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寂しいなら・6
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(は、恥ずかしい~!)
これでは誰がどう見ても、ただ恋人同士が痴話喧嘩をしているだけだった。
マリスとは昨日出会っただけの知り合い。
相手が勝手に婚約者とか言っているだけ。
でもーー。
(様になっているから、腹立つ……!)
全く嫌味に感じないどころか、口説く姿さえ様になっている。
まさに、女性向けのファンタジー小説に登場する王子様のように似合っていてーー。
そんなマリスの一挙手一投足に反応してしまう自分が悔しい。
男性に免疫がないとはいえ、上手く遇らうことさえ出来ない。これではマリスを喜ばせるだけだろう。
恥ずかしがっている事を知られたくなくて、マリスの顔も見ない様に俯きながら席に着く。
沙彩に遅れて、対面に座ったマリスを盗み見ると、片手に新聞らしきものを持っていた。
(あっ……)
新聞には見覚えがあった。今朝方、新聞売りが持っていた新聞にも同じ文章が描かれていたのだった。
「それ……」
「ん……? ああ。これ? さっき、宿の人に頼んで借りてきたんだ。ちょっと気になる見出しがあったからね」
マリスが気になった見出しというのは、第一王子の縁談が破談になった話だろうか。
今朝の様子からすると、マリスは第一王子に詳しいようなので、もしかしたら知己の仲なのかもしれない。
「気になるのは、第一王子の縁談ですか?」
「そうだね……」
それきりマリスは新聞に集中してしまったので、沙彩も新聞とマリスを交互に見ながら考える。
(やっぱり、知り合いの縁談が破局になったら気になるよね……)
マリスと第一王子がどんな関係なのか気になるが、知り合いや知己の仲だとしたら見出しが気になるというのも納得がいく。
知り合いの結婚について何かしら新聞に書かれていたら、沙彩でさえ気になって読んでみたくもなる。
(マリスさんと第一王子の関係って何だろう?)
マリスは騎士らしいが、見るからに品行方正で育ちが良く、洋服代や宿代など値段を気にせず払っているので、きっと貴族などの裕福な家の出身なのだろうと考えられる。
第一王子が王族なのは間違いないので、そう考えると、二人は友人関係や主従関係などの直接関わったことのある近しい関係なのだろう。
それなら第一王子の縁談が破談になった話が気になる理由も分かる気がした。
二人の本当の間柄が気になるが、直接聞こうにも集中して新聞に目を通しているマリスの邪魔をする訳にもいかず、沙彩は夕食が並べられるまでマリスと第一王子の関係性を考え続けることとなった。
結局、沙彩の中で二人の関係性は友人や主従くらいしか考えつかず、また夕食時にさりげなくマリスに尋ねるタイミングも掴めないまま、沙彩は食後のお茶を済ませると、マリスと別れて与えられた部屋に戻ったのだった。
夕食後、ようやく誰にも邪魔されずに、じっくり猫足バスタブを堪能すると、今朝方マリスに買ってもらった下着を身につけて、用意されていた寝間着に着替える。
窓辺に近寄ると、月明かりに照らされた王城が宵闇の中で煌々と聳え立っていた。
(明日はお城に行くんだよね……)
今更ではあるが、城に行くということはこの国の王族に会うということでもある。
異世界人で無ければ生涯行くことはなかったであろう場所に、明日は向かうことになる。
元の世界でも身分の高い人に会ったことが無い沙彩が、何の知識も礼儀も知らないまま、王族に会って大丈夫だろうか。
自然と鼓動が早くなって、何度も呼吸を繰り返す。
高鳴っていた心臓の音は少しずつ収まっていき、やがて小さくなっていく。
心が森深くにある泉の様に静かになったところで、沙彩はベッドの端に腰掛けたのだった。
「マリスさんに、お城での礼儀作法について聞いておくべきだったかも……」
元の世界でさえ、国が違うというだけで、まるっきり文化が違っていた。文化が違えば、当然、作法も異なる。
今の沙彩が居るところは国どころか世界さえ異なる。文化どころか常識さえ異なっていてもおかしくなかった。
「しまった……」
そう呟いて、大きなため息を溢す。
もう少し早く思い出していれば、夕食の席でマリスに王城でのマナーについて尋ねることが出来た。
服装は、髪型は、お辞儀の角度は、話し出すタイミングなど、何もかもわからない。
元いた世界とは違い、気軽にインターネットで調べる訳にもいかず、途方に暮れていた。
こうなったら、本で調べるか、人伝てに聞くしかないだろう。
そうなると、手っ取り早いのは騎士であり、王城にも詳しいマリスに聞くのが一番だがーー。
「きっと、もう寝ちゃったよね……」
馬上で座っていただけの沙彩とは違い、ジョゼフィーヌを操っていたマリスは相当疲れているはずだ。
明日は王城に行くというのもあり、早めに就寝しているだろう。
マリスを頼れないことが分かると、望みは薄いが沙彩は鞄から自分のスマートフォンを取り出してみる。
やはり、異世界だけあって電波は入らないようで、画面には「圏外」とはっきり表示されていた。
これでは誰がどう見ても、ただ恋人同士が痴話喧嘩をしているだけだった。
マリスとは昨日出会っただけの知り合い。
相手が勝手に婚約者とか言っているだけ。
でもーー。
(様になっているから、腹立つ……!)
