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暫しの休息
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翌日、アリスは珍しく長い眠りについていた。
目を開けているのが辛いほどアリスは疲弊でしている。休みでよかったと心から思うほどに。
昨日、カイルと一緒にセシルをアッシュバートン家まで送り届けた。
アリスが説明しようとするとセシルは自分で説明すると言い、二人はでしゃばることなくその場を後にして自宅へと戻った。
家に帰ると心配していた両親から事情を聞かれ、それに答えているとようやく震えがやってきた。
だが不思議と後悔はしていなかった。ただ初めて人を撃ったという事実に心が疲れきっているだけ。
朝からまだ一度も目を開けてはいないが、意識はとっくに覚めている。
それでも開けられないのは開けると自分の手を見てしまうから。銃を持ち、人を撃った手を。
「アリス、起きた?」
遠慮がちなノックの音のあとに聞こえた母親の遠慮がちな声にアリスは渋々目を開けて身体を起こした。
「どうぞ」
ゆっくり回されたドアノブとゆっくり開くドア。そこからそっと顔を出して覗く母親の顔を見るとなぜかホッとする。
「アリス、調子はどう?」
「平気。ゆっくり寝たら疲れも取れたみたい」
「無理しなくていいのよ」
「無理なんて……」
していないと言いかけて口を閉じた。親を心配させないためにアリスは嘘をつこうとしている。これは嘘という嘘ではないが、強がろうとしていることにまた疲れを感じて枕に背を預けて天井を見た。
「人を撃ったの……」
「そう」
昨日も話したことだが、昨日は疲れすぎて両親の反応をよく覚えていないためもう一度口にしたものの母親の声は優しいままだった。
「怒らないの?」
「どうして怒るの? 悪いことなんてしてないじゃない」
「でも、銃を持つのは大罪よ。ましてや人を撃つなんて……」
「正当防衛よ。それにあの銃はあなたのじゃない」
「だけど……セシルも持ちたくて持ってるわけじゃなかった……」
「でも持っていることは事実よ。どんな事情があろうと彼が銃を所持している現実は変わらない。彼らはいつか罰せられるかもしれない覚悟を持ってそうしているんだと思う」
自慢したいから、かっこいいからという理由で銃を所持しているわけではないことはわかっていた。だが、その理由についてセシルは何も言わなかったしアリスも聞き出そうとはしなかった。
今回、セシルにとって不本意な形で暴露されることとなったが、アリスはそれに対して負の感情は湧いてこなかった。
銃を持たなければならないほど十二年前の事件はセシルの心に深い傷を残し、両親はそれを理解した。その結果、大罪だとわかっていながらも銃を持たせることにしたのだ。
「お母様たちが言ってたセシルが抱える問題って誘拐事件のことだったのね」
「そうよ。あの事件は本当に大騒ぎになってね、アッシュバートン夫妻の衰弱さは見ていられないほどだったの。大事な一人息子が誘拐されただけじゃなく、手がかりさえないまま時間だけが過ぎていくなんて想像を絶する絶望だったでしょうから。でも一番深い傷を負ったのは本人」
「ええ……最低な人間に誘拐されていたの」
思い出すだけで虫唾が走る。幼いセシルはそれこそ想像を絶するような扱いを受けていたのだ。
目を閉じて涙を堪え震える息を吐き出せば母親の手がアリスの背中を撫でる。
「また、大きな傷ができてないといいんだけど……」
「セシルなら大丈夫よ。あなたが守ったんだから」
あれだけ人が目の前で撃たれることがトラウマになっていなければいいのだがと苦笑するアリスの頬を母親が両手で包み込む。
「あなたは嫌だって言うけれど、銃の才能があることは何も恥ずかしいことではないのよ?」
アリスには銃の才能があった。獲物を一発で仕留められる、絶対に的を外さない才能が。
