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第一章 襲われがちなアラサー女子
第13話 恥ずかしい秘密を暴露されるっ!
しおりを挟む「な、何を見たの……?」
私は恐る恐る堂島くんに声をかける。
「一部始終だ」
「そんな……あの時は堂島くんはいなかったはず。だってその後に堂島くんは……」
あの日はいろんなことが起こった日だった。
最後に堂島くんが自殺未遂を起こしたことで、様々なことが有耶無耶になってしまった。
あの時間の後も、不思議なことばかり。
「球技大会のあの日、俺は教室で漫画を描いていた……」
堂島くんの口から語られる。
それは私に取って思いがけないことだった。
◇◇◇◇
夕暮れ時、窓から西陽が差し込むころ。
外で生徒たちが大きな歓声を挙あげている声が聞こえる。
水泳か、サッカー、あるいはソフトボール。
球技大会も終盤に近づいたとあっていよいよ盛り上がっているのだろう。
「……よし、これなら応募できる」
三年の夏、堂島は自身の作品に自信が持てるくらいまでに成長いた。
拙かった絵は間違えるほど綺麗になり、ストーリー自体にも一本の筋が通るようになった。
純愛ものの少女漫画である。
堂島は柚月を観察し、描き続けることで、少女漫画に適性を見出した。
「ん?」
その時廊下側から人の足音がした。
今日は球技大会とあって、四階の教室に来るような酔狂な生徒は堂島くらいだろう。
かくいう堂島も午前中、バスケ、サッカー、バレーに駆り出されてから、流石に体力の限界を迎え、逃げるように教室に避難していたのだ。
「まずい、少女漫画を描いてることがバレたら……」
堂島とて、人並みに羞恥心はある。
田舎の高校なんて狭いコミュニティだ。
おそらく一日で噂なんて広まってしまうだろう。
(急いで逃げなければ)
堂島は立ち上がった時に机に足を打ちつけると、原稿を床にばら撒いてしまった。
「ああ……」
ペン入れも行ってあとは、出版社に提出するだけとなった原稿だ。
堂島は急いでかき集めたが、大幅に時間をロスしてしまう。
(隠れるしかない)
堂島はまず掃除用具入れに入ろうとした。
しかし体がデカすぎて、半身すら入らず。
(くっ、ならば)
教卓の下に入ろうとするも、教卓が持ち上がり、足が出てしまった。
これでは教卓の妖怪として、学校七不思議に数えられてしまうだろう。
(かくなる上は……)
堂島が最後に隠れたのは窓の外。
わずかな足場に飛び乗り、その身をかがめた。
真下を見れば遥か下に自転車置き場が見える。
果たしてこれほどの危険を犯してまで、自身の漫画を隠すべきだったのだろうかと、今更ながらに疑問に思うが、すでに後の祭りである。
堂島は少しだけ頭を出して、教室の様子をのぞいていた。
ガラガラと教室の扉が開くと、一人水着姿の女子生徒が入ってくる。
長い黒髪から水を滴らせたハイレグカットの水着であった。
その女子生徒は堂島が誰よりも知っている少女。
(上村さん……)
その時、血の味がした。
堂島は鼻血を流していることに気づく。
おそらく夏の熱気にやられたからだろう、そうに違いない。
(しかしなぜ、水着姿なんだ……? いや、そうか)
そういえば球技大会は水泳も種目に含まれていたのだったと堂島は思い出す。
しかし柚月が水泳にエントリーしているなんて話はなかったはず。
もし知っていれば是が非でも応援に駆けつけた。
ここにいるのは、おそらく女子更衣室が空いてなくて、教室で着替えることにしたのだろう。
(着替える……ん、だとしたら、まずくないか?)
