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夢【中】
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その日の夜、柚子はまた少年のーーアズールスの夢を見ていた。
アズールスは息を切らしつつ、走りながら屋敷に入ってきた。
アズールスは十四歳くらいになっていた。背丈が伸びて、男の子らしくなってきた。
雨の中を慌てて帰ってきたのだろう。
アズールスが持っていた大きな鞄は濡れていた。
アズールスの洋服も濡れており、足元は泥で汚れていたのだった。
アズールスは息を整えると、屋敷の中に入ったのだった。
「ただいま戻りました。お父様、お母様。弟達。遅くなってすみません」
しかし、アズールスの呼びかけに対して屋敷内は静かであった。
やがて、子供が泣く声が聞こえてきた。
その声の主は、アズールスに近づいてきたのだった。
「坊ちゃん! お帰りなさいませ。無事に戻って来られたんですね……!」
「迎えの馬車が間に合わず、申し訳ありません」と言いながら出迎えたのは、腕の中に泣いている二歳くらいの子供を抱いた使用人の女性だった。
どうやら、泣き声を上げていたのは、この子供らしい。
柚子は使用人の女性をどこかで見たようなと思ったが、前回見たい夢の中で、母親の後ろからワゴンを押していた若い女性使用人に似ていたのだった。
しかし、その使用人とは親子ほどの歳の差があり、こちらの女性はかなりマルゲリタに似ていた。
「ただいま。マルゲリタ。他の皆は?」
「申し訳ありません。坊ちゃん。旦那様も奥様も、お子様方も、皆様、既に避暑地に向けて出発なされました。他の使用人達も大半が休暇を取って、先程、帰省しました」
「そうか……。大雨で途中で足止めをされたからな。待ちきれなくて、先に出発したのだな」
「ええ。明日には馬車が戻ってきますので、よければ、それで向かって下さい」
女性ーーマルゲリタは、子供をあやしながらアズールスに身体を拭くようにと、タオルを渡したのだった。
「マルゲリタは休暇を取らなくでいいのか?」
アズールスは髪を拭きながらマルゲリタに訊ねた。マルゲリタは苦笑したのだった。
「坊ちゃん。私まで休暇を取ったら、坊ちゃんの世話をする人がいなくなりますよ」
「そ、そうだな……」
恥ずかしそうに赤くなったアズールスに、マルゲリタは子供を見せたのだった。
「それに、今の私には坊ちゃんだけではなく大切な娘の忘れ形見である孫娘のファミリアの世話もしなければならないのです」
マルゲリタの腕の中にいた子供ーーファミリアは、泣き止んだのかマルゲリタの腕の中で静かにしていたのだった。
「そうだな。僕達、貴族には弱き者達を助ける義務がある。僕は使用人の子供も助けるぞ」
「お優しいですね。坊ちゃん」
「よーし! マルゲリタ、僕は何をしたらいい?」
「では、先にお湯を使って身体を温めて下さい」とマルゲリタに言われながら、二人は階段を上っていったのだった。
その様子を柚子は微笑ましく見ていたのだが、何故か胸の中は騒ついていた。
まるで、嵐の前の静けさのような、そんな気がしたのだった。
アズールスは息を切らしつつ、走りながら屋敷に入ってきた。
アズールスは十四歳くらいになっていた。背丈が伸びて、男の子らしくなってきた。
雨の中を慌てて帰ってきたのだろう。
アズールスが持っていた大きな鞄は濡れていた。
アズールスの洋服も濡れており、足元は泥で汚れていたのだった。
アズールスは息を整えると、屋敷の中に入ったのだった。
「ただいま戻りました。お父様、お母様。弟達。遅くなってすみません」
しかし、アズールスの呼びかけに対して屋敷内は静かであった。
やがて、子供が泣く声が聞こえてきた。
その声の主は、アズールスに近づいてきたのだった。
「坊ちゃん! お帰りなさいませ。無事に戻って来られたんですね……!」
「迎えの馬車が間に合わず、申し訳ありません」と言いながら出迎えたのは、腕の中に泣いている二歳くらいの子供を抱いた使用人の女性だった。
どうやら、泣き声を上げていたのは、この子供らしい。
柚子は使用人の女性をどこかで見たようなと思ったが、前回見たい夢の中で、母親の後ろからワゴンを押していた若い女性使用人に似ていたのだった。
しかし、その使用人とは親子ほどの歳の差があり、こちらの女性はかなりマルゲリタに似ていた。
「ただいま。マルゲリタ。他の皆は?」
「申し訳ありません。坊ちゃん。旦那様も奥様も、お子様方も、皆様、既に避暑地に向けて出発なされました。他の使用人達も大半が休暇を取って、先程、帰省しました」
「そうか……。大雨で途中で足止めをされたからな。待ちきれなくて、先に出発したのだな」
「ええ。明日には馬車が戻ってきますので、よければ、それで向かって下さい」
女性ーーマルゲリタは、子供をあやしながらアズールスに身体を拭くようにと、タオルを渡したのだった。
「マルゲリタは休暇を取らなくでいいのか?」
アズールスは髪を拭きながらマルゲリタに訊ねた。マルゲリタは苦笑したのだった。
「坊ちゃん。私まで休暇を取ったら、坊ちゃんの世話をする人がいなくなりますよ」
「そ、そうだな……」
恥ずかしそうに赤くなったアズールスに、マルゲリタは子供を見せたのだった。
「それに、今の私には坊ちゃんだけではなく大切な娘の忘れ形見である孫娘のファミリアの世話もしなければならないのです」
マルゲリタの腕の中にいた子供ーーファミリアは、泣き止んだのかマルゲリタの腕の中で静かにしていたのだった。
「そうだな。僕達、貴族には弱き者達を助ける義務がある。僕は使用人の子供も助けるぞ」
「お優しいですね。坊ちゃん」
「よーし! マルゲリタ、僕は何をしたらいい?」
「では、先にお湯を使って身体を温めて下さい」とマルゲリタに言われながら、二人は階段を上っていったのだった。
その様子を柚子は微笑ましく見ていたのだが、何故か胸の中は騒ついていた。
まるで、嵐の前の静けさのような、そんな気がしたのだった。
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