国によって違いはあれど淑女も狩りをすることはある。だからアリスも狩りに出たことはあれど興奮どころか嫌悪さえしたため二度と狩りに参加することはなかったのだが、もったいないと考えた父親と兄が地下に射撃場を作ってアリスに銃を持たせた。
指示した場所へ的確に当てる集中力に二人は驚いていた。
狩りに出ないのに射撃の腕などあったところで意味はないとそれさえも嫌がってやめたアリスだが、今回はそれが役に立った。
「もし……私のせいで皆に迷惑がかかるようなことがあったら──」
「心配しなくていいわ。カイルがいるんだもの」
「お兄様はただの学生よ。なんの力もないわ」
「貴族っていうのはあなたが思ってるよりずっと権力を持ってるものなのよ」
アリスにはわからない話。貴族が権力を持っていることは知っているが、警察へはどうにもならないのではないかと心配していた。
見つかるはずがない小屋で起きた事件。あの銃声が、あの静寂が何を意味しているのか想像もしたくなかったが、想像せずともわかっていること。
悪事はいつか必ずバレる。そう言ったのは自分だと母親の顔を見ることができなかった。
「セシルが心配」
「セシルなら大丈夫よ。きっとますますあなたに惚れたと思うわ」
「銃を操る女よ?」
「かっこいいじゃない。あとは乗馬が上手にできたらいいわね」
「乗馬はお尻が痛くなるから苦手」
「ふふっ、じゃあ王子様の後ろに乗らないとね」
「ヴィンセル王子?」
「あなたの王子様」
自分の王子様が誰なのかアリスにはまだ検討もついていない。
セシルへの気持ちを恋かと迷ってはいるが答えはまだ出ていなかった。
今はまだそういったことを考える気にはなれず、セシルが悪夢を見たり怯えたりしていないことだけを願っていた。
「お兄様は?」
「学校へ行ったわ。セシルが仕事しないから仕事を片付けに行くって」
「そう」
「だからゆっくり眠りなさい」
「明日から学校へ行くわ」
「いいことね」
暫くはきっと外出禁止になってしまうだろう。カイルが許さないはずだ。もし許可が出たとしてもカイルが同行していることが条件。
セシルとデートをして誘拐に巻き込まれてしまったのはセシルが悪いわけではない。あの男たちが悪いのだ。
だから、カイルがセシルに辛く当たらないことを願う。
セシルは暫く学校を休むかもしれない。
カイルが何を考えているかわからない以上、自分より先に登校しないでほしいと思った。
「セシルは強い人だわ」
あれだけのトラウマを抱えながらそれを感じさせない明るさを見せていた。
忘れていたわけではないだろう。忘れることなどできるはずがない。
それでもセシルはあの時の恐怖を封印して生きてきた。
それは彼が持つ強さだとアリスは思った。
「そうね」
頷く母親に微笑むとアリスはゆっくりと息を吐き出す。
「もう怖くない?」
「ええ、もう大丈夫。だって私が震えているようなことじゃないもの」
「あなたも強い子ね」
生まれて初めて言われた強い子という言葉が何よりも嬉しかった。
いつだってカイルの後ろに隠れていることしかしなかった自分が初めて誰かを守るために行動できた。
それは許される行動ではなかったのかもしれない。それでもあの場ではあれが最善の行動だったとアリスは信じている。
平気で誘拐してしまうような人間が脅しで持っていただけではないだろう。いざというときは使うつもりだったはず。
やり方はどうであれセシルを守れたことが一番の安堵を与え、母親の言葉は一番の喜びを与えた。
「お兄様が来てくれるって信じてたから怖くなかったのかもしれない」
「……そうね。あの子はあなたがいる場所ならどこへだって飛んでいくわ、必ずね」
苦笑する母親にアリスは笑顔を向ける。
カイルは昔からアリスがどこにいても必ず駆けつけることができた。大体が家の中でかくれんぼのように探しているため勘が働くのだと思っていたが、ミドルスクールに上がった際に発覚した制服への発信機の縫い込み。