堂島は客観的に見て、とんでもなく不審な行動をしていることに気づく。
そして額から汗が流れ出てくる。
しかし堂島はこの場を動くことはできない。
今、出ていけば誰に問うまでもなく、変質者認定されてしまうからだ。
「うぅ……なんでこんなに際どい水着なんだろう」
柚月は何やら自分の水着をデザインを気にしているようだった。
それにしては見事に着こなしているように堂島には見えたが、それは柚月がバレエを習っていたこともあり、レオタードを着ることに慣れていたからだったりする。
確かにあの水着で泳いだのだとしたら、さぞや注目を浴びだことだろう。
「はぁ……着替えよ」
柚木はそう言って水着を脱ぎ始めた。
窓の外からチラと顔を出して見ている堂島の存在など気づくはずもない。
肩掛けの紐をとり、腕を間から抜くと、水着をスルスルと下に降ろし始めた。
(え……本当に脱ぐつもりか?)
堂島の頭は真っ白になった。
目の前で自分が女神のように崇める存在が、素肌を晒し始めたのだから。
……最低なことをしている自覚はある。
しかしどうしても目を離すことができなかったのだ。
まず差し掛かったのは第一関門である。
普段は目立たないものの、水着になって見れば柚月の乳房がどれほど発達しているのか容易に見てとれる。
それ故に、容易に脱げないのも頷けるというもの。
「うぅ……きつい……また大きくなっちゃたのかなぁ……。せーの、えい!」
柚月の掛け声と共にそれは解き放たれた。
ブルンと音を立てるかのように大きな乳房が、上下に暴れた。
(お……おお……おおお!)
堂島は内心で歓声を上げた。
これはいけないものだ。
男子高校生がにわかに盛り上がるような、ブラ紐が見える、ブラウスの隙間から谷間が……とか、そういう次元ではない。
同級生の女子の屈んだ時に見える下乳の境界線など一体誰が見たことがあるだろう。
同い年のクラスのマドンナの乳頭が、淡いピンク色をしているなど誰が知っているだろう。
(これは……本当に……尊いものだ)
堂島の脳内で、上村柚月という存在が鮮やかに描き出されてゆく。
『ヴィーナスの誕生』や『春』のような美しい絵画にも匹敵するような、芸術の中に存在する『性』。
古来より追求されてきた普遍的な美への挑戦、堂島は今まさにその扉を開いたのだった。
しかしながら脳の処理が追いつかないまま、第二関門にして最終関門に差し掛かる。
「ょぃしょ……ょぃしょ……」
柚月は可愛らしい声を上げながら、水着をおろしてゆく。
その度にたわわに実った双丘が揺れた。
(それ以上はだめだ……上村さん)
堂島はそう切に願うが柚月には届かない。
ここに不審者がいると伝えたかった。
しかし声をかけることはできない。
そんなことをすればさらなる悲劇を生み出しかねない。
(これ以上は、今の俺では……)
柚月のプリッとした尻肉が見えた瞬間、堂島はすぐさま視線を外した。
これ以上は刺激が強すぎたのはあるが、流石にこのまま観察してしまっては、人の道を大きく踏み外してしまいそうな気がしたからである。
男子高校生が目の前に絶好の獲物がある状況で、性欲を抑えるというのは、尋常でない精神力が求められる。
「ハァ……ハァ……ハァ……!」
堂島は背中を壁に預けて息を荒げる。
鼻からは夥しい量の血が流れていたが、気づくことはない。
ただ願わくば柚月がその裸体を誰にも見られないことを祈った。
それは堂島が血の滲むような選択をした以上、誰かに美味しい思いをされたくないという、歪んだ仄暗い感情であった。
スルスルと衣擦れの音がして、どうやら下着を着用したようだと判断する。
「これで、よかったんだ……」
堂島は自分に言い聞かせるように呟く。
最後まで柚月の脱衣を眺められなかったことへの後悔はある。
しかし柚月を思えばこれが正解のはずだ。
「……少しだけなら、良いよね」
しかし堂島の背後で、柚月の気になる声が聞こえた気がした。
一体何が「少し」だけなのか。
堂島は再び、窓の外から教室に視線を向ける。
そこで堂島が目にしたのは……。
「あっ……あんっ……」
声を押し殺しながら股に手を伸ばす柚月の姿だった。
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