世界樹を盗んだ夫と、最も強い毒

lemuria

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最も強い毒

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 ー後日談ー


 半年後。
 私は人伝に聞いた。

 結局借金を返せずバートンは奴隷落ち。

 レオパルドはやっぱりマリエに暴力を振るい、その衝撃でお腹の子が流れてしまった。

 怒り狂ったマリエは、レオパルドを刺し殺し、今は獄中にいるそうだ。

 それを聞いて私は、心の中でつっかえてたモヤのようなものが幾分晴れた気がした。

 やっぱりそうなった。
 過去を清算出来たような気がして、なんとなく頭の片隅にだけ留めておく事にする。


 世界樹は、あれから芽吹き、葉を一枚だけつけた。 柔らかい青葉が、今、私の手の中にある。
 売る気も、誰かに渡す気もない。

 世界樹の育て方には伝承がある。

 木に対して愛情を持たぬ者には育てられない。

 それは別に世界樹がこの人は愛がある、この人は愛がない、などとやっているという話ではない。

 本当の意味を、私は母から教わっていた。

 世界樹の葉は、世界樹を育てるための肥料にしなければならない。

 葉を刻んで根元に蒔くのだ。

 運命を変えるほど貴重な葉。

 何周分の人生を買えるほどの価値を持つ葉を、自分のためにではなく木のために使う。

 愛情を持っているものしか育てられないというのはそういう意味だ。

 だけど、葉を刻み、世界樹の根元に蒔いた時ふと思った。

 世界樹はマリエの元にいるときには芽を出さなかった。 
 私のところに来て、初めて芽吹いた。

 世界樹にとってはそのほうが良かったのだろう。
 自分に葉を使ってくれる人に葉を渡さなければならないのだから。

 世界樹を取り戻してからというもの、私はまるで中毒にでもなったかのように木を愛でている。

 自分で言うのも何だけど、私は毒にも薬にもならないような人間だ。
 けれどあの計画だけは、まるで何かに導かれるように動いた。

 本当に、あれは私の意志だったのだろうか。

 植物と毒は、切っても切れない関係にある。

 ――もしかしたら、この木にも、私の知らない毒が流れているのかもしれない。

 目の前の世界樹は、枝一本動かさず、ただ静かにそこに立っていた。  

 その時、窓から風が吹き込み、私の頬を撫でた。

 その風はまるで世界樹の意志が、私を労っているように思えた。
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