なぜそんなことをするんだと話を聞くとカイルはこう答えた。
『俺のアリスに万が一のことでもあったらどうするつもりだ? これは兄として当然のことだ』
正当性があるような言い方をしたカイルには驚いた。
それから制服だけではなくアリスのドレスには全て発信機が付けられるようになったのだが、両親はそれを知りながら止めようとはしなかった。
頭のどこかでセシルの事件が過ぎってしまったから。
アッシュバートン夫妻が息子に発信機をつけていれば発見まで一年半もかからなかっただろう。
もし自分の娘が誘拐されて身代金の要求もなく一年半が過ぎたら、と考えると発信機をつけていたほうが安心だと思ったのだ。
そして今回、カイルの行動が異常性を持ったものだと批判できなくなってしまった。
アリスがどこへ行くのかずっと監視していたカイルは明らかにおかしなルートを進んでいるとわかってすぐに馬車に飛び乗ったおかげで早々に妹を取り戻すことができた。
カイルがそうしていなければあの場所は絶対に見つからなかった。そう考えると母親も震えが止まらなかった。
「暫くは護衛をつけましょうか」
「大袈裟よ」
「大袈裟ぐらいでちょうどいいの」
母親の気持ちもわかるだけにアリスは強く反対はしなかった。
「熱が出たりしなくてよかったわ」
「心配かけてごめんなさい」
「いいのよ。あなたが無事で、それだけでいいんだから」
ゆっくり休みなさいと言って額へキスを落とし部屋から出ていった母親を見送ったアリスはもう一度大きく息を吐き出して天井を見上げる。
(セシルは平気かしら……)
あの怯え様は普通ではない。最悪のトラウマを呼び起こしてしまったのだ。
馬車から降りるときも顔色はあまり良くなかった。
アッシュバートン夫妻がどう対応するか、それ次第で学校へは来なくなってしまうのではないかと心配する。
セシルと過ごす毎日は楽しかった。だからまた笑顔で一緒に過ごしたい。
欲張りだろうかと苦笑しながら布団を引っ張って頭までかぶると目を閉じた。
(また笑顔で会えますように)
そう願いながら眠りについた。
目を開けているのが辛いほどアリスは疲弊でしている。休みでよかったと心から思うほどに。
昨日、カイルと一緒にセシルをアッシュバートン家まで送り届けた。
アリスが説明しようとするとセシルは自分で説明すると言い、二人はでしゃばることなくその場を後にして自宅へと戻った。
家に帰ると心配していた両親から事情を聞かれ、それに答えているとようやく震えがやってきた。
だが不思議と後悔はしていなかった。ただ初めて人を撃ったという事実に心が疲れきっているだけ。
朝からまだ一度も目を開けてはいないが、意識はとっくに覚めている。
それでも開けられないのは開けると自分の手を見てしまうから。銃を持ち、人を撃った手を。
「アリス、起きた?」
遠慮がちなノックの音のあとに聞こえた母親の遠慮がちな声にアリスは渋々目を開けて身体を起こした。
「どうぞ」
ゆっくり回されたドアノブとゆっくり開くドア。そこからそっと顔を出して覗く母親の顔を見るとなぜかホッとする。
「アリス、調子はどう?」
「平気。ゆっくり寝たら疲れも取れたみたい」
「無理しなくていいのよ」
「無理なんて……」
していないと言いかけて口を閉じた。親を心配させないためにアリスは嘘をつこうとしている。これは嘘という嘘ではないが、強がろうとしていることにまた疲れを感じて枕に背を預けて天井を見た。
「人を撃ったの……」
「そう」
昨日も話したことだが、昨日は疲れすぎて両親の反応をよく覚えていないためもう一度口にしたものの母親の声は優しいままだった。
「怒らないの?」
「どうして怒るの? 悪いことなんてしてないじゃない」
「でも、銃を持つのは大罪よ。ましてや人を撃つなんて……」
「正当防衛よ。それにあの銃はあなたのじゃない」
「だけど……セシルも持ちたくて持ってるわけじゃなかった……」
