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リオン・レッドローズは後悔する
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「エリー! やっぱり見送りに……って、何してるんだ」
仕事だと言っていたのに駆けつけたリオンはエリーナの顔を見るなり表情を歪ませる。
「一年間、私の代わりを頑張ってくれた身代わりを見送りに来たのよ」
「感謝も謝罪もせずに見送りとはね」
「あら、この一年で変わったのねあなた。前は嫌味を言うような人間じゃなかったじゃない」
首に巻き付けられる腕を鬱陶しそうに払って距離を取るとエリスローズの前に行き、目を見開く。
「君……瞳の色が……」
「その瞳、赤い月を見てるみたいで不気味ね。その目を見てるだけで禍が降りかかりそう」
クスッと笑うエリーナをリオンが睨むとまた懲りずに抱きついてくる。
「私たちの愛の巣が燃えちゃってすごく悲しいのに、あなたは平気なの?」
「僕が燃やしたからね」
「じゃあ新しいの建ててくれる?」
「あれは僕の別荘だ。君のために建てたわけじゃない」
「でも私たちの愛の巣でしょ?」
「違う。離れろ」
エリーナの腕を離して肩を押すとわざとらしく後ろへよろめいたのを侍女が受け止める。
「瞳、赤だったんだね。彼女に合わせて変えられてたのか」
頷くエリスローズにリオンは何を話そうとこの瞬間にも迷っていた。
「君は本当に美しい人だったよ。スラム出身とか関係ない。君は真っ直ぐで強くて、眩しいほど輝いてた」
否定するように首を振るエリスローズ。
「あっはっはっはっはっはっはっ!」
辺りに響くほどの大笑いに顔を向けると腹を抱えて笑うエリーナの姿があった。
「ねえちょっとやだ、なにそれ。見慣れない女に酔っちゃったの? まあ、絶対周りにはいない女だから物珍しくて仕方ないと思うけど、言いすぎなんじゃない?」
笑いすぎて涙が滲み出ているエリーナが吟味するようにエリスローズを上から下まで見るが、鼻で笑って終わる。
「そんな風に感じたのって私に似てたからでしょ? もー、寂しかったならそう言いなさいよ~」
「触るな」
強く払われたことは初めてで、エリーナの顔に驚きが滲む。
「なに? まさかこの娘に惚れたとか言うんじゃないでしょうね?」
「……」
「冗談でしょ? こんなゴミに惚れたの?」
「……そうじゃない……。惚れてなんかない。ただ、彼女に感謝してるんだ。無責任に職務を放り出した者の代わりを全うしてくれたからね。偽物だと疑われることもなく、君がやりたくないことまでやってくれたんだから。彼女は喋れないけど、それでもよくやってくれたんだ」
嘘をついた。リオンにとってこれほど心を揺さぶる相手はエリスローズ以外いない。それでもエリーナの前で正直に言えばエリスローズに何をしでかすかわからないから嘘をつく。
エリスローズの目を見れない。ショックを受けていたらと思うし、笑顔でいられるのも辛い。
卑怯な男だと拳を握った。
「ちょっと、余計なことしないでよ。あなたがやったこと、私がやらなきゃいけなくなるじゃない。私がやってたことだけやればいいのに余計なことして。頑張ってるとこ見せて褒められたかったの? どんなに努力したところで所詮あなたは私が帰ってくるまでの代わりでしかないんだから」
「いい加減に──」
「キャアッ!」
大きな音が一発、辺りに響いた。何かが破裂したのではないかと思うほど大きな音。
そしてエリーナの悲鳴と倒れる音。
「エリーナ、口を閉じろ。お前の声は耳障りだ」
吐き捨てるように言い放つアレンが怒っているのがわかる。
「ぶっ、た……?」
「エリーがしたことをテメーがするんじゃねぇだろ。テメーがすべきことをエリーがやってきただけだろうが。なに寝ぼけたこと言ってんだよ。テメーは男に股開くしか能がねぇのかよ」
