らせて、少しフレーズを口ずさむ。
「これだってね」
リズムを変えて、ちょっとバラード風に。次はアップテンポで。
「それにこう」
音域を変えてシックな感じに、高めでぴんぴんと跳ねてアニメっぽく。
「こんなこともできるよ、僕ら歌う歌う僕ら鼓動跳ねて跳ねて歩く歩く速度速度越えていつか地球地球回す」
そのフレーズのままことばを続けてラップにしてみせた。
「一つの曲をアレンジし直すだけでステージが違う。その曲をさまざまに組み合わせてまたステージが変わる。まるで服をコーディネイトするみたいに、あたしは曲と自分をステージにコーディネイトするの、楽しいったら」
くすくす笑って、少し生真面目になった。
「けどそうやって一度三上病院に来たときね、実は三上さんに目一杯怒られたんだ」
「え?」
「自分が楽しむために来てるなら帰ってくれ、ここに居る子どもは自分のことで手一杯だ、あなたのことまで面倒みきれない、って」
「……」
「静かな低い声だけど、凄く怖くて。………あたしね、知ってた、あの時の王子さまが三上さんだって。だからここへ来るのも凄く緊張して、うんと綺麗なかっこして、好かれたくて見てほしくっておしゃれして、子ども達に受ける歌とあたしが可愛く見える曲を選んでた。それをあっという間に見抜かれちゃった」
ちろっと舌を出して笑った桃花が一瞬年相応の大人の顔になった。
「馬鹿でした」
「だーかーらっ」
耳に入ったことばがうまく理解できなくて瞬きした正志に、桃花はゆっくり繰り返した。
「三上さんに、あたしの気持ちを伝えてほしいなって」
「えーと……それはどういう……気持ち?」
「やだっ!」
ぱちん、と覗き込まれたままの姿勢で肩を叩かれる。
「いたい……」
「正志くん、鈍いっ」
「……っていうと、やっぱり好きだとか」
「愛してるとか、恋しいとか♪」
ことばの語尾を弾ませて笑う桃花に何となく茫然としてしまう。
ああ、やっぱり僕の勘って当たるんだなあ。
正志はごくん、とコーヒーを呑み込んだ。
当たって欲しくない時ばっかだけど。
「いつから……好きなの?」
「んー、初めて会った時から。一目惚れ? うん、そうだと思う」
「入院した時?」
「うん。何か線が細くて綺麗な子がいるなあって思ってた。あたしは食べ過ぎでお腹壊してたんだけど」
「食べ過ぎで入院?」
「えーと、ちょっと半端じゃない量を食べたから」
へへへ、と桃花は引きつった顔で笑う。
「………中身は聞かない方がいい?」
「いい」
「わかった、で、そこで入院してて」
「うん、すぐに元気になったけど、後2~3日様子見ましょうって。退屈だったのよ、あそこ。病院って今もそうだと思うから、時々ああやってボランティアでコンサートして回んのね。子どもって反応がストレートだし、こっちが気持ち込めてないとすぐどっか行っちゃうしね、武者修行」
「なるほど」
「でも、他のことも一杯勉強したよ?」
桃花は指を組んで顎を載せ、何かを探すように天井を見上げた。
「歌を好きじゃない子もいる。静かに寝ていたい子もいる。明るい歌ばかりが好きなんじゃなくて、こんなの好きなのって思うような暗い歌が好きな子もいる。歌って、その歌のカラーもあるけれど、なんていうのか、聴いてくれる人の数だけバリエーションがあるんだって気づいたら、もうボランティアなんかじゃなくて、どうかどうか歌わせて下さい、って感じ?」
ちゅるんと吸い込めそうな艶やかな唇を尖らせて、少しフレーズを口ずさむ。
「これだってね」
リズムを変えて、ちょっとバラード風に。次はアップテンポで。
「それにこう」
音域を変えてシックな感じに、高めでぴんぴんと跳ねてアニメっぽく。
「こんなこともできるよ、僕ら歌う歌う僕ら鼓動跳ねて跳ねて歩く歩く速度速度越えていつか地球地球回す」
そのフレーズのままことばを続けてラップにしてみせた。
「一つの曲をアレンジし直すだけでステージが違う。その曲をさまざまに組み合わせてまたステージが変わる。まるで服をコーディネイトするみたいに、あたしは曲と自分をステージにコーディネイトするの、楽しいったら」
くすくす笑って、少し生真面目になった。
「けどそうやって一度三上病院に来たときね、実は三上さんに目一杯怒られたんだ」
「え?」
「自分が楽しむために来てるなら帰ってくれ、ここに居る子どもは自分のことで手一杯だ、あなたのことまで面倒みきれない、って」
「……」
「静かな低い声だけど、凄く怖くて。………あたしね、知ってた、あの時の王子さまが三上さんだって。だからここへ来るのも凄く緊張して、うんと綺麗なかっこして、好かれたくて見てほしくっておしゃれして、子ども達に受ける歌とあたしが可愛く見える曲を選んでた。それをあっという間に見抜かれちゃった」
ちろっと舌を出して笑った桃花が一瞬年相応の大人の顔になった。
「馬鹿でした」
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