「でも持っていることは事実よ。どんな事情があろうと彼が銃を所持している現実は変わらない。彼らはいつか罰せられるかもしれない覚悟を持ってそうしているんだと思う」
自慢したいから、かっこいいからという理由で銃を所持しているわけではないことはわかっていた。だが、その理由についてセシルは何も言わなかったしアリスも聞き出そうとはしなかった。
今回、セシルにとって不本意な形で暴露されることとなったが、アリスはそれに対して負の感情は湧いてこなかった。
銃を持たなければならないほど十二年前の事件はセシルの心に深い傷を残し、両親はそれを理解した。その結果、大罪だとわかっていながらも銃を持たせることにしたのだ。
「お母様たちが言ってたセシルが抱える問題って誘拐事件のことだったのね」
「そうよ。あの事件は本当に大騒ぎになってね、アッシュバートン夫妻の衰弱さは見ていられないほどだったの。大事な一人息子が誘拐されただけじゃなく、手がかりさえないまま時間だけが過ぎていくなんて想像を絶する絶望だったでしょうから。でも一番深い傷を負ったのは本人」
「ええ……最低な人間に誘拐されていたの」
思い出すだけで虫唾が走る。幼いセシルはそれこそ想像を絶するような扱いを受けていたのだ。
目を閉じて涙を堪え震える息を吐き出せば母親の手がアリスの背中を撫でる。
「また、大きな傷ができてないといいんだけど……」
「セシルなら大丈夫よ。あなたが守ったんだから」
あれだけ人が目の前で撃たれることがトラウマになっていなければいいのだがと苦笑するアリスの頬を母親が両手で包み込む。
「あなたは嫌だって言うけれど、銃の才能があることは何も恥ずかしいことではないのよ?」
アリスには銃の才能があった。獲物を一発で仕留められる、絶対に的を外さない才能が。
国によって違いはあれど淑女も狩りをすることはある。だからアリスも狩りに出たことはあれど興奮どころか嫌悪さえしたため二度と狩りに参加することはなかったのだが、もったいないと考えた父親と兄が地下に射撃場を作ってアリスに銃を持たせた。
指示した場所へ的確に当てる集中力に二人は驚いていた。
狩りに出ないのに射撃の腕などあったところで意味はないとそれさえも嫌がってやめたアリスだが、今回はそれが役に立った。
「もし……私のせいで皆に迷惑がかかるようなことがあったら──」
「心配しなくていいわ。カイルがいるんだもの」
「お兄様はただの学生よ。なんの力もないわ」
「貴族っていうのはあなたが思ってるよりずっと権力を持ってるものなのよ」
アリスにはわからない話。貴族が権力を持っていることは知っているが、警察へはどうにもならないのではないかと心配していた。
見つかるはずがない小屋で起きた事件。あの銃声が、あの静寂が何を意味しているのか想像もしたくなかったが、想像せずともわかっていること。
悪事はいつか必ずバレる。そう言ったのは自分だと母親の顔を見ることができなかった。
「セシルが心配」
「セシルなら大丈夫よ。きっとますますあなたに惚れたと思うわ」
「銃を操る女よ?」
「かっこいいじゃない。あとは乗馬が上手にできたらいいわね」
「乗馬はお尻が痛くなるから苦手」
「ふふっ、じゃあ王子様の後ろに乗らないとね」
「ヴィンセル王子?」
「あなたの王子様」
自分の王子様が誰なのかアリスにはまだ検討もついていない。
セシルへの気持ちを恋かと迷ってはいるが答えはまだ出ていなかった。
今はまだそういったことを考える気にはなれず、セシルが悪夢を見たり怯えたりしていないことだけを願っていた。
「お兄様は?」
「学校へ行ったわ。セシルが仕事しないから仕事を片付けに行くって」
「そう」
「だからゆっくり眠りなさい」
「明日から学校へ行くわ」
「いいことね」
暫くはきっと外出禁止になってしまうだろう。カイルが許さないはずだ。もし許可が出たとしてもカイルが同行していることが条件。
セシルとデートをして誘拐に巻き込まれてしまったのはセシルが悪いわけではない。あの男たちが悪いのだ。