目の前にしゃがんだアレンが額に青筋を浮かべながらエリーナに圧をかける。
「リオン、何度も言うが、こんなクソ女さっさと捨てろ」
放心しているエリーナに唾でも吐きかけてやりたいのを堪えて立ち上がり、二人を馬車に乗せる。
驚いているリオンに命令するように言って、馬車に乗り込み去っていった。
「エリーッ……」
行ってしまった。
まだありがとうもごめんも言えていないのに。
「リオン様、エリーナ様にお手を! リオン様!?」
リオンは馬車が見えなくなるまで見送ると侍女の言葉を無視して部屋へと戻っていった。
「ノート……」
帰るまで三人が居た部屋に足を踏み入れると床にノートが落ちているのが見えた。
アレンかロイが放ったなと笑いながら拾い上げるとページをめくる。
「そうだ……」
そのまま足速に自分の部屋に帰り、エリスローズに会ってから使い始めたノートを全て出した。
「取っているなんて知ったら怖いって言うかな。いや、気持ち悪い、かな?」
ハッキリと言う女性だったから容易に想像がつくと笑ってしまう。
一年という年月は長いようで短く、短いようで長かった。
それは山積みになったノートを見ればわかる。
「思い出、か……」
エリスローズが言った思い出という言葉。
傷つくような言葉ではない。彼女は仕事をしに来ていたのであって、政略結婚で嫁ぎに来たわけではない。
いつか終わりが来るし、繋ぎ止める術もない。
だからこれが思い出になってしまうのも自然なことだ。
だが、リオンにとってこれは思い出と懐かしむにはあまりにも寂しく、開こうにも開けない。
「恋なんて馬鹿馬鹿しいとばかり思ってた。ロマンチックな恋とか身分差とか身を焦がすような、とか……でも、あったんだよ」
恋をしなさいと言われたことは一度もない。婚約者は決まっていると子供の頃から言われて、それを受け止めるだけだった人生。
仕事も何もかも親の言いなりで、反発しようと思ったこともない。
いつかは自分も国王になる。その道を父親が作ってくれているのだと思い込んでいた。国王になれば父親が歩んできた道を同じように作っていくだけなのだと。
エリスローズと出会わなければスラム街や貧困街のことは気にしたこともなく、きっとこれからも気にすることはなかっただろう。
親に反発することも、誰かを守ろうと思うことも、妻に対して苛立ちを覚えることさえも。
彼女に出会って色々変わったと感じるリオンは今日から彼女がいない生活を送ることになるんだと思うと何もする気が起きなかった。
『仕事してください』
頻繁に部屋に立ち寄るリオンにエリスローズはいつもそう言った。
「仕事しないとな……」
意思が弱い。
いつだって会いたかった。仕事の合間、休憩時間、食事中、就寝前──何度も会いに行っては『暇なんですか?』と笑われた。
理由はなんだっていい。笑ってほしかった。
彼女が笑ってくれるだけでやる気が出た。
椅子に腰掛けて書類を前に頬杖をつく。
『邪魔になりませんか?』
部屋を訪ねてきたエリスローズに暫く部屋にいてくれるよう頼むと、向かいに置いてある二人掛けのソファーに腰掛けて落ち着かないようにソワソワしながら問いかけてきた。
そんな様子を見ているのが楽しくて何度か同じことを繰り返した。
次第に慣れてきたのか、本を持参して部屋で読むようになったが、それはそれでよかった。
「どうして太らないことに疑問を持たなかったんだろう……」
スラム街での生活とここでの生活は世界が違うと言っても過言ではないものだったはず。
贈り続けたスイーツを食べていれば簡単に太ったはずなのに、少し肉がついたぐらいで細いのは変わらなかった。
もっと早く感想を聞いていればわかったことなのかもしれないのに、なぜそうしなかったのだろうと今更になって後悔したところで遅いことはわかっている。
苦笑することさえ許されない罪だとリオンは机に額を押し付けた。