全く嫌味に感じないどころか、口説く姿さえ様になっている。
まさに、女性向けのファンタジー小説に登場する王子様のように似合っていてーー。
そんなマリスの一挙手一投足に反応してしまう自分が悔しい。
男性に免疫がないとはいえ、上手く遇らうことさえ出来ない。これではマリスを喜ばせるだけだろう。
恥ずかしがっている事を知られたくなくて、マリスの顔も見ない様に俯きながら席に着く。
沙彩に遅れて、対面に座ったマリスを盗み見ると、片手に新聞らしきものを持っていた。
(あっ……)
新聞には見覚えがあった。今朝方、新聞売りが持っていた新聞にも同じ文章が描かれていたのだった。
「それ……」
「ん……? ああ。これ? さっき、宿の人に頼んで借りてきたんだ。ちょっと気になる見出しがあったからね」
マリスが気になった見出しというのは、第一王子の縁談が破談になった話だろうか。
今朝の様子からすると、マリスは第一王子に詳しいようなので、もしかしたら知己の仲なのかもしれない。
「気になるのは、第一王子の縁談ですか?」
「そうだね……」
それきりマリスは新聞に集中してしまったので、沙彩も新聞とマリスを交互に見ながら考える。
(やっぱり、知り合いの縁談が破局になったら気になるよね……)
マリスと第一王子がどんな関係なのか気になるが、知り合いや知己の仲だとしたら見出しが気になるというのも納得がいく。
知り合いの結婚について何かしら新聞に書かれていたら、沙彩でさえ気になって読んでみたくもなる。
(マリスさんと第一王子の関係って何だろう?)
マリスは騎士らしいが、見るからに品行方正で育ちが良く、洋服代や宿代など値段を気にせず払っているので、きっと貴族などの裕福な家の出身なのだろうと考えられる。
第一王子が王族なのは間違いないので、そう考えると、二人は友人関係や主従関係などの直接関わったことのある近しい関係なのだろう。
それなら第一王子の縁談が破談になった話が気になる理由も分かる気がした。
二人の本当の間柄が気になるが、直接聞こうにも集中して新聞に目を通しているマリスの邪魔をする訳にもいかず、沙彩は夕食が並べられるまでマリスと第一王子の関係性を考え続けることとなった。
結局、沙彩の中で二人の関係性は友人や主従くらいしか考えつかず、また夕食時にさりげなくマリスに尋ねるタイミングも掴めないまま、沙彩は食後のお茶を済ませると、マリスと別れて与えられた部屋に戻ったのだった。
夕食後、ようやく誰にも邪魔されずに、じっくり猫足バスタブを堪能すると、今朝方マリスに買ってもらった下着を身につけて、用意されていた寝間着に着替える。
窓辺に近寄ると、月明かりに照らされた王城が宵闇の中で煌々と聳え立っていた。
(明日はお城に行くんだよね……)
今更ではあるが、城に行くということはこの国の王族に会うということでもある。
異世界人で無ければ生涯行くことはなかったであろう場所に、明日は向かうことになる。
元の世界でも身分の高い人に会ったことが無い沙彩が、何の知識も礼儀も知らないまま、王族に会って大丈夫だろうか。
自然と鼓動が早くなって、何度も呼吸を繰り返す。
高鳴っていた心臓の音は少しずつ収まっていき、やがて小さくなっていく。
心が森深くにある泉の様に静かになったところで、沙彩はベッドの端に腰掛けたのだった。
「マリスさんに、お城での礼儀作法について聞いておくべきだったかも……」
元の世界でさえ、国が違うというだけで、まるっきり文化が違っていた。文化が違えば、当然、作法も異なる。
今の沙彩が居るところは国どころか世界さえ異なる。文化どころか常識さえ異なっていてもおかしくなかった。
「しまった……」
そう呟いて、大きなため息を溢す。
もう少し早く思い出していれば、夕食の席でマリスに王城でのマナーについて尋ねることが出来た。
服装は、髪型は、お辞儀の角度は、話し出すタイミングなど、何もかもわからない。
元いた世界とは違い、気軽にインターネットで調べる訳にもいかず、途方に暮れていた。
こうなったら、本で調べるか、人伝てに聞くしかないだろう。
そうなると、手っ取り早いのは騎士であり、王城にも詳しいマリスに聞くのが一番だがーー。
「きっと、もう寝ちゃったよね……」
馬上で座っていただけの沙彩とは違い、ジョゼフィーヌを操っていたマリスは相当疲れているはずだ。
明日は王城に行くというのもあり、早めに就寝しているだろう。
マリスを頼れないことが分かると、望みは薄いが沙彩は鞄から自分のスマートフォンを取り出してみる。
やはり、異世界だけあって電波は入らないようで、画面には「圏外」とはっきり表示されていた。
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