だから、カイルがセシルに辛く当たらないことを願う。
セシルは暫く学校を休むかもしれない。
カイルが何を考えているかわからない以上、自分より先に登校しないでほしいと思った。
「セシルは強い人だわ」
あれだけのトラウマを抱えながらそれを感じさせない明るさを見せていた。
忘れていたわけではないだろう。忘れることなどできるはずがない。
それでもセシルはあの時の恐怖を封印して生きてきた。
それは彼が持つ強さだとアリスは思った。
「そうね」
頷く母親に微笑むとアリスはゆっくりと息を吐き出す。
「もう怖くない?」
「ええ、もう大丈夫。だって私が震えているようなことじゃないもの」
「あなたも強い子ね」
生まれて初めて言われた強い子という言葉が何よりも嬉しかった。
いつだってカイルの後ろに隠れていることしかしなかった自分が初めて誰かを守るために行動できた。
それは許される行動ではなかったのかもしれない。それでもあの場ではあれが最善の行動だったとアリスは信じている。
平気で誘拐してしまうような人間が脅しで持っていただけではないだろう。いざというときは使うつもりだったはず。
やり方はどうであれセシルを守れたことが一番の安堵を与え、母親の言葉は一番の喜びを与えた。
「お兄様が来てくれるって信じてたから怖くなかったのかもしれない」
「……そうね。あの子はあなたがいる場所ならどこへだって飛んでいくわ、必ずね」
苦笑する母親にアリスは笑顔を向ける。
カイルは昔からアリスがどこにいても必ず駆けつけることができた。大体が家の中でかくれんぼのように探しているため勘が働くのだと思っていたが、ミドルスクールに上がった際に発覚した制服への発信機の縫い込み。
なぜそんなことをするんだと話を聞くとカイルはこう答えた。
『俺のアリスに万が一のことでもあったらどうするつもりだ? これは兄として当然のことだ』
正当性があるような言い方をしたカイルには驚いた。
それから制服だけではなくアリスのドレスには全て発信機が付けられるようになったのだが、両親はそれを知りながら止めようとはしなかった。
頭のどこかでセシルの事件が過ぎってしまったから。
アッシュバートン夫妻が息子に発信機をつけていれば発見まで一年半もかからなかっただろう。
もし自分の娘が誘拐されて身代金の要求もなく一年半が過ぎたら、と考えると発信機をつけていたほうが安心だと思ったのだ。
そして今回、カイルの行動が異常性を持ったものだと批判できなくなってしまった。
アリスがどこへ行くのかずっと監視していたカイルは明らかにおかしなルートを進んでいるとわかってすぐに馬車に飛び乗ったおかげで早々に妹を取り戻すことができた。
カイルがそうしていなければあの場所は絶対に見つからなかった。そう考えると母親も震えが止まらなかった。
「暫くは護衛をつけましょうか」
「大袈裟よ」
「大袈裟ぐらいでちょうどいいの」
母親の気持ちもわかるだけにアリスは強く反対はしなかった。
「熱が出たりしなくてよかったわ」
「心配かけてごめんなさい」
「いいのよ。あなたが無事で、それだけでいいんだから」
ゆっくり休みなさいと言って額へキスを落とし部屋から出ていった母親を見送ったアリスはもう一度大きく息を吐き出して天井を見上げる。
(セシルは平気かしら……)
あの怯え様は普通ではない。最悪のトラウマを呼び起こしてしまったのだ。
馬車から降りるときも顔色はあまり良くなかった。
アッシュバートン夫妻がどう対応するか、それ次第で学校へは来なくなってしまうのではないかと心配する。
セシルと過ごす毎日は楽しかった。だからまた笑顔で一緒に過ごしたい。
欲張りだろうかと苦笑しながら布団を引っ張って頭までかぶると目を閉じた。
(また笑顔で会えますように)
そう願いながら眠りについた。
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