「いい加減で中途半端……そんな男から好きだって言われて誰が信じるものか。誰が恋になど落ちるものか……」
もっと気にかけることができたはずなのに、なにもしてこなかったような気がして自嘲が込み上げる。
一年あれば好きになってもらえると思っていた。地位も名誉もなにもかも持っているのだからと傲慢になっていたのかもしれない。
エリーナは中身を愛してはくれなかったが、顔だけは好きだと言った。だが、エリスローズはどれだけ見つめ合っても頬を染めることはしなかった。
見惚れているのはいつも自分ばかりで、エリスローズの気持ちが向いたと思う瞬間はほとんどなかった。
それでも、彼女が言った『あなたを好きになれたらどんなによかったか』という言葉に少し救われている。
自制していなければ少しぐらいは好きになってもらえただろうかと勝手ながらそう思うことができるから。
「結局……本名はわからなかったな」
エリーという名前でないことはわかっているが、エリスローズはそれを頑なに教えようとしなかった。
最後なのだから聞いておけばよかったと思うのに、そこまで頭が働かなかった。
エリーナが帰ってきたことでエリスローズはこれから家族六人で仲良く暮らしていけるはずだった。
リオンはあの別荘ごと譲るつもりだった。
警備をつけることはできないが、スラムや貧困街に帰すぐらいなら譲渡すると。
その中にはそうすればいつでも会いに行けるという下心もあった。
あの場所にあの家族が住んでいて、会いに行こうと思えば会える距離にいる。そこに行けば自分はあの家族の一員になった気になれる。
自分の幸せはここではなく、あそこにあるのだと思いたかった。
でも神がそれを許さなかった。そんな甘い考えが通るはずがないだろうとでも言うように、彼らからもリオンからも奪っていった。
「残された君たちの人生が誰よりも幸せであることを祈っているよ」
もう会いに行く理由がない。彼らはメイやシオンのように自分が行くのを期待していないから。
会えば嫌なことも思い出してしまうだろう。
だから直接伝えることはできないが、せめて祈ることだけはしようと立ち上がって目を閉じ、彼らのために静かに祈った。
仕事だと言っていたのに駆けつけたリオンはエリーナの顔を見るなり表情を歪ませる。
「一年間、私の代わりを頑張ってくれた身代わりを見送りに来たのよ」
「感謝も謝罪もせずに見送りとはね」
「あら、この一年で変わったのねあなた。前は嫌味を言うような人間じゃなかったじゃない」
首に巻き付けられる腕を鬱陶しそうに払って距離を取るとエリスローズの前に行き、目を見開く。
「君……瞳の色が……」
「その瞳、赤い月を見てるみたいで不気味ね。その目を見てるだけで禍が降りかかりそう」
クスッと笑うエリーナをリオンが睨むとまた懲りずに抱きついてくる。
「私たちの愛の巣が燃えちゃってすごく悲しいのに、あなたは平気なの?」
「僕が燃やしたからね」
「じゃあ新しいの建ててくれる?」
「あれは僕の別荘だ。君のために建てたわけじゃない」
「でも私たちの愛の巣でしょ?」
「違う。離れろ」
エリーナの腕を離して肩を押すとわざとらしく後ろへよろめいたのを侍女が受け止める。
「瞳、赤だったんだね。彼女に合わせて変えられてたのか」
頷くエリスローズにリオンは何を話そうとこの瞬間にも迷っていた。
「君は本当に美しい人だったよ。スラム出身とか関係ない。君は真っ直ぐで強くて、眩しいほど輝いてた」
否定するように首を振るエリスローズ。
「あっはっはっはっはっはっはっ!」
辺りに響くほどの大笑いに顔を向けると腹を抱えて笑うエリーナの姿があった。
「ねえちょっとやだ、なにそれ。見慣れない女に酔っちゃったの? まあ、絶対周りにはいない女だから物珍しくて仕方ないと思うけど、言いすぎなんじゃない?」
笑いすぎて涙が滲み出ているエリーナが吟味するようにエリスローズを上から下まで見るが、鼻で笑って終わる。
「そんな風に感じたのって私に似てたからでしょ? もー、寂しかったならそう言いなさいよ~」
「触るな」
強く払われたことは初めてで、エリーナの顔に驚きが滲む。
「なに? まさかこの娘に惚れたとか言うんじゃないでしょうね?」
「……」
「冗談でしょ? こんなゴミに惚れたの?」
「……そうじゃない……。惚れてなんかない。ただ、彼女に感謝してるんだ。無責任に職務を放り出した者の代わりを全うしてくれたからね。偽物だと疑われることもなく、君がやりたくないことまでやってくれたんだから。彼女は喋れないけど、それでもよくやってくれたんだ」
嘘をついた。リオンにとってこれほど心を揺さぶる相手はエリスローズ以外いない。それでもエリーナの前で正直に言えばエリスローズに何をしでかすかわからないから嘘をつく。
エリスローズの目を見れない。ショックを受けていたらと思うし、笑顔でいられるのも辛い。
卑怯な男だと拳を握った。
「ちょっと、余計なことしないでよ。あなたがやったこと、私がやらなきゃいけなくなるじゃない。私がやってたことだけやればいいのに余計なことして。頑張ってるとこ見せて褒められたかったの? どんなに努力したところで所詮あなたは私が帰ってくるまでの代わりでしかないんだから」
「いい加減に──」
「キャアッ!」
大きな音が一発、辺りに響いた。何かが破裂したのではないかと思うほど大きな音。
そしてエリーナの悲鳴と倒れる音。
「エリーナ、口を閉じろ。お前の声は耳障りだ」
吐き捨てるように言い放つアレンが怒っているのがわかる。
「ぶっ、た……?」
「エリーがしたことをテメーがするんじゃねぇだろ。テメーがすべきことをエリーがやってきただけだろうが。なに寝ぼけたこと言ってんだよ。テメーは男に股開くしか能がねぇのかよ」
目の前にしゃがんだアレンが額に青筋を浮かべながらエリーナに圧をかける。
「リオン、何度も言うが、こんなクソ女さっさと捨てろ」
放心しているエリーナに唾でも吐きかけてやりたいのを堪えて立ち上がり、二人を馬車に乗せる。
驚いているリオンに命令するように言って、馬車に乗り込み去っていった。
「エリーッ……」
行ってしまった。
まだありがとうもごめんも言えていないのに。
「リオン様、エリーナ様にお手を! リオン様!?」
リオンは馬車が見えなくなるまで見送ると侍女の言葉を無視して部屋へと戻っていった。
「ノート……」
帰るまで三人が居た部屋に足を踏み入れると床にノートが落ちているのが見えた。
アレンかロイが放ったなと笑いながら拾い上げるとページをめくる。
「そうだ……」
そのまま足速に自分の部屋に帰り、エリスローズに会ってから使い始めたノートを全て出した。
「取っているなんて知ったら怖いって言うかな。いや、気持ち悪い、かな?」
ハッキリと言う女性だったから容易に想像がつくと笑ってしまう。
一年という年月は長いようで短く、短いようで長かった。
それは山積みになったノートを見ればわかる。
「思い出、か……」
エリスローズが言った思い出という言葉。
傷つくような言葉ではない。彼女は仕事をしに来ていたのであって、政略結婚で嫁ぎに来たわけではない。
いつか終わりが来るし、繋ぎ止める術もない。
だからこれが思い出になってしまうのも自然なことだ。
だが、リオンにとってこれは思い出と懐かしむにはあまりにも寂しく、開こうにも開けない。
「恋なんて馬鹿馬鹿しいとばかり思ってた。ロマンチックな恋とか身分差とか身を焦がすような、とか……でも、あったんだよ」
恋をしなさいと言われたことは一度もない。婚約者は決まっていると子供の頃から言われて、それを受け止めるだけだった人生。
仕事も何もかも親の言いなりで、反発しようと思ったこともない。
いつかは自分も国王になる。その道を父親が作ってくれているのだと思い込んでいた。国王になれば父親が歩んできた道を同じように作っていくだけなのだと。
エリスローズと出会わなければスラム街や貧困街のことは気にしたこともなく、きっとこれからも気にすることはなかっただろう。
親に反発することも、誰かを守ろうと思うことも、妻に対して苛立ちを覚えることさえも。
彼女に出会って色々変わったと感じるリオンは今日から彼女がいない生活を送ることになるんだと思うと何もする気が起きなかった。
『仕事してください』
頻繁に部屋に立ち寄るリオンにエリスローズはいつもそう言った。
「仕事しないとな……」
意思が弱い。
いつだって会いたかった。仕事の合間、休憩時間、食事中、就寝前──何度も会いに行っては『暇なんですか?』と笑われた。
理由はなんだっていい。笑ってほしかった。
彼女が笑ってくれるだけでやる気が出た。
椅子に腰掛けて書類を前に頬杖をつく。
『邪魔になりませんか?』
部屋を訪ねてきたエリスローズに暫く部屋にいてくれるよう頼むと、向かいに置いてある二人掛けのソファーに腰掛けて落ち着かないようにソワソワしながら問いかけてきた。
そんな様子を見ているのが楽しくて何度か同じことを繰り返した。
次第に慣れてきたのか、本を持参して部屋で読むようになったが、それはそれでよかった。
「どうして太らないことに疑問を持たなかったんだろう……」
スラム街での生活とここでの生活は世界が違うと言っても過言ではないものだったはず。
贈り続けたスイーツを食べていれば簡単に太ったはずなのに、少し肉がついたぐらいで細いのは変わらなかった。
もっと早く感想を聞いていればわかったことなのかもしれないのに、なぜそうしなかったのだろうと今更になって後悔したところで遅いことはわかっている。
苦笑することさえ許されない罪だとリオンは机に額を押し付けた。
「いい加減で中途半端……そんな男から好きだって言われて誰が信じるものか。誰が恋になど落ちるものか……」
もっと気にかけることができたはずなのに、なにもしてこなかったような気がして自嘲が込み上げる。
一年あれば好きになってもらえると思っていた。地位も名誉もなにもかも持っているのだからと傲慢になっていたのかもしれない。
エリーナは中身を愛してはくれなかったが、顔だけは好きだと言った。だが、エリスローズはどれだけ見つめ合っても頬を染めることはしなかった。
見惚れているのはいつも自分ばかりで、エリスローズの気持ちが向いたと思う瞬間はほとんどなかった。
それでも、彼女が言った『あなたを好きになれたらどんなによかったか』という言葉に少し救われている。
自制していなければ少しぐらいは好きになってもらえただろうかと勝手ながらそう思うことができるから。
「結局……本名はわからなかったな」
エリーという名前でないことはわかっているが、エリスローズはそれを頑なに教えようとしなかった。
最後なのだから聞いておけばよかったと思うのに、そこまで頭が働かなかった。
エリーナが帰ってきたことでエリスローズはこれから家族六人で仲良く暮らしていけるはずだった。
リオンはあの別荘ごと譲るつもりだった。
警備をつけることはできないが、スラムや貧困街に帰すぐらいなら譲渡すると。
その中にはそうすればいつでも会いに行けるという下心もあった。
あの場所にあの家族が住んでいて、会いに行こうと思えば会える距離にいる。そこに行けば自分はあの家族の一員になった気になれる。
自分の幸せはここではなく、あそこにあるのだと思いたかった。
でも神がそれを許さなかった。そんな甘い考えが通るはずがないだろうとでも言うように、彼らからもリオンからも奪っていった。
「残された君たちの人生が誰よりも幸せであることを祈っているよ」
もう会いに行く理由がない。彼らはメイやシオンのように自分が行くのを期待していないから。
会えば嫌なことも思い出してしまうだろう。
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